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その128

「んー……、可愛いな。おお、ほっぺ柔らかい。お、伸びる伸びる、マシュマロみたいだ」


「うにゅにゅ……。!? ひはいひはい!!」


「あ、ごめん」


「ロレーナ!! シラユキ様になんて無礼を……!!」


「わあ!! 落ち着いてキャロルさん! ちょっと痛かっただけだから! 怒ってないから!!」


「どれどれこっちは……。おお、こっちも柔らかい。でもシラユキ様の方がいいな……」


「さ、触るな抓るな引っ張るなー!!!」


 シアさんフランさん、早く戻ってきて!! この人の相手は多分キャロルさんじゃ無理だ!






 シアさんは、フランさんと一緒にお店、じゃないやギルドか、ええい紛らわしい、もうお店でいいや。お店の中を見て回っている。

 私も一緒に見て回りたかったのだが、ロレーナさんとももっとお話がしたかったので、カウンターの中に椅子を出してロレーナさんの隣に座っている。ここへは来ようと思えばいつだって来れるしね。折角出来た新しいお友達とのお話を優先する事にした。

 一応念のためにキャロルさんが側に残ってくれている。シアさんじゃなくてキャロルさんなのは、キャロルさんではフランさんの調味料探しの役に立てないからだ。


 さっきから私の頭を撫でたり頬を抓ったりして遊んでいたロレーナさんだったが、今度は興味がキャロルさんに移ったようだ。キャロルさんもさっきの私の様に、頬を引っ張られて遊ばれている。

 それでもシアさんのお友達だからか、キャロルさんは無理に手を払いのけるようなことはしない。やっぱり大人だねキャロルさんは、我慢強い。思いっきり子供扱いされてるのにあんまり怒らないんだよね。むう、これは見習わなくてはいけないね。


 おっと、それよりも今がチャンスだね。

 キャロルさんがターゲットになっている内に質問をしてみよう。ロレーナさんとお話するために残ったんだしね。


「ロレーナさんは調薬ギルドのお手伝いさん? でした? お店の方の店員さんをしてるんですか?」


「ん、だからなんで敬語? まあ、いいや、好きにして。あー、手伝いは手伝い。手伝いの無いときはこっちにいるだけ」


 キャロルさんを弄びながら、こちらに顔を向けずに淡々と喋るロレーナさん。キャロルさんはもう好きにしろとでもいった感じで不貞腐れてしまっている。


 だ、駄目だこの人! 多分具体的に聞かないと答えが返ってこないんだね……

 今ので分かったのは、ギルドのお手伝いとしてここにいて、今はお仕事が無いからお店の番をしているっていう事、かな?

 しっかり考えてから質問しないといけないみたいだね。むう、面白いぞこの人!! たったこれだけで大好きになってしまったよ。


「うん、敬語はやめるね。やめていいんだよね……? ええと、まずは何から……、あ、その前に、色々質問しちゃっても大丈夫、かな? 調薬ギルドのことはシアさんもあんまり詳しく無いと思うし、私も今まで全然興味が無かったから。ここはどんなお仕事をするギルドなんだろうって気になっちゃって……。……あのー? ロレーナさん? 聞いてる?」


 キャロルさんを弄るのが楽し過ぎるのか、私に見向きもしなくなってしまった。寂しい。


「ちょっと、ロレーナ、シラユキ様の質問を無視? いくらシア姉様の友人だからってやっていいこ」


「調薬ギルドは……、混ぜるギルドかな。ちゃんと聞いてるよ。あ、キャロルちゃん、こっちこっち」


「誰がキャロルちゃんよ!!! くう、コイツのちょっと遅れたテンポは私には合わない……、って、うわ!! やめろこのっ!」


 キャロルさんをひょいと持ち上げ、自分の膝の上に乗せるロレーナさん。そしてそのまま私の方へ体を向ける。


 あ、なるほど、これで話しやすくなった? 私はロレーナさんと向き合って話ができる。ロレーナさんはそのままキャロルさんを可愛がる? 弄る? 事ができる。

 ふふふ。やっぱり面白い人だねロレーナさんは。よし! 続きをしっかりと聞かせてもらおう。調薬ギルドは混ぜるギルド、だったね。どういう意味だろう?


 ……?


 …………?


 !?


「続きは!? あれ? さっきのだけで説明終わりなの?」


「シラユキ様、コイツ多分質問した分の答えしか返しませんよ……。くそっ、子供扱いは嫌なはずなのに居心地がいいわここ……」


「あはは……。えーっと、混ぜるギルドってどういう意味なのかな。その、うーんと……、色々教えて!」


 全く知らないことは質問も中々思い浮かばないよ……。とりあえず今の質問の答えを聞いてから、また質問を考えよう。

 ロレーナさんとの会話は一歩一歩確実に、だね! 私はこの微妙に遅いテンポ、嫌いじゃないね。


「はあ……、めんどくさい……」


「ごめんなさい!!!」


「ロレーナ!!! あんたマジでいい加減に」


「混ぜて新しい物を作るギルドだよ。新しい物だけじゃないか……」


「なっ!? は……、くっ、コイツもう嫌だ……。シラユキ様、後はお任せします……。私はお力になれそうにありません……」


 キャロルさんはツッコミを諦め、完全に力を抜いてロレーナさんにされるがままになってしまった。


 ああ、ビックリした……。質問のしすぎで嫌われちゃったのかと思っちゃった。

 でも、めんどくさいって言ってたね。これ以上はさすがにやめておいたほうがいいかな? 今日出来たお友達に早速嫌われてしまうような事は、絶対にしたく無いからね。


「ん、次は? ……終わり?」


 聞いていいんかい!!! はっ!? はしたないわ私ったら……


 ああ、もう! ロレーナさん大好きだ!!!




「混ぜて新しい物を作るって、やっぱりお薬とか?」


「まあ、そうだね、主に薬関係。薬草の調合率なんかで変わる効能を調べたり……。滅多に無いけど全く新しい薬品を作り出したり……、だね」


「はー……、凄いや、本格的だね。それは魔法薬とはまた別の、えっと、普通のお薬のことかな? 魔法薬ってどうやって作ってるんだろう……」


「それはシラユキ様でも教えられないな……。あー、製造の過程で魔法を使う工程があるんだけど……。うん、そんな感じかな……。私はその工程の手伝いをしてて」


「あ! いいよいいよ言わなくても。ごめんね、変な事聞いちゃって。あ、そうだ! 調味料はなんで扱ってるの? 保存食ならまだなんとか納得できるんだけど……、冒険者さんたちも色々買いに来るみたいだしね」


「ふう、疲れた……」


「ごめんなさい!!」


「ん、なんで謝る? まあ、いいか。混ぜるのは薬草だけじゃないから……、だね。あー……、簡単なのだと塩とか、普通のハーブもある。そうやってる内に調味料っぽいのが出来ちゃったから……、かな」


「あ、話してくれるんだ……。話すのが嫌になっちゃったら言ってね? うーん……、昔から受け継がれてきた物なのかな? 面白いね、それ。合成調味料じゃなくて、調合調味料かな。ふふふ」


「合成調味料……か、いい名前だね。調味料はまとめてそう呼ぶことにしよう……。ああ、大丈夫、シラユキちゃんと話すのは楽しいよ……」


「え? 勝手に決めちゃっていいの? あ、ロレーナさんが呼ぶだけか……。うん? シラユキちゃん? ふふふ、嬉しいな」


「おお、可愛い……。キャロルちゃんちょっとどいて……、シラユキちゃんおいで」


「え? わ! あ……。ふふ、ふふふ」


「あー、助かった……。って! シラユキ様を膝抱きに!? 羨ましい……!! あと、さっきスルーしてたけど許可も無くシラユキ様をちゃん付けするな!! 様を付けなさい! 様を!!」


「……シラユキちゃん様?」


「言うと思ったわ!! 冗談じゃなくて素で言ってるのがさらにむかつく!! このっ、あいたっ! え? あ……、シア姉様……? はっ!? シラユキ様!? え? 泣いて……? こ、これは、その……、違うんですよ! 決してシラユキ様に対して怒鳴ってる訳では……」




 ああ、よかった。シアさんナイスチョップだ。

 キャロルさんみたいに可愛らしい人でも、やっぱり目の前で、私に対してじゃなくてもがんがん怒鳴られるのは怖いや。涙が出てきちゃった……

 ロレーナさんに対しての言葉だっていうのは分かってるんだけどね。私は今ロレーナさんの膝の上にいるわけだから、そのロレーナさんを真正面から怒鳴ると私に向かって怒鳴ってるように感じちゃうんだよね。


「はぁ……。キャロ、あなたは外で待っていなさい、もう選び終わりましたから。姫様? 大丈夫ですか? 本当に申し訳ありません、不肖の弟子に代わりお詫びします。フラン、姫様を。ロレーナさんもお騒がせしてすみません。それでは、これだけ会計をお願いします」


「ごめんなさい! も、申し訳ありませんシラユキ様!! どどどどうしよう……」


「あ、うん。やっちゃったねキャロル、後でしっかりとレンに怒られなさいよ? ウルギス様たちには黙っておいてあげるけど……。ほら、シラユキ、おいで。あ、私達も一緒に出ようかな。えっと、ロレーナさん? ごめんね。キャロルは見習いメイドだから、許してあげて」


 ロレーナさんの膝の上から私を受け取り、抱き上げてくれるフランさん。

 ちょっと怒ってるみたいだね、珍しい。私が泣いちゃったせいか……


「ん? んー……、何が? まあ、いいか。キャロルちゃんは子供の前で大声出さないようにね……。もっと落ち着くといい」


「だ、誰のせいだと……、いや、私のせいか……。しかし、この落ち着き様は見習うべきか。……ごめん! またね、ロレーナ」


「ああ……、うん。また、ね。シラユキちゃんも、そっちのメイドさんも……、? そういえばこの人は誰……? まあ、いいか……」


 一言謝って外へ出て行くキャロルさんに、力無くヒラヒラと手を振るロレーナさん。

 フランさんもキャロルさんに続いて歩き出そうとする。


 おっと、いけない。涙目で恥ずかしいけど、最後にもう一つだけ、これだけは聞いておかなければ。


「フランさん待って。大丈夫、泣いてないよ。あの、ロレーナさん、また、遊びに来てもいい?」


「ここは遊びに来る様な所じゃないけど……、いいか。うん、またいつでもおいで。私は大体はここにいるから」


 あれ? 今ちょっと笑顔にならなかった? 見間違いかな……


「ありがとう! また来るね!」


 私が言い終わると同時にフランさんは歩き出す。表情をうかがって見ると、にこにこと少し嬉しそうだ。機嫌は直してくれたかな?






「あ、あの! 本当に申し訳ありませんでした!!」


 ギルドの外へ出たら、キャロルさんに大きな声で謝られてしまった。辛そうな表情だ。

 一体何を謝る事があると言うんだろう? 大声にビクビクして涙が出ちゃった私の弱さが悪いと思うんだけどな……


「キャロルさんは悪くないよ。ちょっと……、ビックリしちゃっただけだから、ね?」


「思いっきり大声に怖がってたくせに……。あー、キャロル? シラユキはこう言ってるけど、そう簡単に許して貰えるとは思わないようにね。さらに言うなら私は許す気は無いから。シラユキを泣かすとか、許せる訳無いの分かるよね?」


 むう、フランさんはまだ怒ってるか……


「うう、ヘコむなあ……。シラユキ様本人が全く怒ってないのがさらに……。よし、やっぱりウルギス様にも自分で言うよ。シア姉様に叱られるだけじゃ全然足りない、自分が許せないわ……」


 どうやらもの凄く落ち込ませてしまったみたいだ。私自身が何か罰を与えないと納得してもらえないのかな?

 うーん……、何をどう考えてもキャロルさんは悪く無いのになー……




「お待たせしました。姫様、ご気分は如何です? キャロルには私がきついお仕置きを与えておきますので……、? フラン? 貴女はさっきから何をしているんです?」


「ん? ああ、シラユキの髪の匂いをちょっとね。ギルドの中の匂いが付いちゃったかな? ほら」


「え? 匂い付いちゃってる? むう、自分じゃ分からないや。鼻が麻痺しちゃったかな? どう? シアさん。臭い?」


「失礼します……。な……、なんて事!! フラン、姫様をこちらへ。キャロ、フランの護衛は頼みましたよ、私は姫様とすぐに館へ戻ります。姫様、すぐに帰って髪をお流し致しますからね。暫く、いえ、ほんの少し我慢をお願いします」


「ええ!? そんな大袈裟なあうっ!?」




 私が言い終わるより前に、シアさんは建物の屋根の上に飛び乗り、そのまま屋根伝いで町の外へ。町の外へ出てから、森に入ってからも全く勢いは落ちず、あっという間に家に付いてしまった。

 あまりの速さに目を回してしまったよ……。やっぱりシアさんは凄い、本当にすごいメイドさんだ。


 真剣な顔で私の髪を念入りに、でもいつもの様に丁寧に洗ってくれたのが嬉しすぎた。今日は丁度よくシアさんと一緒に寝る日だし、いつもよりも甘えてみようかな? シアさんも喜んでくれそうだし、私も何となくシアさんに甘えまくりたい気分。


 ……吸わないよ?










ロレーナは「まあいいや」と「まあいいか」を言い過ぎですね。

結構面白いキャラになってくれたと思います。


次の登場はいつになる事やら……

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