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105/338

その105

「あー、あの二人なら何だ、何がいいんだ……、武器か? 食いモンか? いや、食ベ物は無いか……」


 珍しく、本当に珍しく兄様が悩んでいる。


「でも、あの二人の武器はお兄様の贈り物でしょう? あれ以上の物って早々無いと思うんだけど」


 武器を贈った? 何か物騒なお話だね……


「悩むよな、こういうのってさ。シラユキは何がいいと思う? お前が選んだ物なら誰だって喜んでくれる筈だしな」


 自分で考える事をあっさりと放棄し、私の意見を参考にしようとするズルい兄様。


「話からすると、ラルフさんとナナシさんの結婚のお祝い? 主語を抜かれても分かんないよ」


「分かってるじゃねえか」


「分かってるじゃない」


「分かってるけどさ、そういう意味じゃないよ!」


 まあ、いいけどね、兄妹で通じ合ってる感じがしていいだろう。






 おやつの時間に兄様と姉様が乱入して来て悩み始めたと思ったら……、確かに結婚のお祝いに何か贈るのもいいね。

 ふむ、あの二人のさらに喜ぶ顔が見れるわけか。ふむふむ? なにそれ素晴らしい……


 リミットは次の秋祭り。まだ春前だし、考える時間は多くはあるが、考えた後実際にその贈り物を用意する時間も必要だ。

 前世はインターネットで注文して、その翌日には商品が家に届く事が当たり前の時代だったのだが、こちらではそう簡単にはいかない。

 王族からの注文という事で必死になるとは思うが、そこはやっぱり人の力、遠い町からの取り寄せなどは月単位で掛かるかもしれない。

 そうなると、早ければ早い方がいいね。


 その前に何を送るかをまず決めなければいけないのだけれども……

 冒険者は何かと物入り。お金はまるで羽が生えているかの様に飛んでいってしまう筈だ。ここは普段我慢して買えないような物でも贈るのがいいかな?


「プレゼントっていうのは相手の立場になって考えてみるといいと思うよ。シアさんの欲しい物がさっぱり分からなかった私じゃ、ラルフさんたちの欲しい物なんて考え付かないと思うけどね」


 そういえば結局お礼は頬にキスしただけだったね。それもメイドさんズ三人と、さらに家族全員に……。うん、思い出さないようにしよう。

 毎日一緒に生活しているシアさんの欲しそうな物が殆ど思いつかなかった私には、ちょっと難しい相談かもしれないね。


「私は姫様が欲しいです」


「私!?」


「はいはいシア、話の邪魔しないの」


「失礼しました。どうぞご相談をお続けください」


 いつものようにメアさんに注意されて下がっていくシアさん。


 え? 何? 私自身が欲しい!? 何それ怖いんですけど!!


「あの二人の欲しい物、か……。何だ? ユーネ、何か思いつく事無いか?」


 またあっさりと考えを放棄する兄様。

 親友の欲しい物くらい簡単に思いついてよ、もう!


「二人一緒じゃなくて、別々に二つの物でもいいんじゃない? お兄様はラルフのを、私がナナシのを考えるのはどうかしら?」


 さすが姉様いい提案だね。でもね?


「できたらさ、私たちみんなで何か大きな物にしない? みんなで考えようよ。私だって二人のこと大切なお友達だと思ってるんだよ? 結婚なんて凄く大切なイベントだし、何か凄い物贈ろうよ!」


 二人には幸せになってもらいたい。別れる可能性もゼロでは無いが、今そんな事を考えてもしょうがない。


 お祝いだ。盛大にお祝いするんだ!!



「そうだな……、ついいつもと同じ様に考えるところだった。結婚、結婚したんだよなあいつら……」


「ええ……。本当に人間の時の流れって早いわよね。まだ出合ってたった五、六年程度よ? それからまたほんの数年で、今度は子供が出来ちゃったりするのかしら……」


 あ、あれ?

 私の思ってたのとは全然違う反応が返ってきてしまった。なんでそこでしんみりしちゃうのよ?


「る、ルー兄様、ユー姉様? どうしちゃったの? 私また何か変な事言っちゃった?」


「あはは、違うの違うの。ちょっと感慨深いと言うか、ふふふ」


「人間も猫族の獣人も寿命は八十年くらいなんだよな。俺たちからは想像もつかないが、うーん、何て言ったらいいか……」


「それは向こうから見たらこっちもそう見えると思うよ? 何百年何千年も生きるなんてきっと想像もできないと思う。私も初めはそうだったもん」


 初めは、ね。今はもうエルフとしての考えが当たり前になって来てるんだけど。


「自分たちでは当たり前の事だからね。私みたいなのならともかく、みんなには分かり様が無いと思うな」


「お話に口を挟む事をお許しください。ラルフさん夫妻への贈り物の相談だったのでは?」


「ん、ありがとな、バレンシア」


 おっとと、話が変方向へ流れて行っちゃうところだったよ。


 今のはシアさんにしては強引な話の戻し方だったね。兄様もお礼を言ってたし、もしかして私には聞かせちゃいけない話になりそうだった? あ、危ないなあ……




「あー、話を戻すぞ。とりあえずはシラユキの案を取り入れよう。問題は次だ、結局何を贈ればいいと思う?」


 うん、結局何も話は進んでないね。

 しかし兄様はもっと自分でも考えようよ、考えてよ……


「漠然と凄い物って言ってもね……。うーん……、難しいわねえ……」


 結婚のお祝いって何があっただろう? うん? 何が、あった? ……そうだ!!


 前世の記憶を呼び起こせー! 思い出すんだ私!! ん? 結婚とか全く関係の無い生活だったねそういえば……

 だ、駄目だ! 前世の記憶が引き出せたとしても多分当てにはならない!



「い、色々言っていくよ! 何かあるよきっと!」


「あら? シラユキがやる気だしてるわ。面白そうね、聞かせて?」


「とりあえず結婚は抜きにしてお祝いの品だね。簡単なところだと花束とか」


「花は枯れたら終わりだからなあ……」


「家具とか、食器のセットは?」


「宿にそんなの置けないわよ……。でも、ただの結婚祝いとしてはいいかもね」


「服!」


「冒険者の服なんて使い捨てよ? あまりいい服を贈っても着る機会が無いと思うし……」


「食べ物はー」


「それも食べたら終わりだな。できたら形に残る物がいいよな」


「くっ! 冒険者なら武器と防具は?」


「二人の武器はもう俺がいいのやっちまったからな……。防具もお前がランクアップ祝いにミスリルの贈ったろ。ああ、あれってすげえ高かったんだよな」


「値段は怖いから聞かない!! もうどうせなら家でも買ってあげちゃう? 結婚と言えば新生活、新居だよ! ……多分」


「家!? た、確かにそれもありと言えばあり?」


「ねえよ……。町に家を勝手に建てる訳にはなあ……、出来んことは無いが……。そもそもあいつらどうせ他の町に、しまった……」


 兄様は、つい言ってしまった、という感じで自分の口に手を当てる。



「ルー兄様、今の、どういう意味?」


 どうせ他の町に? ……リーフサイドから出て他の町に行くっていう事!?


「まあ、うん、言葉通りの意味だな。シラユキに話すつもりはまだ無かったんだが、油断したな……」


「もしかして、ラルフの生家へ? へー、帰る気になったんだ。やっぱり大事な人が出来ると人って変われるものなのね」


 うん? 姉様も知らなかったのか。今の口ぶりからすると、悪い話じゃないみたいだね。

 でも、私に話すつもりはまだ無かったっていうのが気になる所ではある。あ、まだ、ならそのうち話してもらえたのか?


「詳しく聞いちゃ駄目かな?」


「さすがにこれは本人に聞いてくれな。俺たちが言えるのは、ラルフの奴はちょっと訳ありで家出して来てる感じだったんだよ。ナナシとの結婚を機に帰るか、って話になってな」


 私の頭をポンポンと優しく叩きながら話してくれる兄様。


 ら、ラルフさんは家出少年だったのか……。少年? 昔は家出少年か? 十五歳で冒険者になったんだったよね確か。

 何となく分からない事も無いね、冒険者になる事を家族に反対されてたんじゃないかな。


「おめでたい事なのかな? 二度と会えないって訳じゃないんだよね、よかった……」


「シラユキ……」


 私の言葉に手を止め、表情を曇らせる兄様。

 何、その表情……?


 ねえ、そうだって言ってよ。いつでも会いに行けるんだぞって、そう言ってよ……

 今までみたいに、とはいかないかもしれないけど、半年に一回、せめて年に一回くらいは会えるんだよね……?


「あ、あのな、シラユキ……」


「そ、そうだ! お祝い何にする? それを考え、なきゃ……」


 嘘……、だよね……?






「聞きたくない……」


「ううう、どうしようお兄様……」


「あー、シラユキ、黙ってたのは悪かったがな、その……」


 分かってるよ……。私にこんな話、簡単にはできないよね。兄様も悩んだんだろう、きっと。


「会えるの? それとも、もう会えなくなっちゃうの?」


「今までみたいに簡単には会えなくなるのは確かだな。でも、二度と会えないって訳じゃないさ」


「そうよ。お互いが会おうと思えば……」


「月に一回? それとも年に一回? そうだ、どこの町なの?」


 他の町、隣町のカルルエラに行くだけでも何日も掛かるのに、一体どこの町へ行ってしまうの?


「聞いてよシラユキ……。ミラよ、カルルミラ。一応国内だから大丈」


「カルルミラ!? 遠いよ! 遠過ぎるよ!!」


「し、シラユキ、落ち着いて……」


「会えないよ!! 会いに行けないよ!!! どうしっ、!? ごめんなさい!!」


「ええ!? ちょ、シラユキ?」


「どうしたんだよシラユキ、何でお前が謝るんだよ……」


 私、また自分の事しか考えてなかった……


 兄様だって、姉様だって……、悲しいに決まってるじゃない!!!


「ごめんなさい! 我侭言ってごめんなさい!! 私だけが寂しい訳じゃないのに……、私だけが、会えなくなる事が悲しい訳じゃないのに!」


「わ! ちょ、ちょっと予想外すぎるわこれは……」


「ここで俺たちに気を使うかコイツは……。もっと我侭言ってくれりゃいいんだけどなあ……」


 言えないよ……、今回ばかりは絶対に言えないよ……!




「俺たちも悲しくないって言えば嘘になるが、シラユキ程じゃないからな。会おうと思えば会いに行けるんだ」


「でも、シラユキは無理よ。ごめんね? ホントにごめんね……」


「私は付いて行っちゃ駄目なんだよね……。ルー兄様が会いに行けるなら、いいかな、うん……」


「泣きながら言っても説得力無いぞ……。でもこれは泣くな、なんて言えないよなあ」


 うう、これでも泣くの我慢してるんだよ!!

 さっきから零れてくる涙を袖で拭っている。拭ったところで止まる訳でもないんだけど……


「どうする? まずは泣いちゃう? 無理しないでシラユキ……」


 姉様が私を優しく抱き締めて撫でてくれる。


 うん、泣いちゃうか……!!



「うああああ……、やだよ、寂しいよ……。行っちゃやだよう……、ううう……」


 二人にこんな事を言ってもどうにもならないのは分かってる。でもね、結婚して、子供が出来て、幸せになる二人を見たかったよ……






「お兄様」


「駄目だぞユーネ。俺も考えたが、それは駄目だ」


「ふえ……? あにを? っすん」


「ちょっと落ち着いたかな? ううん、気にしないでいいのよ」


「では私が……」


「まったく、バレンシアも何を言って……、おい目が本気だぞ!?」


「ちょっとシア! 駄目よ!! ああ、でもやっちゃってもいいかな! 行きなさい!!」


「オイやめろ馬鹿! 誰か父さん呼んで来い! 俺じゃ本気のバレンシアは止めれん!」


「ああ、冗談ですよ……、ご安心ください……」




 何? 何がなんなの!? 涙が引っ込んじゃったよ!!

 え? あ! まさかシアさんこれが狙い? 話の意味は分からなかったけどさ……


 でも、なんか、顔が笑ってないんだよね……







十二歳以上編最後のお話に入ります。

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