その163
ショコラさんの食べた量はフランさん目算で六から八人分はあったらしい。なにそれこわい。一日三食その量を食べてたらそれは食費も相当な額になっちゃうよね。
ライナーさんも結構食べる方だと思うし、その二人が毎日依頼をこなしてその報酬でぎりぎり賄えてた感じだとすると……
冒険者ギルド本来の依頼と、高額報酬の雑務依頼。この二つを頑張ればなんとか食費くらいにはなるんじゃないかな?
多分今までは質と量をどっちも取っていたからこその金額だったはず。これからは質を下げて量で補って、食費を少なくする事も考えていけばいいと思う。
食費はこの方向でとりあえずいってもらおう。問題は住む所、宿代だね。
冒険者の人が泊まる宿屋には大まかに分けて二種類あるらしい。短期と長期の二種類だね。
分け方はそのまま、短い滞在の寝泊りの場としてのみのベッドがあるだけの小さな部屋。長くその町に留まる場合は家具なども置いてある多少広めの部屋に泊まるらしい。
全部シアさんとキャロルさん、リズさんからの受け売りなんだけどね。『跳ねる魚亭』は温泉旅館みたいな感じでまた少し違った雰囲気だったかな。
他にも色々と各町ごとに変わった施設がありそうだけど、大体は短期と長期、その二種類だね。
私的に分かり易くすると、短期はホテルで長期はアパートみたいな感じなんじゃないかな。
ショコラさんは年単位、数十年単位で町に住む事になる。長期滞在用の宿を借りるとしても、ずっと払い続けていくのは大変そうだね。家が買えてしまえそうな金額になりそう。先にまず土地家を買っちゃうのもありなのかもしれない。
勿論家と食べ物だけあればいいっていう訳じゃないよね。服、日用雑貨、何が必要っていうのは分からないけど冒険者としての活動に必要な物もあるはず。後は……、趣味とかそういうのにもね。
こうして考えてみると、人一人が生きていくのって凄くお金が掛かるんだね。私は自分がどれだけ恵まれた生活をしているのかもっと考えないといけないかな……
談話室に戻った私たち五人。私とシアさんショコラさん、それと兄様と姉様だ。
母様たち三人はお仕事の続きで、メイドさんズ三人は後片づけかな。フランさんはそのまま夕ご飯の準備に取り掛かってしまいそうな勢いだった。黙々と一定のペースを保って食べ続けるショコラさんに目を輝かせていたね。
四人とも席に座り、一息ついたところで改めて……
「ごめんねショコラさん……」
「まだ謝るか。うーん……、こちらは怒ってる訳でも無いんだがなあ。あまりそう謝られすぎると私が苛めているように見えてしまうじゃないか……」
むう、謝りすぎて逆に困らせちゃったかな。まだ自分を許せないけどこれくらいで謝るのは終わりにしよう。もっと別の形でお詫びをすればいいよね。
「ま、もう泣いてないみたいだし後はバレンシアに任せた。それじゃ、今日は俺たちも特に予定は無いし相談に乗るか。って言っても俺も力になれるかどうかは分からないんだけどな」
「いや、この国この町の事情を知るものが一人いるだけでも違うさ、ありがたい。まずは何から手を付けたものか……。さっぱり見当がつかんな」
私をシアさんに丸投げして、三人は今後についての話し合いをするみたい、面白そうだし聞かせてもらっちゃおうかな。
任せられたシアさんは、早速少し離れた席で私を膝の上に乗せて、全力で可愛がりを始めている。
でもこういうお話の相談相手はシアさんが適任だと思うんだけどな……
「まずは何から、ねえ……。とりあえず最低限必要な物は住む場所と食べる物よね。私、少し考えたんだけど……、家、建てちゃわない?」
「家をか? 区画整理でもするつもりか? 住民が混乱するぞ。リーフエンドにある町はほぼ自治区だろうし、それは無理だと思うな」
町長さんっぽい人に土地と家一軒頂戴なんて、言えるけど言えないよね。でもいい考えだと思う。宿代が掛からなくなるのは大きいと思うよ!
「ふふふ、違うのよ、町の外に建てちゃうの。正確には森の中ね。森の全域が立ち入り禁止って訳じゃないのはショコラも知ってるわよね?」
「それも無理があるんじゃないのか? 立ち入り禁止じゃないだけで、だからと言って勝手に家を建てて住んでいいという訳でもないだろうに。まあ、エネフェア様の許可を取れば可能かもしれんが……」
「でしょでしょ? 町までの移動が少し不便かもしれないけど、貴女ならどうって事ないわよね? ふふふ、どう? お兄様。いい考えだと思うんだけど」
確かに私もいい考えだと思う。でも、それは住む人がエルフだったらの話じゃないのかな?
「んー……。家を建てる場所、人員はどうにでもなるんだけどな。森の中に住んでるのは俺たちだけじゃないんだぞユーネ。ガトーがエルフならそれでもいいんだけどな、もうちょっと考えてみな」
「ショコラがエルフなら普通に許可を出すだけじゃない、どういう意味? 確かにショコラは竜人だからみんなの反対もあるかもしれないけど、人となりを知って貰えればそれも自然と解決しちゃうものよ、きっとね」
「人となりを知って貰えない、知る事ができない者もいるのですよ? 他種族の方が森の中の採取場まで入る事にですら護衛が必要という事をお忘れですか? この森の生き物は何故かエルフ以外の種は全て敵と見なしているのですよね……。それとも元々皆獰猛な生き物で、エルフに対してのみ警戒心が薄れるのでしょうか? まあ、それは誰にも、本人達にしか分かりませんね。ああ、解決法は一つあります。森の中では常にエルフと行動すること、ですね。誰か、最低一人でもエルフの方に同じ家に住んで貰い、町への行き帰りもその方、もしくは他のエルフの方に同行して貰わねばなりません。少し、どころか全く現実味が感じられませんね」
姉様の会心の一案をばっさりと切り捨てるシアさん。
そう、その問題が出て来てしまう。
リーフエンドの森に住む生き物達、小さな小鳥でさえ他種族の人が森の中へと侵入すると敵意剥き出しで襲い掛かってくるらしい。でも、だからと言ってエルフに友好的っていう訳でもないんだよね。野生動物だから近付くと逃げて行ってしまう。
「ああ! 忘れちゃってたわ、それがあったわね……。お兄様もそれが言いたかったのね」
「だな。ガトーなら獣の十や百程度何とでもできるとは思うが……、四六時中常に襲われてたら心と体を休める家の意味が無いだろう? それこそ町の路地で寝ている方が余程安全だよな」
後はやっぱり、私の家とも言える森に住んでいる動物達はあまり傷つけてほしくはないね。
「ううう、名案だと思ったのに……。ホントにこの森の獣達ってどうして人を襲うのかしら? シアが言ったみたいにエルフだけ襲わないって考えた方が自然よね」
「森の主、みたいなのが決めたとか? ふふ、そんなのがいたらの話だけどね」
いい感じに話が逸れてきてしまった、私もそろそろお話の輪に加わろうかな。
「森の主か……。爺さんか婆さんか? ははは。でも、大きな森や山なんかにはそういう、獣を統べる存在がいるんじゃないかって話は聞くよな。絶対にいないとは言い切れないかもしれないなあ」
「ふふふ、シラユキはこういう夢のあるお話大好きよね、可愛いわ……。あ、そうそうショコラ、聞いてよ。この子妖精と会ってお話したこともあるのよ? 凄いでしょ? 最高の自慢の妹よ!」
ああ! 懐かしい恥ずかしい話を!! 思いっきり泣いた思い出が強いからその話はやめてって言ってるのに!!
「妖精? あの純粋で心優しい子供の前にのみ現れるというアレか……。ますますこの子が娘に欲しくなったな。おお、シラユキと共に暮らせばその問題も解決するんじゃないか?」
「リーフエンドを敵に回すつもりですか貴女は……、冗談でもやめておきなさい。姫様はこの国の至宝、何よりも大切な存在なのですよ? ルーディン様、ユーフェネリア様、どうかこの馬鹿を許してやってください」
「初めからルー兄様もユー姉様も怒ってないからね!! もう、シアさんは言い方が大袈裟すぎ!」
「ふふふ、冗談です。申し訳ありませんでした」
口では謝りながらも表情は満面の笑みだった。
素敵な笑顔で謝られるとこれ以上怒れない! 怒りにくい!!
「冗談と言えば冗談だが、許されるならばシラユキと暮らしていきたいものだなあ。しかし、こんないい子を先に見てしまっては自分の子供が欲しいと思えなくなってしまうぞ」
「はは。シラユキからガトーに対してもそう思ったけど、ガトーも随分シラユキのこと気に入ったみたいだな。まあ、シラユキを気に入らない奴がこの世界にいるとは思えないけどな」
「もしいたとしても碌な死に方はしないと思うから安心ね。ふふ、ありがとね、ショコラ、シア。シラユキの調子も戻ったみたい」
「へ? あ、うう……」
シアさんが機嫌良さそうに笑ってたのはそういう事だったんだね。
私に突っ込ませる事によって元気を取り戻させるとは……。なんか変な話だけどさすがはシアさんだ、という事にしておこう。
その後はショコラさんの興味を引いてしまったのか、私の恥ずかしい過去の一つ、一人でお散歩迷子事件の話で盛り上がられてしまった。
住む場所と収入アップの当て探しの相談はもういいのかと突っ込みたいが、あんまりすぐに解決してしまってもショコラさんが早く家から出て行ってしまうだけだ。姉様が言ってたみたいに一年二年くらいは一緒に生活してみたいので心の中で突っ込むだけに留めておこう。
続き……ません!
中途半端な終わり方ですがおっパン居候一日目は終了です。