表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
様々な年齢  作者: 春馬令
3/4

【講師】と【生徒】

 塾は、俺にとってのオアシスだ。何も感動もない現実の中で、唯一夢をみることができる場所。普通、塾なんて、『行きたくはないが学力向上のために頑張る』という理由だろう。俺も、中3の夏まではそうだった。勉強だって、塾でできるようになっているのか分からない。

「ミィさん、ちょっち来て」

俺の通う『AEI』では、学力に応じて、団体授業、個人授業に分かれる。頭が悪いと団体、良ければ個人。なんともまぁ差別の激しい塾だ。そして、うちの塾長は言った。『うちは塾だから。学校とは違う』……うん、その通りなんだけど。ようするに、『辞めたければ辞めればいい』ってことだ、と思う。

「はいはい」

俺が呼んでしばらくが経って、ミィさんは来る。因みに、俺は個人授業だ。中3の頃は団体だったんだけど、高1になって個人授業になった。そして、出会った。

 下河辺 実李南(しもこうべ みいな)、通称『ミィさん』。これは俺がつけた仇名だ。今は大学2年生。俺は高校1年生。4歳、か……。

 つーか、もう分かったっしょ? 俺は、ミィさんに恋してます。教師と【生徒】だと不味いかもしれないけど、【講師】と【生徒】なら、多分ダメだけど大丈夫だと思う。

「で、どこ分かんないの?」

体を俺に向けて、話を聞く姿勢のミィさん。自然と、俺は照れて体をミィさんから見て横に見えるようにする。やっべぇ。弁当食ってから、ガムでも噛んでくるんだったぁぁ! 

「えっと……これ」

まだ4月も始まったばかりの今日この頃。学校の方もまだ『初期指導週間』と題して授業は始まっていない。よって、塾での勉強は中3の復習になる。

「√2+√18、ね。……? あれ、これ、前に解いたよね? ってか、これくらいできないでどうするの?」

だって、ミィさんと喋りたかっただけだから、なんて、言ったら殺される。少なくとも、本気にはされない。

「……」

何も言い訳できずにいると、優しい優しいミィさんからヒントが出る。

「まずは、√18の18を因数分解してみよう!」

知ってますよ。

「分かった! ちょっち待ってて」

そういうことで、俺の横にいてもらう。

「うん」

ミィさんは、ボードと呼ばれる生徒の授業態度等を書く紙にまとめている。これはもちろんだけど、ミィさんの担当は俺1人じゃない。俺を含めて3人はいる。この他の2人に負けないくらいミィさんと話すのが俺の目的でもある。

「18……9……3……! 答え! 4√2!」

「オーケー! 花丸です」

そう言って、ただの○を付けるミィさん。もちろん、ここで触れることは、少しでも親近感を出す秘儀だ。

「って、ただの丸じゃん!」

「へへっ」

白い歯を見せて笑うミィさん。……やっべぇ、鼻血でそう……。

 俺は、何を考えているんだ? 健全なる高校生だから、まぁ、そこは仕方がないとしても。好きな人の歯を見ただけで興奮するって、変態じゃね?

「ミィさん、わかんな~い」

……イラッ! 

 今ミィさんを呼んだのは、俺のライバル? つーか、ただの女垂らしの野郎、菅谷 満(すがや みつる)、高校2年。所在的には俺の先輩に当たる……のだが、俺は、コイツが大っ嫌いだ。なんか、ミィさんの時だけ目がエロいし……! ミィさんも満更じゃないっていうか……。

「どれどれぇ?」

……なんだよ、今のねこなで声は? 俺の時は、仕方なしって感じなのによ。

「……っ」

「なぁんだよ、そんな見るからに不機嫌そうな顔してよぉ?」

俺の前の席から身を乗り出してきたのは、中森 純(なかもり じゅん)、俺と同じ高校1年。因みに、俺と純と菅谷の馬鹿は同じ高校の生徒。

「……んでもねー」

そう言ってシャーペンをクルクル回す。

「んでもなくねぇだろ? 俺とお前の仲じゃねぇか」

正直、今の俺には純はウゼー。

「見ろよ、あれ」

俺は顔だけで俺にとって2つ斜め前、純にとって1つ斜め前を指した。

「あ、いいのかよ、あれぇ」

純は、俺がミィさんを好きなことを知ってる。前に教えた。もちろん、純の好きな人も調査済み。

「良かねーよ。あいつ、女垂らしだろ? 別に誰が好きになっても構わねーけど、垂らしだけは嫌だ」

「垂らしは、初心なお前よりも、女の人を知ってるしな」

「余計なお世話だ」

そう、俺にとって、人を好きになるってことは、随分珍しいことだ。そもそも、好きって感情が良くわからないんだ。

「どうすんだよ? まっ、俺はどっちでもいいけどなぁ」

他人事だと思いやがって……!

「どうするもなにも、」

「そこ、少し五月蠅いよ」

急な声に、俺は自分でも驚くくらいに体を震わせた。声の主は、ミィさん。俺と純と菅谷の馬鹿を担当してるから、注意もミィさんからってこと。

「はぁい」

「……」

「そっちは?」

何も返答をしない俺に、ミィさんが言う。その間も、菅谷の馬鹿はシャーペンを動かしている。

「……ん」

間違いなく嫉妬だ。焼きもちやきの男はすかれない。しかも、それに加えて俺は素直じゃない。どう考えても、菅谷の馬鹿に負ける。

「よろしい」

笑うミィさん。それを面白くなさそうに菅谷の馬鹿が睨んだ。どうだ、俺にミィさんは言ったんだぞ?

 塾の1つのコマの時間は90分。実に、1時間30分……! 自分で言うのもなんだけど、集中力に関しちゃ、長い方だと思う。

「は~い。みんな、宿題出すよ」

ミィさんが、俺たちに声をかける。すると、俺たちは机の中から宿題ノートを取り出して、ミィさんを待つ。3人の内、何番目に宿題を出されるか。それが重要。1番目なら、残りの時間、5分に全員の宿題を終わらせようって焦るから、時間はあまりない。2番目も一緒。でも、3番目は、時間を気にせずに宿題を出せるから、時間をかけられる。イコール、たくさん話せるってこと。

「純くん、出すよ」

「ほぉい」

純は、何も喋ることもなく、俺の方を見てニヤニヤしていた。

「はい、次は……っと」

来た……! 運命の宿題、2番目だ……!

「菅谷くん」

……。

「シャッ!」

「? 何?」

「いや、何でもないよ」

俺は、苦笑いをして言った。

「ちっ……」

菅谷の馬鹿は、俺を睨んだ。ふん、ミィさんが選んだんだからな?

「ミィさんって、どこの大学いってんの?」

菅谷の馬鹿は、少ない時間で話をしようと必死だ。

 そんで、最後は。

「はい、最後は」

「俺!」

俺も、満面の笑みで答える。 

 恋愛ってのは、受験なんかよりも難しい、『入試』なのかもね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ