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その100

「んー……、にゅ?」


 目が覚めた。よく寝たわー


 よく寝た? 何かよく寝た気がするね。涼しい季節のお休みの日に、ついついお昼まで寝てしまった感じに近いか。私は毎日お休みみたいなものだけど……

 このまま目を瞑ればまだまだ気持ちよく眠れそうな気さえもする。寝てしまうか? 二度寝の心地よさは異常。


 でも起きよう、どうせすぐにシアさんが起こしに……、ん?


「シアさん?」


 ベッドの横で、シアさんが椅子に座って眠っていた。何故に? 寝顔も美人さんだなあ、とまじまじと見て思ってしまう。


 シアさんは、私の声に反応して目が覚めたのかゆっくりと目を開き、こちらを確認し、私と目が合う。

 そして驚いた様に目を開き……、睨むように目を細めた。


 お、お、怒ってるーー!!?






「おはようございます姫様。まあ、今は時間的にお昼過ぎなのですが……。ご気分は如何ですか? どこか体に異常は感じませんか? ああ、黙っていたら脱がせて確認しますよ?」


「な、無いよ!? え? な、何? あ、おはよう?」


 怒ってる、これは怒ってるね……。な、なんでだろう……


 無いとは言ったがとりあえず確認だけはしよう。体を起こして少し上半身を動かしてみる。手を腕を回し、腰も捻ってみる。

 うん、特に異常は無いね、眠気もすっきり、寝過ぎでだるいという事も無い。万全の体調と言ってもいい感じだね。



 シアさんは無言でドアの方へ歩き、外へ向かってノックをする。


「フラン、起きてますか? 姫様がお目覚めになられました。すぐに皆様へ」


「起きた!?」


 勢いよくドアが内側へ開かれる、が、シアさんはヒラリと回避。予想していたようだ。


「シラユキ!! 起きてる!!!」


「まずは皆様にお知ら、私が行きます。姫様のお側を絶対に、絶対に離れてはいけませんよ。姫様、ベッドから出ない様お願いしますね。それでは、少しの間失礼します、すぐに戻りますので……」


「う、うん」


「ごめん。急いでね、レン」


 フランさんと入れ替わるように、シアさんはお辞儀を一つ、部屋の外へ出て行ってしまった。



「ああもう! よかったー!! 心配掛けてー! もう!!」


 半泣きで私に抱きついてくるフランさん。


「わ、っとと……。ど、どうしたのフランさん? 何かあったの?」


 心配? 私が何か心配を掛けるような事をしちゃったのか?

 んー? 何かしたっけ私……


「覚えてないんだ……、叱り難いなあ……。シラユキ丸三日寝たままだったんだよ? 寝たままと言うかさ、意識が無いって言うのかな? もう、私たち心配どころじゃ無かったんだからね! 今回は私も本気で怒ってるのよ!」


 私から体を離し、目じりの涙を指で拭いながら説明をしてくれ、る?


「三日!? 何で!? えええ!?」


 三日間寝たまま!? 寝過ぎでしょう私!! 寝過ごしたっていうレベルじゃないよ!!


「ホントに覚えてないんだこの子……。三日前のお昼過ぎにさ、ぐったりしてるシラユキをレンが連れ帰ってきたのよ。顔色も真っ青で、言い方は悪いけど死んでるんじゃないかって状態で……。ホントに、起きて、よかったあ……」


 そのときの私の状態を思い出し、さらに安心したのか、フランさんは泣き出してしまった。


「な、泣かないでフランさん……。三日前何があったの?」


「く、詳しい事情は私も聞いてないのよ、魔力を使い切ったって聞いただけ。どんな無茶したのよこの子はもう……」


 また私を、今度は強めに抱き締めて、撫でてくれる。



 どうやら魔力を使いすぎて、体が強制的に意識を落としちゃったみたいだね。ブレーカーが落ちた感じかな?

 でも、そんな強力な魔法を使った覚えが……。三日前って何してたっけ……? うーん……?



「シラユキ!!」


 わ!? 母様?

 母様がノックもなしに部屋に飛び込んで来た。ビックリしたよ……

 フランさんが私から離れ、間をおかずに今度は母様に抱き締められる。母様も泣いちゃってるね。

 うう……、何をしちゃったか思い出せないけど、悪い事をしてしまった気分だ。


「シラユキ、ああ、起きてるな、よかった」


 父様が、


「シラユキ! ああ……、よかった、よかったあ……」


 姉様も泣きながら、


「この馬鹿、心配掛けやがって……」


 兄様も半泣きで、次々と部屋に入って来た。

 最後にメアさんとシアさん。メアさんは大泣きしていて言葉も出ないようだ。


 なんという罪悪感だ!!!




 さすがに全員は部屋には入れないので、私お付きの三人以外のメイドさんたちは廊下で待機することになった。

 今はベッドの周りを家族みんなに囲まれている、母様は私を抱き締めたままだ。ちょっと、いや、かなり嬉しかったりする。


「大丈夫? 痛いところは無い? お腹は空いてる? 食べれるかしら? カイナ、何か軽いもの用意してあげて」


「はい! すぐに用意して参ります!」


 私を抱き締め、撫でながらカイナさんに指示を出す母様。廊下からカイナさんの返事が涙声で聞こえた。


「お腹は……、空いてるかな? よく分かんないや。体は全然大丈夫だよ、母様」


「ああ……、もっと声を聞かせて……。三日、三日もあなたの声を聞けなかったのよ……、もう気が狂ってしまいそうだったわ……」


「母様……、ごめんなさい……」


「いいの、いいのよ……。目を覚ましてくれただけで私は……」


 母様の涙は止まらない。私も泣き出してしまいそうだ。


「お母様……、ごめんなさい、代わって。私も……」


 母様が私から離れて、今度は姉様に抱き締められる。

 泣いたままの母様は父様の側へ、父様に肩を抱かれる。


「う、ちょっと苦しいよユー姉様……」


 抱き締める力が強い! 苦しい!


「私は怒ってるの!! もう……、目覚めないままだったらどうしようかと……」


「ううう、ユー姉様、ルー兄様、父様、母様……、それにメイドさんみんな、ごめんなさい……」


 自分が何をしてしまったのかが全く分からないが、家族全員に相当な心配を掛けてしまったみたいだね。


「ふむ、まあ、なんだ、目覚めてよかった。言いたい事は山ほどあったんだがな、シラユキの顔を見たら飛んでしまったな……」


 父様はとても優しそうな笑顔で私の頭を撫でてくれた。






 みんなの涙も落ち着き、私は今、椅子に座る母様に膝抱きにされている。母様からは、撫で、頬擦り、キスの嵐を受けている。唇はやめて!!


「いくら友達の事だからって、もうちょっと考えてから行動しろよ? 毎度毎度心配させられる俺たちの身にもなれってんだ……」


 兄様はまだまだ怒ってるかな? うん? 友達の事? 何だろう? それに毎度毎度って、そんなに毎回心配なんて……、あ、掛けてるのか私は……


「あのー……、私って、何しちゃったの? 全然思い出せないんだけど……」


「お、覚えてないの!? 自分のやった事くらい覚えてなさい、叱れないじゃない……」


 呆れる姉様。

 このまま思い出さなければ叱られないんじゃ、と少し考えてしまった。


「俺たちもバレンシアから聞いただけなんだ、説明されてもよく分からないんだよな」


「お兄様のお友達、あ、ラルフの奥さんになったんだっけ。ナナシに何かしたんでしょう?」


 ナナシさんに何か……、あああああ!!!


「し、シアさん!! ど、どうなったの!? ナナシさんの体、治ったの!?」


 そうだそうだそうだった!! ナナシさんの体を能力全開で治そうとしたんだったよ!!

 え? あ! それで魔力が尽きたのか! いやー、初めて使う魔法だっただけに加減ができなかったみたいだね。失敗失敗。


「分かりません。それどころではありませんでしたから」


 そっけない! 怒ってるなあ……


「母様、何かお手紙とか来てない?」


「ううん、何も連絡は来て無いわ。冒険者個人からの手紙が私に直接届くなんて事は、まず無いからね。それより、治った? 何を、ううん、どこを治そうとしたの?」


 返事、質問をしながらも、私を撫でる手は止めない母様。


「ナナシさんの、その、どこだろ? 体全部かな。どこが原因で、あー、その」


「そこは言わなくてもいいわ。なるほどね、体の中のどこかに異常があると思ったのね。あなたの能力の応用の効く範囲を甘く見ていたかしら……」


「あー。何の話だ? ナナシが怪我でもしてたのか? 体の中?」


 姉様も、兄様もナナシさんの体のことは知らなかったみたいだね。これは伏せたままにしておこう、まだ治ったかどうか分からない、余計な心配を掛けてしまうだけだろう。あまり人に気軽に話せるような内容じゃ無いしね。



「姫様がナナシさんに抱きつき、能力を発動させてすぐでした、多分一秒ほどの時間だったのではないかと。ナナシさんに触れていた箇所が僅かに発光していましたね。そのまま姫様は糸が切れた人形の様に意識を失い、お倒れになってしまったのです。私はすぐに姫様を抱き上げ戻って参りましたので、あの後ナナシさんがどうなったかなど分かりませんし、一瞬たりとも考える事もありませんでした」


「シア、もうちょっと柔らかく……」


 シアさんの淡々とした説明にメアさんが注意するが……


「何か?」


「な、何でもない……」


 メアさんにはどうすることもできなかった……



「まあ、バレンシアが怒るのも無理は無い。何故一言断らなかったのだ? 即座に癒さなければ手遅れになるという訳でもなかったのだろう?」


「あ、言われてみればそうだね……」


 あの時は……、私にもできる事があるって思いついて興奮しちゃってたからか。考え無しに行動しちゃったねまた……

 何でも一人でやろうとするなって散々言われてたのにね、反省反省。


「何だ? また無意識かよ……。何回言っても直らないなそれは、まったく……」


 兄様にも呆れられてしまった。


「うううう、シアさんごめんなさい……。ゆ、許して欲しいな?」


「いえいえ何を仰っているのか分かりませんね私が姫様に対して怒りの感情を沸かすとでもお思いなのですか悲しいですね私は何よりもまず姫様のことを第一に想っているというのに」


「区切り無しなのに聞き取りやすい!! うー、シアさん怒らないでー……」


 つーんと横を向かれてしまった。可愛い! じゃない!


「もう……、拗ねないでよう……。? 拗ねてるの?」


 私の言葉にこちらを向き直るシアさん。


「姫様、何故一言だけでも私に相談して頂けなかったのですか。いえ、これは私の我侭に過ぎませんね。ただのメイド如きが出すぎた事を申しました、申し訳ありません」


 そして深々と頭を下げてしまう。

 これは痛い!! 罪悪感で胸が締め付けられそうだ!!


「ゆ、許して!! ううう、あの時はホントに何も考えてなかったと言うか……、私にもできる事があるんだって嬉しくて……。シアさん許して、お願い……」


「王女である姫様がたかがメイド如きに許しを請うなどと……、いけませんよ?」


「許される気配が無い!! ど、どうしたら……」


 さ、さすがシアさんだ。私に一番効果があるやりかたで攻めてくるとは……、やるな!!



「それくらいにしてあげなよシア。姫、シアって三日間殆ど寝てないからさ、ちょっと機嫌悪いのよ、多分」


「メア……」



 さすがに見かねたのか、メアさんがフォローを入れに来てくれた。


 ん? 三日間殆ど寝てない!?


「ええ!? だ、駄目だよそんな!! ちゃんと寝なきゃ!!」


「心配掛けてた側のセリフじゃないよ? 睡眠不足なのは私たちも同じなのよねー。肌が荒れちゃったらシラユキに治してもらおうか」


「う、メアさんフランさんもごめんね? いつでも治すから遠慮なく言ってね」


 睡眠不足はお肌の大敵! 私の能力で肌荒れまで治せるのかは分からないが、こんな美人メイドさんたちのお肌を荒らすわけには絶対にいかない!


「まずはそういった実験が必要だったのですよ。能力の強弱の加減も分からないまま体全体を癒そうなどと……。もしそれでナナシさんに何かあったとしたら、姫様は決して癒える事の無い傷を背負うかもしれなかったのですよ? ああ、ご心配なく、ナナシさんには特に異常は見られませんでした。今どうなっているかまでは分かりませんが、恐らくマイナスになっている様な事はないでしょう。姫様の思う通りの結果が出ているか、体の表面、目に見える傷だけを癒したのか、それとも全く別の効能が出てしまっているのか……。ふむ、少し楽しみですね」


 よ、よかった。ナナシさんは何ともなかったみたいだね。

 シアさんもいつもの話し方に戻ったし、機嫌直してくれたかな?



「確認に行きたいか? でも駄目だぞ、数日は様子見だ。これは誰が何と言おうとも許さん。ギルドに軽く調査する様言っておく事にしよう。分かったな、シラユキ」


 本当は今すぐにでも確認に行きたいのだけれど、来週までは我慢しよう。ラルフさんたちはお仕事に出て行っちゃってると思うしどうせ会えないだろう。呼び出すのも駄目だよね。


「う、うん! ありがとう父様、みんな。それと……、あの、心配掛けちゃって、ごめんなさい。次からはちゃんと相談するようにするね」


「それ毎回言ってるよな。まあ、許してやるか。カイナはまだか? シラユキ、腹減っただろ」


「私はまだ許してあげないからね! また暫くの間、私の側から離れないようにするのよ? それで許してあげちゃおうかな」


 兄様は頭をグリグリと、姉様からは頬をグニグニとされてしまう。


 何か、あっさり許されてしまいそうだねこれは。兄様も姉様もやっぱり激甘だなあ……


「駄目よ、ユーネ、まずは私ね。公務なんてどうでもいいわ、三日分のシラユキ分を取り戻さなきゃいけないの」


 シラユキ分ってどんな成分!? 母様に全力で甘えられるチャンスだ、黙っておこう。


「えー、ずるいわお母様。あ、二人でも良いわよね、そうしましょう、お母様」


「ええ、そうね。ふふふ。ごめんなさいね、貴女たちも心配していたのは同じなのに。でも、お願い、優先させてもらえるかしら」


 メイドさんズにお願いする母様。

 ここで命令しないのは素敵だよねー。まあ、どっちにしても女王様だし、メイドさんズに断れるわけもないんだけど。


「私たち三人は常にお側に立たせて頂いています、エネフェア様が断りを入れる必要など何もありませんよ。姫様もエネフェア様に甘えられると嬉しく思われていますし」


「言い切られた!! 合ってるのが凄いよねホントに……」


「私たちの方がレンより二年長い付き合いなのにねー。でも、今のは分かり易かったかな」


「うんうん。エネフェア様に甘えられるぞっていうあの笑顔を見れば誰だって分かるよ」


 母様に甘えられるのは嬉しいんだからしょうがないじゃない!! そんなにニコニコしてたのか私は……






「カイナ遅いね……、エネフェア様、私ちょっと行って見てきますね」


「ええ。お願いね、フラン」


「では私は紅茶の用意を……。姫様には私特製の薬草茶を淹れて差し上げますね。覚悟してください」


「飲むのに覚悟が必要なお茶なの!? シアさんまだ怒ってるー!!」


「いえいえそんなとんでもない100%の善意からの行動ですよ何を仰られているのか理解不能です少々苦味が強いだけですよご安心くださいね」


「よくそんな流暢にスラスラ言葉が出てくるもんだな、バレンシアは。真似したら舌噛みそうだ……」


「に、苦いのはイヤー!!!」


「苦いのはイヤとか、いやらしい子ね……」


「ユー姉様!?」


「大丈夫よ、その苦味もすぐに癖に……」


「フラン! ユーネ様も今日くらいはそういうのやめようよ……」




「楽しそうだな……。まるで本当の兄弟姉妹を見ているようだな」


「バレンシアが一番上の姉の様よね。本当にいい拾い物をしたわ」


「物扱い!? 母様ひどーい!!!」


「ふふふ、可愛い……」






 その後起こったことを簡単に。

 カイナさんは一から何かを作ろうとしていたみたいで、シチューを煮込んでいた。それは時間掛かるよ……

 フランさんが消化に良さそうな物を、そのシチューを使ってさっと作って来てくれたのが凄かったね。美味しかった。シチューにパンを浸したような料理? 名前は無いらしい。

 母様と姉様が競うように食べさせてくるのが嬉しかったけど、とても疲れた。


 私の食後のお茶はとても苦い薬草茶だった、温かい青汁か? 暫く飲まされ続けるらしい。泣きたい。

 他のみんなはシアさんが淹れた紅茶を飲みながらおやつタイム。私の部屋でね、目の前でね。妬ましい、妬ましいわ!


 また少し眠り、その後の夕飯もお風呂も、母様と姉様の激しい戦いが繰り広げられた。つ、疲れる……


 

 数日はこんな毎日が続くと思う。でも、嬉しいね。

 心配を掛けておきながらひどい考えだと思うけど、嬉しいんだからしょうがない。


 ちゃんと悪かったと思って反省もしてるよ?






 その日の夜中目が覚めて、トイレに行こうと魔法で明かりを点けようとしたら……


 魔法が使えなくなっていることに気がついた。





ついに100話です!


だからと言ってなにかある訳でも無いんですけどね……

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