第2話 バズった動画と最初の依頼
朝起きて、最初に見たのはスマホだった。
通知がやたら多い。
「……は?」
画面を開く。
昨夜アップした動画。
再生回数 12.4万回
「は?」
思わず声が出た。
いいねの数も、コメントも、見たことない桁。
「なんだこれ……」
コメント欄を開く。
《ガチで音やばくね?》
《上空室でこれは無理だろ》
《最後なんか映ってない?》
《0:47止めてみろ》
《いや気のせいだろ》
《これマジなら怖い》
「……0:47?」
動画を開く。
問題のシーン。
コツ。コツ。
足音。
そして——
何もない。
「……だよな」
何度見ても、何も映っていない。
あの“フレーム”はない。
「やっぱバグか」
俺はスマホを置こうとして——止まった。
コメント欄。
《消されてない?》
《昨日見たとき映ってたぞ》
《スクショ撮ったやついないの?》
「……は?」
急いでスクロールする。
《一瞬、カーテンのとこに人影あった》
《マジで言ってる?》
《釣りだろ》
《いや俺も見た》
心臓が、少しだけ速くなる。
「……いやいや」
俺は首を振る。
「ありえない」
映ってないものは、映ってない。
それだけの話だ。
—
大学に行くと、空気が違った。
「おい、有名人」
「例の動画のやつだろ」
「見たぞ」
やたら声をかけられる。
「なんでこんな伸びてんの?」
「知らん」
「次どこ行くの?」
「いや、別にシリーズじゃねえし」
適当に流して席に座る。
すると、前の席のやつが振り返った。
「なあ」
「ん?」
「頼みがあるんだけど」
「金ならないぞ」
「違う」
そいつは少しだけ声を落とした。
「……出るんだよ」
「またそれか」
「今度はマジでやばい」
「みんなそう言う」
「いや、違うって」
真顔だった。
「動画見て、思ったんだよ」
「何を」
「お前なら、分かるかもしれないって」
—
放課後。
俺はまた、知らない建物の前に立っていた。
「ここ?」
「うん」
住宅街の中の、古い一軒家。
「実家?」
「いや、空き家。親戚の」
「ふーん」
見た感じは普通だ。
むしろ、昨日のアパートより状態はいい。
「何が起きる?」
「音」
「またか」
「でもな」
そいつは玄関を開けながら言った。
「“中”じゃないんだよ」
「は?」
「外から聞こえる」
—
家の中に入る。
広い。
誰も住んでないのに、やけに整っている。
「どこで聞こえる?」
「ここ」
案内されたのは、二階の一室。
窓がある。庭が見える。
「夜になると、庭から音がする」
「どんな?」
「歩く音」
「……また足音か」
「でもな」
そいつは窓の外を指さした。
「庭、砂なんだよ」
確かに。
雑草はあるが、地面は砂に近い。
「だったら跡が残るはずだろ?」
「まあな」
「でも、残らないんだよ」
「……見たのか?」
「見た」
そいつは少しだけ間を置いて言った。
「音はするのに、何もいない」
—
「よし」
俺はスマホを取り出した。
「今回も検証だな」
「やるのか?」
「当たり前だろ」
俺は窓の外にカメラを向ける。
「条件がいい」
「何が?」
「砂だ」
俺はニヤッと笑う。
「証拠が残る」
—
準備はシンプルだった。
・庭にカメラを設置
・窓からも撮影
・音声も記録
「あとこれ」
俺はポケットから小さな袋を取り出した。
「何それ」
「小麦粉」
「は?」
「撒く」
「なんで?」
「足跡、見やすくなるだろ」
「……お前マジで何者だよ」
「ただの大学生」
—
夜。
静まり返る家。
時計は23:41。
「ほんとに来るのか……」
「さあな」
23:58。
何も起きない。
「やっぱ気のせい——」
そのとき。
ザッ。
「……!」
明らかに、砂を踏む音。
ザッ。ザッ。
「来たな」
俺は窓に近づく。
庭。
何もいない。
「……見えない」
「でも音——」
ザッ。ザッ。
確かに、近づいてくる。
「カメラ」
「回ってる」
俺は目を細める。
「……風か?」
「いや、こんな規則的に鳴るか?」
ザッ。ザッ。
音は、窓の真下で止まった。
沈黙。
「……終わり?」
その瞬間。
トン。
窓を、何かが叩いた。
「っ!」
思わず一歩下がる。
「今の……」
「小石か?」
俺はゆっくりと窓に近づく。
外を見る。
何もいない。
でも——
「……おい」
「なんだよ」
「地面、見ろ」
庭。
さっき撒いた小麦粉。
そこに——
足跡が、ついていた。
「……マジかよ」
一歩。
また一歩。
確かに“何か”が歩いた跡。
でも——
途中で、消えている。
「……なんで」
「ありえないだろ……」
俺はスマホを構える。
「全部撮れてる」
そのとき。
画面越しに、庭を見る。
そして——
一瞬だけ。
“それ”が映った。
人の形。
でも、輪郭が歪んでいる。
ノイズみたいに揺れている。
「……今の」
「え?」
肉眼では、何もない。
でもカメラには——
「……いる」
初めて、そう思った。
—
帰り道。
「どうだった?」
「説明はできる」
「ほんとか?」
「ああ」
俺はスマホをポケットに入れる。
「多分な」
「多分かよ」
「確定じゃないだけだ」
—
その夜。
動画を確認する。
足音。足跡。
全部、はっきり映っている。
問題は——
“それ”だ。
再生する。
ザッ。ザッ。
そして、問題の瞬間。
画面には——
何も映っていなかった。
「……は?」
巻き戻す。
もう一度。
何もない。
「消えてる……?」
俺はしばらく画面を見つめていた。
やがて、スマホを置く。
「……まあいい」
そう呟く。
「説明できる」
そのとき―
窓の外で、
ザッ。
と、音がした。




