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その195

「あ? シラユキ様!? おお、お久しぶりです! 相変わらず小っこくて可愛いなあ。あ、コイツですか? へ? 孫ですよ、孫」


「へへ、娘です。可愛いでしょう? まあ、シラユキ様には負けちまいますがね」


 娘? 孫!!?

 あれ? ヨアンさんももう立派な八百屋の店主さんになっちゃってる……?



「シラユキ様、お元気そうでよかったです……。あ、あの人ですか? ええ、娘にボーイフレンドが出来てしまったと拗ねてしまって……」


 ボーイフレンド!? て、手作りクッキーで落としたんだね、きっと。それにしても、エイハブさんは相変わらず娘煩悩なお父さんなんだ? 事あるごとに拗ねちゃって面白い。 



「いらっしゃいませ、シラユキ様。本日もあちらの席で……、? 私の顔を見に、で御座いますか? ありがとうございます。さ、どうぞ、ご案内致します」


 ハーヴィさんはエルフだしあんまり、と言うか全く変わっていないね。安心だ。




「うーん……、ちょっと見ない間に色々変わっちゃってるねー。知らないお店も何件か出来てるし。あ、何か面白そうな所はある?」


「いえ……。残念ながら姫様のお心を惹ける程の物件は特には……。たった五、六年の事ですが、随分と記憶との違いが多いのでは? と思います。本当に他種族の時の流れは早いものですね……」


「だよなあ……。何ヶ月か間を置くだけでも結構様変わりするよな」


「そうね……。あ、ここも変わってると言えば変わってるわよ? ほら、メニューが増えてる」


 あら本当だ。ほうほう、これなんて苺のムースがいっぱいで超美味しそうな……。




 少し前に町への訪問を渋っていた私はなんだったのか、今日私はリーフサイドに、特にこれと言った用事は無いが遊びに来ている。

 メンバーは兄様と姉様、それと言うまでもなくシアさんの合計四人。二人だけで行くのもなんだったので兄様と姉様も誘ってみたのだ。二人には意外そうに驚かれてしまった。


 到着後、まず防壁を抜けてすぐに違和感を感じた。何か……、景色、景観が違う? さすがに通りの道幅までは変わってはいなかったけど、ぽつぽつと知らない建物やお店が出来ているみたいだった。反対にあったはずの家が無かったり建て変わっていたり。

 さらには歩いている人の人数と出ている露店の数の多さ、そして溢れ出る程の活気と、私たちに集まる視線。まあ、町に出て来るといつも生暖かい視線が送られてきたりしてたんだけど。今日はその比じゃない。


 気になってシアさんに聞いてみたら、今日は町を挙げてのお祭りの様な日らしい。


 ほほう、お祭りであるか。丁度いい時に来たものだね、ふふふ。でもお祭り好きなお姫様だと思われちゃう……、実際そうだけど。


 もう少し突っ込んで聞いてみるとこのお祭り騒ぎの原因は、とある国の世界一愛らしいお姫様が数年ぶりにこの町に訪れるから、との事。こっちには突っ込まないでおく。

 ツッコミが入らない事に、しくしくと口に出して嘘泣きをしながら寂しがるシアさんはとりあえず放置。町の人々へと顔を向け直す。


 なるほど、私たち、特に私に集まる視線が多いのはそういう事だったんだね。もしかして、自分が思っている以上にみんなには心配させちゃったのかもしれない。私はこの通り元気だよ、と人々に向かって軽く手をフリフリ。そして湧き上がる歓声。


 兄様にうるさいから余計な事はするなと怒られてしまった……、ちょっと反省。ちょっとだけね。もう少しお姫様気分を味わいたかったが、素直にやめておいた。


 本当に特に予定も何も無かったので、とりあえずはゆったりと散歩がてら、よく通っていたお店などを巡り歩いて顔を見せに行き、今ここ。『転ぶ猫』で休憩中だった。

 大名行列の様にやや離れた後ろをついて来ていた町の人々は、邪魔しちゃいけない、この店高いわ、などと空気を読んで解散。まだ結構な人が外で待っているみたいだけど……、営業妨害になってしまったかもしれない。何組かは一緒に入って来てたみたいだし、大丈夫だよね、と一人で納得しておこう。




 絶品過ぎる苺のムースに舌鼓を打ちつつ、ここまでの感想とこれからの事、次はどこに行くのかの話し合いを続ける。


「ふふ、シラユキ可愛い……。美味しい? 私にも一口頂戴?」


 むう、私から苺関係の物をねだるとは命知らずな姉様だね……!! でも姉様は苺より大好きだから特別に、本当に特別に一口だけあげようじゃないか。


「うん。はいユー姉様、あーん」


 スポンジケーキにムースを一掬い、それをスプーンにのせ、隣に座っている姉様に差し出す。


「わ、嬉しい可愛い何この子可愛いすぎる。……ん。……あ、美味し。ふふ、ありがとね、シラユキ。次は私からね、はい、あーん」


「あーん……、んっ。ふふ。ふふふ」


 なんだろう、幸せゲージが振り切れてしまいそうなくらい嬉しくて楽しい!



「なんだこいつらイチャイチャしやがって……、二人とも可愛いな。バレンシア、次はどこに行く。あまり歩かせすぎて疲れさせるのもなんだしなあ……」


「そうですね……。今日は休日以上に出歩いている人も多いでしょうし、その観衆の中、姫様を抱き上げて歩くのもお恥ずかしそうです、心から残念ですが。もう随分と歩き回りましたし顔見せも充分でしょうか。ではあと一、二軒程にしておきましょう」


 キャッキャウフフとしている私たちを横目に、兄様はシアさんと相談をしている。私も姉様も、ケーキという最大の敵と格闘しているので話に加わる余裕は一切無い。いや、ケーキは断じて敵ではない、訂正しつつ謝罪しよう。


「あと姫様に縁の深い場所と言えば冒険者ギルドくらいなのですが……、姫様? 如何致しましょう?」


 あ、もうこっちに話が飛んできちゃった。姉様とイチャつくのはちょっと休憩してちゃんと答えよう。


「今日の受付はミランさん?」


 質問に質問を返す様で悪いけど、まずは確認。重要な事だからね。


「はい。交代の時間まではまだまだある筈ですので、いつもの様にぼーっと暇そうにしていると思いますよ」


 冒険者ギルドは二十四時間営業だから、ずっとミランさんが一人で受付をしている訳じゃない。何人かで決められた時間に交代しているらしい。ちゃんとお休みの日もある。

 通い始めの頃にそういった事を何も調べないまま遊びに行ってしまい、ミランさんとは別の人を見て、この人だあれ? という顔をしてみんなに笑われた記憶がある。勿論シアさんは知ってて黙っていた。ぐぬぬ……。


 嫌な事を思い出してしまった……。でもミランさんはいるんだね、よしよし。


「うん。それじゃ、食べ終わって休憩したら行こっか。ルー兄様、ユー姉様も、それでいい?」


 私の行きたい所ばかりじゃなくて、兄様と姉様にも聞いておかないとね。


「ん? ああ、俺たちは別に用も何も無いからな、シラユキの行きたい所でいいんだぞ? 気を使わなくても大丈夫だ」


「私もよ。ふふ、優しい子……。そういえば私、冒険者ギルドなんて何年ぶりかしら……?」


 兄様と姉様の二人から、いい子いい子と頭を撫でられまくってしまった。姉様はちょっと考え事をしながらみたいなので、撫で方に心が入っていないが……、まあ、よしとしよう。相変わらず偉そうな考えをしてしまう私。



 ミランさんへのお土産のケーキもしっかりと買ってお店を出る。出てすぐに兄様と姉様に挟まれる様にして手を繋ぎ、冒険者ギルドへ向かう。この流れにはちょっとだけ懐かしさを感じてしまう。


 いつも町に遊びに来るときは、まずは『転ぶ猫』で軽くおやつを食べてからだったからね。うん、懐かしい。今日はちょっとだけ周りが騒がしいけど……、ちょっと? かなりだね、あはは。

 懐かしいと感じる程時間が経っていたんだ……、と少しだけ変わってしまった町並みを見てしみじみ思ってしまう。森の中は時間がゆっくり流れているような感覚を受ける、気がするよ。




 またぞろぞろと、それなりに人数の減った大名行列を引き連れて冒険者ギルド前に到着。今更だけどこの人たちは、私たちが休憩している間ずっと外で待っていたんだろうか?

 足を止めた私たちを見て目的地を察し、次は冒険者ギルドかよオイオイまた入れないぞ、とまたしてもかなりの人数が離脱。それでもまだ十人以上は少し遠巻きにしてこちらを見守っている。

 その中に見覚えのある顔を発見、エルフのお姉さんだ。あれは誰だったっけ……? と控えめに手をフリフリ。そして満面の笑顔でブンブンと手を振り替えしてくれるお姉さん。周りの人に当たりそうで怖い。


 ああ! あの元気な手の振り方、いつぞやの自警団の人疑惑が持たれているお姉さんじゃないか! 久しぶりに見たなあ……。なるほど、髪を短くしちゃったんだね、勿体無い。そういえばもう一度あったら勇気を出して話し掛けようと決めてたんだっけ? どうしたものかな……。

 あの集団の中に入って行くのはまた別の勇気が必要になるな……、よし、今日は諦めよう。また次に会った時にね! 覚えてたらね! また忘れちゃってたらごめんね!


 そんな事を考えながらシアさんの手を取り、冒険者ギルドの中へ。私もここに来るのは一体何年ぶりなんだろう……。 




「あ、あれ? 何か……、綺麗になってる?」


「え、ええ、少し前に。姫様にはお伝えしていませんでしたでしょうか、申し訳ありません」


 何故か謝るシアさんに、そんな事気にしなくてもいいよ、と軽く答え、ギルド内を見回してみる。


 さすがに間取り、と言うか広さは変わってはいないけど、床と壁、さらに天井も張り替えられて綺麗になっている。

 奥のカウンターはそのままだね、と、ミランさんを確認。こちらに気付いているのかいないのか、ぼけーっと中空に視線を漂わせている姿に思わず笑みを漏らしてしまう。

 他にも変わった所は無いか、とキョロキョロと見回していたら、依頼を貼る掲示板の横に、何やらおかしな物を発見。直径150cmくらいの円い、板? が掲示板横の壁に下げられている。貼られている?


 何だろうあれ……、新しい掲示板? でもちょっと小さい気もするね。……? よく見ると所々穴が開いてたりシミがあったりでボロボロだね。飾りにしても掲示板にしてもおかしいよねアレは……。

 ん? んー。さらによく見ると見覚えがあるような、無いような……? !? ああ! あれって!!


「シアさんルー兄様ユー姉様あれあれ!! あれ見てあれ!!」


 シアさんの手を軽く引っ張りながら、壁のモニュメント? に指を指す。


「あれ、ですか? あ、ああ、あの事もお伝えしていませんでしたか……、重ね重ね、本当に申し訳ありません」


「あれって、お? おお、新しくなってたと思ったらあんな所に行ったのか。はは、ああして飾ってみると本当に穴だらけだなアレ。バレンシアはそんな小さな事忘れてたくらいで謝るなって。固い奴だな、相変わらず」


「シアが一番で私が最後なの? 手を繋いでるからかしら……、今みたいに私も引っ張られてみたいわね……。シア、ちょっと変わりなさい。あ、あとねシラユキ、お兄様? シアは言うのを忘れてたんじゃなくて、シラユキの驚く顔が見たいから教えなかったんだと思うわよ?」


「いえいえまさかそんな事は決して。何だろうあれ? と首を傾げる姫様。どこで見たんだろうあれ? と必死で思い出そうとする姫様。ああ、分かったテーブルの板だ、と思い出され、すっきりとした笑顔で私の手を引く姫様を見せて頂きたいなどとは決して……」


「シアさん先読みしすぎ!! 私ってそんなに分かりやすいの!? あ、ユー姉様ごめんね、ギルドの中はシアさんと繋いでるねー」


 しみじみと感慨深げに、壁に飾られた元テーブルをみている兄様。残念そうに私の頬をグニる姉様と、それをにこやかに見守るシアさん。


 あー、見直してみると私たちがいつも座っていたテーブルは新しくなっちゃってるね、見逃してたみたい。いつか弁償しようしようとは思ってたけど、既に買い換えられているとは……、まさか飾られているとは……!! ふふ、面白いね。


 あのテーブルは色々な思い出が沢山詰まってるからね。嬉しかった事、楽しかった事……、寂しかった事、悲しかった事。シアさんに驚かされた思い出が一番多いかもしれない……。

 ミランさんにお願いして譲ってもらって、家にもって帰っちゃおうかな、なんてちょっと考えてしまったけど、あれはきっと、ここにあるからいいんだと思う。うん、説明は出来ないけどそう思うよ。


 兄様みたいにしみじみと物思いにふけっていたら、ギルド内が少しだけ騒がしくなった事に気付いた。さらに私たちに視線が向けられている、集中している事にも気付く。入り口で少し騒ぎすぎてしまったみたいだ、主に私が。




 エルフの冒険者? 珍し。ソフィーさんのお友達?


 いや違うだろ、どっからどうみてもいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんじゃねえかありゃ。


 メイドさん連れてるしきっとそうよね。あ、あれじゃない、今日お姫様が森から出て来てるんでしょ?


 なるほど、挨拶しに来たって訳だ。この国のお姫様って冒険者ギルドによく顔を出すんだっけか。俺まだ一度も会った事ねえよ。


 めっちゃくちゃ可愛いらしいぜ? 俺も一回は会ってみたいなあ……。


 可愛いって……、あの子くらい? ってあの子ちょっと可愛すぎない? ね、ねえ、撫でに行っても大丈夫かな?


 やめとけやめとけ、バレンシアさんに殺されっぞお前ら。ん? ああ、あのメイドさんのことな。ってか面白おもしれえなお前ら、昔を思い出すわ。


 なんだよオッサン。面白いって……、知り合いか?


 あっはっは、まあな。ちなみにあの人らが今話してたハイエルフの王族だ、三人ともな。


 マジでお姫様!? ハイエルフ!? うっおー!! 初めて見た!! あの可愛さなら納得だよな!?


 こらこらあんまりジロジロ見ないの。でもジロジロ見ちゃう……、可愛い……、可愛すぎるうう!


 いやいや待ってよ! 確かにむ……っちゃくちゃ可愛いけど、それより、あの、王子様? あの人もカッコよすぎでしょ。……え!? 知り合いなの!?


 くっくくっ、ははははっ! はー……、懐かしいったらねえなこりゃ、十年以上前にこんなやり取りしたわ。そんときゃお前らの側でな、俺もそんな風に驚いたもんだ。ふっ、くくくっ……。


 笑ってやるなよ、そいつらこの町に来て日が浅いんだろ? にしても久しぶりにシラユキちゃんのツッコミ見たけど、うん、元気そうでよかった。


 だな。いやあ、笑った笑った。しっかし、まあ、何と言うか、変わらねえなあ四人とも。くくっ、おーい! シラユキちゃん! 小っせーままだなあ!?


「うるさいです!!」


 おお、怒った怒った。メイドさんに睨まれるのもホントに久しぶりだぜ全く。


 ちょちょちょちょっと!! お姫様にそんな事言っていいの!?


 メイドさん怖っ!! 睨んでるめっちゃ睨んでる!! でもなんかゾクゾクきちゃう!! はっ!? 先生が言ってたのって、これの事?


 おお。だろ? いいだろあの睨みっぷり、さすが俺の弟子だ。さらに蔑む様な目付きも堪らんものがあるぞ?


 師匠と仲間が変態でした、死にたい。




 ちっせーの一言についつい反応しちゃったけど、うん、このやり取り、なんか懐かしい気がするね。

 あれは初めてここに来たときの事だったっけ……? うーんと……、十……五、六年前? もっと前かも。懐かしいわ……。

 あの時は確か、ミランさんがカウンターから出て来て……、それから……、思い出せない。まあいいや。


 そのミランさんは、にこにことしながら私と冒険者さんたちのやり取りを眺めている。たまに必要以上に騒ぐ輩を目線で黙れと脅しながら。


 ミランさん怖いわー、やっぱりミランさんは怖い人だったわー……、ふふふ。 







続きます。



いやあ、某オンラインゲームは強敵でしたね……。いや、ですね。

まだまだ進行形です!



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