↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊、いるなら出てこい―非オカルト心霊検証録―  作者: ズッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

第6話 否定しない女

「……なんだこれ」


俺はスマホの画面を見つめたまま、眉をひそめた。


動画のコメント欄。

いつもは軽い感想ばかりなのに、その中に一つだけ、妙に引っかかるものがある。


《その検証、間違ってます》


「……は?」


思わず声が漏れる。


さらに下。


《それ、外からじゃなくて“中”から来てますよ》


一瞬、意味が分からなかった。


「……中から?」


ありえない。そう思ったはずなのに、指が止まる。


《見えてないだけです》


—


数日後。


俺は大学の中庭にいた。

昼下がりで人はそこそこいるのに、不思議とこのベンチの周りだけ静かだった。


その理由は、目の前にいる。


「……神谷理玖さんですよね」


落ち着いた声。

俺は顔を上げる。


「……誰だよ」


「阿部果林です」


名乗るだけで、それ以上は何も言わない。

感情の起伏がほとんど見えない顔だった。


「コメントしたの、お前か」


「はい」


短い返事。


逃げる気も、誤魔化す気もない。


「……で?」


俺は腕を組む。


「何が間違ってるって?」


少しだけ間があく。


阿部は俺を見たまま、静かに言った。


「全部です」


「は?」


思わず声が強くなる。


「あなたの仮説」


阿部は淡々と続ける。


「外から入ってくる前提ですよね」


「当たり前だろ。実際そう見える」


「違います」


即答だった。

迷いがない。


「“最初から中にいる”」


「……は?」


言っている意味が分からない。


「外から来てるんじゃないです」

「最初から、そこにある」


「……意味分かんねえよ」


阿部は少しだけ首を傾げる。

考えているようで、考えていないような仕草だった。


「じゃあ聞きます」


静かな声。


「なんで、外の足跡は“途中で消えてる”んですか?」


「それは説明しただろ」

「粉の濃淡で見えなくなっただけだ」


「そうです」


あっさり肯定される。


「なら」


一拍置く。


「中の足跡は、どこから来たんですか?」


—


言葉が詰まる。


「……それは」


すぐに答えが出ない。

頭の中で、あの映像を思い返す。


外からの跡は途中で消える。

なのに、背後には“新しく”足跡があった。


繋がっていない。


「……」


「外から続いてるなら、繋がるはずですよね」


阿部は静かに言う。


「でも繋がってない」

「つまり」


視線が、ほんの少しだけ強くなる。


「別です」


「……は?」


「外の現象と、中の現象」

「同じに見えて、違います」


否定しようとして、言葉が出ない。


「いや、そんなわけ——」


途中で止まる。

確かに、違和感はあった。


気づかないふりをしていただけだ。


「気づいてますよね」


阿部が言う。


「あなたも」


「……仮にそうだとして」


俺は無理やり言葉を繋ぐ。


「じゃあ何だよそれ」


「説明しろよ」


少しだけ沈黙が落ちる。

風の音だけが聞こえる。


阿部は目を逸らさずに答えた。


「分かりません」


「は?」


思わず聞き返す。


「分かりませんけど」


少しだけ間を置く。


「そういうものは、あります」


思わず笑いそうになる。


「それで納得しろって?」


「納得する必要はないです」

「ただ」


言葉が一瞬だけ途切れる。


「間違ったまま進むと、危ないです」


「……脅しか?」


「違います」


即答だった。


「事実です」


その目は、冗談を言っているものじゃなかった。


—


「……いいよ」


俺は立ち上がる。


「じゃあ証明してみろ」

「お前の言ってることが正しいなら、次で分かる」


阿部は小さく頷いた。


「はい」

「分かります」


—


その日の夜。

新しい依頼。


また“音”がする部屋だった。


—


「いつも通りやるぞ」


俺は機材をセットする。

カメラ。粉。配置。


いつも通り、再現性を取る。


「それ、意味ないです」


後ろから声がした。


「……は?」


振り向く。


「今回、それ出ません」


「なんで分かる」


「違うからです」


イラつく。

だが、無視する。


—


録画開始。

時刻は0:11。


—


数分後。


何も起きない。

予想通りだ。


「ほらな」


そう言いかけた、そのとき。


カタ。

小さな音。


振り向く。


棚の上。

置いてあったコップが、ゆっくりと横に滑った。


「……は?」


粉は動いていない。

足跡もない。


ただ、“物だけが動いている”。


理解が追いつかない。

今までの前提が、崩れる。


後ろで、阿部が静かに言う。


「だから言ったじゃないですか」

「それ、違います」

「“歩くやつ”じゃないです」


俺は初めて、何も言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。