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112/338

その112

 そして、来るべき日が……、いや、その前段階がやって来てしまった。


「エディさん、Eランクおめでとう……」


「暗い!! 勘弁してくれよシラユキちゃん……。睨まれながら祝われるなんて初めての経験だ……」


 おっと、睨んじゃってたか……


「姫様から直接お祝いのお言葉を頂いた反応がそれですか? 失礼の極みですね。何本にしましょうか」


「すんません!! ありがとうございます!!!」



 そう、エディさんがついにEランクへと昇級し、一人前の冒険者として認められたのだ。

 それはつまり、ラルフさんとナナシさんとのお別れがまた一歩近づいてしまったという事。多少暗くなってしまうのも許して欲しい。


 嬉しいのは確かだ。でも……






「ま、これで俺たちの仕事も済んじまったな。まだもう暫くは一緒に行動すると思うけどな。うん、そろそろ……、だよな」


「う、うん……。そろそろなんだよね……。シラユキちゃん? だ、大丈夫? 泣いてはいないみたいだけど……」


 二人とも私を気遣ってか、直接的な表現を避け、とても言い辛そうにしている。


 駄目駄目! 今日はお祝いの席!

 今はその事はとりあえず忘れて、エディさんのランクアップのお祝いをしっかりしなきゃね!


「暗くなっちゃってごめんなさい。ええと、エディさん、改めておめでとうございます! これで一人前の冒険者ですね」


「ん、あ、ありがとうシラユキちゃん。うーん、無理してるなこれは」


 言わないで!!


「まったく、気づいても実際に口に出すのものではありませんよ? ラルフさんナナシさんの影響でしょうか……。まさにこの師匠にしてこの弟子あり、と言った感じですね」


「う、ごめん」


 シアさんが少し呆れたようにエディさんを注意する。


 確かにエディさんって、この二人に性格も似てきちゃってる気がするよね。

 会った時から似た物三人組で凄くいい関係に見えてたからね。その後もずっと一緒に生活してきた訳だし、さらに色々と伝染っちゃったのかもしれない。


 ナナシさんのエロさが伝染らなかったことは心から安心している。


「お祝いの席でする話ではないと思うことなのですが、エディさんがたかがEランクに上がった程度ですしどうでもいい事ですよね。お二人は、その、いつ出られるので?」


 何かひどい事を言っている気がするんだけど、今の私にはそれを突っ込んでいる余裕は無い。ごめんねエディさん……

 シアさんは私が一番知りたい、そして一番聞き難い事をずばりと尋ねてくれてしまった。


「お、俺の扱いがひでえ……。でも、しょうがないか。俺も聞いて無いんだけど、いつなんだよラルフさん」


「いつに、っていうのはまだ決めてないな、寒くなる前にとは思ってるんだけどさ。だから、そう先の事じゃない」


「寒い中の長旅はキツイからね。冬に入る前、ううん、もっと前に出なきゃいけないんだよね……」


 寒くなる前? 今はもう夏も終わりっていう気温だよ? それじゃもう、後一月も、ない……?


 え……、そんな……、やだぁ……


「お二人とも、言い出し難い事を聞いてしまい申し訳ありません。数週間の内に、という事ですよね。姫様……、姫様?」


 黙り込んでしまった私をシアさんが呼ぶ。


 言いたい、言ってしまいたい。

 無駄だと分かっていても、行かないで、と口に出してしまいたい……!!


「限界、の様ですね。度々申し訳ありませんが、今日はこれでお暇させて頂きます。後、これは私の我侭、勝手な言い分なのですが……、出立のその日まで、もう姫様とはお会いにならぬようお願いできますでしょうか?」


 シアさんが珍しく、まるでラルフさんと初めて会ったときのような、冷たい話し方で、え?


「え? シア、さん?」


「ああ、それがいいな。もう、いつもみたいに笑って話すなんて無理だろ。俺たちも実際見てて辛い。メイドさんなんて特にそうだろ? なあ、シラユキちゃん。シラユキちゃんが暗くなってるとな、皆、皆辛いんだよ。ごめんな? 会う度にそんな暗い顔させてたんじゃ、俺たちメイドさんに殺されちまうぜ? ははっ」


「ラルフさん?」


 ラルフさんはとても優しく、そして軽くおどけて話してくれる。


「今までは月にニ、三回、一ヶ月に一回も会えなかった時だってあるし、それとおんなじ、とは言えないか……。でもさ、シラユキちゃんの泣き顔を見るのはホントに辛いよ……。だから、だからね? その泣き顔を見るのも、次で最後にしよう? ね?」


「な、ナナシさん……」


 ナナシさんも今日はとても優しい話し方をしてくれている。


 次で……、最後……?



「うおおおお……、俺が悪いみたいだ……。ランクアップすることで罪悪感を覚えるとか、世界中探したって俺くらいしか経験して無いんじゃないかこれは……」


「ふ、ふふ……。ごめんなさいエディさん。エディさんのランクアップは本当に嬉しいですよ。あ、今日は忘れちゃいましたけど、ちゃんとお祝いも用意してますからね、楽しみにしててくださいね?」


 ちょっと涙声だったけど、これでちゃんとお祝いは言えたかな?


「な、泣き笑いの顔も可愛いなこの子……、はっ!? バレンシアさん!? ち、違いますから!! ただ可愛いって思っただけで、おわ! ナイフ!? 両手!? え!? 何本あるのそれ!?」


「やはり貴方はここで消しておくべき存在なのでしょうか? 割と本気でそう思ってしまいます。姫様の愛らしさに心眩むのは人であるのなら避けられない現実。いえ、人に在らずともこの世の全ての存在を魅了してしまうのが姫様、しょうがありませんね。では、死んでください、エディさん」


 両手の指の間にナイフを持ってる!? なにそれカッコいい!!! 両手で八本あるの!? す、凄い! シアさん凄い!!


「って違う! シアさん落ち着いて!! どうしたの今日は? いつにも増して過保護なんだけど……」


 エディさんはただ可愛いって言っただけじゃない、もう! 涙も吹き飛んじゃったよ!! あ……


「ふふ、申し訳ありません、姫様」


「あ、うわ……、ありがとうシアさん……。それと、ごめんね?」


「いえいえ、とんでもありませんよ。エディさんを殺そうと思ったのは本気で、こほん」


「ひい! 勘弁してください!!」


 うーん。シアさんに憎まれ役をさせちゃったかな。頼りになりすぎるよこのメイドさんは……




 駄目だ駄目だ。シアさんはとても頼りになるメイドさんだ。でもね? 私はお姫様なんだよ? こういうのは、私がちゃんと言わないといけないんだよね、本当はさ。


 黙って様子を見てくれていたラルフさんとナナシさんへと向き直る。


「ええと、ラルフさん、ナナシさん。まずは、ごめんなさい。多分また泣き出して話せなくなっちゃうと思いますから、今、ちゃんと言いますね。シアさんが言ってくれた事なんですけど、私もそうしようと思います。もう、出発の日までここには来ま、せんっ、ね。ふっ、ううっ……、お、お別れの、日に、また……、うう、うううう……、行っちゃやだあ……」


 言っちゃった、また言ってしまった。それに、最後まで言い切る前に泣き出しちゃったよ……、情け無い。

 シアさんが涙を拭いてくれてはいるが、拭っても拭っても次から次へと涙が溢れてくる。


「姫様、ご立派ですよ。ラルフさん、ナナシさん、それにエディさんも、本日は本当に申し訳ありませんでした。ランクアップという祝いの席でこんな話をしてしまいまして……。まあ、それは先ほども言いましたように、所詮Eランク、所詮エディさんの事ですし、構いませんよね? 姫様はまだ十四歳、十五も近いのですがまだまだ子供。新しい門出を祝い、笑って送り出せる年齢ではありません。個人的には何も言わずそのまま町を出て頂きたかったのですが、ルーディン様のさりげない一言から気づかれてしまい……、このような結果となってしまいました。ええ、なってしまったものは仕方ありません。また、別れのその日にお会い致しましょう。その日も姫様は泣かれてしまうと思いますが、いえ、泣かれてしまいますが、ええ、貴方方のせいではありませんよ? お気になさらぬようお願いしますね」


「あはは。気にするなっていうのは、ま、難しいかな。子供の泣き顔はやっぱ効くなあ……。ん、今日はここまでにしようぜ」


「シラユキちゃん……、泣かないでー……。ああ、あたしも泣きそう。この子のことホントに大好きになっちゃったんだよね……」


「明日はルーディンさんとユーフェネリアさんが来るんだっけ? 俺、宿にいてもいいかなあ……。多分殺されるよ……」


 兄様と姉様、明日来るんだ? 私も明日一緒に来ればよかったかな……


「ごめんっ、なさい。うう、シアさぁん……」


「ああ……、姫様……。抱き上げますよ? それでは、来て早々なのですが、失礼させて頂きますね」


 シアさんは私を優しく抱き上げ、三人に向かい、軽くお辞儀をする。


「出立の日はルードに言うよ。その……、また、な、シラユキちゃん。メイドさんも」


「ああ……、うう……、罪悪感が……。またね、シラユキちゃん」


「シラユキちゃん、バレンシアさん、また、ええと、またその日に」


 三人の言葉を聞き終わり、シアさんは歩き出す。私はずっと泣いたままだ。

 二人の顔を見るのが怖い。今見てしまうと絶対に行かないでと泣きついてしまう。それだけは絶対にしたくはない。


 シアさんに強く抱きついて泣き声を押し殺す。シアさんのメイド服が涙で汚れてしまうけど、どうしようもない。後で謝ろう……




 ギルドの外へ、町の外へ。そして森の中へ入ったとき、大声で泣いてシアさんを困らせてしまった。

 巡回の人がビックリして集まって来てしまい、みんな大慌て。それから一騒動あったらしいのだが……、その時母様の膝の上で泣いていた私には何が起こったのかは分からない。

 父様も兄様も笑っていたし、特に大事件に発展することも無かったようだ。




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