その157
意識がゆっくりと覚醒する中、薄く開いた目に入ってきた物は、白くて大きくて柔らかそうな丸い物体が二つ。大きなマシュマロ? なにあれ美味しそう。
寝惚けた頭でも分かる、本能で理解できる。これは、私の大好きな物だと。私が求めて止まない物だと。
あそこで二度寝を敢行しようとモゾモゾと近付き、ポフッと二つの柔らかみに顔を挟み込まれるように顔を埋め、頬擦りをする。思った通り、いや、思った以上の素晴らしい感触だ。
ああ、これは気持ちよく寝られそうだね。おやすみなさい……
「む? 起きたかシラユキ。しかし、本当にこれはくすぐったいのに幸せな気持ちになれるな……。ライナーが発つ前に子を仕込んで貰うか? いやいや、何を考えているんだ私は……」
う? にゅ? ……子を仕込む? ? 今の声、ショコラさん?
私の顔を挟む大きな膨らみを両手で開くように押さえ、上、声の聞こえて来た方へと顔を向けてみる。
「お、やはり目覚めているな。寝惚け顔も可愛いなシラユキは……。おはよう、シラユキ。随分と眠りが深かったようだが、体調はどうだ? 辛いならすぐ人を呼ぶが」
「はぇ? ショコラさん? あ、おはよー……。あー、これってショコラさんのおっぱいだったんだー。ふふふ、柔らかーい」
フニフニと揉みながら頬擦りを再開する。
「ふふ、くすぐったいぞシラユキ。本当にシラユキはおっぱいが好きなんだなあ。夜中中揉まれたり吸われたりで幸せで、子供が欲しくなってしまったじゃないか、どうしてくれる」
「ふふふ、ごめんねー。ライナーさんと結婚してうちで一緒に住んじゃえばいいんだよ。ショコラさんだってライナーさんのこと好きなんだよねー?」
ショコラさんって完全にライナーさんのことを結婚する相手だって認めちゃってるよねー。
「まあ、嫌いではないが、そこまで好きとも愛しているともいう感情を持つに至っていないな。だが、まあ、私の夫の最有力候補である事は確かだ。でもなあ、早く私を負かす程の強さを身に付けて貰わんと、私ももう六百に届くという年齢なのに未だに男を知らんままでは格好が付かん」
あれー、そこまで大好きっていうほどじゃないんだ? でも、最有力候補かー、ふふふ、もしかしたら照れ隠しかも?
ん? ショコラさんって六百歳近いんだ? シアさんより年上なんだね。その年になってまだ男の人とした事が無いって、そんなに気になるものなのかな?
「んー? 私のお友達のコーラスさんっていう人は、千歳以上だけどまだしたこと無いって言ってたよー?」
「千……だと……? ほ、ほう、そんな奴もいるんだな。ありがとうなシラユキ、少し心に余裕が持てた気がするぞ」
自分の胸に押し付けるように私をグリグリと撫でるショコラさん。
「ふふふふ、もっと撫でてー」
私もスリスリと胸に頬擦りしてお返しをする。
「こらこらシラユキ、嬉しいが結構くすぐったいんだぞ? むう、これが母性という物か……、この子に母と呼ばれてみたいものだな。ウルギス様の妾にでもして貰うか?」
ショコラ母様? ふふふ。……うん?
「めかけ?」
「ん? ああ、子供には分からんか。まあ、母親がもう一人増える様なものと考えれば分かり易いか?」
「愛人さん? 父様は母様一筋だから無理だと思うよー?」
「愛人は分かるのか? そういえば性知識もあるみたいだしなあ。メアとフランの仕業か? バレンシアが教えるとも思えんしな」
「うん。三人とも色々私の知らない事教えてくれるんだよ? シアさんが一番先生役してくれる事が多いかなー」
さすが世界中旅してきた元冒険者メイドさんだよねー。
「ば、バレンシアがか? あいつは何をやってるんだ何を……。子供に変に偏った性知識を植え付けているんじゃないだろうな。自分好みに育てようという腹積もりかまさか」
せいちしき? 性知識……!?
「もう! 違うよ! シアさんたちが教えてくれるのは、ええと、色々なお勉強の事だよ!!」
「おっと、勘違いかスマン。ほら、目覚めてすぐ興奮するな、まだ私の胸の中ににいろ」
上半身を起こし間違いを訂正した私を、また優しく自分の胸へと押し付けるように抱き締めてくれるショコラさん。
あー、ショコラさんのおっぱいは最高に落ち着くなー……。あ、最高は母様だった、ごめんねショコラさん。
……なんか、おかしくね?
また最初に確認したように大きな胸を掻き分け、上を見上げる。
うん、ショコラさんだね。何この真っ白なおっぱい、私も白い方だけどこれは本当に白! っていう白さだ。でも先っぽは綺麗なピンクだね。……じゃないよ!! なんで裸!? 私はどれだけおっぱい好きなんだ本当に!!!
「なんでショコラさんと一緒に寝てるの私!!」
「なんでって、今更聞く事か? ほらほら興奮するなと言っているだろう? 昨日の夜の様に私の乳首でも吸って落ち着け」
「すすす吸わないよ!? 恥ずかしい事言わな、昨日の夜!? 私ショコラさんのも吸っちゃったの!?」
「ああ、それがどうかしたか? 可愛かったぞ? 幸せだったぞ? ちょっと感じたぞ?」
「あああ……、ついに六人目……。母様は当たり前だけど他に五人も……。私もう二十歳なのに……、恥ずかしいよう……」
メイドさんズ三人とコーラスさん、そしてショコラさんで五人目か……。もういっそ開き直って家族とお友達の女の人を全員狙うか……、あはははは……
「おーい、シラユキどうした? エルフの二十なんてまだまだ子供だろう、何も恥ずべき事なんかじゃないぞ? 私は幸せな気持ちになれたんだ、悪い事も何もないだろう? 気持ちよかったしな」
「ショコラさん正直すぎるよ……。ああ、誰かに似てるなーと思ったら父様に似てるんだ……」
ショコラさんって父様と喋り方も似てるしねー、などと現実逃避を始める私。
私をもっと落ち着かせようと優しく頭を撫でてくれるショコラさん。
何がどうしてどうなって……、どうしてこうなった!!!
確認はみんなが揃ってからしようとシアさんに着替えさせて貰ってる間も現実逃避を続ける。シアさんがあまりにも上機嫌すぎるので、一対一でお話しするのはちょっと嫌な予感がしたっていうのもある。
さて、時は来た。ただの朝ごはんの時間だけど。
テーブルに着いているのは私とショコラさんの二人。後この場にいるのは私お付きの三人、メアさんシアさんフランさんの合わせて五人だ。これだけいれば充分な情報を集める事ができるだろうと思う。キャロルさんが見当たらないけど、それも後で聞くことにしようかな。
食べながらのお話ははしたないとは思うのだけれど、これはいつものことだ、黙って食べるのも味気ない。折角の美味しいお料理、楽しく食べないとね。勿論口に入れたまま喋るような事は絶対にしない。
「お、おお……。朝からしっかりと品目多く食べるんだな。シラユキはそれで足りるのか? 私の分の半分の量も無いぞ?」
自分と私の前に置かれた朝食の分量を見比べながらショコラさんは少し心配そうに言う。
「体のサイズがそもそも違うし、それに姫って小食だからね。これでも結構残しちゃう事多いんだよ?」
「そうそう、無理して食べようとするのがまた困りものなのよねー。朝食って大事よ? その日一日の始まりのご飯なんだからしっかりと食べなきゃね。おっパンはそれで足りる?」
「ああ、多分な。シラユキは食べ切れなかったら私に押し付ければいい、無理はするんじゃないぞ?」
「うん、ありがと。それじゃ食べよっか? いただきまーす!」
私の言葉を合図としたかの様に食べ始めるショコラさん。私もそれを見届けてから、シアさんのお世話を受けて食べ始める。
おっパンはどこにあるんだろうとテーブルの上を見回しながら数秒考えて、そういえばショコラさんの新しい名前だったという事に気付いたが、訂正させるタイミングを逃してしまった。
ふむ……、色々と失敗した。
あまりにも自然に溶け込みすぎてツッコミ所が見つからない。いや、そこがツッコミ所なんだろうとは思うのだけど……
まあ、いい。私が自然に話を振ればいいだけだ。まずは何から聞いたものかな……。聞きたい事は本当に山ほどあるよ。
「ねえねえシアさん。今更って思うかもしれないけど、どうしてショコラさんが家にいるの? なんで私と一緒に寝てたの? まずはそれだけ簡単にでいいから教えてほしいな」
疑問を一つ一つ、順序立てて解決していこう。二つ聞いてしまったがまあ、気にしない。
「はい、では簡単に説明を」
「今更過ぎっ! あ、ごめん、説明してあげて。起きてから今まで何も聞いてなかったんだこの子……。はい」
「む? 私の世話は要らんぞ? 友人にそんなメイドの様な真似をさせる訳にはいか……、ん? フランはメイドだな」
小皿にサラダを取り分けて差し出すフランさんと、その行為を友人だからと断るショコラさん。
「うん、私らメイドよ? お客様のお世話くらいさせてよ。シラユキはレンが付きっ切りだから手が出せないしね。ふふふ、口元までお運び致しましょうか?」
「やめてくれ、惚れてしまう。まあ、楽しそうだし任せる、ありがとうフラン」
「はいはい、お任せくださいなっと。やっぱメイドって私の天職よね。あ、私は人妻だから惚れちゃ駄目よー?」
ふ、フランさんが最高に楽しそうにご機嫌だ! お世話されるショコラさんを羨ましく思っちゃう。なんて贅沢な私、いけない子だね……
「えーと、そろそろいいかな? シア、簡単に説明してあげなよ」
「ああ、すみません。その前に……、メア、姫様のお食事のお手伝い、代わってみます?」
「いいの? あー、でもなー、前に姫のスカート汚した時マジ切れされたのが未だにちょっとトラウマなんだけど」
し、シアさんがメアさんにマジ切れ? 私のスカートを汚したくらいで? ええ?
「い、いつの話なのそれ。シアさんがメアさんをその程度の事で怒るなんて思えないんだけど」
「姫がもっと小っちゃかった頃だよ。二、三歳の頃じゃない? 私あれで泣きかけた、と言うか泣いたしさー」
「う……、その話はやめてください。あれは自分でも大人気無かったと思って反省していますし、後で謝ったでしょう? それに、怒る事はあっても怒鳴り付けるような事はもうしませんよ」
あー、シアさんがまだ二人とあんまり仲が良くなかったころの話? 何それ、面白そうなんですけど。
「そう? ま、今はもう食べさせるなんて必要無いし、大丈夫かな。ふふふふ、それじゃ代わって、シア」
「はい、どうぞ。お願いしますね」
二人はにこやかに立ち位置を入れ替える。メアさんは凄く嬉しそうだ。
「ああ、メアずるっ! 私もシラユキのお世話してあげたいのにー」
「ははは、また昼食の時にでも代わって貰えばいいだろう。今は私で我慢してくれ」
「それもそうだね。おっパンは沢山食べるし、お世話のし甲斐もあるよ」
みんな笑顔で楽しそう。やっぱりお客様が一人増えるっていうだけで全然違うね! これがこれからも毎日続くのかな? ……あ、それも含めて聞くんだったね。
でもまずは何より……
「ショコラさんはもうおっパンさんで決定なの? 呼び難いよー、恥ずかしいよー」
「いや、今回から少し趣向を凝らしてみたんだ。私の今の名は、『ガトーショコラ・おっぱいパン』だ。フランの名前を聞いてどんどん継ぎ足していけばいいんじゃないかと思いついてな。だからガトーでもショコラでもおっぱいパンでもおっパンでも好きに呼ぶといい。私の心の琴線に触れる程の料理は早々見つからんから簡単には増えていかんだろうと思うがな」
「な、なるほどね、私は今まで通りショコラさんって呼ぶね。ちょっと安心……」
「私はおっパンかな」
「私もおっパンは恥ずかしいからショコラって呼んでるよ」
「私はガトーのままですね。他人のフリをせずとも済んで助かりました」
「ぬう、おっパンは最高傑作だと思うんだが……。何と言うか、可愛らしい名前の中にも女性らしさを垣間見る、とでも言うのか?」
「た、確かに語感的には可愛いかもしれないけどさ……、おっぱいパンだよおっぱいパン。恥ずかしくならないの?」
「おっぱいなんぞ自分にも二個付いてるものだしな。なあ?」
「だよね、シラユキだっておっぱい大好きじゃない? 嬉しくないの?」
「そういう問題じゃないよ!」
「あはは。こらこら、ひーめ? あんまり動くと零すよ? まあ、私も男の人の前でおっぱいは口に出し難いかもね」
「はいはい、おっぱいおっぱいと連呼するものではありません、はしたないですよ? まあ、おっぱいパンはおっぱいに似ているからという意味でのおっぱいパンなのですから、私たちに付いているおっぱいとはそこまで繋がりもないのでは、と思いますよ、姫様?」
「シアさんが思いっきり連呼してるよ! ホントに恥ずかしいからやめてね? あんまりおっぱいおっぱい言ってるとルー兄様が揉みに来ちゃうかもね、ふふふ」
「それもそうですね、この辺りでやめておきましょう。実は私もそれなりに恥ずかしかったりします。ですが、自分の恥ずかしさより姫様をからかう事を優先するのは当然の事ですよね?」
「ですよね? じゃないよ! もう……。もしかして、ショコラさんがいるからテンション高め?」
「ふふふ、申し訳ありません。そうかもしれませんね、ふふふふ」
シアさんが、メアさんフランさんもそうだけど、家族が嬉しそうならこれくらいはいいかな、って思えちゃうね。みんなが笑顔だと私も嬉しいね、ふふふ。
肝心の説明が一行も書けませんでしたすみません。おっぱいおっぱい。
次回に続きます。