その149
よくぞ呼んでくれたとシアさんを褒め、感謝する母様と姉様。突然の養子発言に戸惑い、慌てるキャロルさん。いつもの思いつきの軽い冗談だから気にしなくてもいいのにと、でも特に何も言わずに成り行きを見守る私とメアさんとフランさん。
そんな面白楽しい状況が暫く続いたが、私の大きな欠伸を合図にお開きの時間となった。キャロルさん以外のみんながパッと素に戻るのがまた面白かったね。私ももっと遅くまで起きていられる様になりたいものだ。
今日の添い寝当番はシアさん。他のみんなはまだここでお話を続けるみたいだ。お開きでは無かったね。
一人で寝れるからシアさんもまだ起きててもいいよ、と一応言ってはみたが、姫様が一人で眠れる訳は無いでしょう、とひょいと抱き上げられ、寝る準備へと連行される。私も実際、まだ一人寝は寂しいので特に反論もせず、四人におやすみなさいと告げ、大人しく連行される事にした。
歯磨き、着替え、髪袋のセットも終わり、後はベッドに入るだけだ。まあ、まだ眠さも限界という訳でもない、自然に寝てしまうまでベッドの中でシアさんとお話をしよう。
私が先に、次にすぐシアさんもベッドに入り、明かりの魔法を消す。
うずうず。今日は何となくシアさんに甘えたい気分。シアさんがベッドに体を倒したのを確認してすぐ、もぞもぞと体を寄せ、それに気付いたシアさんが体を横向きにし、私と向き合う形にしてくれる。
ちなみに、寝るときは全裸派のシアさんだが、私と寝るときだけは薄手のネグリジェの着用が義務付けられている。でも、これ一枚だけで下着も何も着けてくれないんだけど……、すぐ隣で全裸で寝られるよりははるかにマシなので文句は言わない。たまに目覚めると裸になってるんだけど……、ね。だんだんと慣れてきてしまった。
こうやって抱きつくと胸の膨らみと柔らかさがはっきりと……。しかしこれも慣れた、慣れてしまった。
「ふふふ、どうされました? 姫様」
シアさんは母様のように、あらあらこの子は……、とでも言いたげに私を優しく抱き寄せて、頭を撫でてくれる。
「ちょっと甘えたい気分、ふふふ。寝ちゃったら剥がしてもいいからね」
「いえいえそんな、勿体無い。と言うよりは、姫様はお眠りになると抱きついてくるのですが……。まあ、いいでしょう、分かりました」
おお、そうだったのか、私って抱きつき癖でもあるのかな? 朝起きた時抱き合って寝ているのはそういう訳だったのか、三人とも私を抱き枕にしていると思ってたよ。
「今日は、その……、不安にさせてしまいましたか?」
甘える私の心を見透かしたように、シアさんが聞いてくる。
「うん……、分かんない、そうかも……。シアさんはお友達に久しぶりに会えて嬉しかったよね? キャロルさんも……、凄く、楽しそうだった」
ショコラさんと話すシアさん。ライナーさんと軽い言い合いをしながら、でも笑いながら料理を取り合うキャロルさん。二人ともとても楽しそうだった。
「ええ、まあ……、百年以上ぶりの再会でしたからね、私も少し気が抜けていたのかもしれません。キャロは完全に冒険者時代の荒さが戻ってしまって……」
「キャロルさんは冒険者に……、戻りたいの、かな?」
それとシアさんも、という言葉は飲み込む。
「姫様……」
シアさんの私を撫でる手が止まる。
今日のキャロルさんは本当に楽しそうだった。何て言ったら……、自然に、そう、自然体だったのかな。
やっぱりキャロルさんは冒険者に戻りたいんだと思う。元からちょっとした休暇の予定だったんだし、それが姉様の一言で長引いてしまっているだけだ。
今朝、シアさんに言われた冗談、冒険者の登録は抹消済み、と、そう言われた後のあの落ち込みようを見ると……
「姫様は……、ああ、すみません。当たり前の事を聞いてしまいますが……、姫様はキャロに、このままメイドを続けてほしいと、そう思っているのですよね」
「え? う、うん……」
シアさんの質問に考えを中断させられ、ついはっきりとそう答えてしまった。
「それならば……、そう命じてしまえばいいのですよ? キャロが姫様の命に逆らうなど」
「できないよ! できない……、そんな事、できないよ……」
キャロルさんにはキャロルさんのやりたい事、生きる道がある。それを王族権限で捻じ曲げてしまうなんて事は、私には絶対にできない。シアさんもそんな事は分かりきってると思うのだけれど……
「申し訳ありませんでした、姫様。ですが、姫様はもう少し我侭を言ってもいいと思いますよ。むしろ言ってください、命じてやってください。勿論一生を縛る必要はありません。ただ、せめて成人まで側にいてほしい、そう言ってしまえばいいんです。八十年程度の遅れ、あの子ならどうとでも取り戻す事ができますよ。仕事の合間を縫って私が鍛え直しているところですし、ふふふ、逆に喜ばれてしまうかもしれませんよ? 迷惑な話ですが私はあの子に好かれていますからね」
勿論姫様も、他の皆様も、と続ける。
「め、迷惑って……」
「失礼しました、ふふ。さて、どうでもいい馬鹿弟子のことなど忘れ、本題に入りましょうか」
「キャロルさんの扱いがひどい! ……本題?」
むう、さすがはシアさん、心が軽くなってしまった。
八十年も縛り付けるつもりはないが、ちょっとくらい我侭を言って、もう少しメイドさんを続けて貰っちゃおうかな、と思えてしまう。不思議だね。
「誓います、お約束します、これは、絶対の事です。もし、や、やっぱり、等の不確定要素も一切御座いません、在り得ません、ご安心くださいね」
互いの息が届く距離まで顔を近づけ、シアさんは真面目に、大袈裟に話し出した。
「う? な、何? また何か怖い事誓うの?」
私の半径3m云々が5mになるとかじゃ……。もう町を歩けなくなっちゃう!?
……冗談は置いておこう、私も真面目に聞かなければ、ね。
しかし、顔が近い。部屋は暗いけど真っ暗じゃない、カーテンはあっても月明かり程度は入ってくる。明かりを消して暫く経ち、夜目に慣れた今だとシアさんの顔がはっきりと、でもないか……、薄っすらとは確認できる。
シアさんはさらに顔を近づけ、私の額に自分の額を付ける。
近い!! この距離でお話するの!? ううう、恥ずかしい……。でも真面目なお話みたいだからね、しっかり目を合わせて聞かなきゃ!
「私は、一生、この命尽きるまで、いいえ、命尽きようとも姫様の……、シラユキ様のお側に在り続けます。側仕えのメイドとして、あなたを守る盾とも、あなたの敵を討つ刃ともなりましょう。もし、万が一、億が一、シラユキ様が私より先に逝かれてしまわれた場合もご安心くださいね。すぐに命を絶ち、あちらの世界、次の世界があったとしても、いつまでも、どこまでもお供致します」
ゆっくり、はっきりと、私の記憶に一字一句残るように、シアさんは言葉を綴り……、私に口付けをする。唇にだ。
一秒、二秒、三秒……、長くね!?
「ぷはぁ! ももももう! いきなりキスしないで!! くううう、油断してたー!!」
「さすがは姫様、今まさに舌を入れようとしていたところでしたのに……、残念です」
「危なかった! やめて!! そういうのはキャロルさんにしてあげてよう……」
むう、凄く真面目なお話をしていた筈なのに……。あ、姫様に戻ってる。もっとシアさんに名前で呼ばれたかった!!
「キャロと言えば、あの子は逆に寝ている私を……、おっと、話を戻しましょう」
寝ているシアさんを!? 何!? キャロルさん何してるの!?
「姫様? 姫様? ふふ、冗談が過ぎましたか、申し訳ありません」
「ううう、恥ずかしい冗談はやめて……」
あまりの恥ずかしさに布団に潜り、シアさんに抱きつく。胸に顔を埋める形だが、これは逆にシアさんを喜ばせる事になっているかもしれない。
「あ、お吸いになられますか? 少しお待ちくださいね、すぐに前をはだけ」
「吸ーいーまーせーんー!! もう! お話の続き、して?」
「ふふふ、本当に可愛らしい姫様……」
うーん、シアさんいい匂い……。このまま眠ってしまいそうだが、きちんと最後までお話を聞かなきゃね。
「先ほどの誓いの言葉ですが、勿論姫様のお許しが前提条件にあります。どうか、姫様が邪魔だと思うその日まで、その時まで、お側に立つ事をお許しください。お願い、申し上げます」
「うん、いいよ。ご、ごめんね? ちゃんと立って向かい合っての方がよかったよねこれ……」
まさかこんな大真面目な誓いを立てられるとは思わなかったし、しょうがないよね、うんうん。
「いえいえ、私も少しは恥ずかしいものでありまして……。ふふふ、ありがとうございます、姫様。……むう、この体勢ではお礼のキスができませんね」
「私が寝た後にして!! ふう……、私がシアさんのことを邪魔に思うなんてある訳無いんだから、そんなのいちいち許しを得なくてもいいんだからね? うーん、やっぱりごめんね? もっと真面目に返事しなきゃいけないよね」
今のはまさに、命を懸けての誓いの言葉だった筈。それを、うんいいよ、の一言だけで返すのはやっぱり問題がありそうな……。うーむ……
「姫様のお言葉に重いも軽いもありません。全てが全て、私の命よりも、この世界の何よりも重い一言なのですから。何も問題はありませんよ」
「大袈裟!! ふふふ、キスで誓うなんて騎士みたいだね。でも、唇だとプロポーズにも思えちゃうよ?」
「騎士? いいえ、メイドです。しかし、プロポーズですか……、ふむ……」
「そこで悩まないで! プロポーズにすればよかった、とか思ってるんでしょ?」
「あらら、心を読まれましたか。プロポーズは成人されるまでお待ちくださいね。それまで私が理性を保つことができれば、の話ですが……」
「ひゃわあ!! お尻撫でないで!! もう! 揉んでやるー!!」
「んっ……。姫様……? 理性が飛んでしまいますよ?」
「ひい! ごめんなさい!!」
「姫様? 寝てしまわれましたか……。私が冒険者に戻るなど有り得ませんよ? 誓いは逆に不安にさせてしまったかもしれませんね……、難しいです。私もまだまだですね……」
そんな事ないよ、安心したよ、と答えてあげたいが、眠気が限界。ギュッと抱きつくことで返事をする。
「姫様……? ふふ、ふふふ」
嬉しそうに私を撫でながら微笑むシアさんの気配を感じながら、私の意識は夢の中へ……
ラブラブですねこの二人……
そろそろGLタグが必要でしょうか? うーむ……
これで長かった一日のお話は終了です。
最後は短めでしたが……? 4000文字あるのに短く感じる不思議! ……失礼。
二十歳以上編、ここからが本番です。