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その107

「まったく……、泣いて帰って来るかと思ったら大変な事引き受けて帰って来やがってコイツは……」


「え? だ、駄目だったかな……」


「ううん、シラユキが泣いてないならそれでいいわ。でも、名前って大切なものよ?」


 家に帰ってきたら即兄様と姉様に捕まってしまった。二人はまた随分と心配してたみたいだ。私の顔を見るなり安堵のため息を大きくつかれてしまった。

 まったく、優しい家族だね、嬉しい。しかし、贈り物を決めちゃって来たのはまずかったかな?

 全く決まる気配も無かったからよかったと思うんだけど……。ああ、私が一人で勝手に決めちゃったんだったね。私が三人で考えようって提案したんだったよ……


「ご、ごめんなさい姉様、勝手に決めちゃって……」


「姫様は他の事を考えて悲しさを紛らわせてしまおうとお考えなのです。どうかお許しを」


 シアさんが心を読んだように私の心情を話してしまう。


「それは分かってる」


「私も分かってるわよ」


 あれ? バレバレでしたか……

 うーん、さすが私の家族、よく分かってるね。


 うん、他ごとを考えてる間は寂しさも忘れる、とまでは行かないとしても、多少は薄れる。今はできるだけ来るべき別れを忘れていたい。

 こうでもしないと毎日ずっと泣き続けてしまう気がするからね。情けない話だよホントに……






「まあ、いいか。受けちまった物は今さら何を言ってもしょうがないからな。どうせなら飛び切りの名前考えようぜ。それになシラユキ、三人で考えればいいんだよ。それでお前の言ってた通りの三人からの贈り物になるだろ?」


「ええ、そうね。どうせやるなら徹底的に、よ。ええと、男の子と女の子二人分考えればいいのよね? ふふ、どんな名前がいいかしら……」


 おお、確かに言われてみればそうだね、贈り物が決まっただけだ。さらに実際贈る名前を考えるのはそれとはまた別だったね。兄様頭いいな。


 二人ともやる気になってくれたみたい、これは心強いよ。どうせやるなら徹底的に、は父様がよく言うセリフだね。ホントに姉様は父様に考え方が似てるよ。

 しかし、兄様のネーミングセンスはちょっと不安かな。魔法とかそのまんま過ぎるし……

 なるべく姉様と私とで考えるべきなのかこれは……?


 が、頑張ろう!!


「ラルフさんとナナシさんの名前から一文字取った方がいいよね。うーん……、結構難しそうだねー」


 両親の名前から一文字取るというのは、この世界では割と当たり前のようになっている。私の場合は女神様が付けちゃった名前だからちょっと特別なんだけどね。普通の場合はそれが一般的だ。


「絶対って言う訳じゃないけどな。できたらそうした方がいい、ってくらいの考えでいいぞ?」


「あまりそれに拘り過ぎていい名前が浮かばないのも困るしね。名前って難しいわよ……。私たちも早く自分たちの事で悩みたいわね、お兄様……」


「ああ、そうだな。こっちは普通に悩みものだが、俺たちの子供ともなればどれだけ嬉しい悩みになってくれるのか想像もできないな……」


 手を取り合い、見つめ合い、二人の世界へ入ってしまう兄様と姉様。

 早速二人が脱落だよ!! ええい役に立たない兄姉め! 目の前でキスされると目に毒だよ!!



「シアさんは何かいい案はない? どうしよう、軽く受けちゃったけど難しいよこれ。いい案だと思ったんだけどなー」


「わ、私ですか? 私にも難しいご相談ですね……。メアとフランはどうです?」


 あっさり投げた! シアさんでもさすがにこれは難しいかー……


「姫が受けたんだから姫が考えるしかないよ。うんうん」


「あ、何かおやつ用意しようか? メア、手伝ってー」


「りょうかーい! 姫、シア、ちょっと行って来るね」


 そう言い残すと、二人はそそくさと部屋の外へ出て行ってしまった。


「逃げられてしまいましたね。ですが、メアの言う通りですよ。姫様がお引き受けになったご依頼ですからね、責任を持って当たらなければいけません。大丈夫です、姫様でしたら必ず素敵な名前を考え付かれる筈ですから」


「う……。そうだよね、私が考えないといけないよね。ルー兄様たちと三人で考えたかったんだけどな……」


 三人で考えて贈るからこそのプレゼントなのになー……


「ん? ちゃんと考えてるぞ? 安心しろって、お前だけに考えさせる訳無いだろ?」


「え、あ、ごめんなさい。私はお兄様の事しか考えてなかったわ……」


 あれ? いつもは体を揺すったり、大きな声で呼び掛けないと戻って来ないのに、珍しいね。でも姉様は釣られて戻って来ただけみたいだが……


「いつもの俺は、シラユキ5、ユーネ4、その他1くらいの割合なんだが、今日は違うぞ? シラユキ5、ユーネ3、その他2くらいだな、うん」


「何の割合か分からないよ……。後、減らすなら私分を減らしてよ!」


 よりによって姉様分を減らすとは、後が怖いよ?


「お兄様の中ではシラユキの方が比率が大きいのね……」


「ゆ、ユーネ? そういう意味じゃなくてだな、あー、その」


 今が既に怖かった!!


「うん? あ、私もかも。ごめんなさいお兄様、確かにそういう意味だとシラユキが一番よね」


 許された! 兄様許されたよ!! でもどういう意味よ……


「ちなみに私の中では姫様が10、その他はゼロです」


「言うと思ったよ!!」




 現実逃避はこれくらいにして真面目に考えよう。

 名前、名前……。ファンタジー風と言うか、横文字っぽい名前でいいのかな?

 いや、ここは日本風な名前を付けるのもありなんじゃないだろうか? 私の名前もちょっと変わってるな、くらいにしか思われて無いし。

 待てよ……、それが原因で学校とかで苛められたりでもしたら……。だ、駄目だ! 迂闊に変わった名前を付ける訳には……


 そういえば私って、ゲームのキャラに名前を付けるのにもの凄く時間が掛かってた気がする。多いと六人とか決めないといけないゲームもあったっけ……


「シラユキが前に住んでた世界だと、こういう時はどういう風に名付けてたのかしら。参考に聞いてみてもいい? あ、思い出せたらでいいわよ?」


 おおお、姉様いい考えだよ! ここで私の異世界知識が役に立つかもしれないね。


「うん! ええとね、えーと……。んー、自分の好きな言葉かな? 私の一番新しい知識だとそれが最後かも」


 当て字を使ったキラキラネーム、だったかな? 賛否両論と言うか、否定的な意見が多かったね確か。


「す、好きな言葉? お兄様の場合はおっぱいとかね。なるほど……」


「どんな名前だよ! いや、ラルフとナナシの子供だよな……、有りか?」


「無いよ!! ラルフさんとナナシさんっていうので納得しかけちゃったよ……。んー、好きな有名人の名前をそのまま持って来ちゃったりとかもあるね」


 中にはアニメや漫画のキャラの名前そのままとかね。そこまで変な名前も無いし、普通にこれは有りだと思う。


「何だ? 他人の名前そのままってのは有りなのか? まあ、本人達がそれでいいならいいと思うんだけどな。偶然以外で同じ名前とか正直考えられないぜ?」


「そうよね、自分の子供に他人のイメージを押し付けてる感じがしちゃうわよね……。これは無いわ」


 そんな考えもあるかー……、割と普通な名付け方だったと思うんだけどね。なるほどなるほど面白い。

 そうなるとこれは除外して、と。後は……



「似た感じので、何か歴史的な快挙を成し遂げた先祖の名前を付ける事もあるかな。○○二世とかね。子供のうちは別の名前で呼ばれたりしてね」


「子供の内は別の名でか? ああ、幼名って奴だな。それはなんか、なあ? 名前二個考えるみたいで逆に面倒じゃないか? 呼ばれる子供も途中で名前が変わるとか混乱しそうだよな」


「人間種族はそうでも無いですよ? 慣れる事に関してはずば抜けた能力を持っていますからね。適応力の高さでは随一と言ってもいいでしょう」


「私たちだと考えられないわよね。先祖って言ったって、皆生きてるし、家族で同じ名前になっちゃうからね」


 人間は世界中どこにでも住んでいて、一番数が多い種族だからね。適応力が高くないとどんどん寿命で死んで行っちゃうって事かな。今回の話とは何となく意味合いが違う気もするけどさ。

 私たちみたいな長い寿命の種族の場合は、実際生きてる先祖と同じ名前になっちゃうのか。ラルフさんたちには関係無いけど、これはやっぱり無しだね。次へ行こう。



「文字数で決めるっていうのもあるよ。運勢が良くなる文字数とか? これは私にはよく分からないねー。他にも色々とあるけど、あんまり参考にはならないかも。私もそれが専門って訳でもないし、それ以上詳しい事も分からないんだけどね」


「いいや、充分参考になったぞ? ありがとなシラユキ。ちょっとこっち来い」


 兄様に引き寄せられ、膝の上に乗せられてグリグリと撫でられる。


「ルー兄様撫でるの強いよ……。ふふふ」


 そういえば兄様の膝の上に座らせてもらうのは久しぶりかな? もっと小さい頃は毎日の様にしてもらってたんだけど。


 なんだろう、嬉しいな……


「うわー、何この笑顔、可愛すぎる……。お兄様、私にも抱かせて?」


「ふふふ。もうちょっとルー兄様に甘えたいな。ごめんねユー姉様」


「そんな事で謝らないの。ああ、可愛いわー……」


「やはり姫様は、是非ルーディン様と一緒になって頂きたいですね」


 いきなり何を言い出すかなシアさんは……


「ははは、子供に言う事じゃないなそれは。今はただの妹として甘えてればいいさ、な? シラユキ」


「うん! ルー兄様大好きだよー!!」


 将来兄様と、なんてまだまだ考えられないよ。今は優しくてカッコいいお兄ちゃんに甘えられればそれでいいね。




「なんか話が逸れてばっかりだな。シラユキが可愛すぎるのが原因か?」


「うん。どうもいけないわね、ついつい可愛がっちゃうもの。でも、これはしょうがないわよねー。ね、シラユキー?」


「ふふふ、くすぐったいよユー姉様」


 兄様と交代して、私を膝の上に座らせて満足そうな姉様。スリスリと頬擦りされてしまう。くすぐったいけど嬉しい。


「ええ。姫様の御前では全てが有象無象と化します。これは姫様に責任を取って頂く外ありませんね」


「え? どういう流れでそうなるの?」


 私のせいにされてるー!! 可愛い可愛い言われてるだけに怒れない……!!

 目の前で兄様と姉様に甘えすぎて嫉妬されたか!?


 よし、責任を取って私的に考えて最高の案を出そうじゃないか。


「深く考えないで、名前の響きで決めるのが私はいいと思うな」


 兄様の魔法の名前の付け方に近いかもしれないけどさ、結局はカッコいい、可愛い、素敵な名前がいいと思うんだよね。


「名前の響き……、音の事? うん、それはいいかもね。実際口に出して、響き良い名前っていうのは重要な事よね」


「後は覚えられ易いと直いいな。ユーネはよく間違えられたよなあ……」


 未だにユーネフェリア様って呼ぶ人いるしね。愛称がユーネだし、間違えて記憶されがちなんだよね。


「私の名前は女神様に付けてもらったんだよねー。今回も特別に付けてもらえないかな……」


「え!? ちょちょちょちょっと待って待って!! シラユキ女神様と連絡取れるの!?」


「お前それ、どこの神子だよ!?」


「取れないよ? 無理だからね! でも絶対できないとは言い切れない自分が怖い……」


 多分白雪草に向かってお願いしたら、その晩夢に出て来るくらいは平気でして来そうだ。

 もう二度と会う事は無いなんて言っておきながら、ちょこちょことこちらの生活を覗いてるみたいだしね。……覗き? 見守ってくれている、にしよう。覗きだといやらしく感じてしまう……


「そ、そうよね。あー、焦ったわ……」


「絶対って言い切れないとか言ってるぞコイツ……」


「あはは、試してみようか? 多分無理だと思うけど」


 女神様に名前付けてもらえるなら最高のプレゼントに、ん? ならないね……

 私達が考えるからこそ意味が出て来るものだったよ。いけないいけない。


「やめとけやめとけ。もしできちまってそれが誰かに知られたら、どこかの神殿に祭り上げられるぞ」


「うわ、そんな事もあるんだ? ちょっと怖いねそれは……」


 この世界の宗教と言うか、信仰の対象は女神様だけだからね。秋祭りも収穫の神様に感謝するのではなく、大地と女神様に感謝するお祭りなのだ。

 他の国ではどうか詳しい事はまだ分からないけど、世界一般的な認識はそうだろうと思う。






「そうなればその神殿を潰すだけですよ。ご安心くださいね」


「反対の意味で安心できないよ! もう、シアさんは……」


「え? 当たり前の事じゃね?」


「そうよね? その町ごと潰されないだけありがたいと思ってもらわなきゃ」


「父さんなら町ごと潰すな」


「お爺様なら国ごと?」


「爺さんならありえるな……」


「なにそれこわい。え? 私がおかしいの? え? あれ?」




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