その125
「ふふ、ふふふふ。んふふふふ……」
「もう、シラユキニヤニヤしすぎだって。ニヤニヤしてても可愛いなあこの子……。そんなに私とお出掛けするのが嬉しいの?」
「うん!! す、っごく嬉しいよ!! フランさんと一緒に町でお買い物なんて初めてのことだから! 上手く言えないけど、うん、嬉しいな!!」
今日はなんと、フランさんと一緒に町へ買い物に出て来ている。勿論シアさんも一緒。護衛としてキャロルさんも付いて来てくれている。メアさんは残念ながらお留守番だ。
普段森の中のお店、と言うか、野菜や果物を作っている人のお家へ一緒に行ったことは何度もある。だけど、町の方への買い物にフランさんがついて行きたいと言い出したのは初めての事。
今度町へ行く時に連れて行ってくれればいいよ、とフランさんは控えめな事を言っていたのだけど、私が明日早速行こうよ! とテンション高めに勝手に決定してしまったのだ。
フランさんも買出しは買出し担当の人に任せちゃっているので、町へ、森の外へ出る事は滅多に無いみたいなのだが、今回は自分の目で実際に見て商品を選びたいらしい。
その気になる商品とは、料理の食材ではなく、調味料。しかも、買いにいく先が調薬ギルドなのだ!!
フランさんと一緒の初めてのお買い物に加え、初めて行く事になる調薬ギルドが備わり最強に見える。私の嬉しさはさらに加速した。
わくわくドキドキと嬉しさが溢れ、ニヤけが止まらない。テンションも高めになってしまうのも許してもらいたい。
「ちょ、シア姉様、今日のシラユキ様いつもよりさらに、さらに可愛くないですか? ああ……、フラン羨ましいなあ……。私もシラユキ様と手を繋いで歩きたいなあ……」
「今日の私達は護衛がメイン、姫様とフランの邪魔をしてはいけませんよ? ああ、本当に可愛らしい……。相手がフランなら嫉妬の心も羨望の気持ちも全く出て来ませんね。純粋に、嬉しそうな姫様のお顔を拝見でき、幸せになってしまいますね」
私達二人の少し前を歩く二人の会話が聞こえてきた。
いつもはシアさんと二人、手を繋いで歩いているね。兄様姉様がいるときはそのどちらかか、或いは両方と手を繋いでいる。その場合は少し後をついて来る感じかな? 今日みたいに少し前を歩くなんていう事は初めてだね。さっき言っていたように、今日は護衛に徹するんだろう。別に、一緒に手を繋いで歩けばいいのに……。私の手は二本あるんだよ?
む? むう……、そうだ、私の手は二本だったね。それは当たり前。しかし一緒に歩いているメイドさんは三人だ、一人余ってしまう。
フランさんと手を繋ぐ事は決定事項として、残る片方の手はシアさんかキャロルさんか、どちらかを選ぶ事になるのか……。うーむ、難しい問題だねこれは。
「ふふ。シラユキが嬉しそうにしてると私も嬉しくなっちゃう。もっと早くこうして一緒に町に出て来てあげてもよかったかな……。でも、町に用なんて特に無いからね。それに、遠いし、人が多くてゴミゴミしてるし、あんまり進んで来たいとは思わないのよね。次はまた何年も先の話になるんじゃない? って聞いてる? シラユキー? こら! 考え事しながら歩くと転ぶよ? ま、その時は私が引っ張ってあげるから安心しなさい。ふふふ」
「ふぇ? あ、ちゃんと聞いてたよ。フランさんもシアさんみたいに早く走れればいつでも来れるのにね。私も町はちょっと人が多すぎて怖いかなー。でもシアさんが一緒にいてくれるし、絶対安全安心だよ? フランさんもたまにでいいからまた一緒に来ようよー」
「うーん……。シラユキのお願いだし、聞いてあげたいんだけどね……。いいじゃない? 町じゃなくても。クレアの家に野菜貰いに行ったりとか、姉さんの花畑にみんなで行くとかじゃ駄目?」
「う? あれ? 困らせちゃった? ううん、駄目じゃないよ? ごめんねフランさん、我侭言っちゃったね」
森の中のエルフの人はあんまり外に出たがらないんだよね。
フランさんの言うように、特別な用事でも無い限りは全部森の中で済ませてしまう。済ませてしまうと言うよりは、済んでしまうと言った方がいいかもしれない。町へ行く必要性を誰も感じていないんだね。森の住人でそんなに頻繁に町へ行くのは買出し担当の人くらいなんじゃないだろうか? まあ、私が知らないだけで他にも沢山いる筈だけどね。町で何かお仕事をしたりしてる人もいると思う。
「まったくこの子は……。今のって、謝るのは私の方だと思うんだけど? いつまで経っても我侭を言うって事を覚えないんだから、シラユキは……」
「フランさんを困らせちゃう我侭なんて絶対言えないよ! 普段我侭は結構言ってると思うんだけどなー」
自分の言う我侭って本人には分かり難いものなんだよね。他の人に言われて初めて気付く感じかな? 私もきっとそれなりに我侭は言っているんじゃないかなと思う。
「シア姉様、シラユキ様が我侭を言うなんて想像もできないんですが……」
「え、ええ……。姫様はああ見えられてもご自分の事を我侭なお姫様だと思ってらっしゃるんですよ。キャロの方がよほど我侭ですよね? ふふふ」
「くっ。で、でも、私が我侭を言うのはシア姉様に対してだけで……。その、す、好きな人には甘えたいじゃないですかっ」
な、何かキャロルさんが可愛い事言ってるな……
フランさんと顔を見合わせ、お互いにんまりと笑顔を見せ合う。
ふふふ……、少し聞き耳を立てようじゃないか。シアさんとキャロルさんの会話は聞いてて結構面白いんだよね。
「まったく、年を考えなさい、年を。まあ、好きな方に甘えたくなる気持ちは分からないでもありませんが、ね。少し前に一緒に入浴してあげたでしょう? それで我慢なさい」
ああ、なんかこのシアさんいいな。厳しくてもたまに優しさを見せちゃうお姉さん的な感じがして……、いいな! 私にももうちょっと厳しいところを見せてくれてもいいんだけどなー。
「ええ? まだこちらに来てから一回だけですよ? 折角の温泉宿でも二人っきりでは入ってくれませんでしたし……」
「あなたがベタベタとくっ付いて来るからでしょう? どうもキャロと二人きりだと身の危険を感じてしまうんですよね」
「好きな人が目の前で裸でいるんですから当然ですよ。シア姉様は相変わらず肌も綺麗で、胸もお尻も張りがあって……。うう、その……、久しぶりに、あの、あ、甘えさせてほしいなーと思うんですけど……」
はっ!? キャロルさんの今の、甘え、の言い方は危険だ!! そ、そっちの意味での甘えだ!!!
止めた方がいいんじゃないか!? と、フランさんを見ると、もの凄くいい笑顔で、人差し指を立て、口に当てている。
面白そうだから黙って聞けという事ですか……。うう、恥ずかしいよう。
「そういう事は恋人を作って、と前にも言った筈ですが……、まったく……、いやらしい。あなたもソフィーさんのことは言えませんよ? 姫様は今の一言で完全に理解されているんです、覚えていませんか? ですよね、姫様? 後、フランはもげなさい」
振り返り、にっこりと笑顔で私達に問いかけてくるシアさん。
「普通にバレてた!!」
「あはは、ごめんごめん。なんか、レンとキャロルって恋人って言うより仲の良い姉妹に見えるね。レンがお姉さんっぽくて面白いよ、ホントに」
「んー、シア姉様はシア姉様だからね。小さい頃から成人するまで、成人してからも一緒に旅してたからかな。私の事は妹とか娘みたいに想ってくれてるんだと思うよ。私は恋人として見てほしいんだけどなあ……」
きゃ、キャロルさんはこういう事を素直に口に出せちゃうんだ、凄いな……
やっぱりこの見た目でこの大人的言動は違和感が凄いよ。キャロルさんが本当に大人の女性だという事を思い出させられてしまう。
私が大人になって、それで好きな人とか出来ちゃったとして……、こんなに素直に好きな人に好きと言える大人になれるんだろうか? うん、無理だね。考えるまでもなく答えが出てしまったよ……
「私をそこまで想ってくれているのは嬉しいのですが、その想いに答えることは残念ながらできませんよ。そう、何度も言っているでしょう。私などより素敵な方はそこら中に溢れているというのに……。早く新しい恋でも見つけなさい」
シアさんより素敵な人がそこら中に溢れてたら怖いよ!! ありえないよ!!
シアさんって自分の事低く見すぎだよね……。自分がどれだけ綺麗で優しくて強くてカッコよくて……、素敵な人だっていう事を自覚して無いのかな?
「ああ、カイナとかどうです? カイナもキャロの事はかなり気に入っている様ですしね。それに、カイナは男性嫌い、きっと簡単に女性趣味に転がりますよ? あなたが手取り足取り一から教えてあげるといいですよ」
「だからシアさんは簡単に身内を薦めちゃ駄目!! な、何を教えるって言うの!?」
「カイナさんかあ……。カイナさんも綺麗な人ですよね。私の事をやけに構ってくれてるんですけど、あれはまさか……!?」
「違うよ! 違う……よね!?」
「何でそこで私に聞くかな……。でも、カイナもちょっと怪しいよね、シラユキのこと異常なまでに大好きだし、レンと同じ怪しさを感じるよ。ふふふ……」
「失礼な……。と、着きましたよ。話はまた帰ってからにしましょう。? 姫様?」
「か、カイナさんも……、シアさんと……、同じ……?」
「あ、ちょっとシラユキ? 冗談だからね? でも、カイナは本当にそっちに行っちゃいそうだよね」
「キャロ、落としなさい。やってしまいなさい」
「ええ!? だ、駄目です! 私はシア姉様一筋なんです!!」
「大声で言うのはやめなさい! 姫様も落ち着いてください、私もカイナもノーマルですよ? ただ姫様のことを何よりも大切に想っているというだけですから」
「う、うん! えへへ……」
もう、シアさんは嬉しい事言ってくれちゃって。照れちゃうよ、ふふふ。
いつの間にやら調薬ギルドに到着してたみたいだね。さてさて、中にはどんな物が置いてあるのか、楽しみだね!!
23時58分に書き終わりました。ギリギリだ!!
本当は調薬ギルドの話になる予定だったのですが、何故かこんなお話に……
シアさんとキャロルの二人の話も書いてみたいですね。