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187/338

その187

 また私の迂闊な一言でみんなをうろたえさせてしまったが、クレアさんの言う様に何とかこの場は忘れてもらい、落ち着いてもらった。

 カイナさんは聞きたそうにしていたけど、私としてもどう説明したらいいのか思い付かないのでスルーしておく。


 その後は何事もなく、カイナさんがまた暴走する事もなく雑談で過ごし、昼食の時間に。

 お昼はみんなで食べるのかとも思ったけど、どうやらそうでもないらしい。私お付の三人は母様のお仕事の補佐という慣れないお仕事のせいか時間が合わなかったみたいだ。

 そこはそんなに気にせずに、競い合うようなカイナさんとクレアさんからお世話を受けて、また少し騒がしいお昼ご飯も食べ終わる。



 暫く休憩した後、特に疲れも眠気もないが、予定通りお昼寝をする事にした。二人ともまだかまだかとウズウズしていたからね……。

 私を真ん中に三人川の字でベッドに入り、左右から頬を突付かれたりくすぐられたりキスされたり……、お返しにと抱きついてみたり。

 片方に抱きつくと、私にも! とせがまれて、それに答えて体の向きを変え暫くすると、また私にも! と忙しいお昼寝になってしまった。

 最終的には疲れて眠くなってしまった私を仰向けに寝かせ、両側から抱き締められる様に二人に挟まれて寝る事に落ち着いた。


 右からも左からも、ふにふにふかふかとした柔らかい物体に挟まれて眠る。なんという幸せなお昼寝……。この幸せな時間をもっと長く味わいたかったが……、睡魔には勝てない! いつの間にか眠ってしまっていたみたいだね。



 あまりお昼寝に時間を取りすぎてもいけないので、ほんのニ、三時間で起こしてもらう。

 まだ半分寝ている頭で寝惚け眼を擦り、二人の顔を見ると……。

 カイナさんは幸せ満開な眩しい笑顔。クレアさんは顔が少し赤く、照れているみたいだった。パタパタと手で自分の顔を扇いでいる。


 これは……、うん、アレか……。ま、まあ、考えないようにしよう。……うう、犠牲者がまた二人……。






「あ、シラユキ様、おはようございま、す? でいいんですよね?」


 しっかりと目を覚ました後、談話室へと戻った私をキャロルさんが迎えてくれた。

 キャロルさんが着いていたテーブルの上には一冊の本。お昼寝の間読書をして時間を潰していたみたいだね。


「うん。よく分かんないけど起きたらおはようでいいと思うよ? キャロルさんおはよー」


 そうだよねー、朝の挨拶はおはようございます、だけど、お昼寝から目覚めた場合の挨拶はどうなるんだろう? 自分で言った事だけど本当におはようでいいんだろうか……? うん、どうでもいいね!


「まったく、二人とも幸せそうな顔しちゃって。聞くまでも無いと思うけど、どうだった?」


 未だに幸せ全開! なカイナさんと、まだまだ照れてるクレアさんを見てか、ニヤニヤとしながら聞いてくるキャロルさん。


「言葉にできませんよ……。ええと、夢のような? とにかく幸せで死んでしまいそうな……」


「分かっているなら聞くな恥ずかしい。ま、まあ、私もカイナと同意見だと言っておこう」


 照れてる照れてる、ふふふ。

 二人とも幸せそうで何よりだね。私と一緒にお昼寝するくらいでここまで喜んでもらえるのは少し複雑だけど……。



 クレアさんに手を引かれテーブルに着き、カイナさんが淹れてくれた紅茶を一口飲んで一息つくと共に、僅かに残った眠気を飛ばす。


「ふう……。これからどうしよっか? お散歩にでも行く? 私はこのままお話してるだけでも充分楽しいからいいんだけど」


 自分で言っておきながらなんという出不精なセリフ……。べ、別に外に出るのが面倒っていう訳じゃないんだからね!


「私はシラユキ様にお任せします。二人は何かある?」


「私も姫様のされたいようにと……。午前中と同じくここでお話を続けるのもいいですね。……あ、膝に乗せさせて頂きますね」


 私の持っていたティーカップをテーブルに戻し、私を持ち上げ椅子に座るカイナさん。


「む……。まあ、また交代でいいか。お話といっても特に話題がある訳でも無いのですが……。バレンシアたちとはいつもどんな事を話されているのですか?」


 どうやらまた雑談をする事に決定したようだ。寝て起きてすぐどこかに出かけるのもなんだしね。

 うーん? いつもシアさんたちと何を? そう言われてみると……、何だろう……?


「その日その日で適当にー、かな。今日のご飯の話とか、出かけた先でこんな事があったよー、とかね」


「後はシラユキ様を可愛がったりからかったりですね。三人ともちょっとシラユキ様をからかいすぎだとは思うんだけど……、からかわれてるシラユキ様って可愛すぎちゃって中々止めれないのよこれが。まあ、シア姉様の行動は止めようと思ってもそう簡単に止められるモンじゃないけどね」


 シアさんは私をからかうのを生きがいにしてるからしょうがないよ……。抵抗できる気は全くしないから諦めるしかない。


「バレンシアと言えば……、キャロル、常々思うんだがアイツはどうやってあそこまでの技を身に付けたんだ? いくら元Sランクの冒険者とはいえ、二人掛かりで掠らせることすらできんとなるとな……。誰かに師事していたとか、そういう話を聞いた事は無いのか?」


 わ、話題が無いからってそんな物騒そうな話は……。でもちょっと気になる、シアさんにも師匠みたいな人はいたのかな?


「シア姉様の師匠? ああ、うん……、話しちゃっていいのかなこれ。まあ、名前は伏せておけばいいか。ええと、シア姉様から話は何度か聞いた事はあるんだけど、少しの間だけ師事していたとかなんとか」


「少しの間? 要領を得ん話だな。まあ、あまり人の過去、特にバレンシアのは詮索するものではないか。スマンな、忘れてくれ」


 あれもう終わり? むう、シアさんの過去がまたひとつ聞けると思ったのに。


「それだけ先生として有能な方だったんでしょうか? 気になりますね。どんな方だったんでしょう……」


「うん、気になるねー。シアさんの先生かー……」


 その人もメイドさんだったり? ふふ、会えるなら会ってみたいね。きっとシアさんみたいに優しくてカッコいい素敵なメイドさんなんだろうなー……。


「いやー、有能って言うか、すぐに教わる事が無くなったってさ。シア姉様は才能の塊みたいな人だから……。その人もまだ現役の、っと、いけないいけない、また話しすぎちゃうところだった」


「ま、全く参考にならん奴だなアイツは……。これ以上は機会があればそれとなく本人に探りを入れてみるとするか」


 まだ現役の……、メイドさん? 冗談は置いておいて、普通に考えると冒険者の先生だよね。もしかしたらSランクの人なのかもしれない。

 Sランクの人はショコラさんを除くと後三人、エルフ二人と獣人の人だったね。エルフ二人の内のどちらか、なのかな? シアさんの先生となると最低でもそれくらいの人としか思えない。

 それにしてもシアさんは何者? またシアさんが凄い人だっていう事が判明しただけだったよ……。




「失礼します」


 部屋の入り口から、ドアをノックのする音と共に一言声が聞こえた。

 そちらに顔を向けると、噂をすればなんとやらの如く、シアさんが綺麗な姿勢で頭を下げている。いつ見ても素晴らしいお辞儀だと感心はするがどこもおかしくはないね。


「あ、シアさん、どうしたの? 母様が呼んでる?」


 それともまたニュータイプ的な勘で自分の事を噂されてると感づいた? シアさんなら普通にありえちゃうのが怖い。

 急な話題の主の登場に黙り込んでしまったカイナさんクレアさんと、やっべー、殺されるー、という顔でビクついているキャロルさんの代わりに私が尋ねる。


「いえいえそういう訳ではなく……、? 三人ともどうしました? そんな顔をして。まさか私に聞かれては都合の悪い事でも姫様に吹き込んでいたのではないでしょうね……」


 やっぱりニュータイプだこの人!!


 そう言いながらシアさんは、ツカツカと私の元へ一直線に歩いて近付いてくる。

 クレアさんとキャロルさんはじりじりと少し後ろへ下がり退避。しかしカイナさんは私の椅子になっているので逃げ出せない。残念だが諦めてもらおう。


 シアさんはいつもの定位置、私の左側に立つと……。


「まあ、今はいいでしょう。姫様、少し失礼をさせて頂きますね」


「わ、っと、何?」


 カイナさんの膝の上から私を、向かい合う形で抱き上げ、ぎゅっと抱き締めてきた。

 なにがなんだか分からないけど、私もシアさんの首に手を回すようにして抱き返す。


 シアさんはそのまま無言でスリスリと頬擦りをしてきたり、私の首元に顔を埋めて深呼吸したりと、くすぐったい行動をし続けてきている。

 私も何となく嬉しくなって頬擦りでお返しをする。シアさんがこんな風に甘え(?)てくるとは珍しい事もあったものだね。



「な、何なんだ急に……。しかし、何と言うか、似合いの二人だな」


「え、ええ、バレンシアはやっぱり特別よね。姫様も素直に甘えられて……、可愛らしい……」


「くっあー! シラユキ様いいなあ……、シア姉様もいいなあ……」



 数分後、落ち着いたのか椅子へと戻された。体を離す時に頬に軽くキスもされる。

 カイナさんは私が抱き上げられた隙に避難していたみたいだね。


「ふう……。ありがとうございました、姫様。それではまたエネフェア様の補佐へと戻ろうと思います」


 シアさんは満足気な、晴れやかな笑顔でそう言うと、避難している三人には目もくれずまたツカツカと入り口の方へ歩き、くるりとこちらへ体の向きを変えると、


「失礼しました」


 と丁寧なお辞儀を一つ、部屋から出て行ってしまった。




「結局バレンシアは何をしに来たんだ? まさか姫様を抱き上げるためだけにか?」


 三人がまた私の近くへと戻ってくる。


「あー、どうだろ? シラユキ様が心配になったんじゃない? 私たちに泣かされていないかー、とかさ」


「まったく心外だな。私たちが姫様に何か無体を働くとでも思っているのかアイツは」


「うーん? そんなのじゃないと思うけどなー」


「ええ、そうですよね。恐らくは姫様に癒されに来たのでは、と思いますよ。いくらバレンシアでもエネフェア様の前では緊張が強いと思いますから」


 ああ、なるほどね……。緊張で精神的に疲れちゃったから私に癒しを求めに来たのか。うんうん、ちょっと変な話だけどシアさんなら、って納得しちゃう。エネルギー補給的な何かだね。……なにそれこわい。


「まあ、いいか。では、おやつの用意を。カイナは紅茶の淹れ直しを、キャロルは姫様のお側にな。それでは暫くお待ちください」


「分かったわ、そっちはお願いね、クレア」


「ん……。ま、それじゃ私たちは適当にお話でもして待っていましょうか」


「うん! 二人ともいってらっしゃーい!」




 忘れてたけど今日のおやつはプリンのはず!

 シアさんの事はすっかりと忘れてプリンへと思いを馳せる私なのでした。







次のお話へと入る筈だったのですが、何となくもう一話入れたくなってしまいました。

メイドさんズと過ごす何でもない日常は、後100話くらい続けたくなってしまう不思議。


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