【不良】と【虐められっ子】
どうしたらいいのか、そればかりが頭に蠢いていた。
「……ダメ?」
まず最初に、今の状況をお浚いしておこう。
まず、今日の朝に短い手紙が下駄箱に入っていた。
『今日の放課後、桜の木の下で待ってます。』
初めは、脅迫されるのか思った。よく漫画に出てくるような【虐められっ子】、それが僕。
中学3年間にして、先輩、同学年、街の不良に脅迫されてお金を失った総額は、実に御小遣い4年分! お年玉の季節は、テンションが下がるばかり。何か悪いことをすれば、僕のせいにされるのが落ち。
高校生になれば、それが変わると思っていたのが間違いだった。中の中の高校に入学。そうすれば、自然と僕を虐めていた人たちも入学する人数に数人はいるわけで。
先輩から集(たか)られる。
そんな僕が……告白? いやいや、馬鹿な夢は見るな。これは、脅しだ。しかも、最初は僕の気持ちを上の空にして、その後に陥れるタイプの……!
「どうなんだよっ!? ハッキリしろよな、この糞野郎!」
ほらね。さっきとは違う声で罵倒されてるじゃないか。はぁ、ここまで低ランクの人生って、あるのかな?
「てめぇらっ! 悟くんが怖がってるだろ! もう少し静かにしろ!」
そのギラリとした眼が、僕に向けられた。……今日、お金少ししか持ってないんだけど……。
「大丈夫だよ、安心してね」
あっ、そうですよね。殺されることはないでしょうから……ってあれ? 声は一緒なのに、雰囲気が違う。どうゆうこと?
「それで、付き合ってくれるの?」
「付き合うって、誰がですか?」
その優しい声に油断したのが馬鹿だった。途端、怖い声が聞こえた。
「誰に向かって口聞いてるんだ、てめぇ――」
でも、その声は、少し経ったら聞こえなくなった。
「悟くん、ゴメンね。アタシの舎弟がうるさくて」
そう言って、生温かい手が僕の頬に触れた。横目でその生温かい正体を見る。赤い……。赤?
「血ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
僕は、血を見ただけで気絶した。
「悟くん! 大丈夫!? しっかりして」
その声は、焦っていて、良く分からなかった。
目を覚ますと、そこは保健室だった。
「あっ、大丈夫?」
その声は、さっきの声に違いなかった。
「急に倒れるから心配した……」
「ごっ」
「?」
「ごめんなさいっ! 僕、何かしましたか? 本当、……ってか、今お金持ってないんで!」
慣れた手つきで、僕は土下座をした。
「えっ? いや、なんで、悟くん?」
肩をつかまれて、その声の主の顔をまじまじと見ることになった。あれ? 確かに、さっきの声と一緒の声、温もりだ。
でも、その口調はあまりにも違っていた。
「え、っと……誰、ですか?」
警戒心を緩めないで、話をする。
「あっ、自己紹介がまだだったよね? アタシは、峰崎 玲子(みねざき れいこ)。……聞いたこと、あるかな?」
峰崎、玲子……?
「あっ」
僕の名前リストでヒットした。
『峰崎 玲子。この学校の女番長。高校3年。1年にして全てを総べたという噂、というか事実。武器は一切使わない』
いわゆる、【不良】だ。
「ふ、不良? ですよね?」
僕が言うと、玲子さんは、少し困ったような表情を浮かべた。
「うん、まぁ、その通りなんだけど……」
「なんで、僕が今回の標的なんですか?」
【虐められっ子】の習性で、一応の理由を聞く。なんたって、僕は理由も虐められるのは苦手だ。いや、虐められるのは嫌だけど……理由があるなら、何となく心が楽になる。
「虐め、ないよ」
返ってきた答えは意外なものだった。
目の前には【不良】。そして、【苛められっ子】。しかも、今の場所は保健室。もう放課後になったのか、養護担任の先生はいない。これだけの状況で、彼女は苛めないんだろうか? 否! 安心させておいて、助けたってことを口実に、色々頼んでくるに違いない……。警戒しないと……!
「じゃぁ、何ですか? お金、ですか? すみません、今日は、全然ないです」
僕は、簡潔に、相手に嫌な感情を産ませないように言った。
「えっ? いや、あのさっ」
短い間を置いて、彼女の口が動いた。
「好きなの、付き合ってくれない……?」
「……へ?」
その言葉の意味を整理し、冒頭の言葉と照らし合わせる。
もしかすると、色々あったけど、本当に告白されてる? も、もしそんなことなら、人生初だよ? でも、相手は【不良】だよ? しかも、かなりの……。
「ダメ、だよね。私みたいな【不良】が、悟くんと付き合うなんて……」
彼女は少し顔を曇らせた。
「えっと……すみません」
この最初の返事が、非常に不味いと思ったのは、次の彼女の言葉を聞いたあとでだった。
「だ、だよね。ごめんね。忘れていいから!」
彼女は座っていた椅子から立ち上がると、走りだそうとした。
「いや、そうじゃなくて! OKです!」
今の状況を一蹴するには、簡潔に答えたほうが良いと思った。
「え? でも、さっき『すみません』って」
「いや、それは、なんて言うか……癖って、いうか。質問をするときに、言っちゃうんですよね」
「質問?」
「何で、僕みたいな【虐められっ子】のこと、好きになったんですか? 付き合ったとしても、迷惑かかりますよね?」
僕は、今の疑問を言葉にした。すると、戻ってきた言葉は実に簡単だった。
「もし、迷惑なんて考える奴がいたら、殺す……よ」
こうして、僕と玲子さんは付き合うことになった。前途多難。色々あるとは思うけど、僕は、一歩前に進んだ、ような気がする。
はい。今回は、【不良】と【虐められっ子】をモデルに書きましたが、どうでしょうか?
さて。こないだ貰った感想に、『どうして、話を完結させないんですか?』というものがありました。 答えとしては、文字数が無駄に多くなる、ということや。1話完結の連載なので、短くしたい、ということや。後の話はみなさん自身でお作りになってほしい、ということがあります。
もし、【何か】と【何か】を書いてほしい! ということがありましたら、気軽に感想をください。【何か】の何かを埋めてくださいね。