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155/338

その155

 キャロルさんへのお仕置きは何にしようかとみんなでわいわい楽しく喋りながら歩みを進めていた筈が、気付いた時にはいつの間にやら森の中。やっぱり今日はよく時間が飛ぶ日だなと再確認。


 あれ? もしかして私、寝てた?

 うあー、四人が大荷物持って歩いてるっていうのに私って奴は……。これは私もお仕置きを受けるべきなんじゃないかな! ……? あ! そういえば帰ったら母様に叱られるんだっけ?

 お、おおお……、願ったり叶ったりだが全く嬉しくないのは何でだろう……。いや、母様に叱られるのはちょっと嬉しいかも? その後甘えさせてくれるかもしれないしね、うんうん。


 しかし、私はどの辺りで寝始めてしまったんだろう? 町中で思いっきり寝顔を晒してしまったのか!? ははは恥ずかしい……


「起こしてしまいましたか? 申し訳ありません姫様。まだお休み頂いて構いませんよ」


 シアさんは自分が私の眠りを妨げてしまったのではと思い、謝ってくる。


「ふあ……、ううん? ごめんねシアさん、私、寝ちゃってた?」


「ああ、無理せず寝ていろ。魔力を使いすぎたんだろう? 気を失ったんじゃないかと焦ったぞまったく……。まあ、可愛らしい寝顔も見れた、私としては得した気分だな」


 ああ、なるほどね。この眠気は魔力疲れからも来てるのか。なるほどなるほど。可愛らしい寝顔とか照れちゃうからやめて!


「師匠って姫さんの事ホントに気に入ってんだな。俺もバレンシアの凄え優しそうな笑顔なんて見ちまって……、睨むなよ」


「私も見習い卒業したら……、ごくり」


 獲物を見る目はやめて!!


「キャロは身長的に少し辛いのでは? なるべく椅子に座っての膝抱きにしておきなさい。不注意で姫様を取り落とし、もし怪我などさせてしまった場合は……、あなたと言えど生かしてはおきませんよ?」


「ははははい!! ま、まあ、まずは見習い卒業からですよね。あー、まずはウルギス様の説得からかー……、緊張するなあ……」


「私も一緒にお願いするから大丈夫だよ。後シアさんは怖い事言っちゃ駄目」


「ありがとうございます!! あれ? もう勝ったも同然じゃこれ……。希望が見えてきた!!」


「はい、申し訳ありませんでした、お優しい姫様。ふふふ」


 私の言葉に希望を見出したキャロルさんと、私の注意に軽く謝り、上機嫌に微笑むシアさん。どちらもとても嬉しそうだ。


 何か……、シアさん機嫌が良いね。今日は私をずっと抱き上げていられてるから? あ、久しぶりにお友達に会えて、しかもその友達が町に住む事になったから?

 なんだ、やっぱりシアさんだって何だかんだ言っておきながらもショコラさんが近くにいてくれるのは嬉しいんだ? ふふふ。


 あっさりと否定されそうだから確認は取らないけどね!






 その後もうつらうつらとしながらシアさんの腕の中で揺られ……、実際全然揺れは感じないんだけど、そろそろ巡回の人が回っている進入禁止ライン辺りに差し掛かかろうとしていた。


「シラユキ様可愛いぃ……。寝惚けてシア姉様の胸に頬擦りしちゃってるところなんてもう……!」


「あ、ああ……、この世界にこれほどまでに可愛らしい生物が存在しようとはな……。ば、バレンシア? 私にも少し、シラユキをだな……」


「私の至福の一時を奪おうと? ほう、ついにこの世から消える決心がつきましたか……」


 何かシアさんがまた怖い事言ってるな……。でも眠いからツッコミはライナーさんに任せたよー。


「怖え冗談言うなよ。しっかし本当に変わったよなお前、やっぱ姫さんが原因なのか? あの『千剣』が子守たーなあ。お前子供なんて」


 せんけん……? ああ、シアさんの冒険者時代の二つ名だったね。もう完全に忘れちゃってたよ。


「やめときなって、シラユキ様を抱いてなかったら一撃入れられてるよ今の。シア姉様はもうただのメイドさんなんだから、その……、理由は私にも教えてくれないけどさ、昔の事は話題にも出さないであげてほしいのよ」


「キャロ……」


 キャロルさんが真剣な声でライナーさんにお願いしている。さっきまで言い合いしていた様な軽さは無い、本当に真剣な声色だ。


「あー、わりい、スマン。Sランク最強の座を捨てるくらいだからな、よっぽどの事があったんだろ。何があったか知らんが思い出させちまったか? スマン、気を付ける」


 ライナーさんもキャロルさんの真剣さが感じられたのか、二人に素直に謝っている。


「いえ……、その……、すみません、お願いしますね。まあ、くだらない……、本当にくだらない理由ですよ。ですが、そのくだらない理由のおかげ、と言ってはなんですけど、今こんなにも幸せで……。複雑ですね、ふふ」


 私を抱き寄せ、頬擦りするシアさん。


 シアさん凄い優しい声……。ああ、駄目だ、くすぐったくて心地よすぎて、また寝ちゃいそう……


「やばっ、泣きかけた! 今の笑顔……、ホントに幸せそうで……」


「やべえ、惚れかけた……。俺には師匠がいるってのに!」


「ははは。バレンシアを落とすのは私よりはるかに難しそうだぞ? あー、バレンシア? 正直に言ってくれ。私たちがここにいるのは、辛いか? 過去に何があったかは聞かん、それだけ答えてくれ。返答によっては明日にでも発とう」


 どういう……、意味? ううう、寝ちゃ駄目だ……


 シアさんは少しだけ考えて、ゆっくりと話し出した。


「邪魔なら邪魔と、目障りなら目障りとそう言っています。貴女は私の数少ない……、ふふ、今はそこまで少なくはないかもしれませんね。貴女は私の大切な友人の一人、会っていて辛くなる理由などある訳が無いでしょう? まあ、迷惑に思う事も無いには無いのですが、ね。今のは私の本心ですよ、まったく、恥ずかしい」


「そうか……。くだらん事を聞いたな、許してくれ。お前の過去も、絶対とは言い切れんがなるべく喋らん様にはする。だがな、つい、や、物の弾みで口に出てしまう事はあるかも知れん。そうなる前にやはり、な。……はあ、シラユキが寝ていてくれてよかったな。起きていたら泣かせるところだ」


 起きてるよー、じゃない! ちゃんと起きなきゃ!!


「? 起きられていますよ?」


「何!? いやっ、シラユキ? これはだな……。ああー、しまったな……」


 ガシガシと頭を掻きながら、やってしまったとばかりに言うショコラさん。


「ショコラさんもう行っちゃうの……? 後、髪が痛んじゃうから掻いちゃ駄目」


 おっと、半分寝惚けているせいか余計な事まで言ってしまった。まあ、言って損は無いね。


「今の、聞いていただろう? バレンシアがそう思ってくれている様に、私もバレンシアの事を大切な友人だと思っているんだ。私の軽い、ついや弾みの一言でその大切な友人を傷付けたくは無い。情けない理由だがな……。まだ出合って二日だが、シラユキは賢くて優しい子だ、そう言い切れる。分かって、くれるな?」


 私を優しく撫でながらそう諭してくれる、とても優しいショコラさん。


「あ……、う、うう……」


 言わなきゃ……。うん、大丈夫だよって、分かったよって、言わなきゃ……



「別に多少話される程度、迷惑には思いますが、傷付きはしませんよ? 一体貴女は何を勘違いしているのか……。ああ、すみません。どうぞ私に構わず続けてください」


 !?


「なっ!? バレンシアお前分かって黙って……。うおお……、大恥だあ……」


「ああ、何か色々と台無しにされた気がする。でも眠くて頭が回らないや……」


「空気読んで黙ってたのにこの結果。さ、さすがシア姉様……、あはは……」


「はははっ。人をおちょくるのが好きなところも変わってねえな」


 あっけらかんと言うシアさんの言葉に恥ずかしがって頭を抱えるショコラさん。

 呆れて乾いた笑いしか出て来ないキャロルさん。

 本質は変わっていないシアさんに安心したのか、楽しそうに笑うライナーさん。


 眠くて今ひとつついて行けてない気がするけど、まあ、みんな楽しそうだからいいか……



「特に冒険者時代については思うところなどありませんよ? まあ、一欠けらも無いとは言い切れないかもしれませんが。貴女とは冒険者時代、ほんの数年だけの付き合いでしょう、共通の思い出を話されて私が何か傷付くような事でもあると? 私を、そして姫様を大切な友人だと思って貰えているのは素直に嬉しいですが……、もう少し頭を回してくださいね」


 シアさんはシアさんなりにショコラさんを引き止めてくれているのかな? それとも私が泣きそうだったから仕方なく?

 どちらか、或いは両方かは分からないけど、とりあえずはショコラさんがリーフサイドに住むっていう事は安心してよさそうだね。


「基準が分からんぞ基準が。何を話してよくて、何を話したらいかんのだ?」


「まあ、冒険者時代の話全般じゃない? 旅先で拾った噂話なんかも含めてさ」


「そうするってえと……、ほぼ全部じゃねえか? 姫さんには聞かせられねえ様な話は元々するつもりもねえし、それ以外に何の問題があるってんだ」


 うん、それは私も気になるところではあるね。

 冒険者は荒事が専門、という訳じゃないけれど、シアさんは元Sランク、そういった話題には事欠かないと思う。

 でも、それ以外なら? キャロルさんと一緒に見た旅先のきれいな風景の話や、ショコラさんたちと食べた各地の名物料理なんかの話もある筈だよね?


 シアさんが困るから問い詰めるようなことはずっとしてきてなかったけど……、ショコラさんが町に住むための最低条件にもなりそうだし、ここは止めずに聞かせてもらっちゃおうかな。


「はぁ……。問題です、大問題ですよ? まったく何を言ってるんだか……、これだから恥知らずの脳筋は……」


 シアさんは大きく溜息一つ、呆れた様に首を振りながら言う。


 な、なんて酷い言い草……


「俺は恥知らずじゃなくて自分に自信があんだよ。恥と思うから恥ずいんだぜ? んで、それの何が問題だって聞いてんだよ」


 お、おお、恥ずかしいと思うから恥ずかしい、自分に自信を持つ、か。いい言葉だね。私には絶対無理そうな……、うん? 今日の私、そう思って頑張ってたよね? なるほど! 私と同じで開き直ってるのか!? いやいやそんなまさか……


「それは……、ええと、その……、恥ずかしいじゃないですか、私が」


 シアさんは本当に恥ずかしそうに……、え?



「そんな理由なの!? え? 恥ずかしいからあそこまで隠してたの?」


「おまっ、人に恥知らずだの言っておきながら自分はそれかよ!?」


「え、えー? 私も何か重い理由があるんだとばかり……。ちょっと口を滑らせる度にがんがん怒られてた理由が自分が恥ずかしいからって……。ええー……」


「なるほどな、うんうん。ああ、違うぞライナー。バレンシアは恥を知っているからこそお前に恥知らずと」


「そういう意味でもそんな問題でもねえよ!! んっだよ情けねえな……」


「勿論それだけが理由ではありませんよ? 姫様にお話し難い内容もありますし、昔話の間に自然とそちらに話が寄ってしまう可能性もありますからね。……それより何より、私は姫様方にとって、メイド仲間にとって、謎の存在でありたいのですよ」


「あ、ああ……、何となく分かったよ……。謎メイドさんでいて、私をからかいたいんだねきっと……」


「はい。さすがは姫様、ご明察の通りにございます。ふふふ」


「結局それかよ……。まあ、俺はまたすぐ旅に出るからいいんだけどな、ちょくちょく顔出しには来るが。師匠とキャロルは、まあ、程々に気ぃ付けとけ」


「う、うん。ま、ちょっと気は楽になったかな。でもお仕置きは怖いから気は抜かないけどね!」


「五百も生きていれば自然とそうなってしまうものさ……、私もそうだからな。恥ずかしい思いは山としてきているぞ」


「それもなんか意味合いがちげえよ……。師匠のはホントにただの赤っ恥話だろが」


「まあまあ、もうそんな事はどうでもいいではありませんか。これからの事を考えるべきですよ? ほらこの様な……」




 シアさんはそう言うと私を地面に降ろし、数歩斜め後ろに下がり、腰を軽く折り頭を下げ、前をご覧くださいとばかりに手で前方を指し示す。

 私を含めた四人とも、いきなり何を? という顔でそちらの方を向くと……


 キャロルさんは慌ててシアさんの横に並び、同じような姿勢で頭を下げる。

 ショコラさんは何だ誰だと不思議顔。

 ライナーさんは、ふふふ、固まってしまったね。


 そして私は……


「あ、ただいま、父様、母様。クレアさんとカイナさんも一緒にお出迎えしてくれたの? それに、みんなも……? どうしたの?」




 待っていたのは、と言うよりお互い近付いていたのかな? 出会ったのは父様、母様、それとクレアさんにカイナさんに巡回の人たちが数人、クレアさんのお父さんもいるね。


 い、一体何が始まるんです?







続きます。

久しぶりに続く! っていう感じの続き方ですね。


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