その122
「これで全部? それじゃそろそろギルドに遊びに行こっか。今日はエディさんがいる筈だし」
「ええ、少しお待ちください、確認を……。はい、買い漏れはありませんね。お疲れ様でした、姫様。まったく、姫様に買出しを頼むとは……、フランとは一度きちんと話をしなければいけませんね」
お買い物のメモにチェックを付け、全部買い揃えた事を確認。シアさんはちょっと怒ってるね。怒っていると言うか、呆れてるに近いかな?
今日はフランさんのお願いでシアさんと町へ買い物に出て来ている。あれからフランさんはメロンパンの試作を繰り返し、今度は色々な食材を使ってさらに新しい試作品を作り出そうというのだ。
いつもは補充される食材を使って料理しているフランさんだが、どうやら次の補充の日まで我慢ができなかったみたいだね。特にすることも無くぼーっとしていた私に、運動ついでに買出しに行って来てとお願いをしてきたのだ。断る理由どころか、むしろ新しいおやつは大歓迎なので喜んでOKしたのだが、シアさんは不満気だね。
まあ、考えてみたら私ってお姫様だったよ。お姫様に買出しをお願いするメイドさんは確かにおかしいんじゃないか……?
でも、フランさんは家族だしいいんじゃね? と一秒で結論を出して納得する。
「私はいくらでも荷物を持って動き回れるんだからいいんじゃないかな。ふふ、この魔法が無かったら怒ってもいいかもね」
買った商品は配達ではなく、全部私の収納と保存の魔法で仕舞ってある。本当に便利な魔法だよこれは。
どれぐらいの量を仕舞う事ができるか、などの実験にもなるし、特に必要は無いと思うけど練習にもなるんだから、いい事ずくめだと思うんだけどね。
「そういう問題では……。違和感を感じたらすぐに仰ってくださいね。出し入れする度に魔力を消費している筈ですから。これは絶対ですよ? 本当にすぐに仰ってくださいね」
シアさんは少し心配そうにそう言ってくれる。
なるほど、その考えは抜けちゃってたな。お姫様に買出しを頼む、という事もあるけど、私に魔法を乱用させることに対して怒ってるのか……。シアさんはやっぱり過保護だなー。
ひょいひょいと気軽に仕舞ってはいるけど、その度に極少量の魔力は消費されているのかもしれない。全く何か減ったような気配は感じないんだけどね。シアさんの言うとおり、帰ってから取り出すときは注意しながらにしよう。
「うん、ありがとねシアさん。でも、フランさんを怒らないであげてね?」
「姫様は優しすぎますよ。……ふう、分かりました。ああ、ギルドの前にもう一軒寄っておきたい所があるのですが、よろしいですか?」
「いいよ? お店? シアさんもそういう時は遠慮しないでどんどん言ってね」
「はい、では遠慮なく。調薬ギルドへ薬草茶の茶葉を買いに……」
「!? きょ、今日はやめようか! ギルドに行こ!!」
「ふふふ、冗談ですよ。可愛らしい……」
その後特に何事も無く冒険者ギルドへ到着。
中をくるりと見回して、いつものカウンター近くのテーブルにエディさんを発見する。同じテーブルにはソフィーさんもいるね、エディさんに寄り添う様にして座っている。あれ? 今日は二人だけか。いつもは他にも女性の冒険者の人が、一人か二人は一緒に座っているんだけどな。
エディさんももう二十四歳になった。本当に人間種族の月日が経つのは早いね、私もあれくらいすくすくと成長したいものだ。
十六の頃から身長が10cm以上伸びているみたいなんだよね。本当に、本当に羨ましい……。いや、妬ましい、妬ましいわ……。パルパル。
エディさんはラルフさんの様に両手剣を扱う、などの特に特出した才能は無く、二十歳ごろにDランクに上がった切りで、Cランクに上がれるほどの実力は無いみたいだった。
人間種族はそれが当たり前らしく、本人は気にしていない。そうなるとラルフさんもナナシさんも凄い人だったんだなー、としみじみ思ってしまうね。今では二人とも宿屋の旦那さんと女将さんなんだけど。ふふふ。
その二人の弟子だったエディさんは、二人のいい所取りをした様なバランスのいい戦い方をするらしい。前衛でも後衛での補助でも何でも器用にこなす、頼りになる熟練冒険者へと成長している。
初めて会った当時160くらいだった身長も、今では170cm以上。エルフの私にはよく分からなくなってしまったが、人間種族としてはかなりカッコいい大人になり、冒険者としても頼りになる存在。
何が言いたいかと言うと……、モテモテなんですよエディさん。人生最大のモテ期がやって来た! と本人は最初は喜んでいた。……最初はね。
「こんにちはー。エディさん、ソフィーさん、お久しぶり、かな?」
「こんにちは、お久しぶりですねお二人とも。特に大きな怪我なども無い様で、非常に残念です」
「ああ、シラユキちゃんにバレンシアさん、久しぶりーって酷いなオイ!! 元気だよ! 元気で悪かったな!!」
うん、いいツッコミだ。さすがはラルフさんのお弟子さんだね!
「シラユキ様、お久しぶりです。今日も本当に可愛らしいですね、ふふふ。バレンシアさんも相変わらずお綺麗で、美味しそうです。お二人ともお元気そうで何より。一月ぶり、くらいですよね? カルルミラへのご旅行は楽しかったですか?」
一言変な言葉が入っていたが気にしない、気にしたら負けだ。私も慣れたね……
「お、そうだったそうだった。ラルフさんたちは元気だった、よな? あの人たちならそう心配は要らないか。俺もそのうち会いに行かなきゃなあ……」
エディさんは数年前を思い出したのか、感慨深そうだ。そう簡単に思い付いたからって会いに行ける距離じゃないしね。
「二人ともとっても元気でしたよ。もうすっかりお父さんお母さんしてて、ふふふ。連絡は貰ってたんですけど、実際見てみるとビックリですよね。別れてたった五年くらいで二人も子供が生まれてるんですから。可愛かったですよー」
そう、二人。男の子と女の子、二人も子供が生まれていた。名前は勿論私たちの考えた名前、アドルファくんとアンジェリーナちゃん。ちょっとできすぎてる気もするよね……。女神様が何か手を回しちゃったのかもしれない。まあ、本人たちは幸せそうだし、問題はないんだけどね。
アドルくんが四歳、アンジェちゃんが三歳。カルルミラに着いて、落ち着いたらすぐに子作りを始めたらしい。何と言うか、あの二人らしすぎるよ……
「姫様の方が何倍も、何十倍も、? 計りきれません……!! まあ、幸せそうでしたよ」
「そっけないなあ……。はは、二人は全然変わらないな。んー、会いに行きたいな」
「その時は私も一緒に連れて行ってくださいね。いいえ、ついて行きます。カルルミラの『跳ねる魚亭』と言えば混浴露天風呂で有名、エディくんと一緒に入りたいです。お互い体の隅々まで、奥の奥まで洗い合いましょう? 勿論肌と肌で、ですよ? ふふふ、楽しみですね……」
自分の腕で体を抱き、身をくねくねとさせながら言うソフィーさん。本当に楽しみそうにしている。
隅々はいいとして、よくないけど、奥の奥まで……? はっ! 考えちゃ駄目だ!! この人の言葉に一々反応しちゃ駄目だ!!
分かってる、分かってるんだけど反応しちゃうのよ……。シアさんもこれくらいならいいかと私の反応を見てにこにこしてるし……。くううう!!
「一緒に入るのは構わんけど、人前で変な事始めんなよ? 後、何度も言ってるだろ、シラユキちゃんの前でそういう話するんじゃねえよ」
「そういう話? 私、また何か変な事を言いました? すみませんシラユキ様……」
「わ! 謝らなくてもいいよ、ソフィーさん。気にしないでいいからね?」
この人はこれが普通だからしょうがない。どうしようもないんだよ……。私が慣れるまで、慣れることができなくても我慢すればいいだけの事だ。お友達の性格をどうこうしようなどと偉そうな事は考えられない。
ソフィーさんは、ナチュラルに、本当に自然にこういう事を話しちゃうんだよね。ナナシさんと違うのは、それを特に変な事だと感じていないみたいで、その事が私たちが疲れる一番の原因となっている。
「本人分かってないから咎め難いんだよなあ……。ま、シラユキちゃんはあんまりコイツの相手はしない方がいいぜ? 四六時中一緒にいる俺でも手を焼いてるんだからな」
「そんな事できないですよ、ソフィーさんは大切なお友達なんですから。その、あまりにもアレすぎるお話の場合はシアさんが止めてくれますから大丈夫ですよ。エディさんもソフィーさんのこと、あんまり怒らないであげてくださいね」
「はあ……、優しいなシラユキちゃんは、癒されるよ……。最近ホント疲れさせられる事ばっかなんだよな俺の周りって」
「周りにいい顔ばかりしていた貴方の自業自得ですよ。もういっそソフィーさんと一緒になってしまえばどうです? 周りの女性も諦めがつくでしょう」
「はあ、結婚ですか? まだまだ考えられませんね……。今のところはただの冒険者仲間ですよ。それに、結婚しなくとも依頼で別れる以外は昼も夜も一緒ですから。昨晩も」
「はいそこまで」
シアさんナイスタイミング。凄いなー、憧れちゃうなー。
エディさんの周り。うん、ホントに女性だらけなんだ、最近のエディさんの周辺って……
弟子にしてほしい、共に行動してほしいに始まり、普通にお付き合い、結婚、無理ならせめて抱いてほしい、などなど。まさに人生最大のモテ期が到来している。
最初は本人も悪い気はしていなく、そう長くも続かないだろうと思い、シアさんの言うように周りにいい顔をしすぎちゃったのかな? そのせいでモテ度はさらに加速した。
四年位前かな? 経緯は聞いてないけど、ソフィーさんと一緒に行動するようになってからだと思う。何かソフィーさんは近くの男の人をモテさせる能力でも持っているのだろうか? 無いわー。
そんな状態がかれこれ四年近く続いていることになるね。最初は喜んでいたエディさんもさすがに疲れてしまっている。贅沢な悩みだね。
ソフィーさんの性格がこれだから他の女性避けには一切ならない、ただその性格にさらに疲れさせられるだけというのも悩みの一つになっている筈だ。
まあ、私にはどうする事もできない。エディさんには自力で頑張ってほしい。
「あ、シラユキ様。ご旅行の間にエディくんに面白い依頼が入ったんです。Dランクで名指しの依頼ですよ? ふふ、凄いですよね」
「依頼? エディさん個人に? はー、エディさんもいつの間にか有名に、うん? 面白い依頼?」
「お、おい! その話はやめろって!! ああ、シラユキちゃん、気にしないでくれると助かるんだが……」
エディさんが焦ってソフィーさんを止めようとする、が。
「その焦り様、面白そうですね。ソフィーさん、是非お聞かせください。ああ、エディさん? 止めたいのならばソフィーさんの前にまずは私を止めて見せる事ですね」
「無理だよ!! な、ナイフは仕舞ってください!!」
こんな面白そうな話題をシアさんが見逃す訳も無い、諦めて貰おう。私もちょっと気になるし、黙って聞くとしようじゃないか。
「獣人の女性からの依頼で、エディくんとの子供が欲しい、と。一晩のお相手の依頼の上位の依頼に当たるのでしょうか? ふふふ。一晩で済みそうも無い所が面白そうですよね。毎日毎晩まさに精を注ぐ依頼、達成は妊娠の確認ですね。男性の方にとっては夢のような依頼だと思いますよ」
「言うなって!!」
……? ナンデスト? 子供? あ、ああ、エディさんとの子供……
「ななななんて依頼ですかそれ!! そ、そんな依頼もあるんだ……。本当に冒険者って何でも屋なんですね……、あはは……」
だ、大丈夫! これくらいならまだ何とか受け流せるよ! 私も成長したね、うんうん。……うん?
「エディさん、子供、出来ちゃったんですか? え? お父さん?」
「受けてねえよ!!! あ、しまっ! ちょっ、バレンシアさん、今のは」
「姫様を怒鳴りつけるとは、本当にいいご身分になったものですね……。? 姫様、大丈夫ですか?」
びびびびっくりした!! ううう、お友達でも人間の人にいきなり怒鳴られるとやっぱり怖いや……
驚きすぎて黙り込んでしまった私を心配して、シアさんが覗き込んで来る。
「あー、ごめん。どうもソフィーと付き合いだしてから怒鳴り癖が付いちゃってる気がするな。な、泣いてないか? あれ? ついに俺もここまでか!?」
「怒鳴り癖? 確かに私は罵られながら突かれるのも大好きですけど……。エディくんそんな癖ありましたか? たまに激しい時もありますけど、どちらかというと優しく抱いてくれる方が多いような……」
「ストーップ!! いい加減にしろって!! お前も死ぬぞ!?」
「え? あ、また私何か言ってしまいました? すみません。あの、バレンシアさん、死ぬ前に精も根も尽きるほどエディくんと、いえ、どうせならここにいる男性全員を交えて乱れたいのですが……、一晩待って頂けますか?」
「ああ! もうお前は黙ってろ!! まさにこれだよ! これのせいだよ!!」
「これ? エディくんの○○○が何か?」
「お前はコレって言うとそれしか思い浮かばないのかよ!!!」
「ふふっ、ふふふ。もう、恥ずかしい事言わないでよソフィーさん。エディさんも気にしないでくださいね。今のはちょっとびっくりしちゃっただけですから」
「お? 笑ってるか、よかったー……。あー、ごめんなホントに。あんま怒鳴られたりする経験なんてないだろうし、怖かったろ?」
「うう、すみませんシラユキ様。何かシラユキ様には恥ずかしい事を言ってしまったみたいで……」
「大丈夫、ソフィーさんも気にしないでね? 無理に自分のどこが悪いかなんて考えなくてもいいから、ね?」
「はあああ、シラユキ様はなんてお優しい、可愛らしい……。あの、キスを、いえ、全身舐め回したいのですが、いいですか?」
「よくないよ! わわ! じわじわ寄ってこないで!! シアさーん!」
「またですか……。姫様に触れたらころ、こほん。姫様に触れたら消すと言いましたよね私は。この世から物理的に、髪の毛一本残さず消して差し上げましょうか?」
「シアさん怖い!! 消しちゃ駄目!! ソフィーさんもなんで嬉しそうな顔してるの!!?」
久しぶりの新キャラの登場です。
変態すぎるのもアレなのでかなり控え目にしてみました。