その11
で、できない! 簡単な魔法のはずなのに……!! ううううう……、なんでよー、なんでできないのよー!
『ライトボール』、光の玉。光の? 光って何よ? 光、光ねぇ……。電気? 蛍光灯? 電球? あ、火も明るいわよね。全部熱を持ってる、うん。
火の玉? 炎を固定? 何を燃やすの? 空気? 酸素? 駄目よ、火は駄目、危ないわ。子供が火遊びをするのはいけないと思う。魔法は遊びじゃないよ!!
やはり光か。あ、そうだ! ゲーム的に考えてみよう。何か手がかりが掴めるかもしれない。ふふふ、ついに前世の知識が役に立つ時が来たよ!
ええと、ゲームで言うと光属性とか聖属性とかそんな感じのよね。……うん? 光属性って何よ? 聖属性って何よ? 駄目だ! ゲームは頼りにならない!!! ゲームを頼りにしちゃ駄目だよ私……。
属性なんて分け方は無いもんね。火を出す魔法も、水を操る魔法も全部同じ『魔法』だ。何かを出したり操ったりで得意不得意は出そうだけど、それもイメージ力の違いでしかないんだろう。
イメージ力、想像力か……。光のイメージか……。ん?
また振り出しに戻ったよ! 光のイメージって何よ!? うわーん!!
「考え込んでるなー。感覚で使う物だって言ってるのに」
「しょ、しょうがないですよ! 姫って頭で考えてから動くタイプみたいですから!」
メアさんが兄様と話してる。兄様は呆れ声、メアさんの話し方には何か焦りの様な物を感じる。
んー? メアさん何か緊張してない? 私以外の王族にはこんな感じなんだろうか。あ、兄様と二人で残されるのは始めてだからかな? 今日はシアさんフランさんもいないしね。
今日の魔法の練習は兄様が先生、メアさんは付き添いだ。他のメイドさんズは別件でここにはいない。
「メアリーはどんな感じで使ってる? 俺は感覚で、としか説明できないんだよな」
「そ、そうですね……。私の場合は……、心で念じる感じ、でしょうか? それが一般的だと思いますよ」
敬語のメアさんに凄い違和感を感じるわ……。心で念じる? 光になれー! とかかね。
「やっぱ感覚だよなぁ。魔法なんて無意識で組み立てて発動できるのが当たり前だし」
「そんな簡単にできるのは、王族の方たちだけだと思いますけど……」
やっぱりそうだよね? あ、私も王族だ……、くそう。
「そっか? コーラスだって、俺並どころかそれ以上に使えるだろ?」
「え? コーラスさんそんなに凄い人だったの?」
意外だ、意外すぎる。お花畑でほのぼの水まいてる所しか魔法使ってるの見た事無いよ。
「ああ。コーラスは戦争時代を、ん。まぁ、凄い奴だよ」
「ルーディン様……」
せ、戦争!? そういえば七百年位前に戦争あったんだっけ? という事は、コーラスさん七百歳以上!? け、結構なお年なのね……。
「あー、しまったな。今のは失言だった」
失敗したー、と頭を掻きながら言う兄様。
「そう?」
コーラスさんに口止めされてるとかかな?
「そうなんだよ。戦争時代の事なんて進んで聞きたいとも話したいとも思わないだろ。特にお前には聞かせたくないよ」
ああ、そっちの事か。
そっか、そうだよね。戦争、戦争か……。怖いな……。
「姫? 大丈夫?」
メアさんが、黙り込んだ私を心配して話しかけてきてくれる。七百年前はこの国も平和じゃなかったのかな?
「ルー兄様」
「何だ?」
「ちょっと、甘えたい」
「聞くな聞くな。ほれ、来い来い」
椅子から降りて、兄様の側へ。すぐに膝の上に座らせて、優しく撫でてくれる兄様。
安心できるねこれは。しかし、戦争かー……。
「うーん……。できないー」
兄様の膝の上に座りながら練習を続ける私。なんの糸口も見つからないまま時間だけが過ぎていく。
「はは、やっぱり五歳じゃ難しいよなあ。なあシラユキ、今はまだできなくてもいいんだって。ああ、今だけじゃないぞ? 別に一生使えなくてもいいんだ。俺が、俺たちが、この国のみんながいれば魔法なんて無くても生きていけるだろ?」
「それはそうだけど……、そうじゃないの!」
生きてはいける。でもね、魔法は使えるようになりたいのよ! そういう問題じゃないの!! まったく、分かってないんだから兄様は……。
「ほれほれ。こんな感じこんな感じ」
私の目の前にライトボールを出す兄様。
ちょ、近いよ眩しいよ。せめてもうちょっと離れた所に……、いや、コレデヨイ。
「あ、ルー兄様。ちょっとそのまま、出したままにしておいて」
丁度いい、目の前にあるのなら存分に観察させてもらおう。
「あ? ああ、いいぞ」
「目に悪いからあまり見続けちゃ駄目だよ、ですよ、姫。……あ、姫には別に敬語じゃなくてもよかったんだった……」
メアさん黙ってると思ったら超話しにくそうだ。面白いな。
さて、これは……、ふよふよと浮く光の玉、浮く? うん? これって質量はあるんだろうか? 触れたりするのかな?
「ねえ、ルー兄様? これって触っても大丈夫なの?」
「ああ、熱かったりしないから大丈夫だ。触ってみな。……触れるならな」
触れるなら、という言葉が少し引っ掛かったけど、安全というなら早速手を出してみよう。
どれどれ……。!? す、すり抜け!? え? ええ!?
いくら触ろうとしても、すかすかと手がすり抜けてしまう。何かに触ったという感覚も無い。
凄いなこれは、本当に光の、光だけでできた玉なんだ。
「ふっ、ふふふっ……」
「う?」
「あ、ごめっ、ふふっ、あはははっ」
メアさんが急に笑い始めた。私が何か変な事でもしたかな?
「ごめんごめん。姫の反応が可愛くてさ。はー、やっぱり子供だよね」
「むう……、どうせ子供だもーん。まだ五歳だもーんだ」
「うお可愛い! よくやったメアリー!」
褒めるな兄様!!
「見た目は子供なんだけど、たまに話し方も考え方も全然子供に見えない時あるのよ、姫ってさ。私たちお世話係なのに仕事ほっとんど無いから、ちょっと心配してたんだよね」
「確かになあ、ユーネが五歳の頃なんて、我侭で甘えん坊で……、でも可愛かったなぁ……。今でも可愛いけどさ」
はいはい、お熱いことで。
「我侭で甘えん坊なのは私も同じだと思うよ?」
「これだよ」
「これですよね」
な、何? また私変な事言った? これ? どれよ?
「本当に我侭で甘えん坊な奴は、自分のことを我侭だの甘えん坊だの言わないって」
「こういうところが子供らしくないのよねー、じゃない、ですよね」
「むむむむ……。そうなのかな……、分かんない」
中身十六歳相当だけど、外見に引っ張られているのか今は年相応の子供っぽい行動してると思うんだけどな……。
「よっし。やめだ、やめ! 外行くぞ! 遊びに行くぞ!! こんな所で篭ってたってできないモンはできないんだからな」
私を抱えたまま椅子から勢いよく立ち上がる。
「え? え?」
「はい、いってらっしゃいませ。エネフェア様には私から伝えておきますね」
「ああ、頼む。メアリーも早く敬語抜けよ? 誰も気にしてないんだし、何より普通に話してた方が可愛い」
「は、ははは、はいっ! が、頑張ります!」
元日本人の私からすると、メアさんの気持ちはよく分かるよ。いくら気さくな人といっても、偉い人には敬語を使っちゃうものだ。しかし、この兄様は……。
「ルー兄様はメアさんの胸を狙ってるだけだからね。気をつけてね? 揉まれちゃうよ?」
「ど、どうぞ! ここここんな胸でよかったらどうぞ!!」
「わ、脱いじゃ駄目! ルー兄様も嬉しそうにしーなーいー!」
「止めるなシラユキ、もったいない!!」
兄様は無理矢理とか権力でとか、そういう事をする人じゃないから大丈夫だけどさ。もうちょっと王族としての自覚を持とうよ……。
私? 私はもちろんそんな自覚無いよ! そんなの成人してからでいいのさ! ふふん。
2012/8/4
全体的に修正しました。




