その19
「あんだけ来たがってた割には、なんか、大人しいよな?」
怖い怖い人多い怖い獣人の人体大きいよ怖いよ。
あ、見られてる? 私今見られてる? 視線集めちゃってる?
「あわわわわわわ」
「ど、どうした? オイ隠れるなよ」
兄様の腰にしがみついて後ろに隠れる。
「姫様」
「あわわわわ、わ? な、何?」
「もちろん後ろにも、人はいますよ?」
!?
後ろを見る。い、いるね、いっぱい歩いてるね……
「わわわわわわわわわわ……」
「何というテンパり具合」
「姫様可愛いです。まさか到着すぐ、このような可愛らしいお姿を拝見できるとは」
「とりあえず、飯、行くか。バレンシアはどこかオススメはあるか?」
「はい、お任せください。ケーキ、パイ、紅茶を出す、なかなかのお店が」
「け、ケーキか。いや、シラユキのためだ、そこにするか。案内してくれ」
「はい。では……」
わ……、に、人間だよねみんな。じゅ、十年ぶりに見た……。現世だと初めてだね。
のほほん美形種族、エルフを見慣れていたせいか、他の種族の人が怖く見えてしまう。なんかみんな、さっさか歩いてるし。
何でそんなに急いでるの? それともそれが普通なの? もっとのんびり歩いてよー……
獣人の人は凄いね、体大きいね。ごっつい男の人にネコミミっぽいの生えてるよ。怖いって! あ、でも女性はしなやかそうな?
ネコミミっぽい、イヌミミっぽい人が多目かな? 獣人族でも種によって特徴が変わるんだっけ? あれ? 尻尾は出てないね? 無いのかな?
な、何かチラチラ見られてない? 私。え? 変かなこの格好……
そ、それとも、か、可愛い? え? 狙われちゃう? 誘拐されちゃう!?
! 目が合った! わわわわ!
兄様を挟んで反対側に逃げ、抱き付く。
!? こ、こっちでも!?
反対側に逃げたのに、こちらでも別の人と目が会ってしまった。また兄様を挟み、反対側へ。
「ちょっ、シラユキ! 回るなよ、歩きにくい……」
だだだだだだだって! み、見られて! ううう……、もう駄目だ、帰りたい!!!
「落ち着いたかー?」
「う、うん。何とか……」
いつの間にかお店に入り、席に付いていた。飲み物、オレンジジュースを一口、やっと一息つけたよ。
「ちょっと人、が多くて、びっくりしちゃったみたい」
「姫様、こちらもどうぞ。この店のアップルパイは中々のものですよ」
アップルパイを一口大に切り分け、私の前に出してくるシアさん。わー、おいしそうだねこれは。うん?
「シアさんなんで座ってないの? ここお店だよ、ね?」
ちょっと自信がなかったので、兄様にも問いかけるようにして聞く。
「ああ、合ってるから安心しろ」
だよね。
「俺もそうしろって言ったんだけどな、バレンシアだし? 諦めた」
シアさんだし、で納得か。しかしこれは……
「メイドですから」
「目立つよ! 既に目立ってるよ!!」
一組だけ専用の給仕とか悪目立ちしすぎだってば。
「ああ、何か生暖かい視線を感じるよ……」
なんか視線が……。おいおいどこの貴族様だよ、っていう視線が! ごめんなさい王族なんです。
「姫様申し訳ありません。気が利かなく」
あ、やっと座ってくれるんだ。
「周りの視線が気になるのでしたら、お任せください。この程度の人数、二分と経たずに全て抉り出してご覧に」
「怖いよシアさん、こーわーいー!!」
「ふふふ、ご安心を。ただの本音、……いえ、冗談です」
すっと目を逸らすシアさん。
本気だこの人ーーー!!!
「さて、程よく緊張は解けたようですね。この後のご予定は?」
出されたパイを食べ切り。一休憩。
「うん。なんかさ、違う意味で緊張しちゃったんだけどね? でも、肩の力は抜けたかな。ありがとう、シアさん。ルー兄様もね」
さすがシアさん一流メイド。緊張していた私をあっさりと素の状態に戻すとは……。だよね? 本気でやってたわけじゃないよね?
「シラユキは、何か見たいものでもあるのか? って言っても何があるのかなんて全く知らないか」
「あのね?」
「駄目だ」
「うー……」
まだ何も言ってないのに……
「冒険者ギルドですか……。姫様が、何故そこまで冒険者に惹かれるのか、正直全く分からないのですが。何か理由がおありなのですか?」
「え? うん。冒険者ってさカッコよさそうじゃない? シアさんも元冒険者だったんでしょ?」
「なるほど、カッコよさそうね。ふむ……」
「小さな子供特有の憧れ、のような物でしょうか?」
ハイそこ小さな子供言わない。でも。
「あ、そんな感じかも」
身一つで生計立てて生きてるんだよね? 何か依頼受けたりとかさ。冒険だよ冒険、遺跡の調査とかもあるんじゃない? 新しい土地、生き物の発見とかさ。
「ん。外、見てみな。あれ、あそこのあいつ。黒髪の、黒っぽい服着てるやつ」
「うん? どこどこ? あ、あの人?」
その人は、人間種族、かな。年は二十くらい? 黒い短い髪、上下黒目の服、胸と手の甲辺りに、防具だろうか? 何か固そうな素材の防具を着けているのが見える。腰には剣、剣だよねあれ。腰から下げるように一本の剣の鞘を下げている。背中は見えない、こっちもまた黒っぽい、長めの外套をかけている。
ああ、うん、いかにもな人だね。冒険者っていう感じ。ちょっと全体的に黒っぽいが。絵本で見た冒険者って鎧を着込んでたりしてたんだけど、実際は随分と軽装なんだね。
少し見物していたら、その人は歩いてどこかへ行ってしまった。
よく見ると似たような感じの人も何人か見かける。でもそこまで数は多くないね。
「今の人が、何?」
兄様の言いたいことが分からない。さっきの人を見て何を感じろというんだろう。
「バレンシア、今の男、どれくらいだ、ランク」
ランク? 冒険者ランクってやつ? ファンタジーだわ、ゲームっぽいわ。
「E、でしょうか? 恐らく上がってもD止まりでしょう」
「そんなもんだよな。さてシラユキ」
「は、はい!」
空気重っ! お説教っぽい? 何で?
「おっと、構えるな、怒ってるわけじゃない。さっきのあいつ、な。楽しそうに見えたか? カッコよく見えたか?」
カッコよく、は無いかも? 何か黒いし。楽しそうかなんて分かんないよ、ただ歩いてただけだよ?
「お前、冒険者は楽しい、とか思ってるんじゃないか? いや、ちゃんと楽しい事ばかりじゃない、と分かってるだろうな」
「うん。楽しいばかり、じゃないよね」
冒険者というのは、常に死が付きまとう職業。それが常識だよね。命を懸けてロマンを求める感じなのだろうか。
「逆だ」
「え?」
「考え方が逆なんだよシラユキは。あいつらは、冒険がしたくて冒険者をしているわけじゃない。仕事だからやってるんだ。まあ、中にはそんな奇特な奴も、それなりにはいるがな」
お仕事? 冒険者としての依頼の事?
それじゃ、何で冒険者に? 他のお仕事もあるんじゃ?
「あいつらにはそれしか道が無いんだよ。いや、今のは言い過ぎか。選べる道が、極端に少なかった、っていう事だな」
「ルーディン様、それくらいで……。姫様が知るには、理解するには、まだ、早すぎます」
「ん。そうだな……」
え、全然分かんないよ……。道がそれしかなかった? 冒険者になるしかなかった? でも、なりたくはなかった?
「俺達は王族だ。周りの皆、国民は家族だ。土地も家もある。だが、あいつらにはそれが無い。今はそれだけ、……? しまった……!」
「ルーディン様っ!! 姫様! 考えないで! 姫様!!」
「あ、ごめんなさい、二人とも。分かっちゃった……」
「姫様!! 忘れてください! 考えないで下さい!!!」
「ああ! シラユキごめん! 言い過ぎた! 話し過ぎた!! 何でこんな簡単に全部理解しちゃうんだよコイツは! 何で話しちまうんだよ俺は!!」
「う、うん……。大丈夫だよ、ちょっと私、子供過ぎたなー、と思ってるだけだから」
「お前まだ十歳だろう!!!」
「ルーディン様!!」
ああ、十歳でこれ理解するのは無いわ。兄様が怒鳴ってるのも、自分自身に対して怒ってるのが分かっちゃうのも無いわ。私、こんなに頭良かったっけ? 中身十六と実年齢十の、二十六か。
人間の考え方、だね、これは。私はエルフ、ハイエルフ。百歳でやっと成人するエルフなのよ。それでもまだ大人扱いされない、のほほん種族なのよ。もっと、のんびり、知っていけば良かった……
あの人たちは、生きていくために、冒険者をやっているんだ。
住む家も無い、頼る家族もいない。自分ひとりで生きていくには冒険者になるしかなかったのか……
「ごめんなさい、私、馬鹿だね。みんなちゃんと止めてくれてたのにさ」
「あー、シラユキは悪くは、無い、だろう? ちょっと頭が良すぎるだけさ。ユーネと同じ、他の皆の子供の頃と同じように扱ってた俺達が悪いんだ」
「うん。ありがとうルー兄様。シアさんもありがとう」
「いえ、私は何も……、できませんでした」
「ふふ、今日の事じゃないよ。いつも、ありがとう」
「姫様……」
「お前って、あれだよな。何か、母さんにすっげー似てるよな」
「そう? それは嬉しいな」
「それじゃ、この後、どうするよ?」
「姫様のお召し物を、買占めに参りますか」
「買い占めちゃうんだ……」
「ええ」
「ははっ、そうだな。どうせなら店ごとでも買ってやるぞ?」
「ふふふ、そうだね。それもいいかもね。でもね?」
「ん? 他に行きたい所、あるのか?」
「今日は、もう、帰りたい……。みんなに会いたい……」
我慢の限界。ごめんなさい、ちょっと、子供みたいに大泣きするね。ごめんね、二人とも。子供だからいいよね……
初めての町体験はアップルパイを食べて終了。どうしてこうなった。
今回の最後は、ちょっとシラユキの心情が分かりにくいかもですね、すみません。
でも私にも説明できない、できにくい!