教えて
「ここがしののんの部屋か~なんだかイメージ通りだね。まじめな女子高生って感じ」
「そんなに見渡しても何もないわよ。」
「ごめんなさいね、人を入れたことなんて東野以外無いから座るものとかテーブルとか無いの。だから、ベッドに腰かけてもらって構わないから。」
「そんなこと気にしないでいいよ~」
彼女をベッドに座らせ、私はデスクチェアに座る。
「とりあえず、制服はどうする?乾燥するまで3、4時間くらいかかっちゃうけど」
「う~ん、どうしようかっな~」
「私の体操服とかを貸せたらいいんだけどね、体育はやらないから持ってないのよね」
「別にあなたが構わないのなら乾くまで待ったって良いわよ。それまで私と一緒にいるのは嫌でしょうけど。」
「え!いいの!?じゃあ、待つ~」
びっくりした。
彼女のテンションはいつもに増して高い。
何がそんなに嬉しいのだろうか。
学校をさぼれるからだろうか。
そんなことを考えていると部屋の扉がノックされ「東野です」と聞こえる。飲み物を持っていてくれたのだろう。
「入っていいわよ」
「失礼します、ホットココアをお持ちしました」
東野は二つのカップとココアが入った容器を持ってきてくれた。
それを机の上に置き、それぞれのカップに入れて渡してくれる。
「ありがとうございます」
「ありがとう、制服が乾くまで待とうと思うけど大丈夫かしら」
「かしこまりました、乾いたらお声がけしますね。それまでは家のことをしておりますので、何かあればお声がけください」
私達に渡し終えるとそう言って部屋を出ていった。
さっきからキラキラと輝くような眼差しでこちらを見てくる奴が一人いる。
なんとなく聞かれる事は分かるし、慣れてる。
「で、さっきからそんなに目を輝かせてどうしたの?」
「しののんってお嬢様なの!?家凄いし使用人いるし!」
「そうね、うちは所謂財閥で母は当主よ」
「財閥?当主?」
私の言葉にピンときて無いようで頭の上に?が浮かんでいる。
普通の反応だろう。普通の人で財閥や当主などの言葉を聞くことは多くないだろうから。
「財閥ってのは一族で沢山の企業をまとめ上げて経営する企業団体のことで、当主はその団体の中で一番偉い人のことよ」
「なるほど、。しののんの家がすごくてやばい事は分かった!」
本当にわかっているのかどうか怪しい答えだが良いだろう。
どうせ理解しなくていい事だ。
「それよりさ!しののんの事教えてよ!」
「え?わたしのこと?」
もっと家のことについて聞かれると思っていた。
「そう!しののんの好きな食べ物とか趣味とか」
「そんなこと聞いてどうするの?」
「普通に知りたいだけだよ?だって私しののんの事なんも知らないもん。ってしののんも私の事なんも知らないか!」
セルフツッコミをしながら「わはは」と笑う。
今まであってきた同年代の人は話しても聞かれるのは家の事だけだった。みんな私を通して母や会社の事しか見ようとしない。私を見ようとしない。
「じゃあ、私から言うね!」
「私は高橋 茉莉。4月10日生まれの17歳。はい」
「私は東雲 敦那。6月23日生まれの16歳。ていうかあなたのは自己紹介の時に言ってたじゃない」
「あ、そうだった。まあ、いいや。じゃあ次しののんから!好きな食べ物は?」
「私から?そうね......シチューかしら」
「いいね!私はカツカレーかな」
「だから昨日カツカレー頼んでたのね」
「うん。それとねカレーは辛めが好き」
「私も辛めが好きかな、あまり多くは食べれないけれど」
「じゃあ次、趣味!私は運動と映画鑑賞かな~」
「私はピアノと読書かな」
「ピアノ弾けるの!?そういえばこの部屋に来る時、ピアノがある部屋を見た気がする」
「弾けるわよ」
「すご!弾いてるところ見てみたいな~」
「機会があったらね」
それからも彼女は色々聞いてくれた。
得意な教科や苦手な教科と食べ物、簡単なアイスブレイクみたいな感じで質問が終わる頃には私も気軽に話すことができるようになっていた。
「そうだ!しののんLONEやってる?」
「やってないわ」
「え!なんで?」
「だって、入れる必要がないもの。会話するのは東野だけだし、電話ですませばいいし」
「じゃあ、入れよ!入れて私と交換してよ!」
そう言って彼女はスマホの画面を私の目の前に押し付けてくる。
「わかった、わかったから。入れるからちょっとまって」
「やったー!」
彼女はベッドから立ち上がり小躍りをし始めた。
私と交換するだけでそんなに喜んでくれるのか。
私も今までだったら絶対に入れなかったし交換しなかった。
これは彼女だからなのか、それともこの空気に当てられたからなのか、どちらかは分からない。
でも、私も彼女が喜んでくれる姿を見て嬉しいと思う。
「はい、入れたわよ。で、どうやって交換するの?」
「えーっとねーまず右上にある人のマーク押してくれる?あーそうそう、その画面にあるQRコードってところ押してくれる?で、このQRコード読み込んで」
「できた。これで交換できたの?」
「うん、これでばっちし」
スマホに「茉莉」と書かれたトーク画面が映し出される。
「じゃあ適当に送ってみて」
何を送ればいいのだろう。
分からない私は「よろしく」と書いて送信する。
すると彼女が「ぷっ」と吹き出すように笑い出した。
「よろしくって、しののんらしいなぁ。じゃあ私もよろしくっと」
彼女から「よろしくね✨」と返ってくる。
これがLONEか。
「文字だけだと細かいニュアンスとか伝わらなそうで嫌なのよね」
「あ~確かに、しののん言い方きついときあるからな~」
「そうなのよね」
「そういうときはwとか!とか使うといいよ」
私にwや!などを使う時があるか分からないし、彼女と東野以外と交換することはないだろう。
「心がけるわ」
「私にだったら別に努力しなくてもいいよ~、なんなら電話してきてくれてもいいからね!」
「しないわよ」
彼女は私の言動でよく笑ってくれる。
それは決して馬鹿にしているからではない事は私にもわかる。
彼女と会話するのは楽しい。
時間が気になってスマホで確認すると9時半になっていた。
彼女と話し始めてもう1時間もたっていたのか。
人に自分のことを教えるのは初めてだった。
自分を知ってもらうことってこんなにうれしいんだと知れた。
私は胸の奥がじんと暖かくなる感じがした。




