第16話:概念の崩壊と再定義
玉座の装飾品となったゼノンとプリシラの魂が、宝石の奥底で絶叫し続けている。だが、その声すらも俺には心地よいBGMに過ぎない。
「……飽きてきたな。次は『法則』そのものを変えてみるか」
俺が指先で空中に円を描くと、この宇宙の物理法則が記述された「理の円環」が姿を現した。
「重力は『上』に向かい、熱は『冷たさ』となり、死は『始まり』となる」
俺がその円環を逆回転させた瞬間、世界はカオスに包まれた。
海は空へと昇り、太陽は黒い氷となって冷気を振りまく。人々は死ぬことで赤ん坊に戻り、裏切り者たちは絶望を感じるたびにその苦痛が倍加していく「負の増幅回路」に囚われた。
「あ、あ、ああ……! 苦しい、苦しいのに、意識がはっきりしていく……!」
宝石の中から漏れ出すプリシラの思念。
彼女たちは、俺が書き換えた「苦痛=快楽」という狂った法則により、絶叫しながらもその屈辱に溺れ続けるしかなくなった。
「【法則掌握:絶対零度】」
俺はさらに、全次元から「自分以外の自由意志」を剥奪した。
この世界に存在する全ての生命、全ての原子、全ての光は、俺が「右」と思えば右へ動き、「消えろ」と思えば存在しなかったことになる。
「……これでいい。誰も俺を裏切れない。誰も俺に逆らえない」
だが、その静寂を切り裂くように、俺の背後の空間が真っ黒に染まった。
それは、この物語の「終わり」を告げに来た、虚無の化身。
「アルス……貴様はやりすぎた。物語を壊す者は、物語と共に消える運命だ」
姿なき声が響く。だが、俺は振り返ることもなく、ただ背後へ向かって「デコピン」の構えを取った。
「運命? そんなものは、奈落に落とされた瞬間に、俺が一億回噛み砕いて捨てたんだよ」




