その129
「ちょ、シアさんくすぐったいよ……、ふふふ。もう、匂い嗅ぎすぎ! まだ匂い残ってる? 私には全然分かんないんだけどなー」
「す、すみません。どうしても気になってしまいまして……。あ、いえいえ、匂いが気になるのではありませんよ、ご安心くださいね。少しでも残っていてはいけないとつい、念には念を入れていたのです。いつもの姫様のとても美味しそうな香りですよ」
夕ご飯も食べ終わり、またお風呂でしっかり髪を洗われた後、眠くなるまで談話室でメイドさんズとお喋りの時間。お相手は、シアさんメアさんフランさんのいつもの三人だ。キャロルさんは父様と母様の所へ謝りに行っている。
どうせ気にするなって笑われて終わりだろうと思うけどね。キャロルさんも私の事をとても可愛がってくれているし、そんな私を泣かせてしまった事を相当気に病んでるみたいだね。フランさんももう怒ってないみたいだし、本当に気にしないでくれるといいんだけどね。
あれは泣いたって言うほどじゃなかったんだけどなー。ちょっと怖くなって涙が出ちゃっただけで……。泣いてるよそれ……
私の周りはみんな穏やかな、のほほんとした性格の人ばかりだからね、大声を上げる人なんてほとんどいない。兄様にはたまに少し大きめの声で怒られることも無い事は無いんだけど……。兄様はずっと一緒にいた家族だから、まったく怖いとは感じないね。逆に嬉しいくらいだ。
私がここで悩んだって仕方ないか……。キャロルさんが戻ってくるのを待とう。私が眠くなる前に戻って来てくれるといいんだけれど、ね。
今私はシアさんの膝の上に座らせてもらっている。丁寧にしっかりと髪を洗ってもらったお礼のようなものだね。こんな事がお礼になるのはシアさんくらいだよね。ふふふ、安上がりな人だね。
「美味しそうな香りって……、まあ、確かにオレンジのいい匂いだよね。姫のシャンプーってシアが選んでるんだっけ?」
私の使っているシャンプーは柑橘系の香り。シアさんオレンジ大好きだもんね。私ももうこれじゃないと落ち着かないようになってしまった。
「ええ、姫様の身の回りの物はほぼ私が。香りについては私の趣味を押し付けてしまった感じになってしまったのですが、姫様に気に入って頂けた様で私も嬉しいですね」
「うん、私もこの香りは大好きだよ。シアさんとお揃いだよねー。ふふふ」
今日は何故かシアさんに全力で甘えたい気分なのだ。体を横に向けて抱きつき、スリスリと頬擦りをする。
「な、なんて可愛らしい……、幸せすぎます。ああ、そうです、姫様? このシャンプーも調薬ギルドの製品なんですよ」
「え? シャンプーまで作ってるの? ホントに雑貨屋さんなんだね……」
「あ、そういえばいくつか並んでたね。もしかして、あの石鹸もそう? バラの香りとか色々置いてあったよね確か。へえ、手広くやってるのねー」
感心したように言うフランさん。
冒険者みたいに何でも屋とも言えちゃうね。冒険者の何でもやるっていう意味とはまた違う、何でも売ってるって意味なんだけど。
うーん、私もお店の中を見て回ればよかったかな……。まあ、シアさんたちがまた何か買い物に行く時にでもついて行けばいいだけか。ロレーナさんとまた遊びに行くって約束もしたしね。
「私も一緒に行けばよかったかな? でも、うーん、買い物程度で町まで行くのはちょっと面倒だね、町って遠いしさ。あ、シアにおぶさって走ってもらう、とかどう?」
「自分で走りなさい。まあ、確かに魔法で早く走れないメアとフランには町は遠いですよね。二人とも練習してみてはどうです?」
「え? あれは無理無理! あんなの絶対できないって。私は元から魔法なんて全然使ってないしさ、練習したってできるようになるとは全く思えないね。姫は天才だよねー、ホントにさ」
早く走る魔法、跳躍魔法の水平移動版だね。私も結構慣れたもので、ある程度抑えたスピードなら木にぶつからないで町まで行けるようになった。少し急ぐとまだがんがんぶつかっちゃうんだけどね、そこはまた頑張って慣れるしかない。
シアさんみたいによそ見をしながら、さらに考え事をしながら、しかも私の全力よりもはるかに速い速度で走れるようになるには、一体どれだけ頑張って練習しなければいけないんだろう……
「カイナとクレアみたいに子供の頃から訓練してきてるってんならまだしも、私らは家事がメインのメイドだからね。シラユキが生まれるまではメイドですらなかったし」
「え? そうなの? メアさんもフランさんも、もちろんシアさんも、どこからどう見ても素敵なメイドさんだよ?」
二人とも、料理に掃除に私の遊び相手に、なんでもこなせる凄いメイドさんなのに。てっきり私が生まれる前からこの家でメイドさんをしていたんだとばかり思ってたよ。
そうなると、私が生まれるまでは一般の、ただのこの森の住人だったんだよね。うん、うーん? ああ、なるほどね。家事全般が得意で、なおかつ胸の大きな人という理由で選び出されたのか。
ということは、姫様巨乳大好き説が囁かれていなければ私お付のメイドさんは誰か他の人になっていた可能性もある訳で……。あ、それはやだな……
そう考えると変な誤解が広まったのも悪い事ではなかったのか。あの兄様の妹だから、ってみんな納得しちゃってるみたいだし、まあ、そこまで気にならなくも……、やっぱり気になるよ!! おっぱい好きのお姫様はおかしいよ!!
「あ、あの……、姫様? 大変嬉しいお言葉を頂いて感動なのではありますが、その……、人前ではさすがに恥ずかしいですよ? あ、いえ、姫様に胸を揉んでいただける事自体は本当に嬉しく、幸せな事なのですが……」
「う? 何? シアさ……、あ」
揉んじゃってた!!!
う、うわあ……。無意識に揉んじゃうとか、私はどれだけおっぱい好きなんだ……
「ふふふ。やっぱり姫っておっぱい好きだよね。ちょっと考え事してて、目の前に胸があると無意識に揉んじゃうとか……。それとも、シアだからかな?」
「ええ!? ち、ちが」
「うんうん。一緒に寝るときも絶対揉んでくるよねこの子。あのくすぐったさとムズムズ感は……。でも、可愛くて、嬉しくて、幸せで……、ついつい吸わせちゃうのよね。メアとレンはたまに感じちゃったりしない?」
!? かかかか感じる!!?
「私はそういうのは無いかな。揉まれても吸われててもちょっとくすぐったいくらいだね。くすぐったいけど、それ以上に幸せすぎちゃってさ、夜中中撫でててたまに寝不足になるよね」
「うんうん、なるなる。シラユキ撫でてると時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだよね。ふふ、さすがに感じたりはしないか。あ、レンはどう? それよりもレンは寝てるシラユキに何か悪戯してそうなんだけど……」
い、悪戯!? どどどどんな!? い、いやらしい!!
はっ!? な、無いってそんな事! シアさんはノーマルだよ! ちゃんと信じなきゃ!!
もう、やっぱり私は悪いお姫様だね。大切な家族をちょっとでも疑っちゃうなんて……
「まあ、さすがに感じたりはしませんが……、悪戯ですか? ふむ……、していると言えばしていますね」
「シアさん!!? な、な、ななな……!!」
「ふふ、落ち着いてください姫様。言い方が悪かったですね、すみません。悪戯と言っても耳をくすぐってみたり、頬を突付く程度ですよ。姫様は眠っていらしても反応がとても可愛らしく、つい手が伸びてしまうのです。申し訳ありません」
そう言うとシアさんは、とてもいい笑顔で軽く頭を下げる。
そ、そういう意味か……。一瞬もの凄くいやらしい考えが頭に……、!? わ、忘れよう!!
「ビックリさせないでよ……。あと、それくらいで謝らなくてもいいからね。そんなのみんな、起きてる時だって、いつだってやってる事だよ。あー、もう、ホントに焦ったよ……」
「あらら、あっさり信じちゃうんだ? 面白くない。いいの? シラユキ。もしかしたらとても口には出せないような、凄くいやらしいことを寝てる間にされてるかもしれないんだよー? ふふふふ」
フランさんが両手をわきわきとさせながら、いやらしい笑顔で言ってくる。
「ふーん、だ。私はシアさんのことを信じてるもん! ね? シアさん? 寝てる私にいやらしいことなんてする訳ないよねー?」
「え、ええ、ももも、勿論です!」
「シアさん!? 目を逸らさないで! お願いだから信じさせてー!!」
「ふふ、ふふふ。冗談ですよ。姫様のあまりの可愛らしさについ調子に乗ってしまいました、すみません。はぁ、幸せです……」
本当に幸せそうに目を細め、頬擦りをしてくるシアさん。私もさらに嬉しくなって頬を擦り返す。
これだけ幸せな気持ちになると、別に寝てる間くらい何されてもいいやと思えちゃうね……。!? 思っちゃ駄目だよ私!!
あ、危ない! 変な事考えちゃ駄目だ!!
ま、まあ、シアさんが私の嫌がることをするなんてありえないんだけどね。もし内緒で何かしてたとしても、精々キスとか、耳を舐めたりする程度だろう。うんうん、それくらいなら全然問題ないね。……問題ないか? あれ?
いくら考えてもシアさんならいいやという結論しか出ない。これがシアさんのメイドスキルの効果なのか……!!
「ひ、姫可愛すぎ!! むう、なんか羨ましくなってきたんだけど……。シア、ちょっと代わってよ」
「あ、私も! ほーら、シラユキ? 好きなだけ揉んでも吸ってもいいからおいでー?」
「フランは今日一緒に買い物行ったでしょ? 手繋いでさ。私は今日の姫分が不足してるんだってば! ほらほら姫、こっちにおいで。私のも好きなだけ吸っていいよ」
「一緒に来なかったメアが悪いのよ。ま、シラユキに選んでもらおうかな」
「うん、それがいいね。さあ、姫、どっちのおっぱい吸いたい?」
「胸が基準なの!? 揉まないから! す、吸わないからね!! いい加減赤ん坊扱いはやめて!」
「誰が代わると言いましたか……。まあ、いいです、ここで私も参戦すると致しましょう。姫様、今脱ぎますから、少しお待ちくださいね」
「脱いじゃ駄目!! うわ!? メアさんもフランさんも対抗しないで!! わわわわわ、今ルー兄様が来たらみんな襲われちゃうよ……」
「冗談だって。うーん、やっぱり姫の反応は最高だね」
「あはは。ごめんねシラユキ、さすがにこんな所じゃ脱がないって……。それに、ルーディン様は揉む以上の事は多分しないから大丈夫。私は胸を揉まれるくらいなら構わないし」
「わ、私もルーディン様になら揉まれてもいいかな……。姫はもうちょっとルーディン様のことを信用しようよ」
「ええー? まあ、ルー兄様カッコいいしね。でも、揉ませちゃだーめ!!」
「そうですよ二人とも。私たちの胸は既に姫様の物なのですからね? フランは結婚していますから、その方だけは特別に、姫様の許可の下貸し出す、という形で」
「旦那さんにくらい自由に触らせてあげて! わ、私今凄い事言った気がする……。ううう……」
ここでシアさんが、椅子に座ったままくるりと入り口の方へ体を向ける。もちろん私を膝の上に乗せたままだ。
「キャロ、いい加減入って来なさい。そこでいくら待っていても私たちは脱ぎませんよ」
「ひゃい!! べ、別に覗いてた訳じゃ無いですよ! フランとメアリーの胸は確かに興味あるけど……」
いつの間にかキャロルさんが戻って来てたみたいだね。私たちの話が盛り上がりすぎてて、部屋に入るタイミングが掴めなかったんじゃないかな?
しかし、今のは可愛い悲鳴だったね……。ふふふ。
「あ、そういえばキャロルってそっちの趣味だったね。ちょっと揉むくらいなら別にいいと思うんだけど、ごめんね、私の胸はシラユキの物になっちゃってるみたいだから」
「確かに、キャロルって見た目可愛いから、揉まれても嫌悪感とかあんまり出なさそうだね。姫の許可取れば揉んでもいいよ?」
「二人とも変なこと言わないの!! キャロルさんがそんな事する訳無いよ、もう!」
「シラユキ様! シア姉様の胸を触る許可をお願いします!!」
「キャロルさん!? ほ、本人に聞いて!!」
「却下します」
「そんな!!」
調薬ギルドではこんな物も作ってるんですよ、という話だった筈が、なぜかおっぱい話に……
メイドさんズが三人揃うと、話が逸れまくって面白いです。