その13
「皆! 今日はよく集まってくれた!! 昨日、ついに、我が愛する娘、シラユキが……」
凄い! 父様凄いわ! やっぱり誰一人話聞いてないわ!! ふう……。
昨晩、魔法を初めて成功させたその次の日、今日は朝からお祭りだった。……何故だ!!
訳を聞いてみると、どうやらシアさんがこっそりみんなに伝えていたらしい。多分夜中のうちに用意やら人集めやらしていたのだろう。
一夜明けただけのいきなりの開催でも前回より人が集まっている。この森のみんなはそんなに暇でお祭り大好きなのか……。
朝起きたら魔法が使えなくなっていた、なんて事にはならなかった。むしろ目が覚めて頭がはっきりしている分使いやすくなった気さえする。
着替え、身だしなみを整え、じゃない、シアさんに整えてもらい、部屋の外に出た瞬間父様に攫われて今に至る。
今日も近くには兄様と姉様。父様は演説で母様は奥様方に大人気。
他のみんなはメイドさんズを含め、私の側に家族がいるときは遠慮しているようであまり近づいては来ない。それでも何人かはやってくるのだが、前の荒療治のおかげか結構普通に話せるようになっていた。
「だから言ったろ? シラユキならすぐ使えるようになるって」
「うんうん。おめでとう、シラユキ!」
「ありがとう、ルー兄様ユー姉様。でも、いつの間にかできるようになっちゃってたんだよね……」
二人ともまるで自分の事のように嬉しそうだ。私もできるようになって嬉しい、はずなのだが、なんとなくすっきりしない気持ちだね。
「そんなもんだって、魔法なんてさ。でも確かに変なタイミングだよな……。まあ、やっぱりシラユキだったって事か」
どういう意味よ!
「そうそう、そうよ。あ、でもね? 他の魔法を使ってみたいとか思っちゃ駄目よ? 一つだけっていう約束だったもんね。熱を持たせるのも私たちの前以外では絶対に試そうとしちゃ駄目。いい?」
「うん! 大丈夫、約束は絶対守るから! あ、一度に何個か出す練習とかはいいの?」
父様と兄様が見せてくれたように複数個を自由に動かせるようになりたい。あれは本当に綺麗だったなー、目に悪いけど。
「うーん……、いいけど、一人でやらない事。約束できる?」
「うん!! ありがとうユー姉様!」
姉様大好き! 抱きついちゃおう!
「あ、こら、ずるいぞユーネ」
「ふふふ、かーわいい」
姉様にほっぺをグニグニされる。うにゅにゅ……。
その後また何人か話に来て口々にお祝いの言葉と、明らかにその辺りのテーブルから適当に持っ来ただけだろう料理を贈られた。昨日の今日どころか一晩明けた今朝だから無理もない。ちなみに父様の演説はまだ続いている。
「お、あの胸は……。コーラスじゃん。珍しいな」
「胸で人を判断しないの。お兄様は本当に大きな胸が好きなんだから……。でも、確かに珍しいわね」
二人の視線の先に目を向けると、少し離れた位置に何人かの男の人に囲まれているコーラスさんが見えた。相変わらずのたゆんたゆん。
コーラスさんはあんまり、と言うか、滅多にお祭りに来ない、花畑周辺からあまり動かない人らしい。あれだけの大きさの花畑だ、管理も大変なんだろう。
何気なく観察していたら目が合ってしまった。
「むむ、こっち来るのかな?」
「うん、そうみたいね。……お兄様?」
「分かってるよ、何もしないって、信用無いなー俺」
普段の行いだよ兄様。
「こんにちは、ルーディン。ユーは久しぶりね。それとシラユキはおめでとう、かな?」
「おう」
「うん、久しぶりね、コーラス。相変わらず羨ましいわ、ソレ」
ソレ、胸。確かに羨ましいわ……。
「ありがとう! コーラスさんがお祭りに出て来るのって、なんか珍しいね」
「シラユキとは結構な頻度で会ってるしね。どうせ花畑で話せばすむ事だし私も来るつもりはなかったんだけど……。今日来たのはウルギス様に引っ張られてね」
ああ、なるほど。私と仲がいい人は強制参加でしたか父様。
「ごめんねコーラスさん。父様が勝手な事して……」
「ふふふ、シラユキが謝る事じゃないわよ。私も気にしてないし、別にいいって」
「まったく、お父様は……」
「それよりさ、見せてみてよシラユキ」
「あ、うん!」
さっきから来る人来る人にせがまれるな。これくらい疲れないからいいんだけどさ。もう出しっぱなしにしておこうか?
コーラスさんと向かい合うように立ち、右手の平を上に向けて光の玉の魔法を使う。
「うっわ、あらあら、これはこれは……」
一瞬驚いたような表情を見せ、すぐにニヤニヤし始めるコーラスさん。
さっきからみんなこんな微妙な反応なんだよ……。いいじゃんいいじゃん! 初めてできたんだからさー!
多分、質、が悪いのかもしれない。見た感じは分からないんだけどね、きっと何かが足りなかったりするんだろう。隠し味的な何かが。
これからもっと練習して、もっと綺麗(?)に作り出せるようになってやる!
「この子五歳……、よね?」
「うんうん。面白いでしょ? 本人には内緒よ?」
「ネタばらしが今から楽しみでしょうがないんだよ。あと五年か……。すぐなんだが、早く来て欲しいぜ」
「なるほど、そういう事ね。珍しく緘口令なんて敷かれてると思ったら……。確かに楽しみね。その時は呼んでよ?」
「おう! どんな顔して驚くか……。あー! 楽しみだ!」
もっと綺麗にか、綺麗? キラキラ? うーん……、うん? 何の話だろう? 緘口令ってなんだっけ? 口止めさせるんだっけ? 何を?
「ねえ? 何のお話?」
「ふふふふふ。秘密よ!」
コーラスさんは教えてくれないか。くそう、楽しそうだな……。今度揉みまくってやる!
「ねえ?」
コーラスさんが駄目なら兄様姉様だ。
「だーめ。シラユキにはまだ早いわ。ふふふ」
「そうだな、まだ早いな。具体的に言うとあと四年ちょっと早いな」
「えー、気になるよー!」
珍しい、この二人までもが教えてくれないとは。
私にはまだ早いって言ってるし、本当に、まだ聞くには早い話なんだろうね。仕方ない、諦めるか。
「そして俺は思った!! シラユキに近付くものは全て消し去っ、!? シラユキ!! どうした!?」
またこの流れか!! 視線が! 視線がーー!!
2012/8/7
全体的に修正しました。