表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/338

その18

「おーい、まだ準備してるのかよ? 俺もう、ずっと待ってるんだけど」


 兄様が私の部屋まで急かしに来た。ごめんね兄様。


「す、すみません。質素で、それでいて可愛さを損なわない、そんなチョイスに悩んでおりました」


 シアさんが服決めてくれないのよ。いつもの服でいいって言うのに。


「いつものでいいだろ、いつもので。無理に質素な感じにすることなんて無いぞ? 狙われようが何されようが、俺一人いりゃ事足りる」


 さすが兄様凄い自信だ。それにシアさんもいるしね、危険は全くない、と言っていいだろう。


「あんまり時間かけると飛ばなきゃいけなくなるぞ? シラユキ抱えて飛ぶのはいいが、泣きそうなんだよな……」


 飛ぶ? ああ、あの跳躍魔法ね。あの速度は、生身でジェットコースターを体験するようなものか……、泣くわ。


「申し訳ありません。すぐにご用意致します。もう暫くお待ちください、後は髪型を……」


 これは長くなりそうだ、シアさん気合入れすぎだよ。






「準備できた? あら、可愛いわね」


「結局、いつにも増して可愛くなってるんじゃねえか」


「自信作です」


 シアさんは、どうだ、とばかりだ。いいんだけどね、動きやすいしさ。


 制服のブレザーのようなジャケット、胸元にリボン。後は、短いマントのような、ケープか? 

 そしてちょっと短めのミニスカート。足が露出するのでオーバーニーを穿いている。これは私の動きを制限するためのものだと思う。

 全体的な色は白と黒を基調としている。白い髪が必要以上に目立たないように、でも栄えて見えるように。職人芸だ。


 ちょっと恥ずかしいねこれは……。いつもワンピースばかりだし……



「うーん、やっぱり心配だなー。私も行こうかな」


 姉様凄く心配そうだ。大丈夫だって、もう。


「一応各ギルドには通達してあるんだけどね。さすがに一般の人たちはどうしようもできないわ」


 ギルド? 冒険者ギルドとかあるんだっけ? おおお! 行ってみたい!!!


「駄目よ?」


「顔に出てた!?」


「おいおい、冒険者とはかかわらないようにするって言ってるだろ? 精々話しかけられたら少し返すくらいだ」


「ギ、ギルドに通達ってどんな?」


 は、話を逸らせるんだ! 町に行くのを止められてしまいそうだ!


「ああ、それはな」


 おや、父様。



「シラユキに毛筋ほどの傷でも付けたら……、平らにするぞ、とな」


 たいら? 平ら? 平面? どこを? 町を? あ、町をね、平らに……


「怖いよ! それ脅しだよ!! そういうところで権力振るっちゃ駄目!!!」


「冗談だ冗談」


 はっはっはっ、と笑う父様。でも……


「目が笑ってないよ! 絶対本気で伝えちゃってるよ!!」


「当たり前だろう!! シラユキは国の、いや、全世界の宝なんだぞ!?」


「開き直った! もう私十歳だよ! もうお酒だって飲めるんだよ! 飲めないけどさ!! 過保護過ぎるよー!」


 お酒は無理だった。一口で真っ赤。慣れて飲めるようになってみせるさ、きっとね。


「いや、十歳はまだまだ子供だからね?」


 そうだった! でもそうじゃないよ!! 私に何かあったら町一つ滅ぶんだよ!?


「あー、面白可愛いわこの子。大丈夫よ。いくらお父様でもそんな事するわけないでしょ」


 なんだ……、本気で冗談だったのか。ええい、まったく……。?


「う、うむ。冗談だぞ? そんな通達入れてないぞ? お父様を信じなさい」


 目が泳いでるよこの人!


「父さん嘘が下手だよな……」


「お兄様に言われたくないと思う」


 それは確かにね。それは姉様にも母様にも……、私にも言える事かな……。全員かい!



「ええい、うるさいっ! お前がしっかり守ればすむ事だろう!?」


「それもそうよね。お兄様がいれば安心よ」


「それにシアさんもいるからね。だーいじょうぶ」


「はい。全身全霊、まさに命をかけてお守りしますのでご安心を。姫様の半径1mに近づく輩は全て肉片に変えて見せます」


「シアさんも怖い! 肉片!? 1mとか目の前だよ!? 無差別なの!?」


 人選誤りすぎじゃね? 母様と姉様がよかったかー




「さ、冗談はこれくらいにして、そろそろ出発しないと。飛んでいくの? シラユキ大丈夫?」


「大丈夫だろ。目瞑ってしがみ付いてりゃいいさ」


 悠々としてるのはそういう事だ。生身ジェットコースターが決定しているのだ。


「だ、大丈夫! 泣かない!」


「泣いたら帰りますからね? ああ……、でも怖がって泣く姫様も見てみたい……」


「遅くなったのはシアさんのせいなのにー」


 あの後、髪型も悩みに悩み、準備が整ったのは約一時間後だった。ツインテールだ。

 ちなみにシアさんはいつものメイド服。アンタが一番目立ってるよ!


「ふふふ。何度も言うけど気をつけてね?」


「ルー、バレンシア、頼んだぞ。怪しきは消せ、責任は俺が」


「もうそれはいいよ! いってきますー!!」






 母様に出発の挨拶をし。つ、ついに、生身ジェットのお時間だ。


「大丈夫だぞ? ちょっと景色がすっ飛ぶだけだ。細心の注意を払って飛ぶ。風圧も無いからな?」


「うううううん。だだ大丈夫、ルー兄様を信じてるから」


 兄様に全力でしがみ付く。首に抱きつく感じだ。

 怖いものは怖いのよ。しまったなー、前にでも一度、抱えて飛んでもらえばよかったよ。



「よし。バレンシア、あそこ、あの木、行けるか?」


 しっかりと私を抱きしめて、兄様がシアさんに話しかけている。


「王族の方のように一瞬、という訳にはいきませんが、一秒ほど溜めの時間をいただければ……」


 え? 何? あの木? 何の木? 気になる木?


「ちょっと目、瞑ってな」


「え? もう行っちゃうの? わ、分かった!」


 ギュッと目を閉じる。そして……、浮遊感? ちょっとして着地? の感覚。


「ほら、目開けてみな。慌てずに、落ち着いてな。怖かったらすぐ閉じろ」


 恐る恐る目を開くと……


「高っ! 高いよ!! 怖いよこれ!! 怖すぎるって!!! え? さっきの一瞬でここまで!?」


 一瞬で、一瞬でさっき言っていた高い木の、上のほうの枝まで飛んだ、ようだ……


 な、何mあるのよここ! 10m? もっと? 高いわ!! 壁! 家と違って壁も床もないのよ!!


「意外に平気そうですね。さすがは姫様」


 シアさんも横にいるようだっ!?


「シアさん手! どこか手、ついてよ!! 見ててこーわーいー!!」


 いつものように両手を揃え腰の前に、メイドさん立ちをしているシアさん。木の枝の上で。兄様は片手を木の幹につけている。


「大丈夫ですよ姫様。この程度の高さから落ちたところで傷一つ付きませんから」


「そういう問題じゃ、!? シアさん何で出来てるにょ!? 噛んだ!!!」


「やばいなこれ、反応が面白すぎるわ。もっと前にやっときゃよかったか。ユーネにも見せたかったな」


「ええ、本当に。本当に可愛らしいです。姫様もう一度、にょ、と、お願いします。是非これからは語尾に、にょ、を付けましょう」


「付けないよ!!! 何そのネコミミ付いてて目からビーム出しそうな語尾は!」


「!? 姫様のネコミミ姿……、おっと」


 想像して衝撃を受けたのか、シアさんが枝から、落ちた!?


「シアさん落ちた!! うわ! うわ!! 兄様!!!」


「だーから大丈夫だって。見てみな?」


 音も立てずに華麗に着地するシアさん。スカートも乱れない、まさに一流のメイドさんだ。メイドさんは高所の枝から落ちないよ!



「おーい! このまま行くぞー!! 遅れても先に行ってていいからなー!!」


 シアさんはぺこりとお辞儀一つ。飛んだ! はやっ! 人が単体で跳ね飛んで行ったよ!! すすす、凄い! 魔法って凄い!!


「それじゃ、俺達も行くぞ。まだ怖かったら目瞑ってな」


「うん、行こ。多分大丈夫。でも、最初はゆっくり目にお願い」


 色々立て続けに起こりすぎて、恐怖感はどこかへ行ってしまったようだ。シアさんこれも考えてたんじゃ、それはさすがに無いか。


「おう、任せとけ」






 景色が横に流れていく。車並の速度? これでゆっくりなんだろうか。生身だからもっと早く感じているのかもね。


 高く、斜めに跳び上がっては降り、また跳ぶ。時には木の枝に乗り、そこからも跳ぶ。まるで忍者だ。蹴り跳んだ枝、木は殆ど揺れていない。


「凄い! ルー兄様凄いわ!」


「はは、さっきからそればっかだな。気に入ったか?」


 会話も問題なく出来る。魔法的な力か? 風圧も全く受けないしね。


「私もこれ、使ってみたい!」


「結構危ないんだぞこれ? 今度説明してやるから、勝手に使おうとするんじゃないぞ?」


「はーい!! ふふっ、ふふふっ。楽しい!!!」


「よっし! 飛ばすぞ!! しっかり掴まっとけ!」


「うん!」



 さらにスピードを上げる兄様。すぐにシアさんに追いついた。速いわー、凄いわー、憧れちゃうわー


 うん? シアさんスカートだよね? ミニって言ってもいいスカートだよね。 え?


「ルー兄様だめっ! シアさんスカート!!」


「うおっ!! 危ねえ!!! コラ! 目! 目押さえるな!!!」


「大丈夫ですよ姫様、ご心配なく。メイドたるもの、スカートの中をいかにして見せないように、という技術も心得ているものです」


「いつの間にか真横に!?」


「前方にご注意を」


「シラユキ! 放せって!! 危ないって!!!」


「わ! そうだった! ごめんなさいルー兄様!」


 二人とも危なげなく着地する。



「あー、さすがに今のは焦ったわ。シラユキ?」


「ご、ごめんなさい……」


 危なかった、兄様に怪我をさせてしまうところだったよ……


「バレンシアもいたし、大丈夫だったとは思うが……」


「あう、ごめんなさい、ルー兄様……」


「ルーディン様、今の状況で悪い者がいたとしたら、それは私です。スカートのまま飛んだ私が、姫様に説明を怠った私が悪いのです。どうか……」


「ん、ああ。そこまで怒っちゃいないよ。でもな、シラユキがもし、万が一大怪我でも、と思ってな。そうなったら自分自身が一番許せん」


 テンション上げ過ぎて、周りが見えなくなってた私が悪いのに……



「おっと、何暗くなってるんだか。行くぞ? 着いたらもう昼だろ。飯屋行くぞ飯屋。腹減ったんだよ」


「うん……」


「ははっ。怒ってないって言ってるだろ? ちゃんと謝ったしな。バレンシアにも特に思うことは無いぞ? ま、スカートの中が見れなかったの惜しかったが」


 うわ! 泣きそうだ! 兄様カッコよすぎる!!


「うん!! ユー姉様に言い付けるね!」


「オイやめろ馬鹿」


「申し訳ありませんが、私のスカートの中を見る事ができるのは、姫様だけですので……」


「見ないよ! 見ないからね!?」


 でもちょっと見てみたいと思ったのは内緒だ。






更新がまちまちな時間で申し訳ありませんでした。

これからはまた0時のみで予約投稿していきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ