その185
「紅茶のおかわりは如何です? 姫様。クッキーの追加も……、あ! プリンをお持ちしましょうか! 確かフランが今日のためにと作ってくれていた筈ですから」
「小食の姫様が一度にそんなに食べれる訳は無いだろう……、お腹を痛めでもしてしまわれたらどうするつもりだ。……そうだ、姫様、膝抱きにさせて頂いても構いませんか?」
「確かにシラユキ様って優しいから、無理して食べてお腹壊しちゃいそうだよねー、ってコラ! クレア! 独り占めしようとするな! 私だって今日はシア姉様がいない隙に甘えてもらおうと思ってるのに!!」
いやあ、今日のメイドさんズは女三人寄ればなんとやらの如くに騒がしいね。三人が三人とも私の事を構い倒そうとしてきてるから大変だ。
まあそんな事を言ってはいるが、私的には大歓迎、悪い気は一切しない。むしろ毎日でもいいくらいだけどね、ふふふ。
「姫様のお世話をしてみたい? お世話係を私と代われと? そうですか、そんなに死にたいのですか貴女は」
「何故そうなる!? 何なんだ、何がしたいんだお前は……。希望を聞かれて答えたらこれだ、まったくコイツは……」
クレアさんの、私のお世話を一日してみたい、という言葉を聞いてシアさんがキレかかってしまっている。
こんなにも恐ろしい敵を作りたくないので私は謝ります、ごめんなさい。クレアさんも早く謝るべき、死にたくないならそうすべき。早く謝っテ!!
シアさんとの相談で出た答えは、本人に希望を聞けばいいんじゃね? という至極単純な、簡単なものだった。
早速次の日に、他の人に聞かれてはいけないのでクレアさん一人を連れ出し、こうして何かお願いしたい事は無いかと希望を聞いてみたのだけれど……。
「私にできる範囲だけなんだけど、何でもいいんだよ? お礼とお詫びを兼ねた何か、なんだから、私のお世話だと完全に逆じゃないかな」
クレアさんに対してのお礼の筈なのに私を喜ばせちゃってどうするんだか……。そんなのお礼とか関係なくいつでも言ってくれればいいのに。
まあ、私にできる範囲なんて本当に高が知れてる、自分に何ができるかなんて全く把握してないんだけどね。私にできる事なんて……、父様と母様にメイドさんからはできない様なお願いをするとか、後は能力を使った魔法で何か? おお、美肌の魔法は喜ばれるかもしれない、クレアさんも結構怪我の痕が多いんだよね。
「いえ、私は姫様のお世話は、お世話と呼べる程の何かをさせて頂いた事自体あまり記憶にありませんから。一度、一日中姫様のお側に立たせて頂きたいのです。バレンシアたち三人が羨ましく……、ああ、最近はキャロルもでした」
「姫様のお世話とは何にも勝る幸福なのですよ? 恐らくこの国、いえ、世界中の女性にとって一番の憧れの職なのではないでしょうか」
「無いよ!! 真顔で言わないで真顔で!」
さも当然ですと言わんばかりの表情で力説するシアさん。
まったくシアさんはいつもいつも私を持ち上げすぎるんだから……。でも他のメイドさんズも、森の家族も、町のお友達も、みんな私を構おうとしてくるよね。そんなに私が可愛いのか! 久しぶりに会った孫娘か! 庇護欲溢れ出る小動物的な何かか私は!! ……ちょっと納得しかけた!!
ふう、落ち着こう。クレアさんのお願いが他に無いならそれでもいいかな。私もクレアさんと一日中一緒とか体験した事はない、興味はあるね。
クレアさんは護衛メイドさんなんだけど、やっぱりメイドさんなんだからお世話とかも問題なくできちゃうんだろうか? 料理が得意で家庭的な、いいお嫁さんになりそうではあるよね。そろそろ例の恋人と結婚しちゃえばいいのになー。
「うーん、本当にそれでいいの? 他に無いなら私はそれでもいいけど……」
「姫様!? お、お許しになると仰るのですか!? そ、そんな……、その日一日、私はどう過ごせばいいのか……」
目を見開くほどに驚いて、がっくりと絶望するシアさん。
「大袈裟な奴だ。あ、申し訳ありません、是非お願い致します。精一杯、死力を尽くし勤め上げてご覧に入れます」
シアさんとは対極に、自信満々の嬉しそうな……無表情でそう答えるクレアさん。握り拳を胸に当て、任せてくださいといった感じだ。
「ひ、姫様……、あの……」
「うん。それじゃ、一日私のお付のメイドさんになって、クレアさん! あ、シアさんはその日はお休みか、クレアさんの代わりに母様の所でお手伝いね。メアさんとフランさんにもお休みをあげちゃおっか」
「はい! ありがとうございます!!」
大きな声でお礼を言うクレアさん。表情がはっきりと笑顔に見える、そんなに嬉しい事なんだろうか……? うーん、嬉しいけど複雑な気持ちだね。
何かを言い掛けたシアさんは無視して、強引に決定。どうせお考え直しくださいーって泣き付いてくるつもりに決まってるからね。
「ああ……、どうしてこんな事に……。姫様風に言うならばどうしてこうなった! ですか。そういえば最近はあまりそのセリフは仰られていませんよね? 寂しく思います。ああ、姫様? フランは食事の用意がありますからそういう訳にも参りませんよ。クレアが姫様のお側から離れられないとなるとやはり……」
「ん? まあ、カイナにでもやらせればいいんじゃないか? あいつなら王族の方々のお食事の用意も問題ないだろう」
「まあ、私でもいいのですが、ね。しかし、一日とはいえエネフェア様の護衛ですか……、今から緊張してしまいますね……」
そんなこんなで、シアさんとクレアさんの二人で案が纏まっていく。当事者の一人である筈の私だが、特に何もできる事も言う事も無いので大人しく日向ぼっこを敢行する。
ちなみに今私たち三人がいる場所は物干し用のバルコニー。日差しがポカポカ暖かく、最高にのどかないい気分です。
「クレアずるいズルイずるいわどうしていつもクレアばかり姫様と一緒に……。散歩に行かれる時だってそうよ私はいつもエネフェア様のお側からは離れられないっていうのにクレアは誘われるとホイホイついて行っちゃうのよしかも手を繋いで……!! 先日のオウドン勝負だってそうだわ私だって姫様に自分の料理を食べて頂きたかったのよ全く自信はなかったんだけどねでもそれでもせめてお手伝いとしてくらいなら参加してもいいと思わない? さっきだって急にクレアさんだけちょっと来てねー、って可愛らしく呼ばれて!! え? それで何? 極めつけは一日姫様のお世話係をさせて頂く事になった? 何よそれ何なのよそれ何でクレアばかりずるいずるいズルイ……」
う、うわあ……
話が纏まり、その旨をを母様に伝えた時のカイナさんの反応がこれだった。
カイナさんも色々と溜まっていたみたいで、これ以上仲間外れっぽくしちゃうと爆発しかねない。クレアさん一人だけで私のお世話は大変だろうし、私もカイナさんとも同じ様に一日一緒にいてみたいのもある。
これでシアさんはその日は母様のお手伝いに決定だね。シアさんなら何も問題は無いと思うよ、うんうん。
「え? 何ですかシア姉様? は? クレアとカイナがシラユキ様のお世話を、ですか? へえ、一体なんでまたそんな、え? 監視ですか? は、はあ、……監視? あー、はい、分かりました。私もその日はシラユキ様のお世話をもっとしていいって事かな? おお、役得。……睨まないでくださいよシア姉様」
そして二人の、主にカイナさんの監視としてキャロルさんは残る事になった。
カイナさんのボケ(?)に関しては、何故かクレアさんは寛容と言うか、ツッコミを入れるのが遅れるんだよね。私がキスされて舌を入れられそうになってても、プロポーズされてもにこやかに見守る感じで……。うん、キャロルさんがいてくれると心強い。べ、別にカイナさんに対して何か不安に思う事がある訳じゃ無いんだけど、ね。転ばぬ先のなんとやらってやつだ。
メアさんフランさんは一日くらいなら、と渋々ながらに了解。二人ともシアさんと同じく母様のお仕事のお手伝いをするらしい。……できるのかな?
もっと渋るのかとも思ってたけど、普通に週に一日はお休みの日があるんだから、さらに一日増えるくらいはそこまで気にならないんだと思う。夜の添い寝当番の順番にも影響は無いみたいだし、それが一番の理由なのかもしれない。
これが今回の、メイドさんズ入れ換えイベントまでの色々の流れだ。回想はここまでにして意識を今に戻そう。
とりあえずまずは、一番にお願いされたクレアさんの膝の上に座らせてもらう。なんとか順番で交代していく事で落ち着いてもらった。
今日このやや特別な日、読書で潰すのは勿体無い。普段私のお付の三人とはできないようなお話ができるかもしれないからね。
「お昼寝は、どうされます? 私も一度姫様との添い寝を体験させて頂きたいんですけど……。夜は、今日はフランが当番でした?」
カイナさんが私の左手を軽く持ち上げ握り、手の甲を撫でながら聞いてくる。くすぐったい。なぜか今日のカイナさんは私と手を繋ぎっぱなしだ。
「どうしようかな? 別に疲れてる訳でもないし……」
「もし宜しければなのですが、私からもお願いします。キャロルとは以前一度だけ共にされたのでしたね、今日は私かカイナのどちらか、或いは両方とでは如何でしょうか」
クレアさんからもお願いをされる。ちなみにクレアさんとも右手同士、指を絡めて恋人繋ぎっぽく繋いでいる。
ふむ、カイナさんとクレアさんとは確かに一回も一緒に寝たことは無いね。二人ともやっぱりアレかな、そんなに私におっぱい吸わせたいのかな……。
まあ、感想とか嬉しそうに話し合わなければどうせ寝てる間の事だし、そこまで嫌っていう訳じゃないんだけどねー。
しかし、クレアさんの膝の上は落ち着くなー、なんというメイドスキルの高さ。
クレアさんもカイナさんも身長170くらいあるからそのおかげかな、私お付きの三人の中で一番背が高いフランさんよりさらに10cm以上は高いんだよね。それでいて二人ともスタイル良く胸も大きめ。まったく、羨まし妬ましすぎるよ。ぱるぱる。
私も少しずつ、本当に少しずつ身長が伸びてるから、その内メイドさんズの膝の上に座れなくなる時もやってくるのか。むう、それは何か、凄く嫌だな……。言葉では言い表せない不安と寂しさが湧き上がってきちゃう。とりあえず胸に頬擦りを開始。
「うん、今日はカイナさんとクレアさんと一緒にお昼寝しようかな。キャロルさんはごめんね? また今度でいい?」
「へ? あ、はい! 今日はクレアとカイナがメインで私はおまけみたいな物ですから気になさらないでくださいね。いやー、いつもと違ってシラユキ様が全然からかわれないから安心して見てられるよ。平和だなあ……」
「うんうん、平和だねー」
今日は一日中からかわれずに済むのか、ちょっと物足りなく思ってしまうのは何故だろう……?
「おお、ついに姫様と添い寝をできる日が……。ありがとうございます姫様」
「ありがとうございます!! 本当に冗談を抜いて夢にまで見ていたんですよ? あああ、嬉しい……。あ、クレア? そろそろ交代してもいいんじゃない?」
「もうか? 折角甘え出して頂いたところなのにな。まあ、仕方ないか。姫様、手は繋いだままでも宜しいでしょうか」
「夢見てたとか……、あ、うん、いいよ? 二人とも私と手繋ぐの好きだよねー」
「シラユキ様モテモテだなあ……。くう、ちょっと羨ましい。私もこんな美人二人に構い倒されてみたい……」
クレアさんが私を抱えたまま立ち上がり、カイナさんへと手渡す。二人とも片手が塞がってるのに器用なものだね。
「し、幸せ……、可愛らしいぃ……。あ、姫様? さっきクレアにしてたみたいに私の胸にも頬擦りをお願いします。……ええと、胸は出した方がいいですか?」
「よくないよくない。そういうのはお風呂かベッドの中でにしときなさいって。多分シラユキ様も生乳、直に触れられる方がお好きだとは思うけど、他に二人もいると気恥ずかしさの方が強いんじゃないかな」
なまちち、素晴らしい表現だ。今日はカイナさんにも全力で甘えるつもりなので断る気はない。早速スリスリとさせて頂こう。
やっぱりキャロルさんがいてくれてよかったね、クレアさんは止めるつもりもツッコミを入れるつもりも全くなさ気だったよ……。
「はああぁ……、か、可愛らしすぎます……。私やっぱり姫様と結婚したい……。あ、キスさせて頂きますね? フランとももうされていますし、舌を入れてもいいですよね」
!? 何その色っぽい表情!?
トロンとした目つきのカイナさんに唇をついばむ様なキスをされてしまった。
こ、こんなキスは初体験!! ちょっとやめ……、はっ!? 両手が塞がってるから抵抗できない!! カイナさんは男の人とお付き合いもした事無いのになんでこんなキスの仕方は知ってるの!?
「だあ! やめやめ!! クレアと違って全然落ち着けない!! カイナって何気に一番危険な奴なんじゃないの? クレアも見てないで止めなって……」
キャロルさんが慌ててカイナさんを引き剥がしてくれた。
しかし剥がされても表情と目つきは変わらずのカイナさん。まだ正気には戻っていないようだ。
「あ、ありがとキャロルさん……。び、ビックリしたー……」
引き剥がすと言っても私はカイナさんの膝の上にいる訳だから、顔と顔を離しただけなんだけど。
私の額を優しく軽く押さえて、でもカイナさんに対してはちょっと乱暴にぐいっと押しのけてたのがキャロルさんらしいと言うか……、ふふふ。
「まあ、いいんじゃないか? 私は姫様のお相手はバレンシアよりカイナ押しだからな。親友にはやはり幸せになってもらいたいものだ」
「ありがとクレア! さ、姫様、続きを……」
「にゃー!! キャロルさんへるぷ!!」
「ちょっ、正気に戻んなさいってコラ!! アンタらはどこまで本気なのよ!!」
またちょっと長くなりすぎたのでここで一旦区切ります。
続きはまた数日後に……
いやあ、某オンラインゲームのクローズベータテストは強敵でしたね……