表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/338

その189

 特に何をするでもなく、談話室でメイドさんズ三人と紅茶を飲みながらのお喋りをしていた時。ふ、と今思い出したかの様に、ある一つの話題がメアさんから上った。


「あ、そうだ。ねね、姫、シア。結局アレどうなったの? 優勝賞品」


 ゆ、優勝賞品? 何の事だろう……、何か大きな大会でもあったのかな? メイドさん大会? なにそれ見てみたい。 まあ、冗談は置いておいて。 


「優勝賞品って?」


「あはは、うん、やっぱり忘れちゃってたかー……。シアとフランは覚えてるよね?」


 問い返してしまった私に苦笑し、フランさんにも確認を取るメアさん。


「ええ、それは勿論。二人とも忘れているものとばかり思っていましたよ」


「あの後すぐ色々あったもんねー。って、忘れる訳無いって! シラユキは忘れちゃってるみたいだけどね。ふふ、思い出して、ほらほら。オウドンオウドン」


 私の頬をグニグニとしながら怪しい呪文を唱え出すフランさん。


 うにゅにゅ……、オウドン? ……ああ、うどん勝負の賞品かー。完全に忘れちゃってましたごめんなさい。

 フランさんの言う通り、あの勝負の後色々あったからね、しょうがないよね?


「うん、忘れちゃってた、ごめんね? えっと……、私に何かお願いできる権、だっけ?」


「そうそうそれそれ。あれからなーんにも音沙汰無しだからさ、ちょっと気になっちゃったと言うか、ね? ふふふ」


 優勝賞品は、私に何かお願いができる権利。本当は私のせいなのだけど、クレアさんが私から答えを聞いてしまっていたという事で、結局勝敗もうやむやのまま終わっちゃったんだったよね。


 そのクレアさんにするお詫びとお礼を考えたり、お礼(?)に決まったお世話係の一日交代の準備とか、実際のその一日とか……。まあ、うん、色々とあったおかげですっかりと頭から抜けてしまっていたらしい。私はすぐにこういう大切、かはどうか分からないけど、こういう肝心な事を忘れてしまうね。

 とりあえず忘れてしまっていた事はしょうがない、折角思い出させてくれた事だし、その事について話し合ってみよう。


 いい暇潰しが出来たとか、余計な事を思い出させてー、とか思ってないよ? ホントダヨ?






 まずは優勝者を決めないといけないね。お願いされる内容にやや不安は残るが、そう無茶なお願いもされないだろう、多分。

 参加者五人の内クレアさんとソフィーさんは失格。となると、メアさんのゼリー麺か、フランさんのつけ麺(?)か、シアさんのストロベリーパスタのどれかから選ぶ事になる。

 普通に考えると、麺の太さやつけダレに浸け込む感じからフランさんの方がうどんに近い気はする。でも、よりうどんに近い方を選ぶのではなく、選考基準は私の書いた絵に近い方なんだよね。私だけじゃなくて、うどんを知らないみんなにも納得してもらわないといけないからそうなってしまう。


 うどんに近いって考えるだけならフランさんの勝ちなんだけどなー。見た目だとメアさんの方がずっと近い。ぐぬぬ……、これは難しい。あ、シアさんは論外、選考外だね、うん。


「まあ、私は勝負その物が楽しかったから、そこまで結果に拘ってる訳じゃないんだけどね」


 フランさんとメアさん、どっちの料理を勝ちとするか考えていたら、メアさんからこんなセリフが出て来てしまった。


 お、おお? 人が真剣に悩んでるところなのに……。

 しかし、意外だね。メアさんは私にお願いしたい事は特に無いのかな? それともディープキス権じゃないからどうでもいい? そうでない事を祈るよ……。


「私も勝敗はあんまり気にしてないよ。楽しかったと言えば……、あの時のレンの掛け声……、くっ、ふふふっ」


「ええい、忘れなさい! お願いですから忘れてください! 思い返すだけでも恥ずかしいというのに……」


 シアさんの、じゃーん! という掛け声を思い出して軽く笑い出してしまったフランさんと、その思い出し笑いに恥ずかしがって少し赤くなってしまうシアさん。


 ふふふ、私も思い出しちゃった。ついニヤけちゃう! にやにや。


「ひ、姫様まで……、ひどいです、しくしく」


 そしてわざとらしく嘘泣きを始めるシアさん。


「またしくしく言ってる……、シアさんそれ好きだね。……うーん? 二人とも賞品は別に要らないの? あ、シアさんも?」


「うん? 賞品って言ったって……、ねえ?」


 フランさんは私の問い掛けに思い出し笑いから戻り、でも今度は私のその言葉がおかしかったのか、苦笑気味な表情でシアさんへと顔を向ける。


「ああ、いえいえ、特に好きという訳では……、と、失礼しました。ええ、まあ、特に必要はありませんよね? メアもそうでしょう」


「それは……、まあね。元々あって無い様な物だったし……。ぶっちゃけると意味無いよねその賞品」


「へ? あれ? 三人とも要らないんだ? ……意味無いの? どういう事?」


 フランさんを初めとして、シアさんもメアさんも賞品は要らない? 特に必要ない、ぶっちゃけると意味が無い?

 あ、なにこれ疑問だらけ。頭がちょっと混乱してきちゃったよ。


「か、かわっ、可愛い! 連続首かしげ! シラユキ可愛すぎ! あ、膝に乗せちゃおうかな。……よし、と。うーん、シラユキー!」


「わう! くすぐったーい! くるしーい! ふふ、ふふふ」


 フランさんにひょいと持ち上げられて一緒に椅子に座り、落ち着いたと思ったら、後ろから全力で抱き締め頬擦り攻撃を受けてしまった!


 もうちょっと考えさせてよー、もう。でも幸せ! ふふふ。


「ふふ、姫かーわいい。フラン、次は私ね。えーっとね、意味無いって言うのは――」


「姫様? お幸せそうにしているところすみません。私たちが姫様にお願いがあります、と申し出た場合、姫様はどうされますか?」


「ひゃあ! フランさん耳舐めないで! って、う? お願い?」


 不意打ちとばかりに私の耳を舐めてくるフランさん。それでもシアさんの言葉を聞き逃さなかった私。褒めてもいいのよ?


 まったくもう、フランさんは油断するとすぐこれだよ!

 ええと、シアさんたちが私にお願い? そんなの答えは決まってるよ。それより、今メアさんが説明しようとしてたんじゃ……? まあいいか、説明と言えばシアさんだし、メアさんも気にしてないみたいだからね、うんうん。


「私にできる範囲の事なら何でも言ってもいいよ? ……あ、確かに意味無いやこれ……」


「でしょ? 姫に無茶なお願いを聞いてもらっちゃおう権ならともかく、普通のお願いなら何だって聞いてくれちゃいそうだからね。だからシアだってあんな面白い料理にしたんじゃない?」


 なーるほどー。言われてみれば、だね。

 私に何かお願いを聞いてもらう権利を貰ったとしても、既にその権利は私の家族と友達ならみんな持っているからね。全く以て完全に意味の無い賞品だったね……。


 という事は、だ。メアさんとフランさんは純粋に勝負の結果がどうなったのか知りたいのかな? やっぱりどっちが勝ちか考えないといけないじゃん!




「勝負の結果も賞品もどうだっていいの。私が言いたいのはね……、何で失格したクレアがいい目を見てるかっていう事! この前のアレってさ、クレアに何かお願いは無いか? って姫から聞きに行ったんでしょ? それはなんか……、ズルくない?」


 メアさんは目を細め流し目気味に、口元をにやりとさせながらそう言ってくる。


 しまった! こう来たか……!

 あれはいい目を見させたと言うか、お礼とお詫びなんだけど……、言えない! 別に言ってもいい気はするけど何となく秘密のままにしておきたい! 私内緒話とか大好きだし。


「確かに失格したクレアと参加できなかったカイナがお願いを聞いてもらって幸せ気分で、普通に真面目に参加してた私たち三人がエネフェア様の補佐なんて慣れない疲れるお仕事に行かされたのは……、ああ、今更だけど納得できないわ。まあ、レンが真面目に参加してたかどうかは別として……。うりうりシラユキ、ズルイわよー? ふふふふふ」


 フランさんにも後ろから、少し強めに頬をグニグニとされながら追求されてしまった。この位置からだと表情までは見えないが、声色からするときっとニヤニヤとしている事だろうと思う。


「うー、にゅにゅにゅ、にゅん。ふあんはんやーへてー。にゅにゅにゅ……、でほひあわへ、ふふふ」


 責められているのに何故か幸せになってきてしまった……。やめて! でもやめないで! っていう感じかな? ふふふ。


「あー! フラン、そろそろ代わってよ。グニられてるのにニコニコとしちゃって可愛い……、ん? どうしたのシア? さっきから黙って」


 ひゃー! 伸ばさないで! ちょっと痛いよー……、うん? シアさんがどうかしたのかな?


 メアさんの声にシアさんの方へ目を向けると、丁度目が合ったシアさんは私に向けてウインクを一つ、話し始める。


「いいえ? お幸せそうにフランに可愛がられる姫様を拝見させて頂いて、私も幸せな気分に浸っていただけです。……ふむ、フラン、それとメア? 何故姫様がクレアの願いだけを聞きに行かれたのか分かりませんか?」


 なに今のウインク……? 可愛かったんですけど!

 シアさんはバラしちゃうつもりじゃないよね? さっきのウインクが何の合図か気になるから黙って聞くけど……。


「クレアにだけ? え? 何か理由があったんだ……。んー? 何? シラユキ」


 な、なんだろうね?


「フランも分かんないかー。ねえシア、もしかして何か、あ! あれじゃない!?」


 どれ!?

 くう! いつバレるのかと、ヒヤヒヤハラハラワクワクドキドキしてしまう。……ワクワクはしないな。


「クレアが失格しちゃってかわいそうだから、かな? ね、そうでしょ姫」


「あー、それかもね。優しいこの子のことだから、自分が答え教えちゃったせいでクレアさんが失格しちゃったー、とか思ってたんじゃないの? どう? レン」


 な、なんという好意的な解釈。ふふふ、ふふふのふ。いい流れじゃないか……。

 シアさん黙ってると思ったらこんなにいい言い訳を考えてくれてたんだね。ありがとうシアさん!! シアさんにも何かお礼を考えなきゃね。


「そちらでもよかったですね……、むう。ああ、いえ、ソフィーさんも理由は違えど失格でしたでしょう? 姫様はクレアの心遣いに感謝をお返しになられただけですよ。クレアの行った不正が何のため、誰のためだったかを思い出してみてください。自分を私たちの魔の手から救おうと敢えて不正に手を汚す勇気と、そして、厳罰に処される事をも厭わない覚悟。姫様はその勇気ある行動に心打たれ、本来ならば罰を与えられてもおかしくはないところをその覚悟に免じて寛大にもお許しになられ、それどころか逆に感謝の気持ちを持って返したのであります。さすがは姫様ですね、私、感動してしまいました……」


 これまたわざとらしく、目元をハンカチで拭う仕草で話を締めるシアさん。


 そ、そんな考え方もあるんだ……。なにその人すごい……、私の事だよ!!



「はー……、なーるほどねえ、シラユキらしいと言えばシラユキらしいかな。へー、ふーん……」


「うーん……? 確かに姫らしい考えって言えば姫らしい、よね? でもねえ……」


「なんですか二人ともその反応は……。折角私が姫様の素晴らしくもお優しい考えを説明してあげたというのに」


「いや、まあ、うん。いつもならどうせ大袈裟に言ってるだけだろうって思うんだけどね……。ね、メア、レン? 今シラユキどんな表情してる?」


「可愛い顔でポカーンとしてるよ。多分ね、そんな考え方もあるんだー、とか思ってるんじゃないかな? この表情を見なければ信用してたかもしれないねー」


「心を読まれた!? メアさんまでそんな能力を……、はっ!?」


「ひ、姫様……」


「あはは、分かりやすいね。ま、いいよいいよ、理由はさ。代わりと言ってはなんだけど……、姫には私のお願いも何か聞いてもらっちゃおっかなー?」


「あ、いいわねそれ。ふふふ、私もいい? どうせならちょっとだけ無理言っちゃおうかな、ふふふ……」


「ああ、では私もお願いしたいです。本音を言えば、クレアのみ願いを叶えてもらった事に対して私も思うところが全く無かった訳ではありませんからね」


「あれ? 結局こうなるの!?」




 なんだかよく分からないうちに三人のお願いを聞く事になってしまった。何故だ!

 別にいいんだけどね。普段私は我侭ばっかり言ってるし、たまにはちゃんとお返ししないとねー。後は変なお願いをされないように祈るだけだ。







お久しぶりです! あれ? そこまでお久しぶりっていう気はしないな……。

またちょこちょこと、こんな風に少し間が空く様になるかもしれませんね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ