感情
彼女と話すのは楽しいが流石に話のネタもなくなってきてしまった。
あと2時間か。
時間を何でつぶそうと考えていると彼女が映画鑑賞が趣味と言っていたのを思い出した。
「そういえば、映画鑑賞が趣味と言ってたわよね。何かおすすめの映画ってあるかしら」
そう言いながらテレビの電源を付け、動画配信サービスに接続する。
「使い方わかるわよね?おすすめの映画一本、一緒に見ない?」
「いいの!?え~とね~どれにしよっかな~」
彼女は自分のスマホをつつきながらリモコンを操作している。
映画を見るのであれば飲み物を貰いに行こう。ついでに軽食も。
「ココアのおかわりを貰いに行くけど、何か飲みたいものはある?」
「わたしもココアで!このココアめっちゃおいしかったから」
「わかったわ」
映画を選んでいる彼女を置いて、カップと空になった容器を持って東野の元へ行く。
東野はリビングでソファに座ってテレビを見ていた。
私が目に入ると、私のもとにすぐ来てカップと容器を回収してくれた。
「おかわりですか?少し待ってくださいねすぐ用意します」
「ありがとう、あと軽く食べれるお菓子とかない?今から映画を見ようと思って」
「ほう、映画ですか。たしかに映画を見るくらいの時間は余ってますな」
「でしょ、そうだ東野、LONEやってる?」
「やってますよ、もしかしていれたのですか?」
「ええ、彼女に入れて交換しようと言われたから」
そう言うと東野は泣きそうな嬉しそうな表情を浮かべた。
「どうしたの?東野?」
「いえ、敦那様にお友達ができて良かったなと改めて思いまして」
「そう、じゃあ交換しましょ」
東野とも友達になった後はクッションを持って部屋に戻った。
ココアと菓子は東野が持ってきてくれる。
部屋に入るともう映画を選び終えたのかリモコンは床に置いてスマホをつついていた。
「しののんおかえり~」
「ココアはもう少ししたら東野が持ってきてくれるわ。はい、これクッション」
「ありがと~」
クッションを受け取った彼女は胸の前で抱いて床に体育座りをした。
「こっちおいで~」
そう言って自分の隣の床をポンポンと叩いている。
隣に座れということなんだろう。
まるで自分の家かのようにくつろいでいる。
「で、何にしたの?」
私は彼女と人一人分ほど離して座った。
彼女はすぐ横に座ってほしかったのだろうが流石にそこまで心は許してない。
「これ!私めっちゃ好きなんだ~」
そう言って彼女が選んでいたのはアニメ映画だった。
見たことはなかったが、数年前にテレビやネットで話題になっていたのを覚えている。
たしか、男女が入れ替わるボーイミーツガールの話だったような。
「じゃあ、東野がココアを持ってきてくれたら見ましょうか」
5分ほどすると東野がココアとチョコチップクッキーを持ってきてくれた。
「じゃあ、再生するね」
映画が始まる。
そういえばだれかと映画を見たことなんて無かったな。
今日は初めての事ばかりだ。
「いや~やっぱり何回見てもいい映画だわ~。しののんはどうだった?」
彼女は涙を拭きながらそう言った。
クライマックスのあたりからずっと泣いていたし、見てる最中もずっと小さくリアクションをとっていた。
「そうね、話も分かりやすいし挿入歌も良かったわ。あと映像も綺麗で特に夜空の描写が美しかったわね。いい映画だと思うわ」
「ほんと?しののんずっと真顔で見てたから面白くないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ~」
「別にあなたのリアクションが大きいだけで普通にいい映画だったわよ」
「え~他の友達と見たときはみんな私みたいな感じだったよ?」
分かってる、彼女の取るリアクションが普通だということに。
私はこの映画を良いと思う。
でもそれだけだ。
映画に心を動かされて感動したり笑ったりすることは無い。
我ながら冷めてるなとも思うがこればかりはしょうがない。
今まで私は自分の感情なんてどうでもいい、なくてもいいと思いながら生活してきたのだから。
楽しいという感情だってまだ曖昧だ。私にはまだ早い。
「お~い、しのの~ん?どうした?」
「いや、何でもない」
「そう?ならいいけど」
いつの間にか自分の世界に入り込んでたみたい。
ああ、これはやってしまったな。
また私は他の人と違うと考えて壁を作ってしまう。
せっかく明るい雰囲気だったのに私から冷気が出て私の周りから温度が冷えていくように感じる。
「もう!しののん!私の話聞いてる?」
「わ、ごめんなさい。なんて言った?」
「やっぱり聞いてなかったんじゃん!まだ時間かかるでしょ?」
確かにまだ時間はある。
早く行きたくなったのだろうか。
そりゃそうだろう、こんな気まずい空気早く解散したいに決まってる。
「そうね、もう少しかかりそうだからもうちょっと我慢して」
「我慢?何言ってるの?」
「え?早く学校行きたいんじゃないの?
「しののん本当に何言ってるの?もしかして具合悪い?」
「大丈夫よ」
「そう?じゃあさ!ピアノ弾いてよ!」
「はい?」
何て言った?
ピアノを弾いてほしい?
なんで?
脈絡がなさ過ぎて意味が分からない。
「ピアノ?なんで?」
「私が見てみたいだけだよ?」
何言ってるの?みたいな顔されても。
でも、たぶん彼女なりに話題を変えて場をつなごうとしてくれたのだろう。
やっぱり彼女はやさしい。
「いいわよ、一曲だけ弾いてあげる。でも、そんなに上手じゃないからがっかりしないでね」
「やったー!」
東野にピアノを使うと言うと「私も聞きたいです」と言って付いてきた。
「じゃあ、『月の光』を弾くわね」
「おお~聞いたことないけど楽しみ!」
「私は久々に聞くので楽しみです」
少し緊張するな。
先生以外の人に聞いてもらうのはコンクール以外で久しぶりだ。
私はふぅと息を吐いて鍵盤に指をかけ、演奏を始める。
「 」
途中でなにか聞こえた気がするが演奏に集中しすぎて何を言っているか分からなかった。
演奏が終わると拍手が聞こえてきた。
「すご!めっちゃ上手じゃん!曲もしののんって感じがしてめっちゃ良かった!」
「前聞いた時よりお上手になっておりますな。流石です」
「ありがとう2人とも、でもまだまだね」
途中で少しリズムがずれてしまった。
普段ならしないミスだ。
普段と状況が違うといえどミスは許されない。
今日のレッスンで修正しよう。
「そろそろ服の乾燥が終わる頃でございます」
「ありがとう、じゃあ乾いたか確認しに行きましょうか」
「はーい」
制服を確認しに行くときちんと乾いていた。
「乾いてるわね、じゃあ私の部屋で着替えてきて。脱いだ服はそのまま部屋に置いてきていいから」
彼女を着替えに向かわせ、私は東野に出発の準備をしておくように伝える。
少しすると制服に着替えた彼女が降りてきた。
「本当に助かった~ありがとう!」
「私じゃなくて東野に言いなさい。色々してくれたのは東野だから」
「もちろん東野さんにも言うけど、私に声かけてくれたのはしののんだし、服貸してくれたし色々教えてくれたじゃん。だから、ありがとう」
「だってあのまま無視して風邪ひかれたら夢見が悪いじゃない」
「やっぱりしののんは優しいね」
そう言って彼女は優しく微笑んだ。
「東野が車を用意してくれているから行くわよ。忘れ物はないわよね」
「大丈夫!」
「じゃあ、はい。この傘使いなさい。予備のやつだから返さなくていいわ」
「しののん!」
そう言って傘を受け取るのではなく抱き着こうとしてくる。
私はそれを振り払い、傘を押し付ける。
「行くわよ」
「え~しののんのいけず~」
ぶぅと頬を膨らませてすねる彼女を無視して車に向かう。
「早く、カギ閉めないといけないから」
「は~い」
彼女は表情が豊かで感情が分かりやすくてとてもいいと思う。
私もいつか彼女みたいになれたらいいな。




