その156
どうしたんだろう? 父様と母様がただ私のお出迎えだけのためにこれだけぞろぞろと護衛? を引き連れて来る訳無いよね……。もしかして、ショコラさんたち二人をここまで入れてはいけなかった?
確かにもう捕まるギリギリのラインだよね。でもカートの受け渡しについて来てくれただけなんだし、そんなに警戒する様な事は……、あ。
お、おおう……、ショコラさんSランク最強の人だったよ、警戒されて当然だよ……
いきなりこの国最強の二人が出て来ちゃう辺り、これは相当警戒されてしまってるんじゃないだろうか?
「父様? おお、シラユキの両親か。それに、なんとまあ怖そうなのがぞろぞろと……。なんかしたか私?」
怖そう? うーん……? 確かに今日はみんな、何となくだけど気が引き締まってる感じがするね。キリッとした感じ。巡回の人もいつもなら笑顔で挨拶してくれるのに、似合わない。……おっと失礼。
「あー、あれじゃねえか? 姫さん今日また泣いたろ、嬉し泣きだけどよ。伝わんの早えなオイ……。んー、ここは大人しく捕まっとくか」
「つ、捕まる? 何で?」
「ライナーはどちらとも知り合いなんだろう? どうにかしろ、してみせろ」
「え? あれ? 無視? ライナーさーん? ショコラさーん?」
「無茶言うなよ師匠。知り合いっつってもあの時は姫さんの親としてだったからなあ……。今はどう見ても国のトップとして出て来てるだろ」
「あ、ホントに無視されてる。ちょ、ちょっとショック……。ふふふ……、父様ー、母様ー、二人が苛めるのー」
トテトテと母様に駆け寄り抱きつく。
「むう、何故俺の方に来んのだ……。しかし、俺たちの愛するシラユキを苛めるとはな、余程命が要らないと見える」
「あらあら、ふふふ、可愛いわね。それじゃ、ええと、二人とも死刑でいいかしら?」
「よくねえよ!! 勘弁してくれよ姫さん……、ちょいと余裕が無かっただけだろーが」
「にこやかな笑顔で死刑宣告か、バレンシアに近しいものを感じるな。ふむ……、とりあえず土下座しておくか? ……ん? おいキャロル笑うな、こっちは唐突で意外すぎる出会いに結構動揺しているんだぞ」
ああ、二人とも平然としていた様で実のところ動揺してたのね……。ショコラさんは本当にいつも通りと言うか、普通にしてる様に見えるんだけどなー。
キャロルさんが噴き出し、釣られて巡回の人たちからもクスクスと小さく笑い声が聞こえ始める。
まあ、どう見てもみんな無理して真面目な顔してたし、決壊するのも早いよね。
どうやら真面目なお話では無い、とは言い切れないけど、何か重要なお話があってやって来た訳では無さそうだね。
多分父様母様の二人で結託して、ショコラさんとライナーさんの顔を見るついでに驚かしに来たんだろう。こんな二人がトップでいいんだろうかこの国は……。いや、この二人だからこそいいのかもね。
巡回の人はみんな、カートを持って森の奥へと戻って行ってしまった。
なるほど、何人も集まってると思ったら護衛じゃなくてそういう事ね。でもいつの間に、それに、一体誰が連絡を? むう、気になるけど今は言い出せる空気じゃないね。帰ってから聞こっと。
「まずは……、暫くぶりだな、ライナー。シラユキの友人であるお前には悪いが、少し……、下がって黙っていて貰えると助かる。バレンシアとキャロルの二人がいる辺りまででいい。頼めるか?」
「お、おう。別に命令してくれたっていいんだぜ? 師匠に何か用でもあるのか……? あー、師匠。俺もバレンシアもキャロルも下がって待ってっから……、まあ、頑張ってくれ」
「任せておけ、年の功という物を見せてやろう。安心して後ろで待っていろ」
父様のお願いに、ライナーさんはシアさんたちが待機している所まで下がり、キャロルさんとぼそぼそと小声で何かを話し始めた。私の位置からだと聞き取れそうにない。
父様と母様はショコラさんに何かお話があってここまで出て来たみたいだね。
ショコラさんはここから先、森の奥へ入る事ができない。でも町まで二人で会いに行くのも大騒ぎになりそうだから、かな? 今日は丁度よく私が魔力疲れを起こしちゃって二人に荷物を運んで貰っててよかったね。
本当に誰がこんなに早く父様に報告を入れたんだろう? 気になる気になる木……
まあ、今はもっと気になる事、父様がショコラさんに何を話すのか。そちらに集中しよう。
母様と手を繋ぎ、隣に立って二人の言葉を待つ。
「ええと……、ああ、畏まった喋りは必要で?」
あ、偉い人? にはちゃんと確認を取るんだね。昨日は私が要らないって勝手に決めちゃったんだっけ。
「必要無い、と言いたいところだが……、まずは少し堅苦しいやり取りに付き合ってくれ。……ああ、膝を折るまではしなくてもいい」
片膝を付き、頭を下げようとしていたショコラさんを父様が止める。
「はい、では先に名乗らせて頂きます。私の名はおっぱ」
「ストーップ!! ショコラさん? ショコラさんは、ガトーショコラさんだよ? 分かった?」
危なかった! 全てが台無しになるところだったよ! む? ショコラさんなんで? って顔をしないで!!
「もう、驚かせないでシラユキ。それについても報告は受けているわ。でも、今だけは前の、ガトーショコラを名乗って貰えるかしら? おっぱいパンじゃ格好が付かないわ……」
「くくっ……、少し楽しみにしていたのだがな。ああ、スマンスマン、続けてくれ」
「ごめんねショコラさん。ま、真面目な空気じゃ無くなっちゃったね……」
でも、私たちには真面目な空気よりもこういう、少し柔らかめの空気の方が似合ってるよね? ふふふ。
「……まあ、いいか。っと、失礼、申し訳ない。では改めて……、私の名はガトーショコラ。世間では『閃光』などと呼ばれている冒険者でありますが、ただの竜人種族の娘でございます。お見知りおき頂けると……、? シラユキ、そこまで驚く事か? ああ、いや、これはまた失礼を致しました」
「へ? あ、私そんなに驚いた顔してた? あはは……、ごめんね?」
「ふふ、この子がいるとどうしてもみんなペースが崩れちゃうわね。堅苦しいのは自己紹介だけにしちゃいましょうか? ごめんなさいね付き合わせちゃって。もうちょっとだけ我慢して頂戴ね」
そ、そんなつもりは無かったんだけどなー……。ああ! みんな笑い堪えてる!? クレアさんのお父さんまで! ぐぬぬ……、ごめんなさい。
「やはりこの子は最高だな! もういい、皆楽にしてくれ。娘の前でもう少し格好を付けたかったのだが、もうどうでもよくなってしまったな。ああ、俺はウルギス、この子の父親だ。ほらシラユキ、こちらへおいで。エネフェア、後は頼んだ」
「ええ? 格好付けたかっただけなの? もう、父様は……」
父様に抱き上げられ、母様より数歩だけ後ろへ下がる。どうやらお話があるのは母様からだけの様だ。
「ふふふ、ウルったら……。さて、こんな何も無い森の中での謁見でごめんなさいね? 私がリーフエンドの現代表、エネフェア・リーフエンドよ、よろしくね。ああ、もう楽にしてくれていいのよ? あの人が娘の前でたまには王族らしく格好を付けようとしていただけだから」
母様は笑顔で機嫌良さそうに自己紹介を始め、ショコラさんにもう礼を払う必要はないと告げる。
「まあ、さすがに一国の王を目の前にそう軽い物言いはしない方がいいと思うので。それと、私は素の口調が荒く、相手によっては尊大な態度に取られてしまうんです。それ故ある程度は固い口調、お許しください。早速で悪いのですが、私になにかご用件でも? 急かすようで申し訳ない。シラユキ、様が魔力を使いすぎているので早めに済ませ、休んで貰いたいのですが」
ああ! ちょっ、ここでそれを言っちゃう!?
「ええ、そうね、それも報告は上がってきているわ。この子ったらまたバレンシアの静止を振り切っちゃったみたいね……。見たところ大丈夫そうよ、安心して頂戴。魔力の無い竜人種族の貴女には分からないわよね。心配してくれてありがとうね。……シラユキはお昼寝の後お説教よ? ふふふ」
既にバレてました!! さらにお説教も予定済みでした!!
「父様、ごめんね……。どうしてもみんなにフランさんたちの料理、食べてもらいたくて……」
「はは、俺からは特に何も言う事はないさ。後でエネフェアにしっかりと叱られて、甘えさせて貰うといい。ああ、やはり一つだけあったな。友人思いなのはいい事だ、それはそれだけシラユキが優しい子だっていう事だからな。でもな、もう何度も言われていた事だろう? 自分の体の事をもっと考えて、大事にしろと、な」
父様はポンポンと私の頭を軽く、優しく撫でながら話してくれる。
「うん……。ごめんなさい、ありがとう、父様……」
ちょっと涙が出そうなので、父様の首に腕を回してギュッと抱きつく。
私たちのそんなやり取りが終わるのを待っていたのか、母様は私へ向けていた視線をショコラさんへと戻し、口を開く。
「お説教は必要無さそうね。それじゃ、本題に入りましょう。貴女、リーフサイドに住み着くつもりなのよね? 一応その理由も聞いているのだけれど……、貴女の口から正直に全て、そう思うに至った考え、理由を話して貰えるかしら? 勿論あの子のためだけじゃないわよね?」
わ、私許された!! え? 他にも理由があるの?
お説教無しと聞けば心も軽くなるというもの、心に余裕を持って聞かせて貰っちゃおうかな。お説教後甘えるの流れが、ただ甘えるだけに変わるという事だね。
「ええ、まあ……、色々と。まずはシラユキ様を泣かせたくない、私もまだ離れたくないというのが一番の理由ですね。成人するまで、は少し大袈裟な物言いでしたが、一応その辺りを目安と考えています。後はバレンシアからもっと話を聞きたい、美味い料理を作って貰いたい、バレンシア以外にもこの町には料理上手が多いようですからそれも楽しみではありますね。まあ、話を聞く、というのはどうやら無理そうではあるんですが、友人同士の他愛の無いやり取りでしたら問題ない、ですよね? 後は……、言葉にし難い漠然としたものばかりで……。例えば、弟子の成長具合を一人にさせて確かめてみたり、暫くしていなかった個人行動を満喫してみたりと……。まあ、その辺りはどうでもいいですかね」
お、おお? そんなに色々な理由があったの? ただの優しい思い付きじゃなかったんだ……。ライナーさんも特に意外そうな顔はしてないし、分かってたんだね。
ふふふ、いい感じに少し固めの口調が崩れて柔らかくなってきたかな?
「もう一度、本来の貴女の声で聞かせてもらえる? 私の言っている事、聞きたい言葉、貴女なら分かるわよね」
今のをもう一度? 母様は何気に無茶を……、聞きたい言葉?
「バレンシアをどうこうするつもりは一切無い。信じてくれ、としか言えんが……。友人の古傷を抉るような真似は誓ってしない。この命、懸けてもいい」
ショコラさんは真剣な顔つきで自分の胸に手を当て、真っ直ぐ母様の目を見つめ、はっきりとそう答えた。
え……? シアさんを?
「ありがとう。それと、本当にごめんなさいね。バレンシアは私たちの、本当に大切な家族なの。貴女が友人を傷付ける様な事をする性格でないのは受けた報告から分かっていたのだけれどね、どうしても貴女本人に会って、貴女本人の口からその言葉を聞きたかったの。許して貰えるかしら……」
二人が確認したかった事は、シアさんの、ええと、心の平穏? ふふ、優しいな。三人ともね?
「許すも許さないも無い、家族を心配するのは当たり前の事だろう? まあ、私はどこからどう見ても不審人物だからな、無理も無い。しかし、国の代表が簡単に頭を下げるもんじゃないと思うぞ?」
こんな美人さんがどこからどう見たら不審に見えるのよ、まったく。
「ふふ、ありがとね。今の私は国の代表と言うよりは、この子たちの母親の様な気持ちで貴女の前に立ってるの。娘の友人に不快に思わせてしまったのかもしれないのだから、ね。ちゃんと謝らないといけないわ」
「バレンシアの母親、か。ははは、羨ましいな、私の母とは大違、っと、スマン、失言だった、流してくれると助かる」
「ええ、貴女の裏を探るような行いは決してしないわ、安心してね。昨日今日と監視が目障りだったでしょう? それも重ねて謝らせて頂戴。あ、もう監視は解くから、ごめんなさいね?」
ショコラさんのお母さん……? え? 監視なんて付けてたの? 人のプライバシーを覗くような事しちゃ駄目だよ……
「腰の低い女王だなあ。ああ、そうだそうだ、それなら侘びとして我侭を一つ聞いて貰っても構わないだろうか?」
「うーん……、内容にもよるかしら。……うん? こらクレア、殺気飛ばさないの。とりあえず言ってみて頂戴」
おお、クレアさん睨んでる睨んでる。カイナさん肘は痛そうだからやめてあげて!
「私がリーフサイドに住むにあたり、色々と、まあ、ちょっとした問題が……、おいキャロル出番だぞ。お前の採用試験だろう、手伝いに来い」
「ちょっ、この状況で? 今更私が出なくても既に解決した様なモンじゃないの?」
「キャロ? ガトーの言う様に、あなたの採用試験なのですよ? それをガトー一人で解決してしまったらその場合は、どうなると思います? それに、恥ずかしい話ですが、今の話し合いで確保できたのは私の精神の安寧のみ、お二人を前に緊張するのは分かりますが、もう少し考えてみなさい」
「へ……? ああ! シア姉様の過去は守られるけどまだ町の安全が? ええ!? 何も解決してないって事じゃないですかそれ!」
「まあ、エネフェアさんすっげえ優しい人だし何とかなるんじゃねえか? お前が姫さんみたいに子供っぽく我侭言や済むこったろ」
「できるかアホ!! ああー、ううう、何とか頑張ってみるしかないかあ……。あ、シラユキ様がお口添えしてくださるんですよね? それなら」
「姫様はこれからお昼寝の時間です。ウルギス様、エネフェア様、これから少し面倒なお話がキャロルとガトー両名からあるのですが、暫くの時間お付き合いをお願いしても宜しいでしょうか、申し訳ありません」
「そんな!! 最後の切り札がいきなり封じられた!?」
「いきなり切り札を切ろうとするな。まあ、なるようになるさ」
「むう、面倒そうな話か……、面倒だな」
「ふふ、私とカイナで聞くから大丈夫よ。ウルは隣でデンと構えててくれればいいわ」
「ウルギスさん正直すぎるだろ……。んじゃ俺はギルドに戻ろうかね、アイツらが残ってたら酒にでも付き合わせるわ」
「クレア、姫様をメアとフランの所までお願いします、ベッドで安静にして頂くよう伝えてください。さて、私たちはどこで……、ああ、丁度いいですね。ドミニクさんのお宅にお邪魔させて頂きましょうか、宜しいですか? 宜しいですよね?」
「おお、姫様を抱いて戻れるのは嬉し……、私の家か!? まあ、父様がいれば問題は無いか……。了解した。ウルギス様、姫様をこちらへお願いします」
「あ、ああ……、シラユキ、また後でな。では、行くか。俺とシラユキを引き裂く程の用件か、しっかりと聞かねばならんな……」
「ひい! めっちゃ緊張する!! ……あれ? 何か物足りないと思ったら、さっきからシラユキ様のツッコミが入ってませんね」
「ごめんねー、眠いのー……」
「ひひひ姫様可愛らしい……。はっ!? 申し訳ありません、すぐに館へとお連れ致します。 父様? そこの二人が怪しい動きを見せたら即切り捨てて貰って構いませんからね。ウルギス様、エネフェア様、またすぐに戻って参ります。それでは、一旦失礼させて頂きます」
私を抱き上げているので軽く浅めに一礼し、クレアさんは家へと向かって走り出した。
そういえばカイナさんもクレアさんのお父さんも一言も喋らなかったなー、と眠い頭で意味不明な事を考えていたらあっという間に家へと到着。
メアさんとフランさんに手荷物の様にどうぞと手渡され、すぐに歯磨き、着替え、寝支度を整えベッドの中へ。
二人ともちょっと怒ってるような……。でも眠い、起きたらちゃんと謝ろっと……
またリアルの忙しさが増しそうです。毎日更新は難しくなるかも……?
できる範囲で続けて行きたいと思います。
12/18 全体的に所々修正を入れました。
話の流れは変わってはいませんが、微妙にセリフが変わっていたり、感じ取れるニュアンスが違ってきているかもしれません。