その117
今回から二十歳以上編が始まります。
十八、九歳の頃の話も多少入ってくるとは思いますが、大体は二十歳以上の頃の出来事がメインになります。
「では……、これより第二次新規メイド採用試験を始めます。試験官は私と姫様が担当、フランとメアリーはただの外野、見学です、気にしないように。まあ、意見は貰う事になるとは思いますが。……何か質問は?」
「第二次!? あれ? 私ってまだメイドとして認められてなかったんですか? あ、あれだけ苦労させられてやっと一次試験突破しただけとか……。さすがは王族のメイド、厳しいです」
うんうん。もの凄く苦労させちゃったよね。まさに疲労困憊っていう言葉がよく似合ってたよ……
「仮採用の様なものですね。料理もできない、姫様の遊び相手しか務まらない見習いの分際でどの口が言いますか」
「まだ掃除しかできないからねー、それもしょうがないかな? 私もそんなに得意って訳じゃないけどさ、やっぱりメイドとして料理はある程度できないと駄目だよ。それ以前に、四百近く生きてるのになんで料理くらい覚えようと思わなかったの?」
メアさんも普通に料理得意だと思うんだけどな……。あ、身近にシアさんとクレアさん、それに料理担当のフランさんがいるからか。この三人と比べちゃ駄目だよ……
「今まではリズが作ってくれてたんだよね……。リズを弟子にするまでは、切って塩かけて焼くだけだったかな。シア姉様と別れるまでは毎日手作りの料理食べさせてもらえてたなあ……」
「はいそこ余計な事は言わない! 私の過去に触れたら叩き出すと何度も言っているでしょう……」
ほうほう? やっぱりシアさんは可愛い女の子は甘やかしちゃってましたか。
それにしても切って塩かけるだけとか……、見た目と違ってワイルドすぎるよ。
「料理はいいよ、教えるのも楽しいし。思いっきり年上なんだけど、なんか妹か娘ができたみたいで嬉しかったりするのよね」
「どこへ行っても子供扱い……。まあ、それも慣れたけどね。それで、シア姉様、試験の内容は何です?」
「何にしましょうか、姫様」
「慣れちゃ駄目だよキャロルさ、私が決めるの!?」
さて、唐突に始まったキャロルさんのメイド採用試験。第二次という事らしいけど、この分だと第三次第四次と続きそうだね。多分シアさんがキャロルさんで遊びたいだけなんだろうと思う。
しかし、メイドさんの採用試験か。普通はどんな試験があるんだろう?
メイドさんと言えば、料理とお掃除か? クレアさんは主に護衛なんだけど、あ、シアさんも私の護衛だった……。また完全に忘れてたね。
まあ、いいや。料理にお掃除、後はええと……、うん? もう無いんじゃないか?
私の専用メイドさんになるのなら、遊び相手に読書のお相手、夜一緒に寝る、くらいかな。お風呂もたまには一緒に入ってくれると嬉しいね。
「うーん……。やっぱり料理? 一応フランさんに教わってるんだよね? それじゃ、今日のおやつはキャロルさんに何か作ってもらっちゃおうかな」
「しししシラユキ様のおやつを私が!? 無理ですよそんな! もしお腹を壊されでもしてしまったら……、シア姉様に殺されてしまいます!!」
私の提案を大慌てで断るキャロルさん。
むう、料理の作れない私には分からないんだけど、ちょっと失敗したくらいでお腹を壊すなんて事は無いと思うんだけどな。
「では不採用という事で。お帰りはあちらです」
「早い!! 仮採用まで取り消しですか!?」
シアさんが部屋の入り口へと手を向けて案内する。なんて冷たい人なんだ……!!
うーん……、ツッコミをしなくていいのはホントに楽だ……
「ふふふ。まあ、冗談はそれくらいにして、おやつ作りを手伝ってもらっちゃおうかな。んー、何にしようか……。シラユキは何か食べたい物ある?」
「急に言われても……。フランさんが作ってくれるのは何でも美味しいしなー。プリンにアップルパイ、苺を使った何か……。おまかせで!」
「それが一番困るから聞いたのに……。と言うか、プリンとアップルパイは本当に飽きないねこの子」
「特にプリンなら十年くらい続いても飽きないんじゃない? 何年経っても子供のままだよね姫は」
フランさんには呆れられて、メアさんには撫でられて子供扱いされてしまった。
ふーんだ! まだまだ子供だもーん! ……恥ずかしいなこれ!!
「ではオレンジのケーキで」
「初心者にケーキ作り!? いや、私が付いてるから大丈夫なんだけどね……。それじゃ、それにしようか。シアもオレンジは飽きないね」
ふふふ。好物っていうのはいくら食べても飽きないものなんだよフランさん。普通は三日も続けば飽きる、とかよく言われるけどね。プリンとアップルパイを飽きる? ありえません!!
「ケーキか……、作れるようになれるといいなあ……。料理できる人ってホント尊敬しちゃうよ。フラン先生、お願いします!」
「シアの好きな物だからって張り切ってるねキャロル。ふふ、頑張ってシアにいい所見せなきゃねー」
なるほどね。好きな人に美味しい手料理を食べてもらいたいよね。それで、美味しいって言われたいよね!!
「私も料理できるようになりたいなー。フランさん、私にも教えてー?」
「駄目です!! 料理には怪我は付き物。絶対にいけません!!」
「まだちょっとシラユキには早いかなー。ごめんね?」
「うんうん。成人したらにしよう? 指先の怪我って本当に痛いんだよ? 姫」
「そうですよシラユキ様。シラユキ様には怪我など絶対にしてほしくないです。私も色々と作れるようになって見せますから、シラユキ様にお教えできるくらいになるまで……、百年ほどお待ちください」
「百年修行するんだ? って長いよ! 相変わらずみんな過保護すぎる!!」
今回はちょっと短めです。
毎日更新はできないんじゃなかったか、ですか? ナンノコトヤラ。