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192/338

その192

「ふふふふふ、私が一番手だよ、ひーめ。あー、久しぶりに二人っきりだね。うーん………まずは可愛がっちゃおうかな?」


 メアさんは部屋に入ってくるなり、椅子に座って待っていた私をひょいと抱き上げ、そのまま用意しておいた別の椅子へと腰掛ける。


 むう、あんまりぎゅっと抱き締めないで! でも幸せだなー。


「ちょっと苦しいよ……。私は嬉しいからいいんだけど、メアさんたちの方はいいの? みんな待ってるんじゃないのかな」


 私的には何時間でもこの体勢のままで構わない、のだが、今日はそうも言ってられないはず。この後何人来るか全く分からない、メアさんばかりに時間を割く訳にはいかないのだ。


「別に一人何分とか時間も決めてないし、いいんじゃない? ほーらこっち向いて、キスさせてー。んー……。ふふ、姫かーわいい」


「もう! メアさんのキス魔! でも大好き!!」


 メアさんのキスみだれ撃ちに嬉し楽しくなってきてしまい、つい抱きついて胸に頬擦りをしまくってしまった。


「うわ、可愛い!! 二人っきりだとホントに輪をかけて甘えん坊だなあこの子……。ああ、もう順番とかどうでもいいや、今日はずっと二人でいよっか?」


「えー? それはだーめ。今日は最低でもあと、シアさんとフランさんの二人のお願いは聞くつもりなんだからね。それでまだ時間があったらキャロルさんも、ほかのみんなだって……」


 一体何人待ってるんだか……、うーむ……。


「ふふ、冗談だってば。でももうちょっとだけ、ね? 姫と二人っきりなんてあんまり無くなっちゃったからね。……ああ、駄目だ、目の前に姫がいるとキスしたくなってくる。名残惜しいけど、ちょっと降りてね」


「うん、っと。膝に乗せたくなったらいつでも言ってね、喜んで乗っちゃうから。……う? メアさんと二人っきりってそんなに久しぶりだっけ……?」


 言われてみればそうかもしれないね。パッとすぐには思い浮かんでこない。毎日顔をあわせてるから、いつ、どういう風に、なんて細かくは記憶に残らない。


 メアさんは私が膝から降りるとすぐに自分も椅子から立ち上がる。

 そしてパンパンと軽くスカートを払い、真っ直ぐに私の方へ向き、口を開く。


「さ、てと、それじゃ私からのお願いだよ、姫。覚悟……、こほん。心の準備は出来てるかな?」


「覚悟!? 覚悟しないといけないお願いなの!? だ、駄目だよ舌入れたいとかは!!」


「わ、落ち着いて落ち着いて。ホントにからかい甲斐のある子だね、ふふふ」


 ああもう! 最初の一人目から大波乱の予感だよ!!






 時刻はまだ朝、と言ってもいい時間、私は今日は珍しく自分の部屋にいる。ご飯やトイレなどの用事が無ければ、今日は一日中部屋に篭りっきりになるだろう。それはとあるイベントのせいなのだ。

 そのイベントとは、シアさん主催の『姫様にお願いを聞いて頂いて幸せな気持ちになろう』という……、まあ、お題目そのままのイベント。


 何がどうしてこうなったのかは全く想像もできないけど、気にしない。シアさんの企みや考えは私程度に推し量れる物ではないし、どうせ聞いても答えてくれないだろうからね。どうしてでしょうねー? うふふ、とニヤニヤされるだけに決まっている。

 多分、少し前にあった、私がメイドさんズのお願いを聞く事になってしまったアレが原因だろうとは思う。でもまさか、こんな大袈裟なイベントを催すとは思いもよらなかった! 相変わらず先の読めないメイドさんで困ったものだね。


 いつもならメイドさんズや家族のみんなを巻き込んで、私をからかいながらわいわい騒いで終わるだけなのだが、今回のイベントは違う。なんと参加資格、じゃない、応募資格は『リーフエンドの森の住人である事』のみ。さすがに森の住人全員のお願いを一つ一つ聞いていたらいつ終わるか分からないので、これはあくまで応募資格のみの話。実際に私にお願いを聞いてもらえるのは、シアさんの厳しい審査(?)を潜り抜けた人のみとなる。例外として、王族の館、私の家に住んでいるメイドさんズは無条件での参加が認められている。ただし、クレアさんのお願いは既に聞き終わっているという事で今回は残念ながら不参加が決まっている。


 実際応募は何件(何通?)くらいあったのか。そもそもそんな変なイベントに参加したいなんていう人はいるのか。仮に千人から応募があったとして、それをシアさんが一人で全部審査するのか、などなど、色々と疑問は尽きない、尽きないが……、気にしないでおこう、それがいい。


 この話を聞かされたのが昨日の寝る直前だっていうのがまたいやらしい。ベッドの中でシアさんに抱きついて、うとうととしている状況で言われたみたいで、その時の私は二つ返事で了承してしまったらしい。勿論全く覚えていない。仮に目が覚めているときに聞かれたとしても断ってはいなかったと思うけどね。



 そして今、一人目のメアさんのお願いを聞こうとしていたところだった。

 私の部屋で二人っきりの状況なのは、お願いがちょっと他の人には言い難かったり、聞かれてしまったら恥ずかしかったりするかもしれないから。それもお互いね。

 それと、他言も厳禁らしい。私が誰かに言うのは許されるけど、他のみんなは今日あった出来事は自分の心の中に大切にしまっておかなければいけない。私だけ許されるっていうのは、どうせつい口を滑らせてしまうだろう、という事だね。ぐぬぬ……。


 まあ、大まかな話の流れはそんな感じだ、後は無茶なお願いをされないように祈るだけ。あまりにも無茶振り過ぎるお願いだったら断るだけだし、私の一声で外で待機しているシアさんに摘み出される事が決まっている。やや不安は残るが……、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。




 さてさて、順番はどんどん押して来ている、かどうかは全く分からないけど、早速メアさんのお願いを聞いてみよう。


「メアさんのお願いはどんなのなの? それと、さっきも言ったけど……」


「ふふ、舌入れたいとかそんな変なお願いはしないって。折角の楽しそうなイベントなのに姫を怒らせてはい終了、とかやったらシアに殺されちゃうよ」


 よしよし、やっぱり無茶振りは来ないという事で確定っぽいね、これなら安心してよさそうだ。


 メアさんは少し恥ずかしそうに、指先で頬をポリポリと掻きながら先を続ける。


「えーっとね? 姫、前にさ、私のことを……、お姉ちゃんみたいって言ってくれた事あるよね?」


「うん。今でもそう思ってるよ? メアさんフランさんシアさん、勿論カイナさんとクレアさんだって、メイドさんって言うよりは姉様だよねー」


 カイナさんとクレアさんはちょっと礼儀正しく、畏まっちゃってるんだけどね、私からは綺麗で優しいお姉ちゃんみたいなつもりで接している、と思う。シアさんは、まあ、うん、シアさんはシアさんだね。自分で言ってて訳が分からないよ。


「私ね、それがす、っごく嬉しくてさ、今でも思い出してはニヤけちゃうくらい。それでね? えっとね? ……あはは、やっぱりちょっと恥ずかしいねコレ。二人きりでよかったよ」


 メアさんは視線を泳がせてキョロキョロしてみたり、両手の平をすり合わせたり軽く何度も打ち合わせてみたりと、恥ずかしさのあまりソワソワしちゃっているみたいだ。


「むう、なになに? メアさんのお願いはなーあにー?」


 ソワソワキョロキョロしているメアさんを見て楽しくなってきてしまった。ちょっとおどける様にしてもう一度聞いてみる。


「かっ、かわわっ、可愛い!! もう一回やってもう一回!! もう駄目! 我慢できない!!」


「わ! もう、これじゃいつまで経っても終わらないよー。ふふふ」


 私の目の前にパッと駆け寄り、勢いよく抱き上げるメアさん。そのままグリグリと、少し強めの頬擦り攻撃、さらには顔中にキスをされまくってしまった。


「ね、姫、お願い。私のこと、お姉ちゃんって呼んでみて? 恥ずかしかったら一回だけでもいいから、ね? これが私のお願いだよ」


 もうメアさんは満面の笑顔。幸せそうに微笑みながらやっとお願いをしてくれた。


「そんな事でいいの? うーん? 恥ずかしいかな?」


 別にそんな事程度恥ずかしいとも何とも思わない、筈。しかし、メアさんのお願いはこんなに簡単な内容でいいんだろうか……?


「ええと、お姉ちゃん? メアお姉ちゃん? 私としてはお姉ちゃんより姉様の方が言いやすいかなー」


「あああああ! もう一回お願い!! 何これ可愛すぎるよ……!!」


 おお、本当に凄く嬉しそうだ。こんなに喜ばれるとこっちも嬉しくなってきちゃうよ。

 よーし、私の最高レベルの甘えん坊っぷりを見せつけてやろうではないか……。


「メア姉様ー、ふふふ、だーい好きだよ! ……やっぱりちょっと恥ずかしいね」


 実際言って見ると結構恥ずかしいものだねこれは。これくらいで満足してもらえるといいんだけれど……。


 しかし、対するメアさんは何故かの無言状態。でも目はにっこりと、口元はニヤニヤ、これは嬉しそうにしているのかちょっと判定が付かない。随分前に暴走したシアさんの、その直前の表情に似ているね。これはまさか……。


「メアさん? どうし」


「姫かーわーいーいー!! 何これ何これ何この子可愛すぎる!!!」


「わわわわ……。にゃあ! 落ち着いてメアさん! 嬉しいけど靴が! 髪の毛が!!」


 あまりの感動(?)からか、私を抱き上げたままベッドに倒れこみ、全力で抱き締め、一緒になってゴロゴロと転がり、撫で、頬擦り、キスの嵐を続けるメアさん。靴のままだし、髪の毛が絡みついてしまう。


 メアさんが暴走してしまった! 私も嬉し楽しいけど靴のままベッドに入っちゃ駄目だよ……、転がると髪の毛が絡まっちゃうよ……、落ち着いた後でシアさんに何をされるか知らないよ……。



「ありがと姫! ああもう、死んじゃうくらい嬉しいよ。自分でもここまで嬉しくなるなんて思ってなかったんだけどね? ふふふ」


 最後にギュッと強く抱き締め、唇に少し長めのキスをした後、メアさんはやっと落ち着いたのか体を放してくれた。今は上機嫌で私の髪を梳かしている。


 ここまで、まさか暴走しちゃうくらい喜んでもらえるとは思ってもみなかったよ。これからもたまに二人っきりになったときは姉様って呼んであげようかな? メアさんは妹が欲しかったのかもしれないね。それはちょっと気になるけど、私を可愛がればいいと思うよ! ふふ、ふふふ。







一話で終わる予定でしたが、続きます。

また一、二週間以内には投稿できると思います。


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