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146/338

その146

 シアさんの料理が出来上がるまで、調薬ギルドの一室を借りておやつの時間は続く。奥の部屋もそれなりには匂うが、あのお店部分の、商品全てが交じり合った様な不快な匂いではなかった。一安心。

 クレアさんはシアさんのお手伝いに台所へ、ギルド内に台所? まあ、自炊する人もいるんだろうね。キャロルさんには、私たちの夕ご飯は今日は必要ないと言伝に一度家へと戻ってもらっている。ごめんねキャロルさん、遠いのに……。ロレーナさんは自分の分のクッキーを確保したらすぐにお店の方へと戻って行ってしまった。どうやらお菓子以外はあまり興味はないらしい。後多分、人数が多くて会話が面倒くさくなったのかもしれない。


 おやつの時間とは言っても食べているのはほぼショコラさんだけだ、私と兄様、それと甘い物がそこまで好きではないライナーさんはちょっとつまむ程度。まだこの後シアさんとクレアさんの美味しいお料理が出て来るのにね。

 そんなに食べてお腹一杯になっても知らないよ? と一応言っては見たものの、お前は何を言っているんだ? という顔をされてしまった。私、変な事言ってないよね? ライナーさんには大笑いされてしまった。くそう……



 巡回の人に伝言を頼んだキャロルさんが帰って来て、冒険者ギルドお出かけ用のみならず、他のバスケットにも入れてあったお菓子類すら底を突き、ショコラさんがまだ物足りないぞとクッキーの盛ってあったお皿を舐めていたところで料理が運ばれ始めてきた。

 その時のショコラさんとライナーさんとキャロルさんの嬉しそうな顔! 完全に餌付けされてるね三人とも……。え? 私もそんな顔してたのルー兄様……、恥ずかしい。






「そこ! 並べ終えても、姫様の許可を頂いてもいないのに食べ始めようとしない! 小さな子供が我慢して待っているというのに貴女は……」


 早速料理に手をつけようとしたショコラさんの指先目の前に、目にも留まらぬ速さでナイフを投げて止めるシアさん。


 あ、危ないなー、食卓で流血沙汰はできたら勘弁してもらいたい。まあ、シアさんが当てるような事をする訳が無いんだけどね。……うん? 小さな子供?


「うおおお……、し、シラユキっ、許可をくれ! これを目の前にしてお預けは辛い! ああー、いい匂おおう!? 今のは当たるところだったぞバレンシア……」


 料理の匂いに誘われて、顔を近づけていっていたショコラさんの鼻先ギリギリにナイフが突き刺さる。


「もし手を付けようものなら貴女だけデザートは抜きですからね。ああ、キャロ、ライナー、あなたたち二人もですよ? ……涎を拭きなさいガトー……」


「おおっと、いかんいかん」


「分かってますよ! コイツらと一緒にしないでくださいシア姉様……」


「俺もかよ!! 師匠と一緒にすんなって」


 垂れそうになっていた涎を拭き取るショコラさんと、それを指差しながら反論するキャロルさんとライナーさん。



 うーん? ずっと気になってたんだけど、キャロルさんは普通にお友達だからいいとして、ライナーさんもショコラさんとお友達感覚でお話してるよね。呼び方こそは師匠だけど、何と言うか……、!? まさか!!


「ねえねえ、ルー兄様。もしかしてライナーさんとショコラさんって……、そういう関係なのかな?」


 私のすぐ左隣に座っている兄様に小声で話しかけてみる。右隣はショコラさんだが料理に目線が釘付けなので多分聞こえて無いだろう。


「あ? あー、どうだかな。確かに師匠と弟子の関係にしては馴れ馴れしいと言うか、距離が近いよな。でもな、シラユキ、悪い。興味が無い」


 オウフ。どうやら兄様の興味も今は料理に向いてしまっているようだ。恐るべきはシアさんとクレアさんの料理だ。


「別にライナーは恋人でも何でもないぞ? ただの弟子だ。弟子っつっても何か教えてる訳じゃないんだが……。ま、ただの同行人かね」


「あ、聞こえちゃってた? ふーん、そうなんだ?」


 なんだ、つまんない。ただの旅の仲間、冒険者仲間くらいの感覚なのかな。ざーんねん。


「ああ、ガトーからはそんな感じですけど、ライナーはかんっぺきに惚れてますよ。全く相手にされてませんが、ね?」


「うるせえよチビ、いずれ師匠より強くなって見せらあ。そん時は俺の女になってくれるっつー言質は取ってあるからな」


「チビ言うなこのデカブツが! その図体で私にすら勝てないくせにえっらそうに!!」


 ほうほう? ほうほうほう?

 ライナーさんはショコラさんのこと好きなんだ? ここまではっきり男らしく言われると聞いててもあんまり恥ずかしくないね。カッコいいね! 後ちょっと、今日のキャロルさんは口調が荒すぎます怖いです。多分今夜辺りシアさんに怒られると見た。


「なれたらな。キャロルに負けてるお前が私より強く、か……。いつも言ってる事だが後何十年待たされるんだろうなあ? 何百年か?」


 ニヤニヤ顔でライナーさんをからかう様に言うショコラさん。


 おやおや? この反応、もしかしてショコラさんも満更ではない? な、なになに? 既に相思相愛? きゃー!!


「ああ、姫様? ライナーは相手にされていないだけですよ?」


「そうなの!? ら、ライナーさん頑張って!」


「お、おう……。改めて言われるとキツイな……」


「まあ、頑張れ。応援だけはしてやる」


「私が鍛錬に付き合おうか? Aランク相手では加減できるか分からんが……」


「クレアは戦いたいだけでしょ……」


 しれっと言うシアさんに驚きながらもライナーさんを応援する私と兄様。ただAランクの竜人と戦いたいだけだと思うクレアさんに呆れるキャロルさん。


 何と言うか、ふふふ、楽しいね。賑やかな食卓はいいものだよね。


 ショコラさんは充血しそうなくらい両目を見開いて料理を見つめ、我慢している、さすがに可哀相になってきた。そろそろ並べ終わりそうだし、もうちょっとの我慢だよ。




 料理を全て、ではないが並び終え、兄様と私の言葉を皮切りに、今日急遽決まったお食事会は始まった。


 ライナーさんは早速キャロルさんと取り合いを始め、二人でがっつき始める。キャロルさんは後で反省会ね、はしたないよ。よっぽどお腹が空いていたのかシアさんが睨んでいる事に気付いて無いみたいだ。

 ショコラさんも同じ様にがっついた食べ方をするんじゃないかと思っていたけど、やっぱり綺麗な見た目通り、大人しく丁寧? な食べ方だ。小皿に取り分けられた量は半端じゃ無いんだけどね。


 私はいつもと同じ様にシアさんが付きっ切りでお世話してくれている。兄様にはクレアさんが付いているね。むう……


「シアさん、クレアさん。今日くらいは一緒に座って食べよ?」


「私は姫様のお世話をする事がができ、幸せでもう胸が一杯です。ありがとうございます、姫様」


「私も料理をしながら色々と摘みました、お気になさらずに。お心遣いありがとうございます。まだ追加も沢山ありますので、給仕に専念させて頂きます」


 駄目元で言ってはみたけどやっぱり駄目だったかー。クレアさんはさっき外で一緒におやつを食べたし、我慢しておこう。シアさんには初めから期待はしてなかったからいいや。今の二人の言葉を聞いてキャロルさんがなにやら慌ててはいるが、こちらも気にしないでおこう。ふふふ。



「ん? ああ、師匠の食べ方、普通だろ? 普段は色々とガサツな振る舞いなんだが、こういうところで見える女らしさがまたいいよな?」


 ショコラさんの食べ方を見つめていた私の目線にライナーさんが気付く。


 なるほど、ギャップ萌えであるか。ライナーさんはそれにやられちゃった訳だね。ニヤニヤしてしまう。


「でもな、よく観察してみな。面白えぜ?」


 うん? 面白い?

 とりあえずライナーさんに言われた通り、失礼だけどもうちょっと観察を続けよう。ショコラさん本人は文句を言う暇があったら食べた方がいいのか、それとも食べる事に集中しすぎているのか、次々と口の中へ料理を……、うん?


 あれ? この人さっきから手が一切止まってなくない!?


 あ、小皿にパスタを取り分けた。フォークでぐるぐると巻き取り、持ち上げて口の中へ。入り切らなかった分はチュルッと吸い込んでいる。そしてまたフォークでぐるぐる、口の中へ。


「凄いな、一定のペースを崩さず食べ続けてるのか。しかし、その細い体のどこにそんなに入るんだ? 見たところ腹も出てないしな」


「ルー兄様は胸しか見てないと思ってた。でも、ホントに凄いねー」


「姫様は真似をしてはいけませんよ? しっかりとよく噛んで、味わって食べてくださいね」


「はーい!」


「シラユキ様にはやろうと思っても真似できませんよシア姉様……」


 兄様と二人で感心していたら、目線に気付いたショコラさんがフォークを咥えたままこちらを向き、目だけでにっこりと微笑む。


 ななななんという幸せそうな微笑み! これはライナーさんが落ちてしまったのも納得だ!! なんという、なんというギャップ萌え!!




 いつもより少し多めに、お腹一杯苦しくなるまで食べてしまった。楽しいとついつい箸が進んじゃうよね。フォークが、かな?

 私と兄様、キャロルさんは途中で休憩に入り、ライナーさんとショコラさんが最後の一皿まで綺麗に食べ終えたのを見届けたところでデザートが運ばれてきた。


 ふむ、お腹一杯だね。さすがに今回は別腹の空きも残ってはいないみたいだ。私の分はショコラさんにあげちゃおう、きっと喜んでくれ


「はい、お待たせしました。デザートはプリンですよ」


 誰があげるものかっ!!




 一口二口食べたところで、やはり限界を超えることはできずショコラさんに食べてもらう事にした。

 三口目を食べようとスプーンですくい取ったまではよかったが、それをどうする事もできずオロオロとしていたらショコラさんがあーんと口を開けて待機してくれていたのだ。そのまま私の分を全部食べさせてあげた、と言うより食べてもらった。

 誰かに食べさせて貰う事はあっても、食べさせる側の経験はあまり無いのでちょっと嬉しかったりもしたね。


 シアさんが嫉妬のあまり凄い表情でそのやり取りを睨んでいたみたいだが、怯えるキャロルさんとライナーさんが目に入ったので顔を向けることはしなかった。私も怖いもん。




「シアさんにも今度してあげるから怒らないでね?」


「はい! ありがとうございます!! その時はスプーンなどではなく、是非姫様の可愛らしい指先で……」


「舐めるつもりでしょ! ダメー!!」


「では口移しで?」


「どうしてそうなるの!?」



「今日ずっと思ってた事だが、バレンシア、変わったなあ……」


「だろ? 未だに違和感が凄えって。しかし、いいのかアレ」


「ああ、構わん。シラユキをからかうのはバレンシアの趣味であり生きがいだからな。それに、見ていて楽しいだろう?」


「はい、私もついついからかっちゃうんですよね。シラユキ様の反応が可愛くってもう……、はっ!?」


「キャロル……、明日は私の鍛錬に付き合え。姫様をからかうなど、姫様付きのメイドにだからこそ許される行為だ。まったく、羨ましい」


「ああ、羨ましいんだ……」


「まるで仲のいい親子か姉妹だな。ふーむ……」


「お? 子供欲しくなったか? いつでも俺が」


「アホか、寝言は寝て言え、子供ガキが」


「し、辛辣な言葉……。ライナーさん頑張って! 私は応援してるよ!!」


「おう!! ありがとな。はは、姫さんもいつの間にか敬語が抜けちまったな」


「え? あ、ホントだ。い、いい?」


「当たり前だろ。友達に敬語なんて使うもんじゃねえよ」


「うん!! ありがとうライナーさん!」


「ははは、俺もこんな素直な子供が欲しいもんだ。師匠! 俺の子供産んでくれ!!」


「はいはい、私より強くなったらなー」


「恥ずかしい事大声で言わないで!」







賑やかな食卓、いいですよね。


やっぱり場の人数が多いと空気になる人が出て来てしまいますね。難しいです。


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