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193/338

その193

「うっわ、メア幸せそう。なになに? 何をお願いしたの? ディープキス?」


「あはは、違うよフラン。んー……、秘密かな、ふふふ」


「フランさん聞いちゃだーめ! あ、次はフランさんの番なんだね」


「うん? うん、そう、二番手は私。ふふ、シラユキもいい笑顔してるし、お互いにとっていいお願いだったみたいねー」


 メアさんが外に向けてドアをノックすると、すぐにフランさんが部屋に入って来た。どうやら次の順番はフランさんみたいだね。

 フランさんは私とメアさんの表情を交互に見て、何となくいい事があったと察してしまった様だ。私もメアさんもそんなに分かりやすい表情、笑顔をしていたのかな?


「それじゃ姫、また後でね。ふふ、ふふふ……。あー! シアに自慢したーい!」


 少し不安になる様な一言を残し、メアさんは部屋を出て行った。


 メアさんに大喜びしてもらえて私も嬉しいね。でもシアさんに自慢しちゃ駄目だよ……。流れ的にフランさんの次はシアさんだよね? 嫉妬のあまりお願いがグレードアップしてしまいそうだ、それも変な方向に。それ以前に他言は厳禁っていう約束があるんだけど……、忘れちゃってるのかな。まあ、いいけどね、罰も何も決めてないみたいだし。




 メアさんを見送った後、フランさんと向かい合う様に体の向きを直す。

 やっぱりフランさんは椅子に座ってくれない。むう、こんな時くらい座ってくれてもいいのに。それで私を膝の上に……。


「さって、と、順番も詰まってる事だしサクサクいこうか。私のお願いはね、ふふふ。ねえ? シラユキ。シラユキってさ、おっぱい、好きよね? 大好きよね? ……はい」


 フランさんはゆっくりと歩いて私に近付きながらそう言い、私の目の前まで来ると軽く腰を折り、私の両手を持ち上げ、自分の両胸に手の平をぺたんとくっ付けるようにして押し付ける。


「いきなり何聞いてるの!? むう……、好きだけど、うん、特にフランさんのは大好きだけど……。何? 揉めばいいの?」


 何だかよく分からない質問にビックリしてしまったけど、揉めと言うのなら喜んで揉もうではないか。ふにふに柔らか……、大きすぎて揉み難いです!!


「ふふ、くすぐったい。そうじゃなくてね……、あー、シラユキにはちょっと恥ずかしいお願いになっちゃうかな。えっとね、私たち三人とも、添い寝当番の時は絶対って言っていいくらいの頻度でシラユキにおっぱい吸わせてるんだけどね」


「その話はやめてって言ってるのに!! うう、それに関係するお願いなの……?」


 寝てるときにメイドさんズに抱きついていっちゃう私と、その、す、吸っちゃう私がいけないんだけどさ……、恥ずかしいよ! もう私、二十代も後半に入ってるんだよ!? それなのにそんな赤ちゃんみたいな……、はっ!? まさかそろそろやめてもいいか、っていうお願い? ……そんな訳無いか。三人とも私と寝る毎晩の事なのに未だに幸せ全開状態みたいだからね。むしろやめてってお願いするのはこっちだよ……。


「関係してると言えば、してるかな? あれってさ、シラユキ無意識での事じゃない? 寝てるんだし。それでちょっと思いついちゃったのよ」


 まあ、確かに眠ってる間の事だからね、やめようと思ってもどうしようもない事なんだよ。うんうん。

 それで思いついた? 一体どんな……、と、フランさんの胸を揉み続けながら考える。


「で、ね? 私からの願い。おっぱい吸って? 今、起きてる時に。さあさあ!」


 とんでもないお願いの後、フランさんはいそいそと服をはだけ始める。


 な、な、な……、何そのお願い!? フランさんは私の事は完全に赤ん坊扱いなの!? これは許されざるよ……。


「シアさーん!!」


「あ、ちょ、シラユキ待って……」


 フランさん退場ー!!


「はい姫様。早速のお呼び、嬉しく思……、? 何をしようとしているのですか貴女は……!!」


 私の呼び声に即反応して、シアさんがドアを開ける。そして半脱ぎ状態のフランさんと目が合うと数瞬固まり、静かに怒り始めた。


「や、あの、その、ね? 別にシラユキに何かしようって訳じゃ……。ああ、このお願いアウトだったんだ……。うーん、ちょっと、いや、かなり残念だけど仕方ないかー。シラユキ、またお昼にね……、くすんくすん」


「はいはい、キビキビ退場なさい。では姫様、またこの様な不届き者がいましたらすぐにお呼びくださいね」


 シアさんはそう言うとフランさんの腕を掴み、引き摺るようにして部屋から出て行こうとする。


「うん、ありがとシアさん。でも不届き者とか言っちゃ駄目だよ……」


 くすんくすんとか、なにそれ可愛い。おっといけない、その前に……。


「フランさん、今日はメアさんの当番の日だから駄目だけど……、明日、明日の寝る時にね」


 今ここでは考えるまでも無く完全アウトだけれど、夜ベッドの中で寝る前に、なら考えてもいい。


「姫様? フラン、貴女は一体どんないやらしい願いを……」


「いやらしくないって……、え? あ、いいの? 無理しちゃ駄目だよ、シラユキ。嫌なら嫌ってはっきりと断ってもいいんだよ? 私としては嬉しいんだけどね……」


 私の言葉に、二人とも足を止めてこちらに向き直る。揃って不思議そうな表情だ。


「うーん……、恥ずかしいけど、今回だけ特別、かな? でも絶対に他のみんなに言っちゃ駄目だからね!」


 そう、特別、フランさんだけは、だね。ちょっとしんみりしてしまうかもしれないので理由は言わないでおこう。


「うわー、優しい子。ちょっと、レン? 大丈夫かなこの子。この調子だとこの先も結構無茶なお願いも聞いちゃうんじゃない? 心配になってきちゃったわ」


「いえ、まあ、それは大丈夫だとは思いますよ。今回の一般の参加者の願い事は、それぞれ具体的に、とまではいきませんが、ある程度の方向性は把握していますからね。問題があるとすれば、後はカイナくらいのものでしょう」


「まーた影で苦労する様な事して……。ふふ、カイナはまたプロポーズしてくるんじゃない?」


 ああ、なるほどね。私の家に住んでいるメイドさんズは無条件で参加できるから、シアさんも誰がどんな事を願うのか把握できてなかったんだ? だからフランさんがこんなお願いをしてきたんだね。

 カイナさんとはなるべく話したり甘えたりする様にしてるから、いきなり求婚される様な事は無いと思うからいいとして……、問題はシアさんだよ。やっぱり一人で大変なお仕事してたみたいだね、まったくもう! いくら主催者だからってなんで全部一人でやろうとしちゃうんだろうねこの人は……。


「おっと、話し込んじゃうところだった。それじゃね、シラユキー」


 しっかりと服を着直して身だしなみを整え、今度こそフランさんは部屋から出て行き、パタンとドアを閉める。シアさんは部屋の中に残ったままだ。






 ふむ、シアさんが出て行かないところを見ると、次は予想通りシアさんの番みたいだね。一体どんなお願いをされるのかハラハラドキドキ、あとちょっとだけワクワクしてしまう。


 シアさんはフランさんが出て行ったのをしっかりと確認してから私の方へ向き直り、軽く頭を下げながら話し出した。


「姫様、あまりご無理はされないようにお願いします。今回の催しは姫様を含め、いえ、姫様を初めとして皆で楽しもうという企画なのですから。少しでもおかしな願いだと感じましたら、冗談半分にでも私を呼んで頂ければいいのですよ? 説明不足で始めてしまった私が」


「だいじょぶ大丈夫! 無理なんてしてないよ? ちゃーんと楽しんでるし、これからどんなお願いが来ちゃうのかワクワクしてるくらいなんだから」


 ふふ、まったくシアさんは心配性なんだから。それでいて全部の責任は自分にあると思い込んじゃうのもいけないよね。まあ、今回は主催者の立ち位置にいるのだからそれもしょうがないと思うけどね。


「そう、ですか? ふふ、出すぎた真似を致しました、申し訳ありません。それでは、気を取り直しまして私からのお願いです。ふふ、ふふふ、覚悟は宜しいですか?」


 さっきの申し訳無さそうな表情から一転、ニヤニヤとし始めるシアさん。


「またそれ!? せめて心の準備とか言い直ししてよ! うう、結婚したいとか変なお願いは駄目だよ?」


 もしアウトなお願いだったとしても、退場させるべき役割はシアさん本人だ。何でも自由に、からかい半分でおかしなお願いをされてしまいそうだ……。


「いけませんか? 残念です。あ、冗談ですので退場宣言はどうか、ふふふ。……こほん。それでは、姫様にお聞き頂きたい私の願いは……」


 ああもう! 嬉しそうにニコニコしちゃって! シアさんの機嫌がいいと私も何となく嬉しくなってきちゃうね。


「その前に……、少しだけお待ちくださいね」


「う? うん……」


 シアさんは軽くお辞儀をした後、ドアの方へゆっくりと歩いて行く。


 何だろう? 焦らしてくれるね……。何か準備が必要なのかな? それとも部屋の中じゃ狭すぎる? やっぱり謎メイドさんのシアさんのお願い、一筋縄ではいかなそうだ、ここは気を引き締めないといけないね! 大袈裟に言ってみたものの、特に警戒はしてないんだけれどね、ふふふ。


 部屋の外、廊下へ向けて数回ノックをしてからドアを開けると……、そこに待っていたのはキャロルさんだった。


「あ、失礼します、シラユキ様。シア姉様? その……、本当にいいんですか?」


「いいも何も、私に聞いてどうするんです、姫様のお心次第ですよ。さ、姫様の前へ」


 キャロルさんはシアさんに背中を押される様にして、私の前へとやって来た。シアさんはその隣に並んで立っている。


「え、と……、あ、まずはキャロルさんから先に、なの?」


 うーん、何が何だかさっぱり分からない。シアさんの前にまずはキャロルさんのお願いを聞いてっていう事なのかな?


「そうではなく……、あ、いえ、そうでもあるのですが」


 え? 違うの? 合ってるの? どっちなの!?


「シア姉様、こんな時くらいからかうのは控えましょうよ……。でも不思議そうにされているシラユキ様可愛すぎる……、あ、すみません。ええとですね、シラユキ様、私とシア姉様、二人で一つのお願いをしたいのですが……」


 キャロルさんとシアさんで一つお願い?

 なんだ、そういう事か……。ふむ、それはそれで不安になってきちゃうね。謎メイドさんとそのお弟子さん合わせてとなるとそれは……、まあ、想像もつかない。あはは。


「今のはからかった訳では……、まあ、いいでしょう。二人からの願いと言うよりは、私の願いにキャロが関係していると言った方がいいかもしれませんね。キャロはキャロで自分の……、と、失礼しました、また回りくどくなってしまうところでしたね。簡潔にお願い致します。キャロの両腕の傷跡を消してやって頂きたいのです」


 シアさんは深く、そしてキャロルさんも、お願いします! と頭を下げてお願いをしてきた。


 キャロルさんの両手の傷跡……? え?


「うん、いいよ? いいけど……、それでいいの? そんなのいつでも言ってくれてよかったのに……」


 キャロルさんは半袖にすると傷跡が目立っちゃうからって常に長袖だったもんね、夏場は暑そうだった。私が何回言っても治させてくれなかったのに今日は一体……、あ、シアさんのお願いなんだっけ、これって。


 うん? シアさんのお願い?

 むむむ、まさか見るに見かねてっていう事なのかな。シアさんがキャロルさんに対してこんな優しさを見せるなんて珍しい事もあるものだね。普段からもっと優しく接してあげてほしいです!



「今日はまずは右手の甲辺りだけにしておきましょうか、毎日少しずつ……、そうですね、片手に十日程掛け、ゆっくりと慎重に癒して参りましょう。そのくらいでしたら問題はないとは思いますが、魔力疲れには気を付けてくださいね」


 キャロルさんのメイド服の袖を捲りながらも視線はしっかりと私へ向け、説明と注意事項を続けるシアさん。妹のお世話をしているお姉さんみたいで微笑ましい。キャロルさんもくすぐったそうに、でも少し嬉しそうにしている。


「右手だけなら袖を上げる必要はないんじゃないですか? あ、どれくらいの範囲を癒すのかの確認ですか、すみません」


「あ……、言われて見ればそうですね。ま、まあ、確認のため、という事にしておいてください」


「あはは。うん、そういう事にしておくね、ふふふ」


「うう、お恥ずかしい……。さ、キャロ、姫様に診て頂きなさい」


 たまにこうやって抜けた行動をしちゃうところがギャップ萌えだよねー。


「はい。あのー、シラユキ様? こんな感じで……、すみません、気持ち悪いですよね」


 示されたキャロルさんの右腕を取り、まじまじと見つめてみる。切り傷か刺し傷なのか、傷跡自体殆ど見たことが無い私には判別がつかないが、大きな物から細かい物まで大小かなりの数の跡が見える。とても痛々しい。痛々しくはあるけど気持ち悪くはないね。


「く、くすぐったいですよシラユキ様。これはあまり他人ひとに、特にシラユキ様にお見せする様な物ではありませんから戻してしまいますね。ちょっとお待ちください」


 キャロルさんは笑顔でくすぐったそうに身じろぎ、一言断った後袖を元に戻す。


 ついつい撫ですぎちゃったね、ふふふ。しかし、こうして改めて見せてもらって俄然やる気が湧いてきたね! こうなったら両手だけとは言わずに、全身少しずつ綺麗にしていっちゃおう。シアさんに怒られそうだから心の中で決意を固めるだけにしておく。あ、目が合った。やれやれこの子は……、とでも言いたげな表情だ! だからなんでそんなに簡単にバレちゃうの!?


「そ、それじゃ今日は右手だけだね。ここはあんまり目立つような傷は無いかな……、左手の指先は最近の包丁傷だよね?」


「はい。これはこのままでいいですよ。治して頂いてもまたすぐに傷付けちゃうと思いますから」


 左手でキャロルさんの右手を軽く支えるように持ち上げ少し観察した後、手の甲に自分の右手を覆う様に添え……、お互い手が小さくてよかったね、と思いながら癒しの魔法を発動する。


 私の手の平とキャロルさんの手の甲の間がほんのりと僅かに発光して、ものの数秒。


「はい終わり。どうかな?」


「うわ、温かい、って、え!? もう終わったんですか!? すごっ、何これ綺麗! すっべすべ!」


 あっという間の出来事とその結果に盛大に驚いてくれるキャロルさん。自分の手を撫でまくって感動しているみたいだ。


 ふふふ、喜んでもらえたようで何よりだね。私特製の『治療と美肌の魔法』は特に女性には大人気の魔法なのだ! シアさんが目を光らせているから滅多に使えないんだけどね……。そのシアさんは何やら心配そうに見つめてきている。おっと、いけないいけない。


「んー……、うん、疲れは無いよ、大丈夫。左手も治しちゃう?」


「是非! と言いたいところですが、やめておきましょうか、急ぎという訳でもないですしね。……はー、シラユキ様はやっぱすっごいわ……」


 キャロルさんは感慨深げに自分の手の甲を撫で続けている。


「ふむ……、と。姫様、お疲れ様でした、本当にありがとうございます。そしてキャロ、驚き感動するのは大いに結構。ですが、それよりも……、何よりもまずは姫様にお礼の言葉を述べなさい!!」


「ひゃあ! すみませんすみません!! あ、ありがとうございます!!」


 久しぶりのシアさんの一喝に慌てて頭を下げながらお礼を言うキャロルさん。でも表情は笑顔のまま、嬉しそうで楽しそうだ。




「そろそろお昼ですね、一旦休憩を入れましょうか。キャロ、順番待ちの皆さんを蹴散らしてきなさい」


「はい、ちょっと行ってきますね。さーて、久しぶりの荒事だー、腕が鳴るわ」


「駄目だよ!? 蹴散らしちゃ駄目!!」


「冗談ですよ、ふふ。シラユキ様は相変わらず何でもすぐ信じちゃうんですから」


「分かってるよ! でもシアさんとキャロルさんなら本当にやりかねないから怖いんだよ……」


「それでは姫様のご期待にお応えして、私自ら……」


「やーめーてー!!!」




 三人……、四人かな? 四人のお願いを聞いたところでお昼ご飯の時間になり、午前の部はここで終了となった。昼食後からもまだまだ何人もやってくる事だろう。大変だけど、面白い。


 しかし、シアさんとキャロルさんにちょっとした違和感を感じた様な気がしたけれど、二人にからかわれている間に忘れてしまったね。でも、まあいいや。こんなに簡単に忘れてしまう様な事だ、きっと大した問題でも無いだろうからね。私の気持ちは既にお昼ご飯と、午後からのお仕事(?)に向いているのだ。




キャーイクサーン




続きそうですが、続きません。

今回はちょっと、二話掛かりそうな内容を無理矢理一話に纏めた感じになってしまいました。


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