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172/338

その172

「ちょっと意地悪な聞き方かもしれないけど……、嫌々じゃなかった? 私のお友達だからって無理してないよね? ミランさん優しいからちょっと心配になっちゃう」


 あの時はああは言ったけどやっぱり気になるもの。今日は冒険者ギルドへこの確認を取りに来たのだ。


「ふふ、嫌々なんかじゃありませんよ、ありがとうございますシラユキ様。確かにちょっと、断ったらどうなるんだろうっていう考えもよぎりましたけど、少し考えてみたらシラユキ様が私に何かなさる訳ないじゃないかって……、あ、ああ! 違いますよ! 断るのを前提としてたんじゃなくて、本当に同居人が出来る事自体は何も問題なくてですね」


 あたふたと慌て、弁解を始めるミランさん。


 今の言葉を私が変な風に受け取ったと思われちゃったかな? ふふふ、慌てるミランさんは面白いなー。っと、いけないいけない。


「大丈夫、勘違いしてないから安心してミランさん。それと、私から言うのもなんだけど、ショコラさんのこと、ありがとう!」


 椅子に座ったままだけどぺこりとお辞儀をしてお礼を言う。


 私からお礼を言うのも変な話だけど、ショコラさんは私のためにこの町に残ってくれる様なものだからね……


「わあ! 私なんかに頭を下げないでください!! ああ……、シラユキ様お優しい……、可愛らしいぃ……。あ、バレンシアさん、撫でても……」


「あまり調子に乗らない方がいいと私は思いますが……、ね」


 控えめに、上目遣いでお願いするミランさんと、それに冷ややかな、蔑む様な目で答えるシアさん。


「ごごごごめんなさい!! すみません!! 調子に乗った訳ではー!!」


 ああもう、この二人が揃うと面白いな……。シアさんも凄く楽しそう。


「駄目だよシアさん、からかいすぎ! ミランさんも撫でるくらい許可なんて取らなくていいからね! ミランさんはもう私の家族だってそろそろ自覚してほしいなー?」


「ふふ、冗談です、申し訳ありません」


「かかか家族だなんてそんな!! でも嬉しい!! あ、撫でさせて頂きますね? ……可愛いぃ……、可愛らしいぃ……」


 嬉しそうに私の頭を撫で始めるミランさん。


 むう、今のは冗談半分に思われちゃったかも。私は本気で言ってるんだけどなー……

 ミランさんは町で暮らしているけどもう森の住人の一人、私の家族で間違いはない。たまには遊びに来てほしいし、敬語もやめて欲しい。


 これはそろそろ……、強行手段を取るべきか!!






「はあ……、大満足です、ありがとうございました。バレンシアさんは毎日でも、いつでも自由にシラユキ様を撫でる事ができるんですよね、羨ましいです……」


 おお、本当に満足そうだ……。私を撫でるくらいの事を羨ましがるのはちょっと理解できないけど、そう思ってくれてるのは嬉しいね。


「ミランさんも姫様の、いえ、館のメイドになれば、いつでも、とはいきませんがある程度自由な時間に姫様をお撫でする事ができるのですよ? ギルドの受付など辞めて、ああ、冒険者でしたね。冒険者など辞めてしまい森に、館に住み込みでメイドの仕事をするのもありなのではないでしょうか。今お住まいの家はガトーにそのまま明け渡してしまいましょう」


 ミランさんメイド化計画!? 素晴らしい……、素晴らしいな……


「むむむ無理ですよ!! 私なんかにシラユキ様のお世話なんて大切なお仕事が勤まる訳が……。王族の方々の館に入る事ですら夢のまた夢だったのにいきなりそんな……」


「ミランさんは大袈裟すぎるよ。いつでも遊びに来ていいよって言ってるのに……」


 私の家に入るだけでも夢のまた夢って……。他のエルフの人はここまで大袈裟な反応はしないんだけどなー。まあ、多分ミランさんが私と同じで小心者なだけなんだろうとは思うけどね。


「ふむ……。冗談半分どころか九割冗談での提案だったのですが、自分の言葉にそれもいいのでは、と思ってしまいましたね。如何ですか、ミランさん。本気で考えてみてはもらえませんか? それと、勘違いなさっていられるようですが……、姫様のお世話は私の仕事です! いえ、使命です!!」


「ひゃあ!! ごめんなさいごめんなさい!! ううう、無理ですよう、いきなりすぎますよう……」


 いきなり過ぎる提案とシアさんの迫力に半泣きになってしまうミランさん。


 ミランさんって怒ると怖い冒険者の人なのに、シアさんと私の前だと本当にただの可愛いエルフのお姉さんだね、ふふふ。



 ぐいぐいと詰め寄るシアさんを止め、ミランさんには深呼吸をしてもらう。


 危ない危ない、了解しかけてたよ。……ちょっと惜しい事をしたかもしれない……。はっ!? 駄目だよ私!! 大切なお友達に、家族に強要するような事しちゃ駄目だよ!! 実際したのはシアさんなんだけど!!!


「もう、シアさんは……。落ち着いた? ミランさん。シアさんの言う事は聞き流しちゃっても大丈夫だからね? 私は本当にそうなってくれると嬉しいんだけど、ふふ」


「は、はい……。シラユキ様の家族に、かあ……」


 おや? もしかして好感触? もう一押し?


 目でシアさんに少し私に任せてと合図を送ってみる。そしてにっこりと頷くシアさん。え? 今ので通じたの!? さ、さすがシアさ……


「承諾か死か、お選びください」


「辞めます!! メイドになります!! ななな何でもしますから命だけはー!!!」


「違うよ!! シアさんわざとでしょそれ!! ミランさん落ち着いてー!!」


 ああもうシアさんは……、もう! 楽しそうににこにこしちゃって……、ふふふ。私も楽しいんだけどね。

 さて、また落ち着いてもらわなくちゃ。




「冒険者を辞めてとかメイドさんになってー、とかは言わないから安心してね。シアさんはミランさんをからかって遊んでるだけだから」


 本当は言いたいんだけどね!


「ど、どこからどこまでが冗談なんですか……? あ、もしかして私が森の住人になる許可を頂いたところから全部」


「おっと、落ち着いてください。やりすぎてしまいましたね、申し訳ありません。ミランさんは既にリーフエンドの森の住人の一人、姫様の家族の一員である事は間違いありませんよ。もっと自分に自信を持ってください」


 ネガティブゲージが振り切れそうになっているミランさんを、シアさんが謝り、宥める。


「ご、ごめんねミランさん。シアさんの言ってる事は本当だよ、父様からちゃんと聞いてるから安心してね? ミランさんは私の大切な家族だよー」


「あ……、あ、ありがとうございます!! シラユキ様可愛すぎます! バレンシアさん、もう一度撫でても……、はっ!? きょ、許可は要らないんですよね!!」


 私の言葉に何故か感動して、シアさんにも私にも許可を取らずに私の頭を撫で始めるミランさん。


 なんだかよく分からないけどいい流れ! シアさんはこれを狙って? ……違うね、ただ楽しんでただけだね……

 まあ、いい。畳み掛ける時だ!! シアさん睨んじゃ駄目だよ……


「ふふふ。そろそろミランさんも一回、私の家に遊びに来てほしいなー? 本当に本当の事だっていう確認もできるよ?」


 私のお願いにミランさんの撫でる手がピタッと止まる。


「さすがにそれは……。あ! 嫌だという訳じゃないんです。そ、その、まだ心の準備が……」


 むむむ、いつものわたわたと慌てて、無理ですよう! っていう言い方じゃないな……。やっぱり今日はもう少し攻めてみるべきか……!!


「シアさんに聞いたんだけど、ミランさん明日お休みなんだよね? 今日のお仕事が終わったら泊まりに来てほしいなー? 一緒にご飯も食べたいし、お風呂にだって一緒に入りたいなー?」


 く、くうっ、結構これは恥ずかしいぞ……。シアさんにもニヤニヤされそう……、って、あれ? シアさんちょっと不機嫌になってない!?


 ちゅ、中断!! 私何か変な事言っちゃった? あ、もしかして我侭言ってると思われた!?


「シラユキ様と一緒にお風呂……。お背中を流して差し上げれたり? ももももしかして抱き抱えながらお湯に浸かれたり……? ううう、でも……」


「あ、シアさ」


「今日の終業時間までに心の準備をしておいてくださいね。ああ、拒否できるとは思わないように、キャロとガトーを迎えに寄越しますから」


「ははははい!!」


「あれ!? 私が怒られると思ったのに……。あ、シアさん、強制は駄目だよー」


「まったく、姫様に甘えられる様におねだりされるなど羨ましい……。ああ、いえいえ、強制ではありませんよ? 迎えに来たキャロとガトーを目の前にして断る事ができれば……、ですがね」


「半強制!? ほぼ強制だよ!! 機嫌悪かったと思ったら、嫉妬!?」


「あああああ、どうしてこんな事に……。でも頑張らなきゃ、私はもうシラユキ様の家族の一員なんだか、ら? 実感が全く湧きません!!」


「あはは……。今日家に遊びに来たら嫌でも実感できちゃうと思うよ? 来てくれると本当に嬉しいんだけど、無理はしなくていいからね」


「姫様、逃げ口を用意してあげなくても……。本当にお優しい方なんですから……」


「……いえ、行きます! 行かせて頂きます!! ……やっぱり無理ですよう!!」


「どちらですか……。まあ、頑張ってみてください、姫様も期待されていらっしゃいますよ」


「ミランさん頑張ってー!!」


「!? かわっ、可愛い!! 頑張ります!!!」






 その日の夜、談話室でショコラさんとキャロルさんの帰りを待つ私。ドキドキものだ。


「ううう、来てくれるかなミランさん……」


 椅子に座り、紅茶を飲みながら、もう何回も言っている事だけどついついまた口に出てしまう。


「来てほしいね、ふふ。まあ、ご飯も済んじゃったし後は寝るまで少しお喋りするくらい? シラユキはお風呂に一緒に入りたいんだっけ」


「ミランさんってそんなにいい人なんだ? 大好き? 姫も町じゃ甘え辛かっただろうし、家に呼んでまで甘えさせてもらいたいんだね。あ、今日の添い寝当番私なんだけど……、ひ、姫?」


 添い寝当番? あー、ミランさんと一緒に寝る? それもいいなー。でも揉んじゃったらどうしよう……


「考えてなかった……。メアさんは、嫌?」


「嫌って言われればそれは……、嫌かな……。うーん、でも姫の大切なお友達だもんね、我慢するよ」


「一日延びるのは確かに、私も辛いですね。メア、お互いミランさんが来られない事を祈りましょう」


「一緒に寝てって私が言わなければ大丈夫だよ! あ、お部屋はもう用意してあるの?」


「ん? うん、お客様用の部屋をね。来なかったら来なかったでいいんだけど、折角用意したんだから来てほしいわよねー」


「そうだよねー。と言うか早く来てくれないと姫のお風呂の時間になっちゃうよ。少し遅れるくらいはいいんだけどね、生活のリズムが崩れちゃ」


「ああ、帰ってきたみたいですね。……? 足音が二人? あの二人、まさか連れて来れなかったのですか。もしかしたらミランさんを泣かせてしまったのかもしれませんね……」


 シアさんが何かに気付いたように入り口に顔を向け、少し首をかしげ、呟く。


 あ、足音? え? 聞こえないよそんなの……。シアさんって足音で誰か来たかとか判別できちゃうの!?



「ただいまシラユキ。やはりいいなこれは……。っと、連れて来たぞ」


「うだうだ言ってたんで連行しちゃいましたけど良かったんですよね? シア姉様」


「あ、ショコラさんキャロルさんおかえりなさー……い?」


「ああ、なるほど。二人とも、いい仕事です。こんばんはミランさん、楽しそうで何よりです。お誘いした甲斐がありました」


「楽しくありませんよ……。あ、こんな格好ですみません、シラユキ様、バレンシアさん、こんばんは……」


 ショコラさんの肩に担がれながらも、ひらひらと手を振り挨拶するミランさん。疲れている様に見えるのはお仕事の後だからだろう、うんうん。


 ふふふ、何か面白い事になっちゃってたみたいだね。ミランさんには悪いけど、連行して来てくれた二人には大感謝だ!!







いい所?ですが、次回は少し間が空くかもしれません。


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