その162
お勉強の時間も終わ、いや、一旦終わりという事にしておこう。まだ聞いてもいい事は残っているはずだからお昼ごはんの後でまた少し聞かせて貰っちゃおう。
多分ショコラさんのことについてはもう何も教えて貰えそうにないけどね……
よく分からん、じゃなくて、普通に教えられないって言ってくれてもよかったのに。私はその程度の事でショコラさんの事を嫌いになったりはしないよ。
変に気を使われちゃったり、申し訳ないとか思われちゃうといけない。分からないで納得したフリをしておこう。
そんな事を考えながら、シアさんとショコラさんの膝の上に交代で乗せられて……。頭を撫でられたり、頬をグニられたり頬擦りされたり、顔中にキスされたり全力で可愛がられ、お返しにこちらからも頬擦りし返したり、胸にも頬擦りしてみたり揉んでみたりと。二人に全力で甘えまくり幸せゲージをまたぐんぐんと上昇させていた。
「ルーディン様ユーネ様……、ってあれ? いない? あ、シラユキ様、シア姉様に甘えられているところすみません、昼食の準備が整いましたよ。ねえガトー、お二人はどこに向かわれたか聞いてない?」
幸せな時間はあっという間に過ぎ去ってしまう物。キャロルさんがお昼ご飯の時間だと呼びに来てくれた。
「ルーディンとユーネの二人なら部屋で愛を育んでいるところだろうな。放って置いた方がいいと私は思うぞ」
「え? マジで? ど、どうしよう、私お二人も呼んで来てってフランに頼まれちゃってるんだけど……。シア姉様、どうしたらいいですか? まだ、その、アレが、愛の営みが終わってなかったら最悪なレベルのお邪魔ですよね」
あ、愛を育んでいるって……、営んでいるって……。多分私のために遠回しな言い方をしてくれたんだと思うけど、逆にいやらしく感じてしまうのは何故だろう? それを分かっちゃう私がいけないんだと思うけど……
キャロルさんはメイドさんになりたてだからまだアドリブが効かないんだよね。そんな時は談話室にいなかったよーって何食わぬ顔で戻っちゃえばいいんだよ。
でも、シアさんに聞くっていうのがベストの選択だったかもしれない。もう立派なメイドさんだねキャロルさん!
「お二人の部屋の前で聞き耳を立ててみるとかどうです? 気配で何となくは分かるでしょう。まあ、静かな事に安心して声を掛けてみたら余韻に浸っていました、では相当なお怒りを買うと思いますがね」
「そ、それもありますよね。いい手だと思ったのに……。あ、ガトーが呼んで来てよ」
いい手じゃないよ! 聞き耳を立てたら、その……、そういう声が聞こえてきちゃったらどうするの!!
「まあ、それくらいなら別に構わんが……、忘れてないかキャロル? 私の行く所にはお前も付いて来なければならないんだがな。怒りを買う人数が増えるだけだろう。無理に呼びに行かなくともフランに素直に理由を話せばいいだけの話だろうに……」
「あ、そっか……。それもそうだね、ありがとガトー。いやー、お二人をお連れするっていう事しか頭になかったわ」
おお、それがベストの選択肢っぽいね、さすがショコラさんだ。ショコラさんもメイドさんになってくれないかなー……
「むう、あっさりと一番確実な答えを……、面白くないですね」
シアさんつまらなさそう!! キャロルさんで遊んでただけなんだね、さすがシアさんだよ……
「腹が減ったからな。行くぞ、三人とも。ああ、シラユキは私が抱き上げて行こう」
「何をふざけた事を……。姫様は私が抱き上げてお連れします」
私をシアさんの膝の上から奪い取ろうとしたショコラさんだったが、シアさんは私を抱き締めるように抱え、放そうとはしない。
ええいまた面倒な事に……。ふふふ、モテる女は辛いね……、辛くないけど、むしろ嬉しいんだけど。
まあ、選択肢は二つだけではない。私も即座にこの状態を解決できる、ベストな選択肢を選んでみせる!!
「キャロルさん、手繋いで一緒に行こー」
「姫様!? そんな……」
「む……。まあ、シラユキがそう言うなら大人しく引くか……」
「はい! ああ、嬉しいけど私は後で二人からどんな目に会わせられるんだろう……」
あ、二人とも睨んでるね……。どうやらベストの選択肢ではなかったようだ、私もまだまだだね。手が三本欲しいよ、ふふふふ。
キャロルさんと手を繋ぎ仲良くダイニングへ。
移動中シアさんとショコラさんから地味にプレッシャーを与えられ、嬉しいのに冷や汗をかくという珍しい経験をしました、と苦笑いでぺこりとお辞儀し、後ろに下がって行ってしまった。
むう、メイドさんズもいい加減席について一緒に食べて貰いたいんだけどなー。みんなもう食事のお世話なんて必要ない……、私は必要かもだけどさ!
シアさんが小皿に取り分けてくれる量が適量すぎるのがいけないね。そういえば私、あれをもうちょっと食べたい、とか全然言った事ないな……。口に出す前、出そうと思ったらその時にはもう目の前に適量盛られて差し出されてるし……
シアさんはあれだね、常に私の心を読んでるんだよきっと……。この人絶対にそういう能力持ちなんだよ……
私が席に着いて少し後、母様が兄様と姉様を連れてダイニングにやって来た。兄様と姉様はお風呂上りなのかやけにさっぱりとしていたが、深くは聞かない。
残念だけど父様はお出かけしてるみたいだね。夕ご飯はいつもみんな一緒だけどお昼はバラバラな事が多いから、たまには家族揃ってお昼を食べたかったんだけどねー。
「今日はまた随分と張り切ったみたいね、フラン。ふふ、それじゃ、頂きましょうか」
母様の言葉にみんな料理に手をつけ始める。ショコラさんのためにとお肉系の料理の品数が多い気がする。
ん? ショコラさんが全く食べようとしない、手を伸ばそうともしないね。一体どうしたんだろう……?
「どうしたのショコラ? 遠慮しないで食べて食べて、フランが貴女のために腕を振るったんだから。やっぱりお母様の前だと緊張しちゃうのかしら……」
どうやら姉様も気付いたみたいで、ショコラさんに料理を食べるよう促している。
やっぱり女王様と同席はショコラさんも緊張しちゃう? ライナーさんと違って父様と母様には様付けだもんね。
「あら? そうなの? 昨日の夕食はちょっとゴタゴタしてて一緒にはとれなかったから私は楽しみにしていたのだけれど……」
「ああ、いや……、そういう訳じゃない。まさか王族四人と同席で、とは思ってなくてな、昨日の夕食はキャロルたちメイドと同じ部屋でだったじゃないか。シラユキとだけは特別に、ではなく、まさかこれからもこんな客人扱いを受けるのか? おっと、それが悪い訳でもなく迷惑だと言っている訳ではなくてだな……。あー、何と言ったらいいものか……。とにかく複雑な心境だな、うん」
う、うん、まあ、そうだよね。
ショコラさんは条件付でこの家に居候する事が認められただけ。条件を違えば死刑という最高に重い罰則まで用意されている。
なのにいざ居候生活を始めてみたら、初日から全力でメイドさんからお客様扱い。さらには王族、国の代表の女王様からもお客様扱いで食事に同席させられるとは思ってもみなかったんだろう。
それは……、何と言うか、複雑だよね。
「何かと思えばそんな事? 別にお客様扱いなんてして無いわよ? そう条件を出して貴女はそれを受けた。勿論こちらから客人扱いする事は問題ないけどまず無いと思っておくように。そうカイナが必死になって考えてくれた条件なんだから私たちもちゃんと守っているのよ? ねえ、カイナ?」
「ここでメイドの私に話を振らないでくださいよ……。まあ、どこからどう、誰がどう見たってお客様扱いしてますよね。でも、本当にお客様扱いなんてしてないんですよ。ええ、本当に必死で考えたんですよ、この条件。記録として残すには全く問題ない、ある程度厳しい条件だと思いませんか?」
お、おお。食事の席でカイナさんがこんなに喋るなんて珍しい。メイドさんズは同じ席に着かないならせめてもっと会話に入ってくるべきそうすべき!
シアさんとキャロルさんは結構お話してくれるんだけどね。メアさんフランさんが黙ってろって裏で注意しちゃってるみたいなんだよね……
今はそれは置いておこう。お客様扱いはしてるようで実はしていない? カイナさんが必死に考えた? 記録に残すために?
「すまんが分からん。言っている意味は分かるんだが、そうする事の意味が分からん」
うん、私もさっぱり分かりません!
「客人扱いはしない。お客様としての扱いはしないっていう事よ? それならお客様以外の扱いをして歓迎しちゃったらいいと思わない? 思ったのはカイナなんだけどね。私は今、大切な娘の、シラユキの友人扱いをして貴女と同じ席に着いているの。ふふふ、本当にカイナは頼りになるわ……。ねえ、カイナ、いい加減貴女が女王に」
「なりません! まったくもう……。今エネフェア様が仰ったように、客人扱い以外の扱いでしたら何でもいいんですよ。姫様の新しい友人として、バレンシアの古い知人友人としての扱いで歓迎してしまえばいいんです。ですが、やはり特例中の特例ですからどうしても記録を残しておかねばなりません。シラユキ様の友人の竜人を森の中へと招き歓迎しました、では後世に示しがつきませんから。厳しい条件と、その条件を違えば死刑、そして当人の人間性などのみ記録として残しておけば、と私が考えたのです」
「なるほど。すまない、私のせいで苦労をさせてしまったみたいだな」
ショコラさんはカイナさんに謝り、頭を下げる。
か、カイナさん頭いい……。そういう形で記録を残しておけば、今後生まれてくる新しい家族にきちんとこうだから駄目なんだよって言えるもんね。ちょっとずるいけどさ。
でもショコラさんは何も悪く無いよ。これはどう考えても私がショコラさんの事を大好きになっちゃったのが原因だよね。今までの歴史、それとこれから作られずっと残されていくだろう記録。この二つを私の我侭で……
「ふふ、本当にご苦労様ね、カイナ、ありがとう。でも、その苦労もとんだ取り越し苦労だったのだけどね」
……なんですって?
「ええ、私の苦労は一体……。いえ、私だけでもしっかりと記録に目を通しておくべきでしたね。まさか当初はちょっと森の住人に許可を取れば気軽に入れてしまう程の軽い決まりだったとは……」
「そこが父様と母様の凄いところよ。千年も経てばちゃんと森の家族を守るためのものに変わっていってたでしょう? ああ、ショコラ? だから何も気構えなくてもいい、と言ってあげたいところなのだけれどね、こちらが条件を提示し、貴女はそれを受け入れた。言っている意味は、分かるわよね?」
急に笑顔を消すのやめてよ母様……。母様はこうやって相手に話させて改めて理解させようとする事が多いよね。
「ああ、気が楽になったのは確かだが、条件は必ず守る。もしこの誓いを破ろうものならこの命をもって償おう」
ショコラさんは母様の目をまっすぐに見つめ返し、はっきりとそう宣言する。
「お願いね。私も家族の友人をどうこうしたくはないわ。ふう、ごめんなさいね、食事の席で話すようなことではなかったわ。さ、皆食べて、冷める前に頂きましょう? ショコラも遠慮しないで、ね?」
「おう。とっとと食っちまおうぜ? 昼からは職探し、と言うか収入の当て探しなんだろ? キャロルは好きに使ってくれてもいいから早めに決めろよ?」
「ああ、さっぱり見当もつかんがな。自分の食い扶持くらいどうにか稼がんといかんよなあ……。とりあえず食ってから考えるか。実はさっきから腹が悲鳴を上げていてな、ははは」
やっと許しが出たか! 封印がとけられた! とばかりにメアさんフランさんが小皿に山盛りに料理を取り分け、ショコラさんの前に差し出す。
やっと食べてくれたね。嬉しく思ってしまうのはなんでだろう? フランさんとメアさんも凄く嬉し楽しそうだね。ふふふ。
「この件に関しては私たちは力になれそうにないわよね。とりあえず頑張ってっていう言葉を贈るわ。まあ、暫くは、一年二年くらいなら問題ないんじゃないかしら? 追い出すような言いかたしちゃ駄目よお兄様」
後キャロルさんを好きに使っていいっていうところもね!
「万が一って事もあるからな。あるとすれば夜起きて、寝惚けて一人でトイレ行っちまうくらいだろ」
あー! それはありそう! 怖……、くないんじゃない?
「大丈夫だよルー兄様。忘れたの? ショコラさんは能力のおかげでトイレに行かなくても済むんだよ?」
どんな能力かはもう聞けそうにないけどね。
「うーん……、この子は結構口が軽いのか? まあ、シラユキの家族なら問題はないか……」
ショコラさんは食べる手を止め、困った様にそう呟いた。
「え? あ……、ご、ごめんなさい!! ど、どうしよう、私、なんて事を……。ショコラさんごめんなさい! ごめんなさい!!」
本当に私はなんて酷い事を!! 人の能力のヒントを気軽に口に出しちゃうなんて、しかもこんなに大勢の前で……。ああ、ああ……、どうしよう!
「ああ、こら泣くなシラユキ。すまん、シラユキを泣かすつもりで言った訳ではなかったんだが……。私はこういったのは不慣れと言うか苦手と言うか、全く経験が無くてな、誰か慰めてやってくれないか? シラユキの家族に私の能力の一端を知られたからと言って何か起こる訳も無いだろうに……」
「姫様? 本当に何一つ姫様がお気に病まれる様な事は無いんですよ? ああ、袖で涙を拭ってはいけません、お顔をこちらに……」
「悪いなガトー。俺のド忘れした馬鹿な一言のせいで……。いや、悪いの一言で済む問題じゃないんだが」
「トイレに行かなくて済むなんて便利そうね、ちょっと羨ましいわ。シラユキを含め全員に口外しないよう誓わせましょうか、皆、いいわね? カイナ、誓約書も用意しておいて頂戴」
「そこまでしなくていい、バレンシアの言った通り本当に何の問題もないさ。元々口を滑らしたのはバレンシアだしな。ルーディンとユーネにもさっきも言ったろう? 知られたところで何の不都合も無いとな。こんな能力あって無い様なものだ……。まあ、食事の席でする話では無いんだが、あまりいい表現じゃないだろう? トイレとか、な。問題があるとすれば要らん誤解を招く恐れがある、くらいだろうな」
「私は逆に清潔って思ったけどね。ごめんねショコラ、この子自分を責めだすと中々止まらないのよ。今日の職探しは中止にしてちょっと慰めてあげて貰えない? ただ可愛がるだけでいいから。多分貴女に許されてるのはシラユキも分かってるんだと思うんだけど……。ああ、それか何か適当に罰でも与えてあげてくれるといいかもね」
「この子に罰? 無理だろうそれは、酷過ぎるぞ……。まあ、胸でも吸わせ、甘やかすか……」
「吸わないよう……」
「ああ、ツッコミが元気無いな。甘やかすなら母さんが適任なんだが、今忙しそうだからなあ」
「え? シラユキが元気を取り戻すまでお仕事なんて」
「ルーディン様ユーネ様にお任せしましょう。お二人とバレンシアにお任せしておけば安心して確認の続きができますね」
「そんなあ……。カイナって私には結構いじわるよね」
「なんという意地の悪い奴だ」
「クレアうるさい! エネフェア様のためなら意地悪にだってなってみせますよ。私だって姫様を慰めて差し上げたいのに……」
「まあ、シラユキはレンに任せておいて……。ささ、みんな食べて食べて! レン、膝の上に乗せて食べさせてあげて」
「え? ええ……。エネフェア様と同じテーブルに……? さ、さすがに緊張してしまいますね……」
「あはは。まあ、今日くらいはいいんじゃない? んー、姫は少しぐずってるくらいには落ち着いたみたいだね。ねえフラン、冷めちゃったのは一旦下げて盛り直そうか」
「だね。んじゃ……」
「ああ、いい、大皿ごと私に寄越してくれ。勿論温め直したのも頂く、安心してくれ」
「マジで? そんじゃメア、そんな感じで。私はすぐ追加出してくるから」
「おお、こりゃ見てるだけで腹いっぱいになりそうだな、面白え」
「ふふふ。本当に食費が大変そうね……。何かいい手、考えておいてあげましょうか……。カイナが」
「またですか……。まあ、姫様の大切な友人の方のためとあれば……。ですが、全ての書類に目を通し終わったら、ですよ?」
「ううう、やっぱり? これもシラユキのためね……、頑張っちゃいましょうか。ふふふ」
私は嬉しくなると色々と口走っちゃう癖があるみたいだね。本当に悪い癖だよこれは……
後でもう一度しっかりと謝って、その後甘やかして貰お、!? これも悪い癖だよ!!
甘え癖、直せるかなあ……
次回はまた来週に? 一応未定という事で……