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その106

「ラルフさんナナシさんこんにちわー……。うう……」


「会っていきなり涙目に!? どうしたシラユキちゃん?」


「ちょっ、ラルフがなんかしたの!? 新婚だし見逃してメイドさん!!」


 うん、いつもの二人だね。私もちゃんとしなきゃ……






 二人の顔を見たら涙が出て来てしまった。自分でもそうなるだろうなとは思っていたのだが……


「ええと、まずは何から聞けばいいかな……」


「ああ、ルードから聞いたのか。最後まで黙ってりゃよかったのに」


 む、やっぱり私には何も言わずに行っちゃうつもりだったのか。


「カルルミラに行っちゃうっていうのは聞きました。その……、いつ、なんですか?」


 兄様はあれ以上何も教えてはくれなかった、知りたいなら自分で直接聞きに行けと。口止めされてたのかもしれないね。


「いつって言うのは決まってないよ。でも、そう遠くもないかな、エディがEランクに上がったら、と思ってる」


 エディさんがEランクになったら?

 そういえば今日はエディさんが見当たらない。わ、忘れてた訳じゃないのよ? ラルフさんとナナシさんのこと以外考える余裕が無かっただけで……。ごめんなさいエディさん。


「多分年内には、かな。ごめんねシラユキちゃん、あたしら薄情だよね……」


 年内……? 早い、早過ぎるよ……


 二人の口から直接聞かされたことで、一気に別れの現実感が増してしまった。ボロボロと涙が零れ落ちる。


「う……、泣かないでくれよ。俺たちだってつら、あー、スマン……」


「うん、それは勝手に行く側が言っていい言葉じゃないね。何て言ったらいいんだろ……」


「何も仰らなくても結構ですよ、姫様もちゃんと理解していらっしゃいます。ただ、まだ気持ちの整理がつかないのでしょう」


 うん、ラルフさんたちは幸せなんだ。

 私たちという友達と離れる事にはなるが、自分の生まれ育った町で可愛らしい奥さんと生きていけるんだからね。本当は笑っておめでとうって言わないといけないのに……


「お願いします。別れのその日まで、何も変わらずそのままの態度で接して差し上げてください。冒険者に別れは付き物、笑って別れ、当てもない再会を誓うものでしょう?」


「当てもないって……。まあ、いいか」


「メイドさ、バレンシアさんも元冒険者だっけ。でもさ、シラユキちゃんには辛いと思うよこれは……」


「姫様には変に気を使われる事の方がよほど辛いですよ。お二人はもう行くと決めたのでしょう? それとも取り止めてこの町で暮らしていきますか?」


 私が泣いちゃってるせいか、シアさんの言葉が少し冷たい。二人を責めている様にも聞こえてしまう。


「いや、それは……」


「シアさん、もういいよ。大丈夫、今は悲しいけど、笑って見送れる様になれるよ、きっと」


 無理だと思うけど。


「申し訳ありません。さ、湿った話はここまでにしてしまいましょうか。まあ、続く話も全く関係が無いという訳ではありませんが」


 うーん、駄目だ。心の整理なんて簡単にできないよ……

 ここはシアさんの言うとおり別の話をしよう。全く関係の無い話ではないみたいだけど。




「ラルフさんは実家を飛び出して冒険者になったのですよね? 宿を継げと言う両親の反対から逃げてこの町へやって来たのでしたね」



 え? ラルフさんの実家は宿屋!? 宿屋ってこの世界じゃ一番のって言ってもいい程重要な施設だよ。

 ちゃんとした家柄と言うか、町や国からの許可がそう簡単には降りず、それなり以上の信頼を得ないと開業することはできない。町の看板とも言える施設だ。


 一般のお客というものは少ない、主なお客は冒険者。冒険者は家を持つことがまず無いからね、宿の確保は最重要の問題だろう。

 各ギルドにも専用の部屋が用意されているが、大抵は一部屋に十人くらい押し込まれる事になる。駆け出しや金欠の冒険者はたまに利用しているらしいけど、それらしい人は全く見たことは無いね。

 プライバシーも何もあった物ではないし、やっぱり夜は安心してベッドで眠りたいのは誰だって同じ事だろうと思う。



「よく調べてあるなあ……。ナナシの体の事も知ってたんだろ? どこ情報だよそれ」


「メイド情報です」


「なるほど」


 ラルフさんも慣れたね……


 涙も大分落ち着いた。ラルフさんの実家への興味が強くなってきたからだろうか?

 シアさんは全然興味無さげだし、私を泣き止ませるために聞いてくれたのかもしれない。


「宿屋を継ぐんですか? ラルフさんの家族、両親も怒ってるんじゃないんですか?」


 家族の反対を押し切って、家出をしてまで冒険者になったのに、いきなり帰って来て、おかえりって迎えられるものなのかな? しかもお嫁さんまでいるし。いや、お嫁さんがいることによって怒りが軽減されるのかもしれない。


「家を飛び出したって言っても手紙のやり取りはしてたからな、早く帰って来いって内容ばっかだったが。結婚したぞって手紙送ったら連れて来いって返事が来てさ、一緒に宿をやればいいだろう? ってさ。そんで、継ぐ継がないは抜きにしても一度顔を出しに行こうって事になったんだよ。ま、継ぐ事になるだろうと思うけどな」


 うん。大事な、大切な人が出来ちゃうと人は変われるもの。姉様も言っていたね。

 冒険者なんて、言い方は悪いけど、いつ死んでもおかしく無い職業なんてやめて、お嫁さんと宿を継いだ方がいいに決まってる。


 前にミランさんとお話した、冒険者の引退理由。結婚と就職かな? 丁度どちらも当てはまる感じだね。


「あたし、家族なんて呼べるのは師匠だけだったし、その師匠ももう死んじゃってるからね。やっぱ家族は大切にしなきゃ。ごめんねシラユキちゃん、あたしの我侭なんだ、これは」


 我侭? どこが?


「ううん、全然我侭なんかじゃないですよ。本当に、大切な事だと思いますから」


 ナナシさんは十五歳の時にその親代わりの冒険者の人に引き取られたんだっけ。その人はもう死んじゃってるんだね……


 うん? そうなると……


「ナナシさんナナシさん、ラルフさんと、さらにその両親兄弟まで新しい家族に? わ、わわわ! おめでとう!!」


「あ、あれ? 意外なところで笑顔が戻ったよ? ま、いいか。ありがとねシラユキちゃん」


 これは止めれないよ! ホントはちょっと止めちゃおうかな、なんて思ってたんだけど……。ナナシさんに新しい家族ができるんだ!! うわあ、自分の事じゃないのに嬉しいよ!!!


「新しい家族と言えば、子供はすぐに作られるのですか?」


「何て事聞くの!?」


「はは、調子が戻ったみたいだな。ま、向こうに着いてからだな、考えると燃えるな……」


「うんうん。燃えるわ……」


「やめて!!!」


 くう……!! 私の調子が戻った途端にこれだよ!! シアさんは本当はこれを聞きたかったんじゃないのか!?


「今でも毎日毎晩燃え上がってるんだけどね? それとは別だよね。子作りって考えると……、あ、やばい、興奮してきた……。ねえ、宿に帰っていい?」


 こここここ子作り!!! 毎日毎晩!?

 え? 宿に戻って? え? こ、こんな明るい内から何する気!? な、何ってそれは、はうううう……


「おいおい……、さすがに言い過ぎだぞナナシ。シラユキちゃん真っ赤になっちまったじゃねえか」


「あははは、ごめんごめん。ふふふふ、子供の名前考えて貰っちゃおうか、ラルフ」


 名前? ああ、二人の子供の……


「お? いいなそれ。なあ、シラユキちゃ」


「それだ!!! シアさんそれだよ!!」


 名前! 名前だ!!


「さすがは姫様、あ、いえ、ナナシさんのお考えでしたね。私も素敵な事だと思いますよ」


 シアさんもいい笑顔で賛同してくれる。

 これだ、これだよ。この手があったよ!!


「な、何だ? 何の話だ?」


「え? あたし? なんか変なこと言った?」


 二人とも不思議そうな顔だ。ふふふ、分かんないよねー。


 ナナシさんは変な事毎回言ってるよ!! でも今日はそうじゃなくてね?


「ふふふふふ、ありがとうナナシさん! 大好き!!」


「告白された!? 今のは胸にズドンと来たわ……。ラルフ、残念だけど別れようか! あはは」


「ぅおおい!! いきなり新婚の嫁さん取らないでくれよ!! はっ、はははは!」


 あはは、それでもいいかもね!!




 決まったよ、結婚のお祝いはこれだ。二人の子供の名前を私たちから贈ろう!!


 ふふふ、最高のプレゼントになると思わない?




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