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その181

今回は久しぶりに二話投稿です。

単にいい区切りが見つからなかったとも言いますが……




「さあ、ついにやって参りました、シラユ、姫様のお望みのオウドンに一番近しい? 近い物を作り上げお願いを聞いて頂こう大会? 長いな……。あーっと、司会は私、ガトーショコラが、おい、おっぱいパンが抜けているぞ。ふむ、まずは参加者の紹介……、そんなものどうでもいいだろう、面倒くさい」


「文句を言わない、そしてもっとハキハキと感情を込めて読み上げなさい。本来ならば姫様とユーフェネリア様のみにお出しする予定だったものを……。姫様の優しさに感謝し、しっかりと司会の務めを果たしてくださいね、まったく……」


「へいへい。そもそもこんな前置きや司会なんぞ必要あるのか? あー、参加者はメアとフランとバレンシアとクレアだ。四人か、少ないな。ん? ソフィーは開始前に失格、退場? なんだそれは……、何をやったんだアイツは」


「自分の言葉に直さず読み上げるだけでいいと言ったでしょう……。はあ……」


 頭をガシガシと掻きながら、手に持ったメモをだらだらとやる気なく、文句を付けながら読んでいくショコラさん。既に読み上げるのが面倒になって自分なりに簡単に纏めてしまっている。シアさんも呆れ、疲れ顔だ。




 開始の挨拶で既にごたごたしちゃっているが、今日はみんな待ちに待ったうどん勝負の当日。会場はダイニングだ。テーブルには私と姉様、それとショコラさんが特別ゲスト兼司会進行役として座っている。メイドさんズは全員少し離れたところに整列して、自分の料理を出す順番をそわそわとしながら待っている。

 今回はシアさんが参加者側に回ってしまっているので、この場にいて、さらに司会のできそうな大人のショコラさんに白羽の矢が突き立った訳なのだが、どうやら人選ミスだったようだ。


 ショコラさんがこういう食に関するイベントを逃す筈もなく、誰が呼んだ訳でもないのに自然にやって来ていた。もう完全に顔パスだね。シアさんが呼んでもいないのに来るなと追い出そうとしていたのだけど、私がお願いをして、それならば司会の仕事でもしてもらいますよ、となんとか条件付で納得してもらったのだ、が、ショコラさんにはこういうお仕事は合わないみたいだった。

 そういえば、一番肝心なうどんとの相違の判断材料の説明が抜けてしまっている。ちなみにその判断材料は私直筆のうどんの絵、簡単な説明付きだね。


 他に司会を頼めそうなのは……。キャロルさんは見習いなので参加者側には入れず、出来上がった料理を運んだり小皿に取り分けたりするなどのお手伝い。カイナさんは母様の補佐で泣く泣くお仕事。どうしても抜けられない母様に道ずれにされたとも言う。そしてソフィーさんは既に退場済み。ショコラさんの言うように司会なんて別にいなくてもいいと思うのだけれど……、? 退場?


「え? ソフィーさんも参加する予定だったの? な、なんで失格なの? あ! 家に来てくれてたの!? 退場させるなんてひどいよ!!」


 折角お友達が家に遊びに来てくれてたのにいいい!! せめて挨拶くらいしたかったな……。でもソフィーさんだからしょうがないかなとも思ってしまうのは秘密。また一体なにをやっちゃったんだろうねあの人は……


「ああ、いえいえ、退場は言葉のあやでした、すみません。今はお風呂に入ってもらっていますよ。ですが失格は失格、真に残念なのではありますが、ソフィーさんの料理を姫様にお出しする事はできません。そもそもアレは料理などという物ではありませんでしたからね。姫様の可愛らしい反応を拝見させて頂きたかったのですが……、本当に残念です」


 なんだお風呂に入ってるのか。よかった、失格しちゃったみたいだけどまだ家にはいるんだね。まったくもう、お風呂から上がってくるまでくらい待ってあげればいいのに……。でも麺料理は伸びちゃうから……、? お風呂? なんでお風呂? 料理とは言えないアレって何!? 開始早々疑問が尽きないよ……、さすがはソフィーさんだ。

 やけに残念そうにしているシアさんの口振りからすると、相当怪しい料理と見た。突っ込んで聞こうとしないで忘れる事にしよう。……よし忘れた。


「どうしてお料理勝負なのにお風呂に……、あ、ひっくり返しちゃったのかな?」


 そうなるとちょっと心配だね、怪我とか火傷とかしてないといいんだけど。ソフィーさんも誰かにされた、とかなら喜んじゃうけど自爆なら本当に痛いだけだと思うし……


「うん……、まあ、そんなとこかな。そんな不安そうな顔しないの、火傷はしてなさそうだったから安心していいよ。ささ、レン……、じゃない、おっパン。シラユキもユーネ様もお腹空かせちゃってるだろうしさっさと始めちゃお。で、早速だけど順番はどうする?」


「そうだな、とっとと始めて食わせてもらおうか。いやあもう、楽しみで堪らん。ああ、順番はさっき言ったそのままだ。メア、フラン、バレンシア、クレアの順だな、これはシラユキの提案らしい。トリはフランだと思っていたんだがな」


 特に怪我は無し、と。よかったよ、心から安心だ。


 順番は最後のクレアさん以外は適当だね。しかしあのメモには私が決めたとかそんな情報まで書かれてるのか……。シアさんの用意した物だしきっと他にも色々と、結構どうでもいい事まで書かれているんだろう、うんうん。後で読ませてもらおうかな。


「あ、始まる? ふふ、貴女たちのやり取りは見てるだけで本当に楽しくっていいわね、飽きないわ。へえ、順番はシラユキが考えたの? 確かにいい順番かもね、それ。まずは普通に確実に安心できるメアでしょ? 次とその次には美味しいのは間違いないけど、変な見た目とか変わった食材を使ってそうでやや不安が残るフランとシア。最後にはもう性格から言って絶対奇をてらった料理なんて作らないクレアで締めね。うんうん、さっすが私の可愛い妹! よく考えられてるわ。ソフィーの料理もちょっと気になるけど……、まあ、こぼしちゃったものはしょうがないわよね、諦めましょ。また今度作り直してもらってもいいしね」


 隣に座っている姉様がにこにこ笑顔で撫でながら褒めてくれる。


「う、うん。そ、それじゃまずはメアさんからだね!」


「はいはーい。それじゃキャロル、手伝って。……順番は適当っぽいね」


「あ、適当だったの? 力説しちゃったじゃない恥ずかしい……」


「あはは、言っちゃ駄目だって。では、少しお待ちくださいね」


 何故ばれたし!!






 さてさて、どんな料理が出てくるのか……。ショコラさんじゃないけど楽しみで楽しみで堪らないよ。でも前日に寝られなかったという事はない。逆にドキドキしすぎて疲れちゃって、ぐっすりと眠れた気がする。未だに睡魔には逆らえないお子様です。


 ふむ、デザートやお菓子が得意なメアさんのことだから、多分そういった物になるだろうと思うんだけど……。あ、麺料理でさすがにそれはないかもしれない。うーん、残念すぎる。


 ショコラさんも席について、目をキラキラ、表情をニコニコとさせながら本当に楽しみそうに待っている。なんというカッコいいのに可愛い人だ……。町でもこのギャップにやられちゃってる人は沢山いそうだね。ふるい担当のライナーさんも今はいないし、ちょっとだけ不安だね。シアさんにそれとなく調査してもらうとしよう。

 そのシアさんと言えば、ショコラさんとは対照的に少し不機嫌そう。開始の挨拶が中途半端だったのと、進行がややぐだっているのが不満なんだろうね。折角用意したメモも殆ど読まれなかったみたいだし、何よりシアさんはこういうイベントは、一つ一つ区切りよく進めて行きたいタイプだからね。私はこんな風にだらだらと進行していくのも嫌いじゃないんだけど。……む、目が合っちゃった、見つめすぎちゃってたかな。


 私と目が合ったその瞬間、にっこりととてもいい笑顔になって上機嫌になるシアさん。


 私に見つめられて喜ぶとか……。こんな事で機嫌が直るなんて……、あ。まさか、今日は参加者側だから私のすぐ隣に立てないから不機嫌なのか! 自分の番になるまで側にいればいいのに……。普段はパーフェクトメイドさんなのに、たまに変な所で不器用な人だね、まったく。



 シアさんの機嫌を上機嫌のまま維持するために目と目でお話していたら、メアさんとキャロルさんがカートを押して部屋に戻って来た。まあ、シアさんが何を言いたいかはさっぱり分からなかったんだけど、逆にこっちの考えは全て筒抜けな気がして怖い。


 私たち三人の前にクロッシュの掛けられたた少し大きめ、30cm以上はありそうなお皿が一つ置かれる。それとお椀状の小さな器が三つ。どうやら取り分け方式の料理みたいだね。


「はいお待たせー。あ、まだ開けないでねキャロル。……ぶっ! ショコラ鼻ヒクヒクさせすぎだって!! やめてやめて! 美人が台無しだよ……」


「んお? ああ、スマンスマン、つい、な。あー、匂いからすると……、甘味か。早く開けろ早く」


 もう完全に目線が釘付けだね……。うん、確かに甘い匂いがする、予想は当たってたみたいだ。当たっていたけどそれが逆に不安になってしまう。甘い麺とかちょとsyレにならんしょこれは……


「涎拭け涎。それじゃ開けるよー。じゃーん!! ……シア姉様、恥ずかしいですってコレ。絶対やらないと駄目なんですか?」


「はい。できなければカイナの手伝いに回ってもらい」


「やります! やらせて頂きます!!」


 元気な掛け声と同時にクロッシュを取り外すキャロルさん。可愛かった!! 照れちゃってるのもまた可愛い。

 キャロルさんはメイドさん生活のおかげかどんどん可愛くなっていってると思うよ。またシアさんに可愛がってもらえる日が来るのも夢ではないんじゃないかな? 私がいる限り無理か……、ごめんね。シアさんも一言、可愛いですよ、くらい言ってあげればいいのに……


 ま、まあ、変な考えはこれくらいにして、と。出てきた料理は……、おや? 大皿の中に中皿が三つ? お皿と言うかお盆とボールかな。中身はそれぞれ、薄いピンクとオレンジとグリーンの半透明の細い麺? が無色透明の液体に浸かっている。え? これってまさか……


 私にはピンク、姉様にはオレンジ、ショコラさんには三色全てが少しずつ取り分けられる。私の分を取り分けるときに、シアさんが多すぎる少なすぎると文句を言いまくってたのが面白かった。キャロルさんも一々真面目に答えなくてもいいのに……


「お、おお? なんだこれは、綺麗だな。しかし、量が無いぞ量が、もっとよそえ」


「まずは味見みたいなモンだって。なんでアンタはそんな無駄に偉そうな態度なのよマジで、勝手に入って来てシラユキ様の優しさに付け込んで……」


「お、落ち着いてキャロル。ホントに綺麗ねこれ。量はまだいいじゃない、この先三品も出て来るのよ? ええと、フォークでいいのかしら、これ」


 まず二人の見た目の感想は、綺麗。うん、綺麗、かな? あー、見覚えがあるなこれ……


「うん、柔らかいからチュルっといっちゃっていいよ。あ、シロップは飲まないようにしてね、結構甘いから。ふふ、まずは好感触かな。さ、どうぞどうぞ、食べてみて」


「うん。いただきまーす!」


 つるつる滑る謎の麺に苦戦しつつ、なんとか数本口に入れチュルンと吸い込む。ショコラさんは分けられた小皿を持ち上げ口に寄せ、掻き込むようにして食べている。お行儀悪いなあ……。キャロルさんはまだブツブツと小声で文句を言い続けている。


 むむむ、予想とはちょっと違う柔らかい食感だけど概ね想像通り。これはあれだね、ゼリーだ。寒天麺、心太ところてんかと思ったけど違ったみたいだね。しかし苺味とは、さすがメアさん分かってる。程よい冷たさとしつこすぎない甘みと苺の香りが素晴らしい。元のフルーツも入るともっといいかもしれない。


「あ、ゼリーなのねこれ、味はオレンジね、爽やかでいいわ。ゼリーをこんな形に……、凄い、凄いわメア!」


 姉様は大絶賛。味は見た目の色そのままで、緑は多分メロンかな?


「ふふふ、ありがとうユーネ様。うん、ゼリーで作った麺だよ、ちょっとだけ固めだけどね。私にはこれくらいしかできなかったよ」


 ここまで美味しい物を作れてこれくらいとは、なんて謙虚なメイドさんだ。


「よし、結婚するかメア」


「プロポーズ!? あ、褒められたの? いやー、私は姫の愛人になる予定だからさ、ごめんねー、ってちょい待ち! 全部は駄目だってば!!」


 振られてしまったショコラさんは、自分の分をあっさり食べ終え、おかわりをしようと手を伸ばそうとしていた。


「あはは。私たちはまた作ってもらうからいいよ? あ、でもほかのみんなの分を取ってからにしてね」


 メイドさんズ全員に少しずつ取り分けて、残った全てはお盆ごとショコラさんの前に差し出す。勿論ソフィーさんの分を取っておく事も忘れない。



 ゼリー麺をチュルチュルと幸せそうに吸い込んでいくショコラさんを見ていたら、いつの間にかすぐ横にメアさんが近付いてきていた。


「むう! ひーめ? 感想聞かせて? 姫ってゼリーはあんまり好きじゃなかった?」


「あ! ごめんなさい!! ううん、すっごく美味しかったよ? えとね、ちょっと知ってる料理に似てたから……。ご、ごめんねメアさん……」


 ああああ、いくら味と食感の予想がついてたからって感想も何も言わないなんて……。私最低すぎる……


「うわっ、ちょっ、半泣き!? ごめんごめん姫ー! 怒ってないって!! 笑顔だったから美味しいって思ってくれてたのは分かってたし……。あー、言い方がちょっと悪かったかな」


 シュンとしてしまった私を、慌てて謝りながら撫でてくれるメアさん。


「シラユキは自分を責めすぎだ。まったく、優しい子だな……。しかし、知っていた? これは今回の催しのためにメアが考えた物じゃなかったのか?」


「あ……、と。ま、まあ、いいではありませんかそんな細かい事は。ほら、次の料理を出す前にさっさと全部食べきってしまいなさい。それにしても、メア、やりますね……」


「肝心の姫を驚かすっていうのはできなかったんだけどねー。でも、姫が知ってる料理に似てるって事は……、ふふふ、勝ちは貰っちゃったかなこれ」


「考えてみたらそうね。他の皆が知らなくて、シラユキだけが知っている麺料理、でしょ? あらら、いきなり勝負が決まっちゃったかしらね」


「まーだまだ分かんないって。次は私の番! キャロル、行くよー!!」


「へ? 私まだ食べてないんだけど……。あ、クレア、ガトーに食べられないようにそれ見張っておいて」


 うー……、もっとちゃんと怒ってよー。メアさんには後でもう一回謝ろう……


「ん? クレア? 聞いてる?」


「……っと、すまない。あ、ああ、任せてくれ」


「クレア、もしかして体調悪い? 今日はずっと無言じゃない。ねえ、無理はしちゃ駄目よ? 貴女の料理は凄く楽しみだけど、それで体調崩しちゃったりしたら悲しいわ。シラユキも泣いちゃうわよ?」


「い、いいえ! そういう訳では決して……。お気を使って頂き、ありがとうございます」


 姉様の言葉とクレアさんの返事にハッと顔を上げて、私もクレアさんの顔色を見てみる。


 いけないいけない、落ち込んでないでちゃんと顔を上げなきゃ。こんなに楽しいイベントなのに一人で暗くなってたら台無しになっちゃうよ。

 クレアさんは……、うーん、いつもの無表情。顔色が悪いという事もなさそうだね。


「ああ、緊張してるんじゃないですか? クレアは根が真面目すぎて、こういうおふざけイベントは苦手そうですよね。それじゃ、また少しお待ちくださいね。あー、忙しいけど楽しいね、メイドさんってさ」


「でしょでしょ? もう冒険者なんて辞めちゃいなさいって。シラユキも喜ぶよ?」


「くぅっ、それはちょっとまだ……。さ、行こ行こ」


 キャロルさんはフランさんの手を引いて部屋を出て行ってしまった。


 うん、喜んじゃう。でもお仕事が楽しいのは私の家だけだと思うんだけどな……



 それにしてもクレアさん、私のお手紙のせいでちょっとプレッシャーが掛かっちゃってるのかもしれない。メアさんがいきなり近い物を出しちゃったからそれでさらに……、かな。


 うーむ、どうなる事やら不安不安。でも私にできる事はもう何もない、大人しく成り行きを見守るだけだ。




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