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その176

 その後少し詳しく話を聞いてみると、お仕事を紹介してくれたのはミランさんらしい。ギルド長さんがミランさんを通じてお願いをした感じなのかな? 多分ショコラさんが職探しをしている事をミランさんから聞いての行動なんだろうと思う。そこまでは納得だ。でもやっぱり、色々と疑問が出てきちゃうよね。


 シアさんが言うには今のギルド長さんは変な野心を持つ様な人じゃない。まずは自身の保身に入る様な、前任の小物臭漂う人とも違う。それじゃあどんな人なのかと聞こうとすると、内緒です、とにっこり笑顔で断られてしまった。シアさんの表情や言い方から悪い人ではないと思う。でも、シアさんからすると面白い人だけど、私には会わせたくないと思う様な、ベクトルがおかしい向きの人かもしれないという可能性はある。

 まあ、人柄を知るのは現状どうしようもない。ミランさんか、他にその人に会った事がある冒険者の人に聞くしかなさそうだ。ショコラさんが実際に会ってからでもいいね。それだとちょっと遅い気もするけど……



 疑問その一、どうしてショコラさんを補佐に?


 キャロルさんが言ってたけど、ショコラさんには向かないんじゃないか、って事だよね。実際どんなお仕事をするかにも寄ると思うんだけど……。これはやっぱりショコラさんの強さ、力目当てなんじゃないかなって思っちゃう。これは不安だね……。私のお友達に変な仕事をさせないでほしいし、ショコラさんにもしてほしくない。



 疑問そのニ、何故急に補佐の募集を?


 今のギルド長さんが任に就いてから約八年、その八年の間に誰も募集したり指名したりしなかったんだろうか? 本当は必要ないけど、ショコラさんを手元に置くために名目上補佐という名前を付けているだけかもしれない。まあ、これも最近補佐の人が辞めちゃいました、とかそういうのもあるかもだけどね。この辺りはミランさんに聞いてみようと思う。



 疑問その三、補佐の仕事はそんなに報酬が多いのか?


 他にも色々と小さな疑問はあるけどこれが一番大きい疑問なんじゃないかな。だってショコラさんの生活費は月に50sとかシアさん言ってたし……、簡単な計算で出した予想だけど。話を聞く限りそれなり以上、かなり多く貰えるらしい。ショコラさんを手に入れるためにならその金額も惜しくはないっていう事なのかな? そう考えると納得だよね……



 私の考えだと、どう考えてもショコラさんを手に入れたいから、っていう答えしか出ないね。多分全部の疑問はその一言で解決してしまいそう。


 そう、私の考え、なんだよね。三人から色々と聞いた話から出した結論だから、間違っている可能性の方がはるかに高いと思う。だってシアさんにこにこしっぱなしだもん……






 結局シアさんは、秘密です、内緒です、どうしてなんでしょうねー? とニヤニヤしながら言うだけで何一つ教えてはくれなかった。私が命令しちゃえば何でも答えてくれるんだろうと思うけど、そんな事はしたくない。する気もない。にこにこニヤニヤしてるところからすると、ほぼ間違いなく私の考えすぎ、取り越し苦労なんだよね。でも気にはなるのよ!!


 気になったらどうする? 誰かに聞くか、自分で調べる。自分で調べるっていうのは何をどうしたらいいかさっぱり分からない。ギルドの人に聞き込みをするしかないかな。

 それなら誰に聞くか。一番頼りになる、答えを知っているシアさんは黙秘。そうなるとミランさんに聞くのがいいね。


 という訳で今日は冒険者ギルドへと遊びに来ている。遊びに来ているって言う時点で、もうあまり心配はしてないんだよね私も……



 ミランさんはいつもと同じ様にカウンターで暇そうにぼーっとしていた。エディさんとソフィーさんはいないみたい。暫く会ってないから会えたらいいなと思ってたんだけど、残念だ。

 挨拶の後いつものテーブルについてもらい、軽い雑談の後本題を切り出す。ちょっと忘れかけちゃってたよ……


「ミランさん、ギルド長さんってどんな人? 一回会ってみ」


「え!? あ、すみません……。ぎ、ギルド長ですか? ああ、ガトーさんの……」


 何その反応!? ちょっとビックリしちゃったじゃない、もう……。ふ、不安になってきた……!!


「ええと、ですね、ギルド長は……、ひい!!」


 !? またビックリしちゃったよ!!


 言い難そうに目線を泳がせていたミランさんは、ある一点、私の左隣にいる人を目に入れた瞬間に盛大に怯えてしまった。言うまでもなくシアさんだ。

 シアさんの表情を見てみると、特にいつもと変わらずキリッとした美人さんだ。私と目が合うとにっこりと微笑んでくれる。


「怖い顔しちゃ駄目だよシアさん? それで、どんな人なのかな。悪い人、って言うのも変だけど、悪そうな人じゃないんだよね?」


 シアさんに軽く釘を刺しておき、ミランさんに続きを話してもらうようお願いをする。


「は、はい、悪い人ではないのは間違いありませんよ。シラユキ様のごめんなさいごめんなさい!!」


「シアさん!? まったくもう……」


 シアさんはずっと無言、私が顔を向けるより早く表情を戻してしまってるみたいだ。


 ええい、今日は変な方向で攻めてるなシアさんめ……。実際何か口に出して脅すいつものやり方だと私が簡単に止めれちゃうからか。そんなに私には聞かせたくない様な変な人なのかな……


「ごめんねミランさん、落ち着いて。シアさんももう聞かないから怖い顔しないでね? 私お付のメイドさんにそんな怖い顔? どんな顔してたかは分からないけどそんな顔してほしくないんだから、ね?」


「も、申し訳ありません! 姫様付きのメイドのする事ではありませんでしたね……。猛省致します」


 深く頭を下げて謝るシアさん。どうやら本当に反省させてしまったみたいだ。


「シラユキ様凄い……。あ、私の事はお気になさらないでください。バレンシアさんもシラユキ様のことを考えての行動……、ですよね?」


 うん? ミランさんを怯えさせてからかうっていうのも併せて楽しんでたと思うよ……


「ちょっと言いすぎちゃったかな……。それじゃミランさん、これだけ教えて? 私には会わせ難そうな人なの?」


 どんな人か聞くのはもう諦めよう。ショコラさんから聞かせてもらっちゃえばいいし、変な人だったらショコラさんもそれとなく話を逸らしたり誤魔化したりしてくれるはず。とりあえずは最低限必要なこれだけを聞いておこう。


「え、ええと……、お会いしても構わないとは思いますね。でも特にシラユキ様から進んで会われる必要もないと言いますか……。ど、どちらでも?」


「優柔不断な……。姫様が心に留めておく程の人物ではありません、今この瞬間に忘れて頂いてもいいくらいですね」


 う、うーん、二人の言い方からすると……、どうでもいい人? ああ、酷い事考えちゃった。


「姫様」


「うん? なあに? シアさん」


 今ひとつ納得がいかない私を見てか、シアさんが真面目な表情、口調で私に話しかけてきた。


「申し訳ありませんでした、もう少しだけ、これだけはお伝えしておくべきでしたね。姫様が不安に思われるような人物では決してありません。考え込まれる、お悩みになられている姫様の可愛らしさに気持ちが緩み、心遣いが欠けてしまっていた様です。どうかお許しを……、お願い致します」


 シアさんはそう言うとさっきと同じ様に深く頭を下げ、そのままの姿勢で私の許しを待つ。


 む、むう、やっぱり言いすぎちゃってたか、シアさんを注意するのは難しいよ……。私は全く怒ってないんだけどなー。シアさんだってそれは分かってる筈だけど、自分が許せないのかな?


「怒ってないから顔を上げて? シアさん、教えてくれてありがとう」


「ひ、姫様……。なんとお心優しい……。ありがとうございます」


 私の許しを受け頭を上げ、とてもいい笑顔でお礼を言うシアさん。


 あはは。まったく、大袈裟だねシアさんは。


「シラユキ様、なんてお優しい……」


 ミランさんもだった!! は、恥ずかしいからやめて!! 尊敬の眼差しで見つめないで!!




 ギルド長さんの人柄はとりあえず置いておいて、ミランさんとのお話で得た情報を纏めてみようと思う。


 ショコラさんが就く事になるお仕事はギルド長さんの補佐。補佐といっても、どちらかと言うと付き人に近いらしい。理由は分からないけど、今までの人が辞めてしまうらしく、丁度職を探していたショコラさんにミランさんを通じて、という流れ。私も少し考えていたその通りだったね。

 どうしてショコラさんを、っていうのはあまり詳しくは教えてはもらえなかった。それなり以上の強さが必要なんです、とのこと。最低でもミランさんクラスの人じゃないと無理らしい。Sランクなら文句なしだよね。

 報酬が多いのはそれだけ大変なお仕事だから、の一言で終わってしまった。どんなお仕事なんだろう……



 終始にこやかに……、シアさんに怒られないように気をつけながらだったけど、ミランさんの話し方からすると私が心配するような事は本当に一欠けらも無いらしい。あ、らしいじゃないや、一欠けらも無い。


「どうしても、っていう訳じゃないけど、やっぱり一度会ってお話してみたいな」


「どうしてです? シラユキ様とはあまり接点が無い方だと思うんですけど……。話すだけ話して会わないままは気になっちゃいますか」


「ああ、いえ、そうではなく……。姫様はお優しい方、という事ですよ」


「え? はい、本当にお優しい方で……、あれ? どういう意味ですか? それって……」


「あ、うん……、別に変な意味はないよ? シアさんの言う事は気にしないでね。ただ、ギルドの中で自由にしていいって決めてくれた事と、私が言う事じゃないとは思うんだけど、ショコラさんを補佐に選んでくれた事のお礼を直接言いたかったの。決まりの方はできたら理由も聞かせてもらいたいなー、って」


「そんな事もありましたねー。決まりなんてなくてもシラユキ様の行動を止めるなんてどのギルド員にも無理なんですけどね。……あ、ああ……、ふふふ」


「何ですか急に、気持ち悪い……。思い出し笑いですか?」


「気持ち悪いとかひどい!! どうしたの? ミランさん」


「き、気持ち悪い……。あ、いえ、姫様はお優しい方、の意味が分かって……。ふふ、ここがギルドでなければ膝抱きにさせて頂くのに……」


「照れちゃうよ……。それくらいならいいと思うよ?」


「まあ、八年放置だったのですけれど……、ね。そこは、まあ、黙っておきますか」


「言ってるよ!? ううう……」






 その後も三人で仲良くお喋りを続け……、ミランさんには受付に人が来る度に行ったり来たりさせてしまったけど楽しい時間を過ごしていた。

 会話の内容は最近あった出来事や、次はいつ遊びに来てくれるかなどの他愛もないもの。やっぱり森の外のお友達とのお喋りは本当に楽しいね。まあ、ミランさんは特別反応がよくて面白いからっていうのもあるか……。ふふふ。


 ふと、入り口の方が騒がしい、そんな気配を感じ顔を向けてみると……


「ミランさん、少しの間姫様をお願いします。私は椅子の確保へ」


「ええ? そんな事私がしますよ? って、椅子ですか? ……ああ、なるほ……、わあ! 私が行きます!! 一人にしないでください!!」


 どうやらシアさんは既に気付いていた様で、軽い悪巧みを始める。ミランさんも言葉の意味に気付いて大慌てだ。


「あはは……。ミランさん、観念して座っててね、ふふふ。受付に誰か来たら離れてもいいけどねー」


「は、はい……。ううう、今日は何の日なんですか……」


 一応逃げ口、と言うか当たり前の事なんだけど、席を離れてもいい条件を一つ掲示しつつシアさんを見送る。



 まあ、ミランさんが慌てるのも納得かな? ギルドに入って来た団体さんは……


「お、やっぱりいたな、シラユキ。バレンシアは……、ああ、椅子の用意か」


「んなの俺に任せときゃいいのにな。気ぃ使わせちまったか」


 兄様と、ちょっと久しぶりな気がするライナーさん。ライナーさんは大きな木箱を軽く肩に担いでいる。私が優に三人は入れそうなサイズだ。


「ミランはシラユキのお守りかしら? ふふ、ありがとう。あ、お兄様、シラユキは私が膝に乗せるわね」


「何? 折角仕事探しも終わってシラユキを可愛がれると思ったんだが……。むう……、まあ、しょうがない、ユーネに譲るか。ライナーはとっとと荷物を置いてバレンシアを手伝いに行け」


 姉様とショコラさん。姉様は私を早速膝抱きにして席につく。ショコラさんもライナーさんほどじゃないけど大きな籠? バスケットを二個両手に提げている。


「ふう、やっと着いたよ……。シラユキちゃんはなんか久しぶりな気がするな。聞きたい事はあるだろうけどそれはまた今度な? 今日は俺も全く余裕が無いんだよ……」


「エディくんは緊張しすぎですよ? ふふ、かく言う私もさすがに今日は緊張気味なのですけどね。それがまた気持ちよく……。ええと、ミランさんを含めると十人ですか。やはり奥の部屋を使わせて頂いたほうがいいのではないでしょうか」


 エディさんとソフィーさん。二人とも大きめの紙袋を抱えるようにして持っている。


 ああ、二人に会えるとは思ってなかったから嬉しいや。旅に出るのはまだまだ先みたいだし、今日はその事に関しては聞かないで置こうかな?

 それにしてもエディさん、ソフィーさんも何か変な事を言ってた気もするけど緊張してるみたいだね。まあ、無理もないと思うよ。私とシアさんとミランさんを入れて、ここまでで九人。残る一人はなんと。


「ここへ来るのも久しぶりだな。ああ、確かに十人では手狭だな、バレンシアには悪いが奥を使わせてもらうとするか。そうだ、シラユキは俺が抱き上げて行こう」


 姉様の膝の上で幸せ全開だった私をひょいと持ち上げる、父様。




 い、一体何が始まるんです? ……あれ? これ前にもやった気がするな……







なんとか一週間以内には投稿できました。

そろそろ裏話の方も一話書きたいですね……

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