その170
昨日の話し合い、相談時の言葉通り、ショコラさんとキャロルさん、それにシアさんの三人でミランさんの家に住まわせてもらえないかとお願いをしに町へと行っている。私も誘われたが今回は遠慮した。何故かついて行く気になれなかったのだ。
何故か、でもないか。何となく理由は分かっている。自分の事なのに何となくっていうのも変な話だけどね……
私は、冒険者ギルドに行きたくないんだろう。正確にはエディさんとソフィーさんに会うのが怖く……なってしまったんだと思う。最初から別れを前提としたお付き合いだった。でも、それを実際に二人の口から聞く事が怖い、どうしようもなく怖い。
別に今日ギルドに行くと二人に会ってしまうという訳でも、運良く? 運悪く会ったところで、そろそろお別れですね、なんていきなり切り出される訳でもない。可能性はゼロではないけど。
だから、まあ、その……、何となく行きたくなかったんだ。
「昨日の今日だからしょうがないって、シラユキにはいきなりすぎたからね。もうちょっと心を整理してから、そうね、こっちから聞いちゃってみるとかどう? そうやって答えの出ない問題に悶々としてるよりいいでしょ多分。とりあえず今日は……、私とメアに甘える? ふふ、今日も、かな」
「散歩に行くなら付き合うよ? 今日は私たち二人とも暇だしね。まあ、忙しいっていう日も滅多に無いんだけどさ。部屋に篭ってるより外で何かしよう?」
私から何か喋った訳でもないのだが、二人は察してくれているみたいだ。それともただ単に私が分かり易い性格をしているだけなのかもしれないが。
よし、今は忘れよう。フランさんの言う通りいくら私が考えたところで答えは出ないし、メアさんの言う様に気晴らしに何かをして悪い考えを追いやってしまおう。
「うん。でも何しよう……? 私って趣味って呼べる物は何一つ無いよね……」
悩みがある時は趣味や仕事に打ち込んで忘れるっていうのは聞いた事はある。でもその肝心の趣味が私には無い、仕事もだ。
趣味……、趣味か。フランさんの場合は料理、あ、メアさんもだね。まだ私には教えてくれないよね。
転生前、前世の私の趣味はゲームか……、ある訳無いね。ゲームといえば将棋やチェスに似た感じのボードゲームがあるくらいかな? 全く興味が無いからルールも何も知らないんだけど。
「うーん……、姫の趣味っていうと読書くらいだよね。でも今日は外に行かない? 最近また運動不足になってると思うよ」
私の髪を一房手に持ち、クルクルと指に巻きつけながら提案してくるメアさん。
運動かー。ちょっと前に兄様とクレアさんと三人で町に行ったくらいかな。運動不足はいつもの事だけど魔力疲れを起こしちゃったせいで安静にさせられていたからね。
「広場まで軽く散歩か、姉さんに会いに花畑に行くのもありかな。シラユキはどこか行きたい所はない?」
フランさんも私の髪を一房持ち上げ、毛先で自分の手の平をくすぐっている。二人とも手持ち無沙汰なんだろう。
「特にないかなー。でもコーラスさんの所に遊びに行くのはいいかも。そうしよっか? お弁当用意してもらってもいい?」
「決まりね。それじゃパパッと作っちゃいますか。私がやるからメアはシラユキと待っててー」
フランさんは返事を待たずに部屋から出て行こうとする。
「りょうかーい。ほーら姫ー? 今日もキスしまくるよー」
「キスはいいけど唇舐めないでね! あ、私ここで待ってるから二人で作ってきていいよ。その方が早いし楽だよね」
多分サンドイッチと簡単なおかず数品だと思うけど、二人で作った方が、と思う。
「え? あ、ああ、いいのいいの、私一人で充分だから、ね。……そうだメア、シラユキの着替え、お願い」
「うん、任されたよ。はい姫、行くよ」
「う? うん。……うーん?」
メアさんは私を椅子から立たせ、手を引いて歩き出す。
何か今の二人の会話……、なんだろう? 違和感を感じた様な……。んー……、分かんないや。
ベンチに座るコーラスさんの膝の上でのお昼ご飯。花畑に着いてすぐに捕まり乗せられてしまったままだ。コーラスさんはいつ来ても大歓迎してくれて嬉しいね。
「はいシラユキ、あーんして、あーん……」
「あーん……。むう、恥ずかしいけどやっぱり嬉しい。ありがとうコーラスさん」
心が軽くなった気がする、本当にいい気晴らし、気分転換になったね、ふふ。
「さっきからお礼ばっかり……。ま、私がシラユキの何か役に立てたのなら嬉しいわね。ただ可愛がってるだけでこんなに喜ばれるなんて……。うーん、シラユキ大好きよー!」
強く抱き締められ、頬擦りされ、キスもされまくってしまった。
「何度見てもこの緩みきった姉さんはウケるわ……。私からもありがと、姉さん。今日はちょっと気落ちしちゃってたのよねこの子」
「シアたちが帰ってきてもそのままだったらどうなってたか……。ホントに助かったよ。でも役に立つなんて言い方はちょっと……」
シアさんたち三人は私がついて行かないなんて思ってもみなかったみたいで心配そうにしてたもんね。シアさんが私が帰って来るまでに云々言っていたのはそういう意味だったのか。
「力になれた、に言い直しておきますか。確かにそう言われてみるとちょっと元気なかったわよね、今はもう大丈夫そうだけど。何かあったの? バレンシアが側にいなくて寂しい?」
「なんでみんな私はシアさんがいないと元気なくなるって思うの!? い、一日くらい平気だよ! メアさんもフランさんも、家族みんないてくれるし……」
それだけシアさんは私と一緒にいる時間が長いっていう事なんだろうと思うけど、それを言ったらメアさんフランさんも同じだと思うんだけどなー。
「何て言うか……、親子? うーん、姉妹? シラユキの隣にはバレンシアがいるっていうのは当たり前みたいなものになっちゃってるわよね。家族、恋人、夫婦、愛人……。色んな言葉があるけどシラユキとバレンシアの関係は明確には表現できないかもね。主従っていうのが近いかもしれないけど……、ああもうそんな顔しないの。ごめんね?」
極々たまーに命令しちゃう事もあるから、一応主従で合ってるといえば合ってるんだけどやっぱり……
「私たちの場合は家族、かな? メイドなんだけどね。森のみんなより距離が近い家族だよね、ふふふ。将来的にはさらに愛人にもなるかも?」
うん、家族かな。……愛人はちょっと、ね。一緒にいてくれるのは凄く嬉しいから嫌じゃないんだけどさー。
「なるなる。でも私って旦那いるんだけどいいのかしらね、ふふ。姉さんもどう?」
どう? じゃないよ!!
ふう、二人が楽しそうだからちょっと止めずに聞いてみようかな。まったく二人とも、シアさんに影響されすぎだよ……
「あ、ああ、この子のメイドさん好きはそこまで……。まあ、私はいいと思うけどね。シラユキくらい可愛かったらどんな趣味でも許されるわ、うんうん。愛人かあ……」
遠い目をしながら溜息をつくコーラスさん。
何? まさかコーラスさんは誰かの愛人さんになってた時期でも……ないか。
コーラスさんは千年以上生きてるんだよね。結婚もHもした事がない、でも、恋愛は何回かしてきてるんじゃないのかな? 昔を思い出させちゃったのかもしれないね……
「ウルギス様の……、おっと」
「何狙ってるの!? 駄目だよダメー!!」
話が盛大に逸れてしまったので修正。今日私がどうして少し気落ちしてしまっているかの説明をフランさんがしてくれた。
「ふーん、まーたお別れ? ……ねえシラユキ? いい機会だし、これでもう冒険者と付き合うのはやめなさいって。外泊訓練とかは私も楽しかったんだけど……、とにかく心配よ。まだ前の時から十年と経ってないじゃない」
「あう。こんなにはっきり言われたのは初めて……」
確かに冒険者のお友達を作らなければこんな悲しい、寂しい思いはせずに済むんだろう。多分みんなそう思いはしても口には出さなかった事だね。他種族のお友達はあまり作らないで欲しいとは言われた事はあるけど少し意味合いが違いそうだ。
「ちょっと姉さん? もう少し遠回しに、歯に衣着せてあげてよ……。友達作るなって言ってるようなものよそれ。でもやっぱり姉さんは凄いね、私たちじゃそんなにはっきり言えないわ……」
「う、うん……。姫にはあんまりそういう悲しい涙は流させたくないんだけど、やっぱり友達は作らせてあげたいかな。冒険者じゃなくて、ショコラみたいな竜人とか、他にも町にすんでるエルフとかさ……。たった数年でお別れしちゃうのは辛いよ、私も心配」
フランさんとメアさんは優しく私の頭を撫でてくれる。
「あー、ごめんね? ちょっとしんみりさせちゃったわね、反省反省。はいはい、私が言い出したんだけどこんな辛気臭いお話は終わり! シラユキは自分のやりたいようにやればいいから悩まないようにね。寂しくなったら私に甘えに来なさい、って言うか来て! むしろ私が行くから!! また吸ってね?」
「吸いませーん!! うん、絶対寂しくなって泣いちゃうから慰めてもらいに……、うん? 来れるかなあ……。みんなに構い倒されそうだしね、ふふ」
「おっパンもキャロルもいるからねー。寂しいなんて思う暇は与えてあげないから姉さんも安心していいよ」
「行くから! 泣いてなくても行くから!! おっパン? ああ、ガトーショコラだっけ? シラユキ好みの胸の……。私から可愛いシラユキを奪おうなんて許せないわね」
「姫的おっぱいランキングでトップのエネフェア様に続いて2位の位置なんだよ。お風呂で見たけど納得しちゃうねあれは」
「誰にも言った覚えはないのになんで知ってるの!?」
「へえ……。ちなみに私は何位なのかしらねー? シラユキー?」
「あ、私は? 3位はレンだよね多分」
「え? フランじゃないの? 私とシアが4位5位辺りなんじゃないかなって思ってるんだけど。4位以下は団子状態かも」
「ひ、秘密!!」