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その14

 明かりの魔法を一つ出す、消す。二つ出す、消す。三つ出す、消す。四つ五つ……。


「な、なんだろう、この異常なまでの達成感の無さは……」


「簡単な魔法だからねー。もうそれ練習いらないんじゃない?」


「まあ、いらんわな。っと、程々にしとけよ? そんなんでも魔力は消費されてるんだからな」


 カラフル点滅ボールで遊びだしたところで兄様に止められた。


 おっと、そうだったよ。魔力とかいう謎パワーを消費してるんだった。でも体感なにも感じないのよね……。疲れも無いし、何か減っていくような気すらしない。



 今日の先生も兄様。付き添いはメイドさんズだ。


「その程度の魔法でしたら一日中お使いになられていても問題なさそうですが……、姫様はまだ五歳、無理をしてはいけませんよ?」


 シアさんにも優しく注意をされてしまった。


「はーい。少し休憩しようかな? 今日のおやつは?」


 はっ! 減ってる感じはするよ! お腹減ってる!! まさか魔力を消費するとお腹が空くとは……、無いわ。いや、でも、あながち的外れな考えでもないのでは……!?


「ふふ、今日はアップルパイを焼いてあります。姫様が昨日、食べたいなー、うへへへ、と可愛らしく仰られていましたので、早速今日用意してみました」


 ほう! ほうほう! アップルパイであるか。うへへへ? そんな事言ったかな私……。


 うーん素晴らしいねメイドさんズは。私、自分がどんどん駄目人間、じゃない、駄目エルフになっていってる気がするよ。でもやめられない! やめにくい!! 十歳までは甘えさせて! 十歳以降もっとだらけたエルフになりそうな気もするけど……。今はそんな事はどうでもいい、重要な事じゃない。まずはしっかりとお礼を言わないとね!


「ありがとうシアさん!」


「いえいえ、一メイドなどにそこまで感謝してはいけませんよ」


 なんという謙虚さ、メイドの鑑だ。素晴らしいなさすがシアさん素晴らしい。私はこれでまたシアさんのことが大好きになったなー。……だが。


「シアさんももう家族なんだよ? そんなに畏まらないでいいのにー」


「バレンシアもメアリーもさ、もっと気、抜けって。王族なんて言っても俺達まだ二百も生きてないんだぜ? シラユキなんて五歳だぞ五歳、アップルパイに大喜びする子供だぞ」


 はーい、おやつに大喜びしちゃう子供でーす。


 メアさんはあんまり会話に入ってこないよね。私以外の王族とはやっぱり話しにくいのかなー。

 シアさんは誰にだって親切丁寧だし、これは性分なのかもね。フランさんみたいに軽い性格なシアさんは想像できない。



 それにしても、二百年が、まだ、か。兄様は百六十くらいだっけ? みんな百歳を超えると自分の年齢も大体くらいにしか把握してないんだよね。

 成人までは指折り数えるような感じなんだろう。成人したら色々な権利が認められるからね。国の外に出たりとか、結婚とかね。もうその後は本当にどうでもよくなるんだろうね。



「年、と言えば。三人とも何歳くらいなの?」


 なので、女性の年齢を聞くのも特に失礼な事ではない、筈だ、よね?


「ん? 私は二百ちょいだね。まだやっと大人って感じかな」


 フランさん二百! 兄様より年上なんだ? ちょっと意外かな。


「わ、私はまだ百三十になったばかりよ。背は低いけどちゃんと成人してるんだよ?」


 メアさんは百三十か、姉様より年上なんだ。背は確かに低めかもしれないけど、その胸のサイズなら誰でも納得すると思います!


 しかし、二百年でやっと大人って……。なるほど、成人はあくまで認められるだけなのね。なるほどなるほど。人間で言うと二十代後半くらい? いき過ぎかな?



「あ、シアさんは?」


「そういや、バレンシアの年って俺も知らないな。共通の話題のシラユキのこと以外は全然話そうとしないもんな」


 さすが謎のメイドさんだ、おっぱい星人の兄様も知らないとは……。


「姫様? リーフエンドでは、いえ、エルフの間では問題無いのですが、他の種族の方の、特に女性の年齢は気軽に訊ねるものではありませんよ?」


「そうだぞ? エルフの俺たちからすると年とか本当にどうでもいい事なんだけどな。町でさ、他種族の女にうかつに聞くと急に機嫌悪くなるからな? 特に人間種族」


 兄様実際やったんだね、確かに普通に聞いちゃいそうだよね。 ……え? シアさんまさかエルフじゃないのか? でも耳長いよね。


「ああ、申し訳ありません。誤解させてしまったようですね。私はエルフですよ、ご安心ください」


「あ、やっぱりエルフであってるんだね。ちょっとビックリしちゃった。それで、何歳なの?」


 エルフなら気軽に聞いても大丈夫だよね!


「ここは秘密、と申し上げたいところなのですが、ほかならぬ姫様からのご質問では答えるしかありませんね。私は……、? え、ええと、確か今年で……? あら?」


 スラスラと答えようとした表情のまま一瞬固まり、首をかしげて考え込んでしまうシアさん。


「あ、覚えてないんだ……。大体でいいよ大体で」


 シアさんたまに仕草が可愛い時あるね。これがギャップ萌えという物か! シアさん萌え。


「申し訳ありません。私も自分の年齢は割とどうでもいい部類に入るもので……。そうですね、大体五百近く、ですね」


「ごひゃく!? フランさんの方が年上だと思ってた!」


 五百って……、見えないよ。いや、見た目で年齢分かる人なんて、今は子供の私くらいしかいないんだけどね。五百かー……。



「それはどういう意味かなー? シラユキ?」


 フランさんがにこやかに聞いてくる。にこやかなのにちょっと怖いのは何故だろう。


「え? いや、違うよ? 別にフランさんが老けて見えるとかそういう意味じゃないよ? だってフランさん見た目大人の綺麗な人でも、中身はメアさんと同じくらいに……」


「つまり私は、見たまま子供っぽく見える訳ね? ひーめー?」


 しまったつい口が! フォローするつもりが敵を増やしてしまった!!


「なるほど、私は見た目は美人で素敵な大人のお姉さんでも中身は子供っぽく見えると。ふむふむ」


 そしてフランさんもフォローになってなかった! いいじゃん、年七十くらいしか変わらないんだしさ!! お? 今のエルフっぽい考えじゃない?


「うう……」


「とりあえず謝っとけ。女は怒らせると怖いぞ」


「はーい。ごめんなさーい……」


 さすが兄様。きっと今まで何人も怒らせてきたんだろう。こういう状況の打開は慣れていそうだ……


「もう……、姫様をいじめては駄目ですよ、二人とも。明日の朝日を拝めなく、失礼。ひっそりと人生に幕を閉じる事になりますよ? 閉じますよ?」


 言い直しても怖いよ! 味方だけど怖いよ!


「や、やだなーシア。私が姫をいじめるなんて事する訳ないじゃない」


「そ、そうそう! ちょっとからかっただけだって! うわ!! ナイフ出さない!!!」


 ナイフ!? どこから出したの今!?


 いつの間にかシアさんの左手には、刃の部分が細長い装飾用の様なナイフが握られていた。なにこの人こわい。


「落ち着け、バレンシア」


「あら、これは失礼を」


 シアさんは軽く謝り、さっとナイフをどこかにしまう。


 どこに!? ……あ、魔法か、魔法って凄いわマジで。後兄様ナイスだ。


「シラユキを大事に思ってくれているのはありがたいが、周りに過剰に反応するなよ?」


 うん? 兄様人のこと言えるか? 父様も普通に攻撃魔法とか撃ってるよ。


「ご安心を、ただのおど、……冗談です」


「脅し!?」


「怖いよレン!!」


「シアさんこわーい!」


「ふふ、冗談ですよ」


「たちの悪い冗談やめろって……」




「ところで、アップルパーイまだー」


 お腹空いたのよー。魔力の補充が必要なのよー。


「あ、そうでしたね。申し訳ありませんでした。すぐにご用意を」


「うん。また私が取ってくるから、シアは紅茶おねがーい」


 メアさんは返事を待たずに走り出ていく。揺れるわ……。


「ふむ……」


「ルー兄様……」


 ブレないなさすがだ。


「それでは、私も紅茶の用意へ……」


「ああ、待て、バレンシア」


 出て行こうとしたシアさんを兄様が引きとめた。


「はい? 何か?」


「お前はここに残れ。フラニー、紅茶頼む」


「うん? お説教? 私たちはあの程度気にして無いからさ、別にいいよ? いつものことだし」


 え? お説教? 今日は確かにナイフを出すのはやりすぎだったかな……。


「違うんだ、ちょっと個人的な用事がな……」


「そう? それじゃ行って来るね」


 フランさんも紅茶の用意へ走り出す。そして揺れる。もげろ。


「ふうむ……」


「ルー兄様? 見すぎだよ?」


「あ、ああ、つい、な。しかしあの二人は素晴らしいな……。シラユキもそう思うだろ?」


 同意を求めないでよ! ええい、このおっぱい星人め……。




「さて、バレンシア」


「はい」


 さっきまでのおっぱい星人はどこへやら、急に真面目な表情になる兄様。


 あ、あれ? まじめモード? 私ここにいていいのかな……。


「ソレ、の事だ」


「!?」


 兄様はシアさんの胸の辺りを指差す。……胸!?


「ルー兄様の変態!!」


 何する気よ! シアさん残して何する気だったのよ!! しかも私の前でー!!! 絶対許さなえ!!


「変態!? あ! 違う! 違うぞ!! 胸の事なんだが、今回は違うぞ! あれ、違うか……?」


「いつから……、お分かりで……?」


 シアさんは胸を両手で隠し、後ずさる。


 え? シアさんやばめなオーラ纏ってない? え、え? ここでガチバトルとかないよね? ね?


「最初からだ。一目見て、な。俺くらいにしか分からんとは思うが……」


「くっ! さすがルーディン様……、欺ける、欺いているという自信はあったのですが」


「確かに他の皆は騙されていただろう、魔法も併用しているんだろう? だがな、俺は一目見て違和感を感じたんだよ」


「仰るとおりです。通常の物に私独自の魔法を加え完成させた、と思っていたのですが……」


「外せ、外して来い。丁度いい機会だろう? それともこのままずっとシラユキを欺いていくつもりだったのか?」


「……!!」


 え? 私? ごめんなさい見入ってました、空気になってました。何? 私何か騙されてたの? シアさんが私を……?


「そう、ですね……。いつかは話すべき、とは思っていたんです。しかし、その勇気が持てなかった、出せなかったんです……!」


 うわあ、シリアスだ。多分生まれて初めてのシリアスな空気だよ。ちょっとお菓子食べながら観戦したいわ……。ラブロマンス映画的な感じで。アップルパイと紅茶早く早くー!


「大丈夫さ、シラユキがそんな事を気にすると思うのか? そんな程度の事でお前を嫌うとでも思っているのか? 確かに俺に似て大きめな胸が好きだがな」



 ……むね?



「はずし、ます。外してきます。それで姫様に何を仰られようと、どんな仕打ちを受けようと、き、嫌われようとも! 甘んじて受け入れます……」


 失礼します、と言い残し、シアさんは部屋から出て行ってしまった。



「シラユキ、お前なら大丈夫だ、バレンシアがどう変わろうとも受け入れられるな?」


「え? さっきから何の話なの? 変わるって? シアさん何か変わっちゃうの?」


「何も変わらないさ。そう、何もさ……」


 窓から空を見上げ、誰に向けてでもなく呟く兄様。




「……ルー兄様楽しい?」


「実はちょっと楽しかったりする。バレンシアもノリがいいよな」


「シアさんは真剣だったように見えるんだけどな。じゃないや、何の話なのー?」


「あ、ああ、見れば分かるさ、ほら」


 顎で部屋の入り口を指す。シアさんが戻ってきたようだ。




「これが、これが本当の私の姿です。今まで姫様のお目を欺いてきた事を深くお詫びします。どうか罰を。死ねと命じられれば、喜んでこの命」


「待って待って!! 死ぬとか怖いよ! そんな事言わないからね!? うーん? どこが変わったのー……?」


 そう、見た感じ何も変わっていないのだ。いつもの優しくて綺麗なメイドさんのシアさんだ。


「え……?」


 シアさんはかなり驚いたようで兄様の方を見る。


「え? 分からないのか? お前が?」


「うん、さっぱり」


 兄様とシアさんの反応からすると、私には絶対に分かると思っていたようだね。


 う、うーん……、うーん……、うん?



「もしかして、胸、少し小さくなった?」


 注視しないと分からないくらいだが、確かに小さくなっている。


 ああ、なるほどね……、これは毎日見てる私でも気づけないレベルの間違い探しだよ……。少し大き目が普通サイズになっただけだよ、転生前の私に比べたら全然大きいよ……。


「そんな事でさっきのやりとり!? 予想外すぎるよ!!」


「そんな事……だと……」


「姫様は大きな胸が大好きなのでは……?」


「ルー兄様と一緒にしないで!! さっきその程度の事って自分で言ってたくせに! まったくもう、将来的には分からないけど、現段階では大きな胸は、どちらかと言うと敵よ!!!」


 母様以外の巨乳はもげろ対象よ!!!


「は……、姫様……」


 はらはらと涙を流すシアさん。


「泣かないでよ! 泣きたいのはこっちよ!! シアさんいなくなっちゃうかと思ったんだからね!!」


「ああ……、申し訳ありません。あまりの嬉しさに涙が……」


「ああ、泣いていいんだ、今は好きなだけ泣くといい。でも、次にシラユキに見せるのは笑顔で、な」


「はい……、はいっ!」


 ああもう! 一々芝居がかったやり取りしてくれちゃって! 楽しそうだなこの二人……。




「はーい、そろそろいいかなー? 紅茶並べちゃうよー? レン手伝ってー」


 フランさんいつの間にいたの!?


「はい、分かりました」


 切り替え早っ! 駄目だ、ツッコミはもう追いつかないや……。


「メアリーはまだなのか? 結構経ってると思うんだが」


「まだ探しているのでしょうか? フラン、見てきてもらえます?」


「おっけー。それじゃ紅茶はよろしくー」


「ええ、急いでくださいね。でもあまり走らないように」


「はいはい、分かってるってー」


「ふむ……」


「……もげなさい」




 こうして、姫様巨乳大好き説は潰えたのであった。しょーもないな……。


 ちなみにメアさんはつまみ食いをしていたところを御用となった。おやつ抜きの刑だ。







2012/8/10

全体的に修正しました。

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