友達
東野に送ってもらい学校についたのは12時過ぎだった。
たしか4時間目は化学だったはず。
クラスに向かうとやはり教室には誰もいなかった。
「あれ?誰もいないじゃん」
「ええ、4時間目は化学だからみんな化学室にいるわ」
「そうなんだ、じゃあ化学室に行かないとじゃん」
「今から行っても遅いわよ、うちの学校は授業を15分以上出席してなかったら欠席扱いになるから」
「そうなんだ、でも欠席でも授業おいていかれたら嫌だから私は行こうかな」
「そう、じゃあ私は行かないから一人で行ってらっしゃい」
「しののんって意外と不真面目だね~」
「別に、休んでもいいように予習してるだけよ」
私は体調不良で授業を休んでしまったときに置いて行かれないように予習をしてから授業を受けるようにしているので欠席してもそんなに問題は無い。
ただ、休み過ぎると出席日数が足りなくなるのでそれだけは注意しないといけない。
「なるほど、じゃ行ってくるね~」
そう言って彼女は教科書を持って小走りで出て行った。
私はカバンからPCを取り出して電源を入れる。
私の学校は授業でレポート作成やネットを使った調べものをすることがあるため、PCの持ち込みと使用が許可されている。
学校所有のPCも一様あるが使いずらいので自分のPCを使ってる。
私が行かなかったのは欠席になるというのもあったが、それとは別にやらないといけないこともあった。
キーボードで押す音と雨音だけが鳴り響いて心地良い。
気が付くと4時間目が終わっていたようでクラスメイトが帰ってくる。
彼女の周りにはたくさんの人がいた。
みんな笑いながら楽しそうに話している。
彼女も昨日の困った苦笑いではなく、普通に笑っているように見える。
良かった、他の人と仲良くなれたようで。
席に戻ってくると鞄の中から弁当を出してみんなのところに帰っていった。
お昼を一緒に食べようと言われたのだろう。そのまま教室を出て行った。
出る前に私の方を見た気がしたが何か言いたかったのだろうか。
私も昼食をとらないと。
鞄の中からスティックタイプの栄養補助食を取り出して口に運ぶ。
1年の頃は東野が弁当を作ってくれていたが、私が残してしまうのもあって作らなくていいと断った。
意識をPCに戻して作業を続ける。
「今日はここまで」
「なに書いてるんだ?」
「!?」
急に後ろから声をかけられ、驚いて振り返ろうとすると椅子から落ちそうになる。
「っと、大丈夫?」
彼は倒れそうになる私の腕をつかんで姿勢を直してくれる。
「急に後ろから声かけないでください生徒会長。それに私、教室には来ないでくれって言いましたよね」
「ごめん、ごめん。敦那が昨日倒れたって聞いてさ、それに今日も遅刻してきたんだろ?」
そう軽く笑いながら私の名前を呼び捨てにして馴れ馴れしく話す彼は、うちの生徒会長だ。また、私の許嫁でもある。
勿論、私は認めていないが母が決めたことだ。私には拒否権は無い。
3年生で文武両道、眉目秀麗。親は大企業の社長。
私の婚約者としては申し分ない。
「その馴れ馴れしい口調、不愉快です」
「将来の夫にそんな口調はないんじゃないか?」
彼がそう言うと黄色い悲鳴が聞こえてくる。
わざとこう言うことで私たちの仲を公然のものにしようとしているのだ。全く性格が悪い。
「体調に関しては大丈夫なのでもう帰ってくれませんか?邪魔です」
「しののん、その人だれ?友達?」
今一番来てほしくない人物が来てしまった。絶対ややこしいことになる。
「彼は」
「はじめまして、原田 一真です。この学校の生徒会長をしています。君は確か、昨日転校してきた子だよね」
「そうだよ、私は橋本 茉莉。へー、生徒会長」
「そうよ、生徒会長。ただの生徒会の仲で友達でも何でもないわ」
「なんか大事な話でもしてたの?」
「昨日、倒れたと聞いたから心配で来ただけだよ。ね、敦那」
そう言ってこちらに微笑みかけてくる。
やめてくれ、鳥肌が立つ。
「っていうかしののん、LONEしたんだけど気が付いてない?」
私が露骨に嫌な顔をしたのを感じ取ったからなのか彼女が話題を変えてきた。でもその話題は出してほしくなかった。
ほら、彼が興味深そうにこちらを向いてきた。
「へぇ、茉莉さんは敦那のLONEを持ってるのか」
「そりゃ友達だもん」
彼が悪い笑みを浮かべる。
この流れはまずい。彼とはLONEするわけにはいかない、したくない。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
授業開始5分前の予鈴が鳴った。
「おっと、そろそろ戻らないと。じゃあ敦那、茉莉さんまた来るよ」
「二度と来ないでください生徒会長」
そう言って彼は教室から出て行った。
良かった、タイミング予鈴が鳴ってくれて。
「しののん、生徒会長と仲悪いの?」
「私は嫌いよ。彼は好いてくれてるらしいけど」
「ああいうタイプの人、しののん嫌いそうだもんね」
「ええ、大っ嫌いよあんな奴。あなたもあいつには気をつけなさい」
「?わかった」
「あと、私と友達なの学校では言わないほうがいいわよ」
「なんで?」
「なんでも、面倒なことに巻き込まれたくないなら言わない事ね」
そう言って私は正面を向き直す。
彼女は少し不服そうな顔をしていたが、先生が教室に入ってきたこともあってそれ以上は言及してこなかった。
その後はいつも通り授業を受け、放課後になった。
返ろうと席を立つと彼女が話しかけてきた。
「しののん、今日はありがとう」
そういう彼女は少し元気がなさそうだった。
「別に友達として助けただけよ」
「友達......か」
「?どうしたの?」
「別に!ありがとうって言いたかっただけ!引き留めてごめんね!」
「そう?じゃあ、また明日」
「うん!また明日、バイバイ」
校舎から出ると校門付近に東野が立っていた。
「東野、ありがとう」
車に乗る。
今日はこれからピアノの稽古だ。
「今日はどうでしたか?」
「生徒会長に絡まれたわ」
「それは災難でしたな」
「ええ、ほんとにね」
「そういえば......」
スマホを取り出しLONEを開く。
彼女が昼に送ったというLONEを確認し忘れていた。
そこには「薬飲んだ?」と送られてきていた。
「東野」
「どうしました?」
「友達っていいものね」
「そうですね」
私は今まで友達というものを作ったことがなかった。
「東雲 敦那の友達」というステータスがどのように影響するのかを私は理解しているからだ。良くも悪くも私の存在は大きすぎる。
しかし、彼女はそのままの私を見て友達になってくれた。
下心なんて無かった。
だから私も友達になってもいいと思えた。
胸の奥がじーんと暖かくなる。
彼女との関係を大切にしよう。
そう思う私と裏腹に彼女との関係に変化が起きようとしていた。




