前夜
帰りも同じ人が家まで送ってくれた。
東野は用事があると言って車には乗らずに、どこかに歩いて行った。
「「ただいま」」
家に帰ってくる。
私は靴を脱いでリビングに向かいエコバッグを取り、玄関にいる彼女に渡す。
「ありがと~。じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
彼女はひき肉を買いにスーパーに行く。
帰りの車の中で、晩御飯は何が良いかと聞かれてハンバーグが食べたいと言ったからだ。
私も一緒に行くと言おうかと思ったが、テレビで大々的に顔が出た死んでいるはずの人間が歩いているのを見られると大騒ぎになりそうなので止めた。
リビングに戻り、ソファに座る。
思ったより疲れていたみたいで、力が抜け深く座る。
何もやることもないし、彼女もいない。
私は身体を横にして目を瞑る。
少し休憩......
トントントン...トントントン......
何かを切る音が聞こえる。
彼女がキッチンで料理をしているのだろう。
目を開けて、体を起こす。
「あ、しののん。おはよ」
「おはよう。毛布ありがとう」
私の身体には毛布がかかっており、彼女がやってくれたのだと分かる。
スマホを取り出し、時間を確認する。
6時半か。どうやら私は3時間ほど眠っていたらしい。
「しののんって大根おろしいける?」
「大根おろしは好きよ」
「おっけ~」
彼女は黙々と料理を続けている。
対して私は住まわせてもらっているのにソファで寝て、料理ができるのを待つだけ。
ずっとこのまま頼りきりなのも流石によろしくない。
「私にも何か手伝わせて」
ソファから立ち、キッチンへ向かう。
「しののんって料理できるの?」
「そ、それは......やったこともないわ......」
出来るかどうか以前にしたことがない。
やはり私では迷惑をかけるだけか。
「う~ん。じゃあ、ハンバーグを成形してもらおうかな」
「成形?丸めればいいの?」
「そうそう。このタネをいつも食べてるハンバーグの形にしてくれたらいいから」
彼女は冷蔵庫からタネが入ったボウルを取り出す。
「一緒にやってみよっか。まず、これくらい取って...」
彼女が手のひらに収まるくらいの量を取ったので、私も同じくらい取ろうとする。
タネに手を入れると、何とも言えない感触と冷たさに身震いしてしまう。
「これくらい?」
「そうそう、それくらい」
私の手のサイズは彼女より小さいので、ハンバーグのサイズも小さめになってしまう。
「じゃあ次は...こうやって適当に丸めておいて」
私もタネを丸める。
「そんなにちゃんと丸めなくていいよ。ある程度で」
かなり綺麗に丸めてしまったので止める。
「で、この丸めたタネを...こう!」
彼女はタネを勢いよくもう片方の手に叩きつける。
なぜそれをやるのかよく分からないが、彼女がやっている事なのだから必要な事なのだろう。
「こ、こう?」
私もタネを手に叩きつける。
「もっと強くてもいいよ。で、これを繰り返す!」
彼女はパチン、パチンと音を鳴らしながらタネを叩きつけている。
私もさっきより強く叩きつける。
「これ、楽しいわね」
叩きつける音が気持ちよくてストレスが解消される。
「いいね~。しののんセンスあるよ~」
「言い過ぎよ」
こんな作業誰でもできる。
彼女はちゃんと私ができそうな事を選んで手伝わせてくれたのだ。
「ただいま~」
玄関のドアが開いて、優子さんが帰ってくる。
「おかえりなさい」
「おかえり~。今日はハンバーグだよ~」
「良いわね~。あら、敦那ちゃんも手伝ってくれてるのね」
「はい。簡単な事ですけど......」
「ママはできるまでソファでゆっくりしてて~」
「じゃあ、しののん。それの形を整えて、このフライパンに置いて」
綺麗に丸めて、フライパンに乗せる。
「はい。これを、タネが無くなるまで作ってね」
「分かったわ」
タネを取り、適当に丸めて、叩きつける。それを成形してフライパンに置く。
これを4回繰り返して、タネが無くなる。
「よし、おっけ~。焼くのは私がやるから、しののんは手を洗って座ってていいよ」
手を見ると、爪の間にタネが挟まっていた。
作っているときには気にならなかったが、これはちゃんと手を洗った方がよさそうだ。
15分ほどして、料理が出来上がる。
「今日は、おろしポン酢ハンバーグで~す。成形はほとんどしののんにやってもらいました~」
「いぇ~い」
彼女のノリに優子さんも乗っかる。
出来上がったハンバーグの形は思ったよりきれいで、崩れていたりしていない。
「じゃあ、食べよっか!いただきま~す」
「「いただきます」」
ハンバーグを一口大に分けて食べる。
「自分で作ったハンバーグのお味はどうですかな?」
「美味しいわ。私は成形しただけで、タネをこねたのも大根を下ろしたのもあなたじゃない」
「最初はそんなもんだよ。ね、ママ」
「そうよ。茉莉が初めてハンバーグを成形したときなんてぐちゃぐちゃで......」
「そんなこと言わなくて良いよ~」
彼女にも料理が下手な時期があったのか。
当たり前のことだが、今の彼女しか知らないので意外に思う。
「まあ、そう言うことだからしののんは自信もっていいよ」
「ありがとう。これからは手伝わせてもらうわ」
「お、敦那ちゃんが私達に料理を作ってくれる日は近いか?」
優子さんは冗談めかして言う。
そんなこと、あなたたちに助けられた恩を返すより簡単なことだ。
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わった後は、昨日と同じ順番でお風呂に入る。
彼女が風呂から出た後に私達は彼女の部屋に行って寝る準備をする。
「お父さん、良い人で良かったね」
「そうね」
「でも、びっくりしたよ。しののんのお父さんが警察の一番偉い人だったなんて」
「この上ない強力な助っ人でしょ?」
「最強だよね~」
私達は布団に寝転がって話をする。
「今日は私も疲れちゃった。おやすみ~」
「おやすみなさい」
少しすると寝息が聞こえてくる。
「ありがとうね。私の手を握っててくれて」




