その182
二話投稿です。
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次はフランさんの番、メアさんと同じ様に二人でカートを押して戻って来た。メアさんの料理を見てなお自信あり気な表情が少し気掛かりだけれど、美味しいのは確実なのでそっち方面に関してはそこまで不安にはならない。見た目がアレだったりはしそうなのだが……。カートには、またもやクロッシュが掛けられた大皿と……、小鍋が三つ。これだけではどんな料理なのか全く予想もできない。
フランさんが小鍋の中身を小さな器によそい、キャロルさんがそれを受け取り私たち三人の前に並べていく。それぞれぱっと見た感じ色々な野菜の入ったシチューのように見える。色は大まかな色として赤と白と黄色、カラフルだ。赤いのだけは何故か私には配られない、見たまま辛いからだろうと思う。
「あ、ちょい待ち。準備がまだだから食べないでねー、って匂い嗅いでるだけか。いい香りでしょ、それ。おっパンとレンと、後キャロルも多分知ってるだろうとは思うけど、シラユキとユーネ様は初めて見るんじゃない?」
あ、また全力で嗅ぎにいってたねショコラさん……、はしたない。まあ、気持ちは分かるよ、私もこの匂いは結構好きな方だからね。
と、落ち着いている様に見えるが、実は内心ビックリしている。まさかこんな物がこちらの世界にあったとは……
「白いのはクリームシチューっぽいわよね。赤いのはちょっと……、まさか、赤コショウの色? ここまで赤くできる物なの? 私にはこれは無理よ……。こっちの黄色いのは何かしら? 黄色と言うか、独特な色合いよねこれ。香りは……、香辛料が混ざった感じ? 悪く無いわね」
「カレーだよねこれ。多分これも辛いよユー姉さ」
「なんで知ってるの!? えー? 今まで出した事無いわよね……。あ、もしかして町でレンと食べたとか? あー、シラユキの驚く顔が見たかったのになー。あ、違う意味で驚かせちゃった? あはは、目、まん丸。ごめんね?」
ビックリしたよ! 急に大声出さないでよもう……
「ああ! これがカレーなのね。お父様からこういう料理があるって随分前に聞いた事はあるわね。リーフサイドでこんな料理出すお店、あったかしら……?」
「そうなのか? カレーはリーフエンドじゃ食べられていないと思ったんだがなあ。この見た目から好んで食べる者も少ないだろうに」
ああ、うん、何が、とは言わないけど、見た目的にアレだよね。カレーを全く知らない人には中々受け入れられないと思うよ。
「いいえ、リーフサイドは勿論その他の、管理圏内全ての町で食べられていないと言っても過言ではないくらいだと思うのですが……」
そーなのかー。へー、カレーってこの国じゃ全然食べられてないんだ? 私は辛いのは苦手だけど甘口のカレーなら食べられるし、好きなんだけどなー。あ、カレー粉なんて無いよね? あれ? そうなるとこれって本格派カレー? 香辛料のみで作ってあるの? そうなると相当辛いんじゃないかな……
すんすん……。うん、鼻にちょっと刺激がくるくらいの香辛料の香り、これは辛そうだね。多分無理。
「さっきのメアの透明な麺といい、このカレーの事といい、シラユキはどこでどうやってそんな知識を付けてきているんだ? カレーは本で見たか誰かに聞いたかとしても、メアの料理を知っている事はどう考えても説明がつかんぞ……」
「だよね。シラユキ様って基本的な事は結構抜けてても、そういう変わった知識は多く修められてると言うか、雑学、とはまた違うか。うーん……?」
うどん勝負や目の前のフランさんの料理はどこへやら、ショコラさんとキャロルさんの興味は完全に私に移ってしまったようだ。二人の訝しげな目線がちくちくと突き刺さってくる。
むう、ちょっと考えなしに喋りすぎちゃったかもしれない……。二人には私の前世の記憶の事はまだ話してないんだよね。キャロルさんはもう完全に家族だから話していいと思うけど、ショコラさんに話すのはシアさんが許してくれそうにないなー……。うーむむむ、どうしたものか……
「なるほど、カレーもですか……。ま、まあ、そんな事はどうでもいいではありませんか。折角の料理が冷めてしまいます、さ、キャロ」
「あ、あー……、はい、すみませんシア姉様。それでは……、じゃーん!! ……やっぱ恥ずかしいってこれ!」
シアさんのちょっとわざとらしい話の切り替えに何かを察したのか、キャロルさんは軽く謝って、また可愛らしくクロッシュを勢いよく取り外し、開ける。中に入っていたのは、大皿に盛られた山盛りのパスタ、らしき物。
何故らしき物なのかと言うと、太さが1cmくらいあるように見えるからだ。うどんは確かに太い麺だけど、これはちょっと太すぎるんじゃないだろうか……。量も全部で1kgくらいありそうに見える。
「む、シラユキに関する事柄をどうでもいいだと? 何を隠しているバレンシ……、何だそれは!?」
「うわ、太い、太いわ……。パスタ、なの? え? あ、これってまさか、シチューじゃなくてパスタソース?」
「食べるの大変そう……。こんなに太いパスタどうやって作ったんだろ? フランさんすごーい!」
「ああ、なるほど、面白いね。フランはオーソドックスに麺だけをアレンジしてきたかー」
ようやく公開されたフランさん作のオウドン? を見て、ショコラさんの意識を私から逸らす事ができたようだ。
ふう、なんとか逃げれたかな、もうちょっと考えてから喋らないといけないね……
しかし、フランさん作の太いパスタ、もの凄く食べでがありそうだ。私は数本で満足しちゃいそうだね、ショコラさんがいてくれてよかったよ。私と姉様とメイドさんズだけじゃ絶対食べきれないってこの量は……
「ふふん。まだもうちょっとだけ、ね。これは食べ方がちょっと違うのよ。パスタにソースをかけるんじゃなくて、ソースにパスタを浸け込んで食べるの。あ、シラユキはクリームのだけにしておいた方がいいかもね、カレーは見せて驚かせようとしただけだから。結構辛いのよそれ、舌にピリピリくる感じかな。シラユキはそういうの苦手でしょ?」
「あ、うん、そうするね」
「え? 何が違うの? ま、まあ、フランの言う事だし、言われた通りやってみようかしら……。私もとりあえずクリームがいいわね」
取り分けられた極太パスタを早速手元のクリームソースに入れる姉様。
うん……?
「それなら私はカレーにするか。しかし、食いでがあっていいなこれは」
ショコラさんはまずはカレーに決めたようだ。二人ともフォークとスプーンを器用に使って難なく食べ始める。
あれ……? これって……
「姫にはちょっと難しいかな? 私の出番はもう終わったし手伝ってあげよっか。す。凄いなーコレ、太い……。短めに切った方がいい? はい姫、どうぞ」
メアさんは、黙り込んでパスタとソースを交互に見ていた私が手を出し辛そうにしていると思ったのか、お手伝いを申し出てくれた。
「あ、ありがとうメアさん。ちょっと偶然という物の恐ろしさを痛感してただけで……。でも確かに、私って不器用だからこぼしちゃったりしそうだよね。うん、ありがと」
メアさんにお礼を言って私も少し後れて食べ始める。麺が太い以外は特に変わりはない、私の好きなクリームチーズのソースだった。
「偶然? うーん……? あ、ごめんねフラン、凄く美味しいわ。食感も面白いわねこれ。面白いっていうのも変な表現なんだけど……。自分で好きなソースを選ぶのもいいわよね」
「うんうん。一回一回次はあのソースかけて、とかお願いしなくてもいいもんね。メイドさんのお仕事が楽になりそうだね、ふふふ」
「そこでメイドさんの方を基準にしちゃうのがさすがシラユキ様と言うか……。普通は自分が面倒じゃなくていいって思っちゃいますよ。ん? 何? あ、水? はいはいちょい待ち」
ショコラさん無言だと思ったら辛さに耐えてたのね……
「そんなに辛い? 私はこれくらいなら全然平気。ガトーって辛いの苦手って訳でもなかったよね確か」
「ああ、苦手という訳じゃないが、得意だという程でもない。お前と違って私は甘い物の方が好きだからなあ……。皆この赤いのは食べるなよ? キャロルに処分させよう」
「確かに辛めですが、ただ辛いだけではありませんね。辛さの中にある本来の料理の味を感じ取ることができれば……、まあ、味わって食べれそうなのはキャロくらいでしょうか。処分は任せましたよ」
「処分処分言わないでよ……。やっぱり辛いのは不評かー、残念」
私たち三人に続いてメイドさんズも料理に手を付け始める。キャロルさんは真っ先に辛そうな赤いソースを選ぶ辺り、本当に辛いのが好きみたいだね。
わいわいと楽しそうなみんなを横目に、しかし私は考え事に集中しようと思う。
またついつい口に出してしまって姉様に少し疑問に思われてしまったが、本当に偶然というものは恐ろしい物だね。まあ、キャロルさんもショコラさんも突っ込まないだけで怪しんでいるだろうとは思うのだけれど……
とりあえずその事は置いておいて、フランさんの料理は……、これ、見た目つけうどんだよね。つけ麺は色々とあるけどこの麺の太さからするともうそれしかない。ちょっと太すぎる気もするけどね。さらには不意打ち気味に出てきたカレーの存在だ。これはどう考えてもおかしいよ……
どう見てもカレーうどんです。本当にありがとうございました。
おっと、またネタに走ってしまった。私はどうもこういういきなりな状況に弱いね、もっと心を強く持たなきゃ。
この世界にうどんは無い、それは間違いないんだよね。これは偶然なんて言葉で片付けられる物なのか……。それとも、変わった麺料理を作ろうとするとこういう物になるのが普通なのかも? 料理が全くできない私だからおかしく感じてしまうのかもしれないね。うん、今はそれで納得しておこう。変に突っ込んでからかわれたりするのもヤだからね。
「シア、ごめんなさい。次は貴女の番なんだけど、少しだけ待ってもらってもいい? 一度気になっちゃうとどうも、ね……」
みんな一通り味見し終わった後、姉様がこう切り出した。考えを中断して姉様の方を向く。
これは……、私のことかな? でも姉様は私の前世の話は知ってるんだしそれは無さそうなんだけど……。あ、度々口を滑らせちゃってる私に呆れちゃったかな? これは怒られるかもしれない。
「ええ、私も気になっていたところです」
う、シアさんもか。私のお世話ができないからちょっと機嫌悪そうだもんね……。大人しく怒られよう。
シアさんはゆっくりと腕を挙げ、ある一点を指差し、みんなの視線が指の指す方向へと集中する。
私も釣られるように視線をそちらへ動かすと……、ショコラさんの、胸?
え? ショコラさんの胸の何が気になるの? 確かに一日中でも触っていたい、顔を埋めていたいと思えてしまうとてもとても素晴らしいおっぱいなんだけど……
いやいや違うよ私! おっぱい好きはそろそろ卒業しようよ……、無理だと思うけど。
「私か? 私の何が……、胸か? シラユキに吸わせればいいのか? そうか、そんなに私の胸が気になるかシラユキ、可愛いな。ほら、今胸をはだけるからこっちに来い」
「違うよ!! ショコラさんのおっぱいは確かに気になると言うか大好きだけど……、何言ってるの私! そうじゃなくて、服! カレーが跳ねて、服に付いちゃってるよ?」
そう。ついついおっぱいに意識が向いてしまったが、よくよく見てみるとショコラさんの服の胸の辺りに黄色いシミが幾つか出来てしまっている。カレーうどんを前掛けもなしに、さらに白い服で食べるとは、ショコラさんも中々に勇気があ、る? 私も白い服だった!!
ちょっと自分の服の胸元を引っ張って確認。……よし、飛んでない。考えてみたらメアさんが細かく切ってくれたのをフォークで刺して食べてただけだったよ。ショコラさんは口に入りきらなかった分は吸い込んじゃってたからね。
確認していたらシアさんにニヤニヤされてしまった。今の可愛らしい仕草が云々言い出しそうな生暖かい目線だ。くそう……
「服? ……ああ、本当だな。だがそれがどうした? そこまで気になるものでも無いだろうに。っと、王族の手前コレはマズイか……。あー、スマンな。ついいつもの様に気にせず食べてしまっていた」
「ガトーの服は真っ白だから目立つしね。でも、どうしましょうかシア姉様。カレーって簡単に拭き取ったりもできませんよね。つーかそれ染みになるんじゃない? 早く洗ったほうがいいと思うよ」
「しかし脱いで洗いに出したところで着替えがなあ……」
「クレアかカイナのメイド服でいいんじゃない? そんじゃパパッと着替えに行こ。予備の置いてある場所は私にも分かるし」
お、おお、トントン拍子に話が進んでいく……、え? なんですって……!?
「め、メイド服か、少し恥ずかしいが一度着てみたいと」
「ショコラさんのメイドさん姿見てみたーい!!」
私が心の奥底から望んでるものじゃないですかー!! やだー!! やだ? 嫌じゃないよ!! さあさあ早く着替えに行くんだ!! はやくwはやくwはやくw
「何この近年稀に見る高テンションなシラユキ……、可愛い。この子のメイド好きは年々悪化してるわよね……。まあ、いいんだけど。あ、それじゃキャロル、案内お願いね。ショコラもごめんなさい、シラユキに見せてあげて」
「あ、ああ……。可愛いシラユキの頼みだ、断るという選択肢は無いな。ふむ、それならば暫く待っていろ。一目で恋に落ちる程の姿に変わって来てやろうじゃないか」
「馬鹿な事を言ってないでさっさと行きなさい」「馬鹿な事言ってないでさっさと行くよ」
ショコラさんは自信満々の表情のまま、キャロルさんに引き摺られるようにして部屋を出て行った。
ああ、楽しみ、楽しみすぎる。ショコラさんのメイド服姿、きっと凄く綺麗なメイドさんになるんだろうなー……
「ねえレン、シラユキホントに恋に落ちちゃったりしない? 既にちょっと、恋人を待つ乙女の顔してるんだけど……」
「どちらかと言うと、大好きな料理が出来上がるのを待つ子供の表情に近いのでは? しかし、少し不安に思ってしまうのも確かですね。今のうちに消して」
「消しちゃ駄目だって! まったく、シアの冗談は冗談に聞こえな……、あ、本気っぽい……」
楽しみにしすぎちゃって嫉妬されちゃったかな? むう、ショコラさんが殺されてしまう、落ち着かなければ。……まだかなー? ショコラさんまだかなー? 落ち着ける訳がないでしょう!
「ありがと、シア。それじゃ、二人が戻ってくる前に早速本題ね。シラユキは完全に怪しまれちゃってるわよね、どうしようかしら? 私はキャロルには話していい、と言うかそろそろ話してあげるべきだと思うわ。でもショコラには……、ちょっと悩んじゃうかな。私たちにとっていい友人ではあるけれど、友人だからこそ話せる内容でない事は確かよね……。ちょっとデリケートすぎる問題だわ」
「ええ、キャロはもう家族同然、いえ、家族ですからね、問題はないでしょう。ですが、ガトーにはやはり話さずにおくべきかと思います。森の住人ならともかくガトーは町に住んでいますからね、もし一言でも漏らしてしまったらと考えると……。リーフエンドの至宝である姫様についての噂、あっという間に町に広がってしまうでしょう。それに、噂という物は尾ひれが付いてしまう物です、それも形の悪いひれが」
「キャロルも口の軽い方だと思うけど、まあ、姫のことに関してなら大丈夫なんじゃないかな。喋ったらシア姉様に殺されるー! とか必死になると思うよ」
「ふふ、言いそう言いそう。ま、話すにせよ話さないにせよエネフェア様に相談はしないといけないね、他言無用って決めたのはエネフェア様だし。今日決めてすぐに話そうっていうのは無理があると思うから今はここまでに……、? どうしたのシラユキ? ポカーンとしちゃって」
「あ、え? うん。な、なんでもないよ?」
「あ、この子私が気になってた事が本当に服の汚れの事だと思ってたんじゃない? 汚れた服でシラユキを膝抱きにするのは許せないから元々着替えてもらうつもりではあったんだけどね……。ねえシラユキ、今日はちょっとだけ口が軽くなっちゃってるかもね」
「あう……。ごめんなさいユー姉様……」
「いつもはシアがさりげなく口を塞いだりくすぐったりで阻止してたからね。常日頃からそんな感じだよユーネ様」
「あらら、やっぱりシラユキの隣にはシアがいないと駄目ね、ふふふ。いいわ、次のシアの番が終わるまで私の膝の上にいなさい。シラユキは素直な子だから隠し事なんて苦手だものね……」
「はーい! ユー姉様はもうちょっと怒ってもいいと思うなー……」
「あらそう? それじゃ怒っちゃおうかしらー?」
「うん、怒って怒ってー? ふふふ」
姉様に軽く両頬を引っ張られて怒られてしまった。
はい、普通に可愛がられてます。
「それでは私が代わりまして怒りましょうか。クレア、いい加減にしなさい。折角の楽しい催しにそのしかめっ面、まあ、いつもの無表情なんですが……、こほん、今日は本当にどうしたのです? いつもあまり積極的に話に加わってくる方ではないですが、それでも今の様に終始無言はありえないでしょう。参加者の一人がそんな空気のような在り方でいいと思っているのですか」
「っ! いや……、その、な」
あ、あ、あ、ヤバイ。クレアさんを刺激しないで!! クレアさんは私よりさらにさらに嘘とか隠し事が苦手な真面目な人なんだから! やめてくださいばくはつしてしまいます。
「うん、それも気になってたの。あ、怒ってるとかじゃないから安心してね。クレア、辛いなら休んでもらってもいいのよ?」
クレアさん今日は一言二言しか喋ってないから私以上に怪しまれちゃってるかな……。無表情で黙り込んでるから体調を崩してると勘違いされちゃってるよ。
「は、あ、いやその……。さ、先ほども言いましたとおり特に体調が悪いという訳では決して……。ただ、考え事をして、いたのです」
「いやー、めちゃくちゃ辛そうじゃない。考え事……? ああ、悩み事ね。私らじゃ頼りになんないと思うけどさ、話してみなさいって。レンがなんとかしてくれるから、多分」
駄目! フランさんやめてあげテ!! クレアさんは素直に白状はしないけど、誘導尋問的な聞き方するとあっさり話しちゃうから!
「……そうだな、話してみるか。姫様、ユーフェネリア様、暫しのお耳汚しをお許しください。バレンシア、聞いてくれ」
終わった……。私終わった……
「聞くだけなら、と言いたいところですが、貴女としては珍しく相談事ですか。まあ、私に解決できる範囲など高が知れていますが、力になりますよ」
ああ! シアさんが珍しく私以外に優しい笑顔で……、? あれは違うね……。あれは獲物を狙う目だ、私には分かる。何故なら私がいつも向けられてるから!!
「まあ、簡単な話だ。不正、についてどう思う」
「また酷く大雑把な聞き方で来ましたね。何についてどのように、との事を抜かして答えるならば、罰せられるべき行いなのではないでしょうか」
さーて、もうクレアさんが全部バラしちゃうのは確定的に明らかだね。私は今姉様の膝の上だし逃げ出す事は不可能、もう諦めよう。諦めて姉様に甘えながら二人のやり取りを見守ろう。
「ああ、私もそう思う。だがな、その不正を行う事によって救われる存在があるとしたらどうだ? その存在が己にとって大切な、自身の命よりも大切な存在であるならばどうだ」
「察するに……、姫様にオウドンがどんな物か聞いてしまったのですか、なるほど。まあ、自分から白状した様なものですから失格だけに留めておく事にしましょう」
「……は? 何故それが、はっ!? 違う!! ななな何を馬鹿な事を言っているんだお前は、突拍子も無い!」
シアさんパネェ。そしてクレアさんは分かり易すぎるよ……
「本当に嘘のつけない方ですね……、カイナとはまた違った意味で可愛らしい。考えるまでも無い簡単な事ですよ? 大切な存在、つまり姫様です。不正、この場合は今回の催しについてで間違いはないでしょう。どうせ姫様に私たちが無茶なお願いをするとでも思ったのでしょう? その状況から姫様をお救いするには不正を働き自らの手を汚す事も已む無し、と。ふむ、貴女らしい考えではありませんか」
「は、話が飛びすぎだろう! お前は一体どこまで察しがいいんだ!?」
ホントだよ!! あ、アレか! 心を読む能力か! 私以外にも通用するんだ!?
「それだけじゃないけどね。だってクレアが体調悪いかもっていうのに姫が心配してなかったのがそもそもおかしいって」
「そうそう、シラユキはクレアが何も喋らない理由を知ってたって事でしょ? 二人に何か繋がりがある事は確かだった訳よ」
「う……、ぐ、むう……」
ごめんなさい! 私のせいでした!
「へえ、二人ともよく観察してるのね。うーん……、まあ、シアの言ったとおり失格でいいかしらね。まったくもう、無理して参加してるんじゃないかって心配しちゃったじゃない」
「も、申し訳ありませんでした!! 許しは請いません、如何様な罰でもお受けします!」
「大袈裟ね、罰なんて無いわよ。さ、気を取り直してシアの」
「なるほどなるほど、さらになるほど。姫様、お話は後で伺わせて頂きますよ。と、申し訳ありません、お言葉を遮ってしまいましたね」
「別にいいわよそれくらい。ふう、シラユキも黙り込んじゃったわね……、この子は私に任せて。そうだ、クレアはシアの手伝いをするといいわ。体を動かして気持ちを切り替えるといいと思うわよ」
「は、はい! ありがとうございます! い、行くぞバレンシア」
「ふふふ……、はいはい。では、暫くお待ちください。失礼します」
どうしよう、どうしよう! まさかこんな流れになるなんて! でもシアさんのあの反応、完全にバレてるみたいだったね……
今日一緒に寝る時にでも、みんなにどう謝るかと、クレアさんにどんなお礼とお詫びをしたらいいかを相談しよう。
そうです、私が主犯です、真犯人です!!
次回はまた少し間が空くかもです。
二週間以内には投稿できるかな、と思います。