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166/338

その166

 ロレーナさんはおやつを食べた後に自宅へと帰って行ってしまった。次にまたギルドの手伝いに行く日まで家でゴロゴロと寝て過ごすらしい。


 び、美人さんなのになんて勿体無い。あのまま毎日外を出歩いていれば男の人に声をかけられたりもするだろうと思うのに……



 すっかり目が覚めた私は、でも特に勉強や何かをしようという気はやっぱり起こらず、適当に小説を読んで過ごす事にした。

 書庫にある小説の事ならシアさんが詳しい、早速お勧めを一冊選んで貰って談話室へと戻る。一応フランさんとメアさんの分も選んで貰う。ぼーっとしてるだけは辛そうだしね。


 シアさんが二人に本を手渡し、そういえばシアさんは何も読まないのかな? と思っていたら後ろから持ち上げられ、そのまま膝抱きにされてしまった。


 なるほど、一緒に読みたかったんだね。なんという素晴らしい提案、喜んで受け入れようじゃないか。

 さて、私に選んでくれた本は何かな……






 シアさんの選んでくれた本は恋愛小説、かな。とある国の王宮の下働きの女の子が何故か王子様や宰相、騎士団長等の男性に気に入られ言い寄られるという、所謂逆ハーレム的なお話みたいだった。

 際どい描写は特に無く、気を楽にしてペラペラとページを捲っていく。


「シアさんはこういう恋愛小説って好きなの? こんな感じに男の人から言い寄られまくる、ええと、逆ハーレムっていうのかな?」


 私の質問にメアさんとフランさんもピクリと反応を見せる。でも何も言わずに耳だけをこちらに向けて聞き耳を立てている様だ。


「創作として読む分にはそうですね、好きな方です。実際複数の男性に言い寄られた経験のある私からすると楽しんで読めるんですよ。現実はこうはいきませんよね……」


「実際経験があるって凄いね……。シアさんは綺麗だし強いしカッコいいし、男女問わずモテモテだったんだよね、きっと。このお話みたいにどこかの国の偉い人に目を付けられたりもしてたの?」


 う……、想像してちょっと不安になってしまった。シアさんくらい素敵だと権力を使ってでも手に入れたいっていう人も絶対に出て来てしまうはずだよね。


「そういった方々は冒険者などに興味を向けたりはしませんよ。まあ、絶対に無いとは言い切れないんですが、ね。ふふ、ご安心ください、何か酷い目に会わされた、などはありませんでしたから。私に何か仕掛けるには相応の覚悟が必要だと皆分かっていたのでしょうね」


「そっか、シアさんは当時は凄く有名な人だったんだよね、色んな意味で。うん、安心しちゃった。変な事聞いちゃってごめんね」


「え? いえいえ、姫様が謝られるような事など何もありませんよ? むう、気を使われてしまいましたか……」


 シアさんの過去は気になるけど、何が引き金になって思い出したくない過去に繋がってしまうか分からないのがちょっと怖いね。シアさんの冒険者時代のお話はもっともっと聞かせてほしいのになー……



 暫く三人がページを捲る音だけが部屋に響く。

 物語もそろそろ中盤くらい、周りの男性のアプローチが激しく、直接的な物に変わってきた。


 ちょっと読むのが恥ずかしくなってきちゃったね。キスされたり抱き締められて愛を囁かれたり、ベッドに押し倒されたり……。押し倒されただけでその先は何も無いんだけど、読んでて心臓がドキドキしてしまう。


「ふふ……。は、失礼しました」


 急にシアさんが優しい声で笑い、その事を謝ってくる。


「え? これ笑うような内容なの? この王子様が強引な人だったら、その、しちゃってるところだよ?」


「ああ、いえ、そうではなく……。顔を赤められて、鼓動を早めながらも読み進める姫様がとても可愛らしくて。申し訳ありません」


「ほ、本じゃなくて私を見て笑ってたの? だって恥ずかしいよこれ。お、押し倒されちゃってるんだよ? 私だったらきっと泣いて逃げ出しちゃうよ」


「小説の登場人物に感情移入して読めるのはいい事だと思いますよ。姫様にはまだ少し早かったかもしれませんね……、この先、ありますよ?」


 ある? 何が? ナニが!?


「ここまで読ませておいて今言うの!? つ、続きが気になるから読むしかないよ! 前半のほのぼのさのまま最後までいってほしい……!!」


 今更だけどこれ女性向けの恋愛小説だった! そういうシーンも描写付きで書かれているかもしれない……


 ちょっと二人の方へ目を向けると肩を揺らしてくすくすと笑っていた。



 うーん、やっぱり選ばれるのは王子様かなこれ。王子様の妹のお姫様の側仕えに出世?してるし、王様と王妃様からも覚悟を決めろとか遠回しに言われ始めてるね。同じお側仕えの同僚の人と結婚についての相談まで持ちかけてる。身分の差はやっぱり気になるよね。


「ふう、ちょっと休憩。レンの選んだ本だけあって面白いねこれ、集中しちゃったよ。シラユキとメアはどう?」


「うん? あ、私も集中して読んじゃってた。後四分の一もないくらいかな。面白いけどこれを私に薦めた理由は……、とりあえず読み終わってから聞こうかな」


「どんな内容なの? 私もそろそろ終盤かな。ドキドキしてきちゃうね、ふふふ」


「この先どうなるか知っている私には姫様の反応が楽しみでしょうがありませんね。ドキドキしてしまいます、ふふふ」


 真似された! くう、今のシアさんは可愛かった!!




 ドキドキしながらページを捲っていく。ついに主人公は覚悟を決め、告白をするようだ。


 まあ、選ぶのは王子様で間違いは無いんだけど、問題は告白後だね。か、軽い描写であることを祈るよ!


 そして告白シーンへと続くページを捲る……


「……ん? え!? ここでこうなるの!? シアさん何これ!!」


「何、と問われましても、小説ですよとしか……。お気に召しませんでした?」


「そういう意味じゃなくて……。なんでお姫様に告白するのこの主人公は!! 普通この流れなら王子様と結婚するんじゃないの!?」


 しかも告白を受け入れるお姫様もお姫様だよ! 早速、アレを始めちゃってるし! 描写も生々しいし! 恥ずかしいし!! へ、へー、女の人同士ってそういう風にするんだー……


「これが普通だと思いますよ? 考えてみてください姫様。主人公がノーマルだとしたら、王子様に言い寄られるなどされたら即受け入れるのではないでしょうか? 女性趣味の主人公だからこそここまで話を引っ張り続ける事ができたのですよ。この物語の作者は本当に素晴らしい話をお書きになりますね、大ファンです」


 た、確かに!! でも納得はできない!! もやもやするわー!!!


「ああ、姫の方もそんな話だった? 私のもお姫様と女性の騎士の恋愛話だったよ。中盤からHしまくりで読んでて恥ずかしいったら……。でも勉強になったかも」


「あはは、そんな気はしてたよ。私のは、ええと、いつだったっけ? 女性が主人公の冒険物があるってレンが言ってたよね、今更だけどそれだったよ。最後主人公に伝説の性剣とか言ってアレが生えるのは予想外だったわ……。いやー、絡みの描写が素晴らしいねこれ、清楚なお姫様がまさかの、おっと、これは実際読んでみてほしいね」


 アレって何!!? 二人のもそんな内容だったの!?




「ちなみに三冊とも同作者の作品です。私一押しですよ」


「そういうのばっかり書いてる人なんだその人……。うう……、シアさんってやっぱり……?」


「ああ、いいえ、そういう訳ではありませんよ。私が姫様を裏切る様な真似をするとでもお思いですか? 私は女性に興味などありません。しかし、興味が無いからといって学ぶべき事から目を背けてはいけません。性描写の生々しい本を選びメアとフランに読ませたのもその理由あってのことです」


「私たちに? まあ、うん、私のはホントに回数が凄かったから色々と知れたよ……」


「最後の性剣は冗談としても、それまでのは普通に女性同士の絡みだったからね。レンもキャロルとこんな風にしてたの? ど、どっちが攻めでどっちが……、ナイフはしまおうか」


「想像させないで!! べ、勉強のためなの? こんな勉強はしたくないよー……」


「姫様には早すぎましたね、申し訳ありません。ですが、将来必ず必要になる知識なので色々と学んでおくべきだと私は思うのです。特にメアとフランはもっともっと深く知っておかないといけませんよ?」


「必ず必要ってなんで!? もしかして、みんな本気で私は女の人の方が好きだって思ってるの!? さ、三人とも大好きだけどそういうのは、その……、ううう……」


「うわ可愛い……。あ、違うよ姫、姫が知っておくのは最低限だけでいいってこと。確かに将来の事を考えると私とフランはもっと色んな、アレの仕方を知っておくべきかなあ」


「なるほどね。レンはどこまで本気なんだか……。あれよシラユキ、愛人愛人。私ら三人とも将来的にはシラユキの愛人になるんだから、それまでにシラユキを悦ばせる方法を勉強しておかないといけない、ってレンは言いたいのよね?」


「はい、その通りです。キャロを貸し出しますから練習も」


「怒るよシアさん……?」


「!? 申し訳ありません!! ちょ、調子に乗りすぎた様ですね……。ただその、姫様に私の好きな作者の本を読んで頂き、その反応がとても可愛、らしく……、は、あ、あああ……。申し訳、ありませんでした……」


「うわあ! 泣かないで!! 違うから! 私が怒ったのはキャロルさんを貸し出すとか言うから……。キャロルさんはシアさんのことが大好きなんだから冗談でもそんな事言っちゃ駄目だよ?」


「はい……、はい! なんてお心優しい……。猛省致します……」



「ビックリした……。シラユキ、気をつけてね? シラユキが叱るとレンは自殺しかねないから」


「私が気をつけるの!? うう、そう言われると悪い事した気分になっちゃう。シアさん泣かないでー、今日はずっと私を膝の上に乗せててもいいから……」


「はい、ありがとうございます姫様……。では、気を取り直して最後まで読み進めましょうか」


「最後までって! ふ、不安すぎる!! この先はどう考えてもお姫様との蜜月の日々だよ!!」


「姫、勉強だよ勉強。シアだってちゃんとお姫様と主人公がくっ付く話を選んでくれたんだからね。あはは」


「分からない所がありましたらどんどん質問してくださいね。私が詳しく、具体的に例を挙げて説明して差し上げますので……」


「分からないままでいいですー!! シアさん絶対そっちの人だよ!! でも信じたい……、信じなきゃ……、信じさせてー!!」




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