その1
人物や背景の描写は必要な時に必要な分だけ書いていきます。
基本は全くありません。
人物のセリフは実際口に出したらこうなるんじゃないかな、と思って書いています。読み難い文章になっているかもしれません。
「ほら、行くぞ。 大丈夫。そんなに緊張する事は無いさ」
私の頭をポンポンと軽く叩くように撫でながら、優しい笑顔で言う父様。
「う、うん……」
そうは言っても、大勢の前に顔を出すのって恥ずかしいのよ。父様は慣れてるから気にならないんだろうけどさ。小心者の私にはこんな大舞台、の様な物はできたら遠慮したい。
「はは、まったく、恥ずかしがりやで可愛いな。皆何度も会った事のある顔ばかりだろう? 大丈夫、出てみれば意外に何とも無いものだ。……と思う」
思う!? そこは言い切ってよ!!
ふう……。落ち着くのよ私。大丈夫! 父様も一緒なんだしね! 私一人だったら全力で回れ右してるけど。
跳ねる心臓を落ち着かせるために大きく深呼吸。……よし。
「うん、もう大丈夫。行こ、父様」
「ああ、手を繋いで行こうか」
差し出されてた手を両手でしっかりと握り、歩き出した父様について行く様に私も歩き出す。
ふふ、私の狭い歩幅を考えてゆっくり歩いてくれてるね。当たり前の事かもしれないけどこういうのは嬉しい物だね。
外に続くドアを開け、バルコニーに出る。階下から観衆のざわめきが聞こえて来た。私の身長だと手すりのせいで下は見えないが、どうやらかなりの人数が集まっているみたいだった。
手すりの前まで着くと、父様は軽く手を上に挙げる。それに遅れて数秒、ざわめきは完全に聞こえなくなった。
おお、父様凄いわー。緊張の欠片も見えないのも凄いわー。
父様の凄さに感心していたら、急に抱き上げられ、腕に座らせられる。この安定感と視界の高さは癖になる。
視界が高くなった事で、下の様子が見えるようになった。思った程の人数ではなかったかもしれない。百もいないだろうと思う。
「さ」
笑顔で促す父様。
折角落ち着いたのにまた緊張してきてしまった……。
父様の肩をギュッと掴み、今度は小さく深呼吸を数回。心の中で、行くぞ、と力を入れて口を開く。
「し、しし、シラユキ・リーフエンド……です……。よ、よろしくお願いしまー……、す?」
なんでそこで疑問系になるのよ私は!
そして決壊したかの様に沸きあがる歓声。
うるさいよ! 怖いって!! くう……、コンサートの舞台上の人はこんな気持ちなのかもしれない。
今日は私の五歳の誕生日、そして、正式なお披露目の日。
父様母様に連れられて結構会ってる人も多いんだけどね。それはそれ、これはこれ、緊張はするものさ。私まだ五歳なんだよ! 幼女なんだよ!
「手を振って」
歓声がうるさすぎるので、私の耳元で囁くように言う父様。くすぐったい!
えー? どこのお姫様よそれ……。と思いつつも手を振る。歓声がまた上がったような気がした。
みんな元気だなぁ……。……? ……あ! 私お姫様だったわ……。
私、シラユキ・リーフエンド、五歳です! リーフエンドの国のお姫様よ。 姫よ姫? 知ってる人ばかりでも大勢だと緊張しちゃう小心者だけどね。
それもその筈(?)私は元日本人、十六の女子高生だったのよ。まあ、色々あって、転生する事になって、産まれた先が大国のお姫様だったって訳。運がいいね。
魔法有り、冒険有りの所謂ファンタジーな世界だけど、今のところあまり関係はないね。なんて言ったってお姫様だし、危険なんてものは一切無いよ。
お姫様だからこそ危険なんじゃないか? と思われるかもしれないけど、この国の中にも外にも私たちに何かしようなんて考える馬鹿はいないよ。この大陸最強の国だしねー。最強であって最大ではないんだけど、まあ、その辺りは詳しくは知らないし、個人的にあんまり興味も無い。
リーフエンドはエルフの国。そう、エルフ、ファンタジーよ? 私はその王族、ハイエルフ。耳長いわー、よく聞こえるわー。
エルフとハイエルフは同じ種族っていう訳でもないんだけど、それもどうでもいいや。その内教えてもらえるだろうと思うしね。
エルフ。主に森に住み、綺麗な容姿で長い耳が特徴、魔法が得意で身体能力低め? 植物と意思疎通? 無い無い、ゲームじゃないんだからさ。
確かに私もみんなも森に住んでるし、エルフ全体的に魔法は得意な種族だよ。耳も長いし美人も多い。でも森に引き篭もってばかりで身体能力低めとかそんな変な種族いる訳ないじゃん。いたとしても確実に滅んでるよ、自然に淘汰されてるよ。植物と会話とか生暖かい目で見られるよ……、見られたよ……。くすん。
まだ行った事はないけど町にもエルフは住んでるっていう話だし、力仕事畑仕事とかも普通にして暮らしてる。そのせいかマッチョもいるね。マッチョエルフ……、新しいわ……。
エルフ、ハイエルフと言えば、この世界では最強の種族と言われているね。それは多分、魔法の存在のおかげ。
魔法があるのよこの世界。魔法って凄い。何がどう凄いっていうのは説明できないけど……、何となく凄いのは分かる。
それが得意な種族が最強になるのは当たり前だよね。うん、よく分からないけどきっとそう。
種族間の強さのバランスなんてゲーム的なものは無い。それが現実。
お姫様なんだから政略結婚とかあるのかなーと思ってたけど、それも無いのよねー。ハイエルフはハイエルフ同士でしか子供作れないのよ、多分ね。
今現在ハイエルフは、この世界に七人しか確認されていない。みんな私の家族だ。
父様、母様、兄様、姉様。後は会ったことは無いけれど、お爺様、お婆様。そして私の七人だ。
ん? 何かおかしい? だよねー。
お爺様、お婆様から産まれたのが、父様と母様。兄妹なのよ両親は、それが普通なのよハイエルフって。元日本人の私から見ちゃうから変に思えるだけ。結婚もしない。エルフは普通にしてるけどね。それは今はどうでもいい、重要な事じゃない。
将来私は、父様か兄様の子供を産むことになるんだろうね。実はそれは納得してるからいいのよ。だって、今は抵抗があるけど、百年二百年も生きれば考えも変わると思わない? 納得していると言うよりは、納得するだろうの方が近いか。
でも、恋だってしたいわ。他種族との子供ができないっていうのも絶対、とはまだ分かってないしね。転生する前でも恋愛らしい恋愛は……、こほん。なんでもありません。
今はまだ五歳! まだまだ子供! 深くは考えなくてもいいのよ! 寿命も不明な種族だしね。どうせなら長く太く欲張って生きたいものだ。
「うおおおおおおおおお!! 姫ええええええええええ!! 俺だ!! 結婚してくれーーーー!!!」
周りの歓声に負けないように、一際大きな声でいきなり求婚された。
あ、そのネタこっちにもあるのね。じゃないわ、本気で言ってるんだろう。あははは。
「誰がやるか阿呆!! 死ね!! 燃え尽きろ!!!」
声が飛んできた辺りに向かって父様が火球を投げつける。
「ぎゃーーー!! 危ねえ!! 殺す気かアンタは!!!」
「お前が馬鹿なこと言うからだろうが!! 巻き添え受けるこっちの身にもなりやがれ!!!」
巻き添えを受けた人が文句を飛ばす。
「あははは……」
おおお……。馬鹿が一人周りから袋叩きにあっている。楽しそうだねみんな。
この程度の魔法じゃ誰も驚かないよ? わたしは驚いたけど……。最強種族の名は伊達じゃない、軽く防いじゃうって。む? でも少し焦げてるね、アフロになればいいのに……。
「シラユキを嫁に欲しくば、まずは俺を倒して見せろー!!!」
私をその場に優しく降ろし、父様は民衆に突っ込んでいく。二階のバルコニーから飛び降りるのも、父様が暴走するのも本当によくある事なので驚かない。
「無茶言うなこの親馬鹿が!! やばい! みんな逃げろーーー!!! 馬鹿親父が切れたぞーーー!!」
親馬鹿から馬鹿親父になったよ。意味合いが全然違うね……。
「誰が馬鹿か! ええい! 死ね!!!」
笑いながら逃げ惑う人々の声、とても、とても楽しそうだ。
王族とは言っても別に偉いって訳じゃない、ただの国の代表ってだけ。様付けはされているけど、結構砕けた口調で話し掛けられているからね。父様も今まさに馬鹿馬鹿言われまくってたし。
それでもやっぱり真面目な人は中にはいるもので、礼儀正しい対応をする人もそれなりにはいる。一応母様が現代表で女王様ね。
エルフは人間や獣人に比べると数が少なめな種族だからかな、この森に住んでいる国民はみんな家族の様なものなんだ。
「うーん、見えない」
父様の腕から降ろされてしまったので下の様子が見えなくなってしまった。断続的な爆発音と楽しそうな叫び声が聞こえるだけだ。ふむ、どうしたものか……。
あ、丁度よくここにはテーブルと椅子が用意されているじゃないか。天気のいい日のティータイム用だね。この椅子を拝借させてもらうとしよう。
ずるずると手すりの側まで椅子を引きずり、上に乗る。意外と重労働だ。苦労した甲斐あってか、しっかりと見渡せる高さになった。
お、見えた見えた。わー、凄い。父様牧羊犬みたい。とりあえず応援しておこうか。
「がんばってー、とーさまー!!」
手を振って元気よく父様を応援する。
「あ、ちょっ! コラ姫やめろ!!! それわざとだろ!!」
何を仰るやら。勿論わざとだよ。
「愛する娘の声援を受けた俺は無敵だ!! ……よし! ここは一つ、シラユキにいいところを見せてやらねばな……!!」
私の声援を受け取った父様が、その場に止まりやばそうな魔法の詠唱を始める。大魔法? なにそれこわい。普通に死人が出そうだね。
まあ、出ないんだけどねー。
「動きが止まった! 今だ! 囲め!! 畳んじまえ!!!」
「なっ!? 卑怯な!! あっ! やめっ……」
そりゃ足止めて詠唱始めれば隙だらけだしね。父様乙だ。
ふふふ。こんな感じの毎日よ? 身の危険も無いし、楽しいし、見る物全てが新しく、新鮮だ。
もう何度目のお礼か分からないけど……。ありがとうね、女神様。私はこの世界で幸せになるわー!!!
主人公が転生した理由、経緯など、いきなり全ての説明はありません。
こちらも、必要な時に必要なだけ書いていきます。
2012/7/31
全体的に修正、書き加えをしました。