その169
「第二段階は私も協力するという事になりましたので、成否に問わず第三段階へと進める事にしましょう。ガトーをリーフサイドに留めておく事ができなかった場合の試験も考えないといけませんね。まったく面倒な……、ああ、私のせいでした、失礼」
「やった! これでシラユキ様の添い寝当番に一歩近付いた!! もうガトーなんて追い出して第三段階に進めちゃいません?」
「ダメー! それはダメー!!」
「はいはい、ツッコミはいいから。あっちの三人は放っておいて私たちに構われてなさいって」
「ははは、さすがに冗談……、? おいバレンシア、その手があったかっていう顔はやめろ」
「冗談ですよ。まあ、これからは私も話し合いに参加しましょう」
「シアがいればどうとでもなるんじゃない? 私たちは姫と遊んでるからそっちはそっちで頑張ってねー」
談話室へと戻った私たちを待っていたのは、キャロルさんとショコラさん、そして、少々不満顔のメアさんとフランさん。
内緒話の間談話室で待ってもらっていたのだけど、その後のシアさんとのお話と、さらに母様の所まで行ってしまっていたので待たせすぎてしまった様だ。
今私はフランさんの膝の上で、少し離れた所で今後の相談を始めたシアさんたち三人を眺めている。すぐ隣にはメアさんもいて交代を待っている。
悪い事をしてしまったお詫びの様なものなのに私も幸せ、複雑だね。
「話し合いって言っても何を話すんだろ? シアは今日あっさり帰って来ちゃったしね」
「なんか、シラユキが泣いてるんじゃないか? って胸騒ぎがして急いで帰って来たとか言ってたわよね。さすが、って言うのも変かな、泣かしちゃったのはレンだし?」
私を撫で、頬をグニりながら普通に話し出す二人。まあ、特に文句も問題も無い。
「みんながどう思っても本当に悪いのは私なんだからね? 泣いちゃっただけで泣かされた訳じゃないし、シアさんを悪く思わないでね、お願い」
「私もシアが悪いと思うんだけどねー。でも、お願いなんてされなくてもシアを悪く思うなんて事はないから安心してね、姫」
「そうそう。レンがシラユキを泣かそうと思って泣かす事なんてありえないから大丈夫。私ら三人の絆はこの程度じゃ崩れないって。ホントに優しすぎる子なんだからシラユキは……」
シアさんのフォローを入れたら私への可愛がりが強まってしまった。
私は優しいなんて言われる様な何かをした覚えは無いんだけどなー。まあ、言われて悪い気はしないからいいんだけど。実際のところただの我侭な、過保護にされてるだけの子供だよ私って。
「そういえば、シア姉様? 今日の確認って言ってたのは何だったんですか? 宿代を一気に減らせる策があるんでしたっけ。もう聞いても大丈夫ですよね」
それは私も気になる。住む所が確保できれば一安心、後はゆっくりお仕事を……、あれ? 逆か? 収入を増やす手立てがないと住む所があってもしょうがないよね。
「そうですね、できたら自分で気づいてほしかったのですが……。やはり冒険者生活に染まり切ってしまっているとこの発想は中々出て来ない物なのでしょう」
「ええい勿体振るな。お前の悪い癖だぞそれは」
確かにシアさんって前置きが長くなりがちだよね。私はそういう話し方は嫌いじゃない、どころか好きな方だから止めないけどね。
「別に勿体振っている訳では……、と、これですか、ふむ……。では早速結論から、現状を維持したまま住む場所を変えればいいんですよ」
げ、現状維持したまま? これはあれだね、わざと分かり難く言ってるね……
「どういう意味ですか? それ。ガトーの現状って居候……、あ」
「おお、なるほどな。他人に頼るっていう考えは確かに出て来んよなあ……。何十年と過ごしたというならともかく私はこの町へ来てからまだ数日だからな、そんな事思いつきもしなかった」
他の人に頼る……、なるほどねー。
ショコラさんは今私の家でお世話になっているから宿代はゼロ。次は別の人の家に住めば、っていう事だね。食費さえ入れれば住んでいいよって言ってくれる優しい人もきっといる筈だよ!
んー? ショコラさんってリーフサイドにお友達とかお知り合いはいないのかな? リーフサイドはエルフも多いし、百年前会った、とかありそうなものなんだけど……
話し合いの邪魔になっちゃうかもしれないけどちょっと聞いてみよう。
「ショコラさんはリーフサイドに、最近出来た人たち以外にお友達はいないの? 初めて来た訳じゃないんだよね?」
私の質問に三人は、話し合いを中断しこちらへ顔を向ける。
しまった、全力で邪魔しちゃったかもしれない……
「誰もいないな。私もそれなりに長く生きている方だが世界の、大陸全てを回った訳でもない。それにな、リーフエンド、特にリーフサイドの町には好んで来ようと思う者は少ないと思うぞ?」
え? やっぱり私の国って嫌われてる……? あれ? でもエルフが多いから目の保養に訪れる人は多いとかずっと前に聞いたような……
「ちょっとガトー? シラユキ様に誤解を与えるような言い方しないでよ。シラユキ様、覚えていませんか? 他の国で冒険者登録時に誓わされる言葉を」
「誓わされる言葉? 冒険者の登録時……、ああ!! リーフエンドには手を出すな、だっけ? もしかしてそれで?」
「国内で登録した冒険者にとっては何を怖がる事があるんだといった感じらしいのですが、国外の冒険者には、まずこの国は怖い国だと教えられるようなものですからね。国内でエルフとすれ違うだけでも緊張ものらしいですよ。私とキャロはエルフなのでそこまで気にはなりませんでしたが、それでもちょっとした……、苦手に思うと言いますか……、進んで自ら、という考えは持てませんでしたね」
「カルルミラくらいここから離れていればそうでもないんですけどね……。それに、リーフエンドの森周辺の町は依頼が少なすぎるんですよね。シラユキ様は旅の途中ずっと馬車に篭り切りでしたからまだそういった事までは分かりませんよね。ふふ、成人されたら他の町へ一緒に遊びに行きましょうか?」
「はー。なるほ、ん? 成人したら……? うん!! 嬉しいな!!」
今のは何気ない一言だったと思うけど、私からするとキャロルさんは私が成人しても一緒にいてくれるって言ってくれたみたいで嬉しい!!
「あれ? やけに喜ばれちゃった……。わ、シア姉様? ちょ、嬉しいですけどシラユキ様の前では恥ずかしいですって!」
シアさんは笑顔でキャロルさんの頭を撫でている。
「ふふふ、ごめんね邪魔しちゃって。続けていいよー」
「上機嫌だね姫。にこにこしちゃって可愛い……。フラン代わってよ」
「あ、うん、そろそろ交代しようか。その前に、んー……」
フランさんに熱いキスをされてしまった!
「嬉しいけど恥ずかしいよ! もう唇狙いが当たり前になっちゃったの?」
メアさんに手渡されながらも質問をしてみる。手荷物扱いももう完全に慣れたものだ。
「やっぱりキスって言ったら唇に、じゃない? 私は姫にキスするのが大好きだからどこにでもするんだけど……」
私を受け取ったメアさんは、椅子に腰掛けながらフランさんの代わりに答えてくれた。
それはそうなんだけど……。くう、なんか嬉しい一言を貰ってしまった!! でもどこにでもっていうのはちょっと怖いです!
「別にそういう訳じゃないんだけどね、シラユキを見てるとついついかな。もうキスしたくて堪らなくなってきちゃうのよね……。舌はまだ入れないから許して」
あー、あれだね。ペットを可愛がってるときに感極まってキスしちゃう感じ。うん、納得納得……、まだ!?
「許す許さないとかは気にしなくていいけど、最近シアさんだけじゃなくてメアさんもフランさんも怪しいよ……。信じてるからね!」
「冗談にこの反応、やっぱりシラユキは可愛いわー……。私は冗談だけど、メアとレンはどうかしらねー? ふふふ……」
「え? 許可さえ出れば毎日でもしたいけど? 姫の小さな舌を絡め取りたい!」
「私もです。面白そうな話をされていますね……、私もそちらに参加したいです……!!」
「シア姉様は是非私と!! 再会してから軽いキスしかしてくれてないじゃないですかー! 後胸も吸わせてください!!」
「バレンシアもメアも子供をどういう目で見てるんだ……。まあ、私はここにいる全員としても構わんが。ああ、キャロルは私の胸を吸ってみるか? お前も可愛いからな」
「誰から突っ込めばいいの!! とりあえずは許可なんて出しませーん!! 生々しい表現もアウト!! キャロルさんはそういうのはシアさんと二人っきりの時言うように! ショコラさんは母性に溢れすぎてるよ……」
「しかし、誰に頼ればいいものか……。バレンシアはその確認に行っていたんだな。キャロルと私がその答えに辿り着いた場合を踏まえてか、相変わらず優しさを表に出さん奴だなあお前は……」
ショコラさんはにこにこ? ニヤニヤとしながらシアさんをからかう様に言う。
「私としては同じ考えではなく、別の解決法を見つけ出してほしかったのですけどね。まあ、発想力、臨機応変さを測る試験だったのですよ。自分自身で潰してしまったのですが、ね。まあ、それはもういいでしょう。一応候補としましてはミランさんが最有力ですね。一人暮らしの女性のエルフ、適任でしょう? ナタリーさんと共同で宿を一部屋取るという案もありましたが、長い付き合いになる事を考えると他種族の方はどうしても……、失礼、忘れてください」
私が変な事を考えてはいけないと、メアさんが長くキスをしてくる。
もう考えちゃったんだけどね。私が成人するまでの約八十年、人間種族にはちょっと長すぎる時間だよね……、ひい! 唇舐めないでください!! 舌入れられるーー!!!
「メアメア、ちょっとやりすぎだって」
「あ、ごめん。姫、怖かった? ごめんね? 私ってそっち方面に転がっちゃってるのかなあ……。まあ、姫相手なら全然OKだけど」
「あ、ありがとうフランさん……。怖くは無かったけど抵抗があるの!! メアさんはもう戻れないところまで……?」
「あはは、冗談冗談。フランとかシアとか、すっごい美人だけど全然そんな気は起こらないから安心して。キスしたくなるのも姫だけだって」
「安心だけど安心できない!! 後メアさんも美人さんだよ!! 大好きだよ!!」
「私も大好きだよ姫!! あー、混乱しちゃってもう……。今日の姫っていつにも増して面白可愛いね。とりあえずもう一回キスしよう」
「私もあっちに参加したいなー……。っと、ミランさんですか? へー、一人暮らしなんですね」
だからメアさんは唇舐めないでー!! メアさんはもう私に対してのみは完全にアウトだよ!! ……へ? ミランさん?
「ああ、ミカンか、いいかもしれないな……。早速明日にでも相談を持ちかけてみるか」
ミカン? 確かにオレンジ色の髪だけど……、ふふふ。
「子供の頃はミカンと呼ばれていたみたいですね、どうでもいいですが。ミランさんは少し緊張され易いと言うか反応が大袈裟と言うか……、とても楽しい方ですよ。性格も優しく、姫様のご友人としても文句の付け所の無い方ですから、私一押しです。姫様からは既に友人を超え家族扱いもされているんですよ。Sランクのガトーとの同居も最初は辛いかもしれませんが、貴女の人となりを知ればすぐに打ち解ける事ができると思います」
ミランさんは町に住んでるけどもうこの森の住人だからね、大切な家族だよ! でも未だに私たちには敬語なんだよねー。受付生活が長かったからだと思いたい。
「ミランさんはちょっといい人すぎますよね。あんまり迷惑を掛けすぎる様な事はしたくないですけど……。あ、他にも候補はいるんですか?」
「ええ、まだ何人かは……。でもちょっと、ここでは言い難いですね」
「言い難い……? あ、ああ、分かりました、ミランさんがどうしても駄目だったときにまた聞きますね」
私の方をチラチラと見ながら答えるシアさんと、その視線の先を見て突っ込んで聞こうとはしないキャロルさん。
誰? 私の知ってる人なの? ううう、気になる……
「共同で宿を取るならソフィーティアもいいかもしれませんね。ガトーなら襲われても軽く返り討ちにできますし、いいんじゃないですか?」
いくらソフィーさんでもSランクの人に襲い掛かったりは……するね、絶対するね……。まあ、どっちにしてもソフィーさんはそろそろ……
「ソフィーさんはもう暫くしたら次の町へと行かれてしまいますよ、一つの町に留まるのは五年と決められているんです。遅くとも来年中にはまた旅に出られてしまいますね……」
シアさんはまた私の方にチラチラと、今度は心配そうに目を向けてくる。
「すみません!! うっわー、やっちゃったー……。メアリー、シラユキ様泣いてない?」
「ん? だいじょぶだいじょぶ、ちょっとだけ気落ちしちゃってるけどね。姫だって最初に友達になるときに聞かされてるから大丈夫だよ、キャロル」
うん、あんまり大丈夫じゃないかもだけどね。
ソフィーさんとお友達になった日に、じゃなくて少しだけ後で聞かされたんだよね。五年経ったら他の町に行くって。シアさんに真剣な顔でもう会うなって止められてビックリしちゃったねあの時は……
「一生の別れになる訳ではないが、その時を思うと心が痛むな……。シラユキ、私が全力で慰めてやるからな」
「私もです! それまでに添い寝権を獲得しておかなきゃ……!!」
「ええ、頑張りなさい。ついでにエディさんも連れて行くつもりらしいですけど、それは本当にどうでもいいですよね?」
「初耳だよ!! え? ええ!? このタイミングで言うのそれ!!」
「ちょ、シア、エディさんって人間の……。あれ? 姫泣いてないね? そこまで好きな友達じゃないのかな、よかった……」
「男の人だからなんじゃないの? ああ、でもラルフって人のときは大泣きしてたっけ……。まあ、再会も果たしたし、シラユキも少しは強くなったのかもね」
「う、うん……。お互い生きてる間なら私が頑張ればまた会えるよね……。そっかー……、エディさんも一緒に行っちゃうんだ……」
「ああ、暗くなっちゃった。ショコラだけじゃなくて私たち全員で構い倒してあげるから安心してね、姫」
「バレンシアの方こそ大丈夫なのか? 今のは相当悩んだ上での発言だろうに」
「余計な事は言わなくていいんですよ。貴女はまったく……」
「あ……、そうだよね。シアさん、ありがとう! ごめんね? 大好きだよ!!」
「姫様……!! もう今日の話し合いは中止です!! メア、交代してください!」
全然書く余裕ができないです。
次回も一週間以内には何とか……