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150/338

その150

 目が覚めた。明るい……、朝、だね。


 む? むむむ、シアさんがいない。

 いつもなら私が目覚める前には既に起きていて、ぐっすりと寝る私の頬を突付いたり耳をくすぐったりして遊んでいるらしいんだけど……。トイレかな? 起きてすぐ目が合うと、目の前ドアップでにっこり微笑んでおはようございますって挨拶してくれるのに。むう、起きた時に隣に誰もいないのはちょっと寂し……、人の気配。

 体を起こし、まだ眠い目を擦りながら部屋を見回す。……誰もいない。しかし、人の気配はする。なにこれこわい。


 ……あ、いた。ベッドのすぐ横でシアさんが土下座している。……何故土下座?


 むう、寝起きで頭が回らない、こんな時は順序立てて考えてみよう。

 土下座はどんな時にする? 謝ったりお願いがあるときに、だね。今この状況でお願いはありえない。となると、謝罪の意味か。

 謝罪はどんな時にする? 何か相手に悪い事をしてしまった場合だね。

 ふむふむ、つまり、シアさんは私に何かしてしまって謝っている、という事になるね。眠い頭で正解を導き出した私を褒めてもいいのよ?


 はあ、まったくシアさんは相変わらず大袈裟な……。今回は何をやっちゃったんだろう? ……? やっちゃった? ヤっちゃった? 私、ヤられちゃった!!?



 一瞬で目が覚めた!! ちょっ、え? ええ!? わわ私まだ二十歳だよ!? 子供だよ!? 早すぎるよ!! しかも相手が女の人!!

 あー、うー、全然覚えてない。寝てる間に全部済んだ、っていう事なのかな……。ううう、なんという初体験だ……、うん?


 布団を捲っても特に何も無い、昨日寝たときのままの寝巻きと、綺麗な真っ白なシーツだね。まあ、シーツは取り替えたのかもしれないという可能性は残っている、が、その可能性は低そうだ。

 体にも特に違和感は感じないね、初めてのときは凄く痛いって聞いてたんだけど……


 これは……、私、何もされてなくね?



 ふむ……、どうやらまだ寝惚けていたみたいだね、恥ずかしい。今度こそ目が覚めたよ。さ、さすがに驚いたわ……

 シアさんはまだ絶賛大土下座中。私が起きたことには気づいている筈、それでも一切口を開かないという事は、よほどの事をしてしまったと見た。これはどうしたものかな。


「お、おはよう、シアさん?」


 とりあえず朝の挨拶をしてみる。


「お、おはようございます、姫様」


 返事が返ってきた、やっぱり起きているね。もしかして土下座したまま寝ちゃってるんじゃ? とも思ったけど、さすがにそれは無かったか。ちょっと残念。

 いつまでもこの状態、寝巻きのままでいる訳にもいかない、私一人で着替えられないし……。シアさんも薄いネグリジェ一枚のままだし、それで床に土下座なんて体が冷えてしまう。


「率直に聞くけど……、何を、しちゃったの? 正直に答えて」


 シアさんは体をビクッと震わせる。


 ほ、ホントに私、ヤられちゃったんじゃないよね? 不安になっちゃう!


「ひ、姫様に、ゆ、指を……、その、な、舐めさせてしまい……」


 指を、のところで全身の血の気が引いたけど……、舐めさせちゃっただけ?

 もう! 驚かせないでよ!! ああ、アレか……、ちょっと前に姉様の指を口に咥えた……。あー、なるほどなるほど。


「はいシアさん、立って、命令! 簡単にでいいから説明して」


「はい!!」


 ビシッとその場に立ち上がり、いつものメイド立ちになるシアさん。ネグリジェ一枚なのに何故か様になる不思議。美人さんは本当に何をしても、どんな姿でも様になるなあ……


 そしてシアさんの、ちょっとした弁解を含んだかなりどうでもいい説明が始まった……






「あははは! はー……、朝から笑わせないでよシア……。そんな事で土下座してたの?」


「ま、まあ、私らもシラユキが赤ちゃんの頃しかそんな事したこと無いしね。でも、土下座するほど?」


 朝食を食べながら朝の出来事を三人に話してみた。

 メアさんには大好評、フランさんは少し呆れ気味。


「ど、どちらも羨ましい……」


 キャロルさんには羨ましがられてしまった。何故だ。



 シアさんは寝ている私の頬を撫でながら、親指で鼻や唇をくすぐっていたらしいのだが。それに反応したのか、私がシアさんの親指を咥えてしまったらしい。

 驚いてすぐに引き抜こうとはしたらしいのだけれど、少し前に見た幸せそうな姉様の顔を思い出し……、という訳だ。しょーもない。

 自分の指がふやけるくらい舐めさせたところで我に返り、その後すぐ私が目覚める気配を感じ、即土下座の体勢に入ったらしい。



「キスで舌を入れる事の許可は頂きましたが、指を舐めさせるなどという背徳感溢れる行為の許可はまだ頂いていませんでしたからね」


「え? 姫、そんな許可出しちゃったの? 本気で襲われちゃうよ? あ、私にも許可ちょーだい」


「あ、私にも」


「私にもお願いします!!」


 シアさんのいきなりな一言に三人とも許可を求めてくる。なにそれこわい。


「出してないし出さないよ!! シアさん勝手なこと言わないで!」


「いいえ? 昨晩確かに寝ている間なら、と仰っていましたよ?」


 ……? ……!?


「うわあ! 言った気がする!! て、撤回します!!」


「そんな! うう、分かりました……」


 シアさんは本気で残念そうにしている。


 あ、危なかった……、これから毎晩知らない間に舌を……、はははは恥ずかしい!!


「ねえねえ、姫? 安心してるところ悪いんだけど……。もう、されちゃってるんじゃない?」


 え?


「だね。昨日寝る前のことでしょそれ? レンがそんなチャンス逃す訳ないよね、ふふふ」


 !!?


「シア姉様? シラユキ様にはまだそういった事は早すぎると思いますよ? いくら眠っている間でも……、羨ましい……」


 さささ、されちゃってる? はっ!? 土下座にはその意味も含まれていたんじゃ……?

 いやいやそんなまさか、いくらシアさんでもそんないやらしい事を私にするはずが……


「シアさん、そんな事、してないよね?」


 フイッと横を向き、顔を逸らすシアさん。


「シアさん!?」


「じょ、冗談です、落ち着いてください。姫様は毎度同じ手に掛かりすぎですよ? そんな事ではいけません、もっと成長して頂かないと」


「なんで私が怒られてるの!?」




 そんなこんなで楽しい朝食は続く。私は食べるのが遅いのに、今日はお話が楽しすぎるせいでかなり長引いてしまっている気がするね。まあ、ゆっくり食べるのは悪い事ではないと思うけど、片付けやメイドさんズの次のお仕事が遅れてしまう。ささっと食べてしまおうかな。


「あ、姫、急がなくてもいいからね。ゆっくりよく噛んで、味わって食べる、だよ?」


 早速メアさんに注意されてしまった。


「はーい! ごめんね? 今日はちょっと時間掛かっちゃってるよね?」


「そんな五分十分遅れるくらい誰も気にしないって。いつまで経っても変に気を使う子だよねこの子……。ま、そこが可愛いんだけどね」


 フランさんに優しく撫でられる。


「あ、そうだ、ちょっと試してみようかな……。はいシラユキ、あーん」


 何かを思い付いたフランさんが、人差し指の爪先にパンに塗る生クリームを乗せ、私の鼻先に突き出す。


「ああ、なるほど。あーん……、んっ。ふふふ」


「うわっ、可愛い……。これはちょっと癖になっちゃいそう……」


「かかかか可愛い! 姫可愛い!! フランずるい!! 私も私も! はい姫、あーんして?」


「うん。あーん……」



「いいんですかあれ、シア姉様?」


「姫様がお幸せそうですし、いいのでは?」


「まあ、そうですね。どう? 二人とも。背徳感溢れる?」


「どういう聞き方!? そんな事ある訳……」


「う、うん……、ちょっとね。興奮してきた」


「フランさん!?」


「私、そっち趣味に転びそう」


「メアさん!? 正気に戻ってー!!」






 散々私をからかって堪能した二人は今日の準備をする為に台所へ、キャロルさんもお手伝いに行っている。今日の予定は冒険者ギルドへお出かけだ。ショコラさんとライナーさんに、やっぱり許可は取れなかったよ、という報告と、あとは昨日のお喋りの続きをする予定。

 オレンジジュースとシアさん作のクッキーは作り置きをとりあえず補充、冒険者ギルドお出かけ用のバスケットはこれでよし、と魔法でしまい直す。これも含めて他のお出かけセットのお菓子まで昨日全部食べられちゃったんだよね、そっちはまた追々でいいかな。あったらあるだけ食べられてしまいそうだ。

 そういえばシアさんがいなくて気付けなかったが、昨日テーブルクロスを敷くんじゃなくて、普通にピクニック用のバスケットに入っているシートみたいな物を使えばよかったんだよ。シートって言っても厚手の布だし似た様な物か、と一秒で記憶の隅に追いやる。


 冒険者ギルドへはお昼頃に着くとして、向こうで食べるお昼ご飯を二人には作ってもらっているのだ。勿論デザートも。ふふふ。

 シアさんが残っているのは、昨日はシアさんが殆ど一人で頑張っていたのと、フランさんとメアさんの作る料理を食べてもらいたいから、だね。私自慢のメイドさんはこんな美味しい料理を作れるんだよと自慢したいのもある。まあ、半分冗談だけどね。ショコラさんとライナーさんは森の中に入れないし、メアさんとフランさんは町にはあんまり行きたがらない。そうなるとこうする外方法が無いからだ。


 まだお昼まで時間はある、運んでいる間に冷めてしまうのでは? そしてあの二人が満足できる量を運ぶにはどれだけの人員が? などの問題は、全て私の収納と保存の魔法で解決できる。

 シアさんは渋々と言った感じだったけど、私の熱意に押されてか、渋々ながらもいいですよ、と答えてくれた。私に魔法を乱用させる事の不安はどうしても拭い切れないらしい。当たり前か……

 条件として、違和感を感じたらすぐ取り止め、台所でしまっている時でも冒険者ギルドで取り出している時でもだ。すぐに家に帰り、部屋に戻り、ベッドで休ませられるらしい。さらに薬草茶のおまけつき。私の魔力量はそこまで多いとは思えないし、ちょっと不安でもある。


 先日の大量のお買い物の出し入れでも全く違和感は感じなかったし大丈夫だとは思うのだけれど、ね。シアさんが不安だと私も不安になってきてしまうものだ。



 まあ、そんな悪い考えばかりするものじゃない。今日二人と何を話そうか、楽しい事を考えようじゃないか。


「ねえねえシアさん? ショコラさんたちに聞いちゃ駄目、っていうのはある? シアさんのこと以外で」


 私を膝の上に乗せ、幸せそうにのんびりとしていたシアさんに話しかけてみる。


 部屋着のままのんびりしているのは、料理をしまう時についこぼしたりなどで服を汚してしまったら、という理由。信用無いね私は。まあ、自分でも納得はしている。


「そう、ですね……。竜人の集落については聞かない方がいいかもしれませんね」


「そうなんだ? 理由はあるの?」


「そこは私にもなんとも……、すみません。二人揃ってその話題になると苦い顔をしていましたからね。集落に何かあるのか、それともあの二人に何か思うところがあるのか、そこまでは分かりません。どちらにせよ避けておいて損は無いでしょう。姫様がどうしても気になると仰られるのでしたら力ずくでも聞き出しますが……。後は勿論、血生臭い戦いの話なども、ですよ? これは姫様が好き好んで聞かれるような話題でもないのですが……」


「うん、私が嫌いでも、ね」


 力ずくでもの辺りはスルーしておこう。


「ええ。ライナーは若く、力が有り余っていますからね、受ける依頼もほぼ全てが討伐系、好戦的な性格なのですよ。姫様の様に可愛らしい子供の前ではそういった話題は避けるとは思います、まあ、安心していいでしょう、私も付いていますからね。ショコラが出す話題は食べ物関係、とくに甘いデザート系が多いでしょうか? 姫様と気が合うのでは、と思いますよ、ふふふ」


 シアさんは私を優しく撫でながら、嬉しそうに、楽しそうに微笑んでいる。


 シアさんもやっぱり友達に会いに行くのは楽しみなんだろうね、きっと。昨日ショコラさんがちょっと言っていたけど、自分の自慢のお姫様を友達に見せびらかしたいのかも? ふふふ。

 自慢のお姫様か……。し、しまったな、昨日の私ってお姫様らしさの欠片も無かった気がするよ……。む、むう、シアさんに恥をかかせる訳にはいかないっ。


「変に背伸びをせず、ありのままの姫様でいいんですよ。それが私の大切な、自慢の姫様なのですから」


「今の絶対心読んだでしょ? シアさんやっぱりそういう能力持ってるんじゃないの?」


「ふふ、なんて可愛らしい……。両手を握り何かに決意をした様な姫様を見れば、誰だって考え付きますよ。まあ、確かに一般の方には難しいかもしれませんね……。姫様お付のメイドのみが使える能力としておきましょうか、ふふふ」


「むう……。それでもシアさんの言い方は具体的過ぎるよ! シアさんが凄いっていう事でいいか……」


「ありがとうございます、姫様」


「褒めてな、くもないか……。うん、シアさんは凄いね、ふふふ」




 まあ、いいや。とりあえずはこのゆったりとした時間、シアさんに全力で甘えようと思う。




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