その10
「皆! 今日はよく集まってくれた!! 昨日、我が愛する娘、シラユキが……」
凄い! 父様凄いわ! 誰一人話聞いて無いわ!!
今日はお祭りだ。私が魔法について何かを掴んだ記念のお祭り、だ…….
なんだかなぁ、もう。みんな過保護でさらに過剰反応すぎるよ。まあ、嬉しいんだけどさ。月に一回は私のせいでお祭りしてる気がするよ……。
きっと、派手にやるじゃねえか! これから毎日お祭りをしようぜ? 的な感じでまだまだ開催されると思う。
広場に集まった森の暇な人たちは、まだ演説を続ける父様を完全に、最初っから無視し、料理を食べお酒を飲み、楽しんで騒いでいる。
ふむ、みんな楽しそうだし、いっか。
「シラユキー、食べてるかー?」
お酒の瓶を片手に兄様がやって来た。もう既に出来上がっているようだ。足取りはしっかりしてるので特に不安には思わない。
「あ、こら! お酒飲んでる時はシラユキに近づかないでっていつも言ってるでしょ? まったくもう、お兄様は……」
「ユーネも飲めばいいじゃないか。シラユキもどうだ? 飲んでみるか?」
「うーん、お酒かー……」
お酒は前世でも飲んだ事ないなー、ちょっと興味あるね。
「駄目よ! 駄目!! お酒は十歳になってから!!!」
私を抱き上げ、庇う様に兄様の視界から隠す姉様。
そう、人間とエルフはお酒は十歳から飲んでいいのだ。人間の二十歳はエルフだと百歳なのでてっきり成人年齢の百からだと思っていたのだが、意外すぎる。前の世界の知識のせいでそう思い込んでしまっていた。ちなみにこの世界の人間種族の成人は十六歳だ、こちらも驚き。若い。
「はは、無理には飲ませないさ、ユーネは真面目だな。そこも好きなんだが」
「もう……」
はいそこ見つめ合わない。
二人の世界に入ってしまった兄様たちは放っておこう。他に誰か話せる人はいないかな?
父様は未だ演説中。お酒飲みながらだし、まだまだ、もしかしたらお開きになるまで続けるかもしれない。内容が全部私についてっていうのがまた凄い。もうこの気恥ずかしさにも慣れてきちゃったよ。
母様は奥様方に囲まれてるね、さすが子宝の神? なにやら危険な会話をしていそうなので近付かないようにしよう。
あれ? 一人で話しに行ける人、誰もいなくね? め、メイドさんズは……、あ、駄目だ、三人とも微妙な距離を保っている。私だけのときはあまり、と言うかまったく気にして無いのに、家族が近くにいると控え目になっちゃうのよね……。
フランさんと目が合った。私たちのことは気にしないで、兄様姉様に甘えなさい、と目で訴えてくる。無茶言うな! 言ってないけど。
仕方ない、二人がラブラブ状態を解くまで料理をパクついていよう。でもすーぐお腹いっぱいになるのよねー。子供だからしょうがないか。
うーん、人は周りにいっぱいいるのにさ、なんか寂しいな。もっと気軽に、積極的に話しに行かないと駄目だよね。
や、やってみる? 他の人に一人で話しかけてみる? 昨日、明日から本気出すって言ったよね。本気を出さないと話しにも行けない私、情けない。
よよよ、よし! やってみよう! 大丈夫、私はお姫様よ!! いじめられることなんて無いわ!
だ、誰がいるかな? 話しかけやすそうな人は……。
家族に連れられて色々な人に会ってはいる、話も少しはしている。だけど、一人で問題なく話せる人は少ないんだ。なんか恥ずかしいのよ。
だってみんな全力で子ども扱いだしさ、いや実際子供なんだけど。まるで自分の娘、孫が来たような反応をされてしまう。猫可愛がりかな?
贅沢な悩みだね、うん。でも精神的に五歳児扱いはちょっとつらいのよねー。
コーラスさんは……、来てないか。うーむ……。
変に構えないで普通に話しにいけばいい、っていうのは分かってるのよ。でもできない、このジレンマ。ぐぬぬぬ……。
「そして俺は思った!! シラユキに近付くものは全て焼き払っ、!? シラユキ!! どうした!?」
え? なあに父様? うわっ!! 視線が! みんなの視線が!!
父様は演説をしていた高台から飛び降り、一瞬で私の近くにやって来た。
はやっ! 怖いよ今の速さは!!
「何だ? どうした? 一体何があった? 誰かに何かされたのか!? 心配するな、どんな輩か知らんが、俺の愛するシラユキを害する存在は消し去ってやるからな?」
言う事も怖いよ! 消し去るって、物理的に塵一つ残さずってやつ!? 父様なら実際できちゃうのがさらに怖いよ!
それは冗談として、父様はなんで急にこっち飛んできたんだろう?
「どうしたの父様? 私、変な顔してた?」
「変な顔だと!? シラユキはどんな顔をしてても可愛いに決まっているだろう!?」
ええい、話を聞かない人だな、もう。
「別に何も無かったよな? なあ? ユーネ」
「そうよね……。確かに少し目を離しちゃってたけど、ずっと近くにいたのよ? 私たち。お父様の勘違いじゃない?」
二人の世界から帰ってきた兄様と姉様。二人も特に異変は感じていなかったみたいだ。
だよねー? 何も無いよね?
「遠目だったが間違いはない。少し、泣きそうになってただろう?」
「え? そう、なの?」
父様が頷くが、全く自覚はできない。
「え? 嘘!! ご、ごめんねシラユキ? お姉ちゃん気付かなかった……」
「マジか……。俺とした事が、すまん……」
あ、謝らないでよ。泣きそうになってたって? なんでだろう……。
「私、泣きそうだった? 自分だと分かんないんだけど」
確かにちょっと寂しかったが、あ、寂しそうにしてたからか! えー、泣きそうな顔してた? 恥ずかしいなあ。
「た、多分ね、寂しかったんじゃないかな。私、一人で他の人と話せる勇気も出せなかった、し……?」
やばい、これはやばい。三人の顔色がヤバイ!!
「し、シラユキに」
「寂しい思いを」
「させていた、だと……」
息ぴったりだな! さすが親子だよ!!
「俺は、俺はなんということを……。シラユキを愛するがあまり演説なんぞに力をいれ、そのシラユキ本人を寂しがらせてしまっていたとは……」
「私なんてもっと酷いわ! いくら愛するお兄様と二人で話していたからって、シラユキの相手をしてあげてなかったのよ!? 決して許される事ではないわ!!」
「だな……。ユーネ、こうなってしまっては仕方がない。お互い辛いが、わかれ、あ痛てっ! こら、シラユキ、蹴るなよ」
「二人の冗談はちょっと冗談にならないのよ! もう! 馬鹿! 嫌いになっちゃうから!!」
冗談でも別れるなどと言って欲しくはない。本気で怒るよ!
「うわしまった!! ごめん! もう言わないから嫌いにならないでくれ!! シラユキに嫌われたら生きて行けん!!」
「ごごごごごめんシラユキ! 怒らないで! 嫌いにならないでー!!」
謝りながら私の頭をグリグリと撫でる兄様と姉様。
「まったくもうー」
二人を嫌いになるなんて、まさに地がひっくり返ろうともないのだけれど。
「くうっ! これは死んで詫びるしかないか……。すまんなエネフェア、先に逝くよ」
「父様もそろそろやめて!!」
母様はこちらを見てにこにこしていたよ。
「んで、どうしたんだ? 本当に寂しかったのか? これだけ周りにいるってのに」
「んー。寂しかったのかな? よく分かんないや。それでね、他の人とお話しに行こうと思ったんだけどね? なんかちょっと恥ずかしくて……」
「あら可愛い、相変わらず恥ずかしがり屋なのねシラユキは。それじゃお父様」
「ん? なんだ? ユーネ」
「シラユキ抱えて全員とお話しに行ってきて」
「お? それいいな。行って来いシラユキ。父さんと一緒なら平気だろ?」
「へ?」
全員? どこの? ここの? ここの!?
「抱き抱えてないとこの子逃げちゃいそうだし、逃げないにしても、後ろに隠れちゃうでしょ? お父様よろしくね」
「なんという役得。ほーらシラユキ、行くぞー」
父様に軽々抱き上げられてしまう。そして、定位置の腕に座る。しまった、急すぎて逃げられなかった!
「え? え? ホントに行くの?」
「ああ、勿論だ。ま、精々百人ちょっとだ、すぐに終わるさ」
「たまには荒治療も必要よね。お姉ちゃんは心をオーガにして見送るわ」
オーガ!? 鬼か? 面白いなその言い回し! いやいや、オーガも人に分類される種族だよ!! 絵本で読んだけど温厚な種族らしいよ!! 失礼すぎるよ姉様!!!
「俺ちょっと行って人集めてくるわ。シラユキとの談話会とでも言えばもっと人来るだろ」
兄様なに余計なことしようとして、ああっ! 速い!! もう見えない!!
「ふふふ、楽しそうだなこれは。面白い事になってきたな。なあ? シラユキ」
「うー! ううー! やってやるわー!!」
どうせやろうとは思っていたことよ! それが相手が百人以上になっただけよ! どうしてこうなった!!
「そうそう、その意気だ。大丈夫、何も怖い事、恥ずかしい事なんて無いからな? いつも、俺たちにして見せてるように、普通に話し、素直に可愛く笑っていればいいだけの事さ」
「うん! 頑張る!!」
「ははは。頑張る事もないんだ、いつも通り、いつも通りでいいんだよ」
父様カッコいいわ素敵だわ。なんていい、素晴らしい父親なんだろう。大好きすぎる。
その後、母様、さらに後、兄様姉様も一行に加わり、暗くなるまで私の対話訓練は続いた。
すっごく疲れたけど、なんか……、そう、楽しかったよ。
2012/8/4
全体的に修正しました。