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第25話:落日の空虚
男が歩いている。
腰の束鍵が、歩調に合わせて無機質な金属音を立てる。
冷え切った白塗りの廊下。一定間隔で並ぶ鉄扉の覗き窓を、一つずつ確認しながら進む。
突き当たりの角を曲がると、そこだけ空気の淀みが違った。
湿った冷気と、特有の臭気。
「おい、121番。まただ」
同行者がライトを向けた。
独房の隅で、痩せこけた男が笑っている。
石片を握り、壁に何かを書きつけていた。
「……あ、あはは! 全能、掌握……! 跪け……!」
壁面は、デタラメな文字列で埋め尽くされている。
男は、何もない空間に向かって尊大に頷き続けていた。
「毎日、よく飽きないな」
固まった粥の皿を床に置く。
男は飯には目もくれず、一心不乱に壁を削る。
ガリ、ガリ、と不快な音が響く。
「……第25話……完結。……俺の、勝ちだ……」
「はいはい、おめでとう。じゃあな、最強さん」
扉を閉め、錠前を下ろす。
暗闇から、狂った笑い声と虚しい石の音だけが聞こえていた。




