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その196

 ミランさんにお土産のケーキを渡して、それを食べている間に顔見知りの冒険者の人たちに挨拶と軽い雑談をしに行く。顔見知りとは言ってもみんな結構老けてしまっているのだけれど……。

 人間種族はたった数年で印象がガラッと変わってしまって面白い。根本的な人格までは変わってはいないが、でも、年齢相応に落ち着いてしまっていたり、逆に若い頃の大人しさ、謙虚さはどこへ行ってしまったのか、という人もちらほらと。本当に面白い、感心させられてしまう。


 私たち王族の前で緊張でガチガチに固まる新人さんたちと、それをからかうベテランさんたちとのやり取りを充分に堪能したところでいつものテーブル、があった位置へと向かう。

 シアさんに椅子を引かれて座ってみると、やっぱりちょっとした、説明のできないくらいの小さな違和感を感じてしまう。言うなればソファーのクッションを変えたようなそんな違和感だ。落ち着かない、っていう言葉が一番しっくりくるんじゃないだろうか。すぐに慣れて感じなくなってしまう程度のものだと思う。


 ソワソワと落ち着き無く、キョロキョロと室内を見回してみたり、座り方を正してみたり、テーブルを軽く撫でてみたり。一度考えてしまうと違和感が強くなってしまった、大失敗だ。こんな事をしていたら慣れるものも慣れられない。

 そんなわたしの姿を見てニヤニヤとしている三人がいる事にハッと気付き、我に返ったところでミランさんが、お待たせしました、と席に着く。口周りにはクリームが、なんて事は無かった。ちょっと期待してたのに……。




 小声で何か囁き合いながらこちらを窺う冒険者さんたちの視線を感じつつ、久しぶりにこうしてミランさんとのお話だ。


 冒険者ギルドで会うのが久しぶり、っていう意味ね。ミランさんは最低でも一ヶ月に一回は家に遊びに来てくれる様になったからねー。

 王族の住む家に通うのに慣れたと言うか……、フランさんとシアさんクレアさん、この三人に上手く餌付けされたとも言うかな。甘いもの、お菓子、おやつ大好きな所はショコラさんによく似ている。

 ショコラさんと言えば、ミランさんと一緒に来てくれるともっと嬉しいんだけどね、お休みが合わないみたいでそれは本当にたまにしか実現しないのが残念。その分お土産を持って帰ってもらっているんだけど、ショコラさんの場合は帰る道すがら食べちゃってそうなのがやや不安だよね……。信じてるよ! 信じてるから追求したりはしないよ!



「ふふふ、どうでした? シラユキ様、久しぶりの町は。色々と変わってしまっていたでしょう?」


 もう私たちと話す事に何の緊張もしなくなったミランさんが言う。でも父様母様の前だと今でもオロオロアワワと面白い表情を見せてくれる。兄様に対してもまだほんの少し、かな? 愛人の座狙いはさすがに諦めているんじゃないかなと思う。兄様の私生活のだらしなさを見せ付けてあげたからね……、フフフ。


「うんうん。一番驚いたのがヨアンさんに子供が出来てたって事! もう四歳くらいなんだってねー。ホントにビックリしちゃった」


「ヨアンさん、ですか? ああ、八百屋の……。まさかジェーンさんが八百屋の息子さんと結婚するなんて夢にも思いませんでしたよ、私はそっちに驚いちゃいましたね。……結婚して引退なんて羨ましい……」



 ジェーンさんは人間種族で、Bランクに届くんじゃないかって噂されていた程の凄腕冒険者の人だったらしい。一応私の顔見知り冒険者さんの一人なのだけれど、そんな凄い人っぽい気配は微塵も感じさせられる事はなかった。まあ、ラルフさんナナシさんも同じCランクだったけど全然普通の人だったからね……、分からないのが当たり前なのかもしれないが。

 それが今では、野菜を空中に放り投げてささっと包丁を振るったと思ったら、綺麗に切り分けられてお皿の上に落ちてくる、という人間離れした技をたまに披露してくれる面白いお姉さんだ……、だった? もうお姉さんって言う年じゃないか……? いや、まだまだお姉さんで通じる、訂正しよう。ちょっと変わったところもある普通の八百屋のお姉さんだ。

 初めてその技を見せてもらったときに、私が盛大に拍手して大喜びで驚いちゃったものだからシアさんが嫉妬しちゃったんだよね。対抗して私は二つ三つ同時にいけますよ、とスパスパ切り裂き始めちゃって大変だった。パフォーマンスに使われた野菜はちゃんと買い取って、スタッフ(家族)で美味しく頂きました。



「驚いたって言えば、ここ、いつ改装したの? 随分と綺麗になっちゃってるじゃない。その時に教えてくれてればシラユキももっと早く町に出て来てたかもしれないのに」


「それもそうだよな。ガトーもシラユキを町に連れ出そうと色々考えてたみたいだし……。それとも何か秘密にしておく理由でもあったのか?」


 あー、それはどうかなー。でも改装したから来てみてねって誘われてたら、その時の気分によっては来てたかもしれないね。


「え? あのー、あのですね、ええと、それはー……、あはは」


 指先で頬をポリポリと掻き苦笑しながら、何故かシアさんの方をチラチラと横目で窺うミランさん。

 気になって私もシアさんの方を向くと、気まずそうにプイッと顔を背けられてしまった。ちょっと可愛い。


 なるほど納得。まったくもう、まったくもうだよシアさんは!


「シアさんに口止めされてたんだね……。ごめんねミランさん、脅されちゃったりしなかった? シアさんのことだから私に話したら50点取るとか言ってそうだし……」


「はは、確かに言いそうだなソレ。まあ、バレンシアの言う事は冗談半分に流しておけよ? 反応を見て楽しんでるだけだからな」


「ひ、姫様、ルーディン様まで……。ひどいです、私は決して脅したりしてなど……、悲しいです、しくしく」


 本日二回目のしくしくが出た! シアさんやっぱりその嘘泣き気に入ってるんじゃないかな……。


「バレンシアさんってたまに可愛らしい行動しますよね……、ふふ。あ、脅されたりはしてませんよ、シラユキ様には内緒にしててほしいと頼まれはしましたけど」


「そうなんだ? ごめんねシアさん」


「いえいえそんな、滅相もありませ」


「って口止めしてた事に変わりはなかった! 脅してたわけじゃないから怒らないけどね!」


「シラユキ様の驚かれる可愛らしいお姿を一緒に拝見させて頂きましょう、という誘惑に耐え切れずについ乗ってしまった私が悪いんです! すみませんでした!」


「やっぱり怒るね! シアさーん?」


「くっ、余計な事を……!! も、申し訳ありませんでした、心から反省致します」


「よろしい。……ふふふ、ちょっと偉そうにしちゃったね」


「反省して……、次は簡単にバレぬようもっと策を講じます!」


「そっち方面の反省!?」



「今日のシラユキはいつもより元気で可愛いな。いや、可愛いのはいつもか」


「ええ、そうね。こんなに元気にツッコミを入れるシラユキは久しぶりに見たかもね。ふふ、ついて来てよかったわ」


「お姫様にツッコミ入れさせちゃ駄目ですよ……。でも、はい、元気で可愛らしいですね」


 ミランさんの話だと、ショコラさんは口止めを拒否していた筈らしい。……多分毎回忘れちゃってたんだと思う、家に遊びに来ると必ず美味しいおやつが出されるからね。ショコラさんだからしょうがないよね、うんうん。



「いたわ!! じゃない! いらっしゃったわ!!」


「おおおお嬢様!? ゆ、指を指してはいけません! それに声も大きいです! あまり騒ぐと皆さんの迷惑に……、はっ!? 何だあのうるせえ小娘、という視線を感じる……!! すみませんすみません!! うるさいですよね!? うちのお嬢様が騒いでしまってすみません!! ごめんなさい!!!」


「アンタの声の方がうるさいわよ!!」



「う? なんだろう?」


 急に入り口の方が騒がしく……。騒がしいと言うか、女の人の謝っている声が聞こえてきた。反射的についそちらの方へ顔を向けてしまう。

 目に入ってきたのは女性二人、どちらもエルフのようだ。その片方はなんと、背の高い眼鏡メイドさんだった。まずメイドさんに目が行ってしまう私……。もう一人のお嬢様? は子供でもない、でも大人でもないっていう感じの見た目年齢。多分メアさんより若いんじゃないかな、と思う。


 メイドさんは騒いでしまってすみませんと周りに頭をペコペコ下げ謝り続け、お嬢様と呼ばれた人はそれをやめさせようと腕を引っ張っているが、何故かビクともしない。なんとなくあのメイドさんは只者じゃない予感に駆られしまう。

 謝られている冒険者の人たちもどう反応を返していいのか困惑気味に、遠巻きに眺めている。


 ほ、本当になんなんだろうあの人たち……、面白そう……。


「なんだ? 誰だアイツ等、見かけない顔だな」


「え、ええ、リーフサイドの住人ではなさそうですね、私も初めて見る顔です。森の方でもないとなると……、観光客? でしょうか」


「ミランが知らないならきっとそうね。あの身なりなら冒険者っていう線もないでしょ。まあ、我が家には元冒険者のメイドが二人もいるんだけどね、ふふ」


 私と同じ様に、騒がしさに目を向けた兄様たちがそう話し合う。

 住人皆家族を地で行く私たちが知らない、長年リーフサイドで暮らしているミランさんが初めて見る顔、恐らくは他の町からやってきた人たちなんだろう。


「ん……? あの髪、目の色は……、あー、面倒な事になりそうだな。バレンシア、勘違いかもしれんが一応警戒はしておいてくれ」


「はい」


 警戒しろという兄様の言葉に簡潔に一言だけで、まだ入り口で騒ぎ続ける二人から一瞬も目を放さずに返事を返すシアさん。


 警戒……? なんでメイドさんを警戒する必要が? メイドさんっていうのはそれだけでとても素晴らしい存在であって……。


「お兄様? 髪と目って……、あ、お爺様が言ってた例の……。髪の色だけならそこまで珍しくもないけどあの目、きっとそうね。ミラン、いざとなったらギルド員権限でも暴りょ、実力行使でも構わないから追い出して」


「え? あ、はい、分かりました。ちょっと失礼して少し前で立たせてもらいますね」


 ミランさんは姉様の物騒なお願いに応えて席を立ち、例の二人と私たちの間に立つ様に移動した。


 ぼうりょ……? 暴力!? おっと、落ち着こう。多分大袈裟に言って見せただけかな? エルフでも全く会った事も無い知らない人たちだもんね。私がいるからちょっと過剰に反応してるだけだよね?

 でも兄様と姉様、二人とも髪と目の色を確認した途端に表情が硬くなった気がするね。メイドさんの髪色は茶色だから違うとして、お嬢様って呼ばれてた人の方かな。

 遠目でもはっきりと分かる綺麗な銀髪、珍しくないっていうのは実際身近にシアさんとクレアさんの二人がいるからだね。瞳の色は、ええと……、赤、かな。あれ? クレアさんだってそうだよ? 銀色の髪と赤い瞳。となるとやっぱりメイドさんの方なのかな……。うーん、分かんないや。


 まだまだ楽しそうに騒いでる二人をまじまじと観察していたら、お嬢様? と目が合ってしまった。

 目の合ったお嬢様はメイドさんの腕を引っ張る体制のままピタリと動きを止め、私と少しだけ見つめ合い、大きく目を見開いて驚く。


「かわっ! な、な、な、何あの可愛らしさ!! お小さいからいらっしゃる事に気付かなかったわ! いけない! こんなとこで騒いでないでご挨拶しなきゃ……」


 なんですって? 今なんて言いました? もう一度……、いや、言わなくていい。


 私と見詰め合って数秒。我に返ったのか当初の目的を思い出したのか、私たちに向かって少し早足で近付いてくるお嬢様。


「あ、お嬢様、お待ちになってくだお嬢様!!!」


「何ようるさいわね……、ん? きゃあぷっ!」


 お嬢様と叫び、駆け寄り、庇い抱く様にして前に出るメイドさん。身長差があるからか、メイドさんの体にすっぽりと隠れてしまっている風にも見える。



 今何があったか簡単に説明しよう。

 メイドさんの叫びにうるさいわねとお嬢様が振り返り、丁度その瞬間カカカッと小さな音が鳴る。その音に、ん? と反応してまた前を見ると、ほんの数歩前に横一列に刺し並ぶ、数本の少し大きめのナイフを確認。驚いて叫ぶとほぼ同時にメイドさんに抱き止められて変な声が出てしまった、という流れ。



 まあ、誰がナイフを刺した、投げたのかと考えるまでもない、シアさんだ。周りを見てみるとベテラン冒険者の人たちは既に壁際まで退避している。うん、正しい反応だと思うよ。


 シアさんは驚きに固まる二人に無言で数歩歩み寄り、冷たく言い放つ。


「そこで止まりなさい。ナイフの意味は、分かりますね? その線を超えこちらへ近付こうものなら命の保障はできません。まあ、私としましてはこれで帰って頂くか、冗談だろうと笑い飛ばし無造作にこちらへ歩みを進めて頂けると面倒なく大いに助かるのですが……ね。その先の手間を考えますと、前者をお薦めしたいのですが?」


 いつもの冗談半分大袈裟な物言いとは全く違う、本気の言葉だった。


 シアさん怖い! 兄様のせい!? あ、兄様は驚いてない! 逆によくやったって顔してる! なにそれひどい! むむ、姉様とミランさんはちょっとビックリしてるっぽい、安心だ。



 兄様が言う髪の色とか目の色とか、お嬢様とメイドさんの名前とか、シアさんの怖い顔とか、色々と突っ込んだり聞いてみたい事が本当に色々とあるけど……、まずはこれだけは言っておかなくちゃ!


「シアさん! 早速また床に穴あけて! 駄目だよまったくもう!! 改装したばっかりなの……に?」


 ギルド内にいるほぼ全員から、そっちかよ!! とでも言いたげな目線を向けられてしまった……、恥ずかしいです。

 私、間違った事は言ってないよね? ね?







ついに新キャラ登場なるか!? 即リタイアの予感も漂わせつつ次回へ続きます。


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