その191
今回は前回の続きと言うか、おまけの様な物です。
少し短めでほぼ会話文のみになってます。
「ん? お? ロレーナか、珍しいな。シラユキは……、おっと、寝てるのか、静かにしないといけないな」
「ルーディン様か……、こんにちは。はふ……。んー、私も一眠りさせてもらおうかな……」
「んにゃ……? あ、ルー兄様? 起きてるよー。眠いけどね……」
「し、シラユキ様可愛すぎる……。あ、ルーディン様も紅茶、飲まれます?」
「なんだ起きてたのか可愛いな。いや、俺はいい、ありがとな」
ロレーナさんの膝の上でうつらうつらとしていたら、兄様が遊びに? かどうかは分からないが、談話室にやって来た。私が起きている事を確認すると、キャロルさんにお礼を言いながら片手を上げて紅茶を断り、椅子に座る。
折角来てくれたところなのだけど時既に時間切れ、私の眠気はかなりのレベルに達しているのだ。追撃の優しい頬グニで眠気はさらに加速した。
とりあえずこの幸せなまどろみの中で、この三人がどういう会話をするのか聞かせてもらっちゃおうかな? ふふふ……。眠い。
「シラユキどうする、眠いなら部屋に戻るか? でもそうなると俺がまた暇になっちまうな……」
ああ、ただ単に暇だったから私の所に来たんだね、なるほど。今日は姉様はお出掛けしてるのかな?
「ううん。自然に寝ちゃうまでここにいるよー。ルー兄様はキャロルさんとロレーナさんとお話してて、私はぼんやり聞いてるから」
ここ、とはロレーナさんの膝の上ね。完全に力を抜いてもたれさせてもらっている。背後に感じる二つの膨らみの感触が素晴らしい。
「そうか? 無理はすんなよ。俺の膝に乗せてやりたいが、まあ、今日は我慢するか。でもなあ、話せと言われても特に話題って言うほどのモンも無いんだよな」
まあね、話題も無くいざ何か話そうと思うと、何を話したらいいか分からなくて戸惑っちゃうものだよね。
「話題ですか……。ええと、そう言えば……、ユーフェネリア様はご一緒ではないんですか?」
キャロルさんナイス話の振り。私もそれは気になってた、が、眠いのよー、あんまり喋りたくないのよー。
「ああ、今はな。さっきまでは一緒にいたんだが、バレンシアに連れて行かれちまってなー。それで暇になったんだよ」
「うんん……、またシアさん? シアさん今日は一体何してるんだろう……」
「何か企んでるみたいだったな、面白そうだ。多分お前を楽しませながらからかう何かだろ」
私の頬を突付き、くすぐりながら言う兄様。
むう、幸せくすぐったい。
しかしシアさんは、楽しませてくれるのはありがたいし嬉しいのだけど、あんまりからかわないでほしいね。シアさんの生きがいを奪う様な事はしたくないから言わないけど。
「今のって、シア姉様の名前に反応されたのかな……? やっぱりシラユキ様もシア姉様のことが大好き、いえ、愛しておられるのですね」
「愛!?」
いきなり何言ってるのキャロルさん!?
「わ、冗談ですよ! 落ち着いてください。す、すみません、気持ち良さそうにまどろんでいたところを……」
「はは、キャロルも普通にシラユキをからかえるようになったな。っと、怒ってる訳じゃない、勘違いするなよ?」
何だ冗談か、からかわれただけか。まったくもう……。日に日に私をからかう人が増えていってるんじゃないか?
「は、はい。でも今のはもう少し考えるべきでしたね、申し訳ありませんでした」
「ふふ、気にしてないからキャロルさんもあんまり気にしないでね? わ、っとと……、う? ロレーナさん?」
キャロルさんへのツッコミのために身を乗り出したままだった私を、無言で優しく自分へと抱き寄せるロレーナさん。
「あ、ごめんね? 膝の上で騒いじゃって……、にゅにゅにゅ」
そんな事はどうでもいいとばかりに頬グニを再開されてしまった。またもや無言のままで。
「ユーネもそうだが、シラユキの頬をグニるのはそんなにいいものなのか? 柔らかくて突付き甲斐はあるけどな」
うーん? 兄様はほっぺをいじるより頭を撫でてくれる事が多いね。
「ん……、ああ……、何だろう。癖になる、かな……」
ここでやっとロレーナさんが口を開いてくれた。でも質問に最小限の言葉で答えただけだね、相変わらずだ。
「癖になる、か、なるほどな。まあ、分からんでもないな。シラユキもお前のことは随分と気に入ってるみたいだし、どんどん可愛がってやってくれ」
「うん、暇があれば毎日でもね。ギルドの手伝いが無い間はここに住もうかな……、メイドさん多くて楽そうだし……。一人頂戴」
なんですって……?
「うちに住んでくれるのは嬉しいから歓迎しちゃうけど……、メイドさんはあげないよ!」
メイドさんは全て私のものなのだー!
「ふふ……、冗談だって。でも……、キャロルちゃんにお世話されてみたいね」
「えー? 勘弁してよマジで。アンタっていい奴には間違いないんだけど、どうにも話のテンポが合わないのよね」
ロレーナさんはホントにキャロルさんのことがお気に入りなんだねー。って、今笑った!?
くう、ここからじゃ表情は見れなかった……。惜しい事をしたよ……。
特にこれといった珍しい話題が上がる訳でもなく、その後も日常会話的なお話が続き……、私の眠気が限界にきて眠りに入ってしまうギリギリの境界線、そんな時の事……。
談話室にとても綺麗な金属音、特製風鈴の音が鳴り響いた。
「ん? 何だ? あ、ああ、ウインドチャイムか。ほー、いい音だな」
「風が出てきたみたいですね。あ、シラユキ様にロレーナからの贈り物なんですよ。本当にいい音色ですよね……」
「お、そうなのか、ありがとなロレーナ。しっかし、高そうだなアレ。いくらしたんだ?」
贈り物の値段聞いたりしちゃ駄目だよルー兄様……。でも眠すぎて実際口には出せない。
「1tもしてないから大丈夫。錬金ギルドに頼んだらタダで作ってもらえたから」
タダ? あんないい物が?
「錬金ギルドから贈られる鐘って……、え? やばくない? それ」
え? なになに? 錬金ギルドから鐘を贈られるのって、何か特別な事情でもあったりするのかな?
「やばいって、何かあるのか? ギルド間の厄介事を持ち込むのはやめてくれよ? 面倒そうだからな」
ギルド間の厄介事とか、なにそれこわい。ギルド同士って仲が悪かったりするのかな……。
「あ、いえいえ、その逆ですよ。……一応ですけど。ええと、錬金ギルドからはドアベルに使われる鐘、冒険者ギルドからは雑務依頼の掲示板、調薬ギルドからは魔法薬っていう感じで……。何と言いますか、信頼の証? みたいな物ですよ。各ギルド同士で贈り合ったりしてるらしいんです」
へー。でも冒険者ギルドはドアベルどころか入り口のドアすらないんだけど……。どこか別の、奥の部屋で使われたり飾られたりしてるのかもね。
「そんな内情があったのか、俺もまだまだ知らない事が多いな。まさかそれ、調薬ギルド宛ての鐘なんじゃないだろうな……」
「素材が同じなだけだよ。まあ……、お姫様に贈る物だからそれなりの物をね、とは言ってあったけど」
「それならいいが……、あまりシラユキの名を出すんじゃないぞ」
「ん……、そうだね……、? シラユキちゃん?」
「あ、寝ちまったか。キャロル、バレンシアを呼んできてくれ、多分母さんの所にいると思う」
「はい、分かりました。ロレーナ、少しの間シラユキ様をお願い。それじゃ、急いで行ってきますね」
キャロルさんが遠ざかり、部屋から出て行く気配を感じる。
まだ起きてるけど、瞼が開かなーい。まだギルドのお話とか、あの鐘についても色々聞きたかったのに……。
まあ、しょうがない、眠気に勝てる訳も無い。お昼寝から起きたら聞いてみよう。……覚えてたらね。
間違えて『裏話』の方へ投稿していました……。恥ずかしい。